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事業再構築補助金 攻略の研究<第3回>

※ 初めての方は<第1回>からお読みください。

§3 具体例で理解を深めよう

 第2回で「事業再構築に該当するためには、厳格な条件がある」ことがわかった。しかし抽象的な内容だったので、今回は具体例で検証してみることにしよう。細かい検討をしていく必要があるので、第2回の図を見ながらじっくりと読んでいってほしい。

【例1】居酒屋を経営していたところ、コロナの影響で売上が減少した。そこで、店舗での営業を廃止し、オンライン専用の弁当の宅配事業を新たに開始する。

 これは、概要10‐1.飲食業での活用例(業態転換)に示されている例である。これを検証してみよう。
 まず居酒屋(中分類76:飲食店 / 小分類765:酒場、ビヤホール)で提供している商品は「料理・酒」であり、提供方法は「店内提供」である。「店内提供」を「宅配」に変更するのだから、提供方法の相当程度の変更と考えられる。次に提供方法の新規性要件が問題になるが、①の確認は必要だ。また②については、「店内提供」にはたいした設備は必要ないが、「宅配」となると運搬車両が必要になる。つまり主要な設備変更が伴うため②を満たすことになる。この例では③は不要だ。したがって①を満たせば提供方法の新規性要件はクリアできる。
 さて「提供方法の大きな変更」といえば業態転換だ。そこで業態転換に必要な要件をチェックする必要がある。
 提供方法の新規性要件はすでに検討したから、商品等の新規性要件または設備撤去等がある。これは居酒屋を廃業するため、不必要な設備を撤去したり客席部分を改修することで満たされる。さらに居酒屋の営業を廃止するのだから、売上高10%要件は明らかに満たす。
 つまり(①の条件クリアは必要だが)、業態転換のすべての要件をクリアできる。概要の活用例では簡単そうに表記されているが、実際に採択されるためには、これだけの精緻な検討が必要なのだ。

 ところで居酒屋(中分類76:飲食店 / 小分類765:酒場、ビヤホール)から弁当の宅配(中分類77:持ち帰り・配達飲食サービス業 / 小分類772: 配達飲食サービス業)になるのだから、同じ業種の中でも事業が変わることになる。なぜ事業転換ではないのだろうか
 事業転換は「新たな商品を提供することで事業を変更する」ことである。この例の場合、弁当を「新たな商品」ということはできないだろう。食器ではなく容器に詰められただけだからだ。そのため(この補助金で定義された)事業転換ではなく業態転換であることを理解しておきたい。

【例2】餃子が評判の中華料理店が、コロナによる売上不振を打破しようと、自動販売機による餃子販売を考えた。ところが指針を見て、今までも餃子のテイクアウトはおこなっていたし、店横には飲料の自動販売機が設置されているため、新規性要件に当てはまらないのではないかとあきらめている。

 この場合、対象となる商品は「餃子」、従来の提供方法は「店内飲食」と「対面によるテイクアウト」である。自動販売機による飲料の提供はおこなっていたとしても、自動販売機による餃子の提供は新規性要件①を満たす。自動販売機によって無人販売、非接触販売、24時間販売など、従来とはまったく異なる提供方法を実現できるため、提供方法の相当程度の変更に該当すると考えられる。したがって業態変更を検討してもいいだろう。
 前の例のようにほかの条件を考えることになるが、さほど難しくないだろう。ただ一点、商品等の新規性または設備撤去等には要注意だが、これも店舗入口付近を改修することで設備撤去を満たすと考えられよう。

【例3】伝統工芸品を製造し百貨店等に卸売りしていた企業の売上が急減した。そこでECサイトでの販売を開始する。

 これも概要10‐5.その他の活用イメージに掲載されている例である。一見、取り組みやすく見えるが、じつは注意が必要な例だ。
 「卸売り」という提供方法から「オンライン販売」という提供方法に変更するのだから業態転換を検討することになろう。すると、まず検討しなければならないのは、相当程度の変更に該当するかどうかである。従来は「当該企業⇒百貨店等⇒顧客」という流通であったところを、「当該企業⇒顧客」という直販するならば相当程度と言ってもいいだろう。
 次に考えなければならないのは、業態転換の要件だ。まず販売方法の新規性要件①である。すでにホームページで直販していたなら、この要件は難しい。ホームページはあったけれど販売はしていなかった(商品紹介するだけ)なら①を満たすかもしれない。
 さらに業態転換の要件である「商品等の新規性または設備撤去等」を検討しなければならない。従来商品の販売では新規性を満たさず、設備撤去等をうまく考えなければならない。
 そして売上高10%要件である。希望的数値を書くだけではなく、その数値の妥当性を説明できるかどうかが採択の勝負どころであろう。
 もちろん、このような例でも事業再構築は不可能ではない。しかし多くの工夫を考案しなければ難しいと言えよう。

 以上いくつかの例で考えたように、事業再構築指針に沿って厳格に条件チェックする必要がある。けっして自己判断や思い込みで考えてはいけないのだ。これは補助金申請の宿命である。

 次回からは事業計画の策定について考えていこう。

⇒ <第4回

2021/03/29 初稿
2021/03/30 3/29要件変更に伴い修正

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