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漆の奥深さを知り、無限の可能性を拓く

IWATE PRIDEとは
岩手で活躍する”人”にスポットを当て、魅力を伝えるコンテンツです。さまざまな角度から、大切な”人の想い”を伝えていきます。


お話しを伺った方

ゴキタ漆工房 五木田英晶さん(2023年取材)


剣道の胴に漆を施す職人

学生の頃、「将来はものづくりの仕事がしたい」と考えていた五木田さん。

初めて漆の世界に足を踏み入れたのは、高校を卒業してすぐの頃だった。

八幡平市にある安代漆工技術センターに入り、塗師に必要な知識と技術を習得。

現在は自宅に工房を構え、主に剣道の防具である「胴」に、漆塗りを施す職人として活躍している。

漆器とは”別物”の胴塗り

漆塗りの胴を買い求めるのは、有段者をはじめ、剣道とともに人生を歩んできた人が多い。
自分が納得できる防具を求めて、色や塗り方だけでなく、漆の種類を細かく指定するケースも珍しくない。

しかし胴に漆を塗る職人は貴重で、全国でも10人いるかどうか。東北では五木田さんと、師匠である羽沢良和さん(羽沢工房)の2人だけだという。

そんな中、五木田さんは月に10~30枚程度の胴塗りを手掛けている。
完成するまで3ヶ月ほどかかるため、「毎日のように胴に触れている状態です」と言って笑う。

そんな彼が胴塗りを始めたのは、安代漆工技術センターを卒業して一年ほど経った頃だった。

当時は自身の作品づくりに没頭していたが、「八幡平市に胴塗りをしている職人さんがいるから、良かったら手伝ってみないか」と声をかけられたことをきっかけに羽沢工房へ弟子入り。それから一年ほどかけて胴塗りの技術を習得した。

「弟子入りして驚いたのは、漆器の塗り方との違いです。同じ漆塗りでも、胴に求められるのは実用性。竹刀で叩かれたとき、極端に傷が付いたり剥がれたりすると使い物になりません。漆器よりも強度が必要なため、工夫して作っています」

今回、見せていただいた胴は、ベースとなる漆の上に赤や黄色の漆の粉(乾漆粉)を撒き、さらに漆を塗り重ねて磨き上げたもの。
奥深い色合いを見せる漆の中に、まるで無数の星が輝きを放つように乾漆粉があしらわれていた。

「同じデザインを複数ご注文いただくこともありますが、いかに『同じように作るか』が腕の見せ所です。広い曲面を均一に塗るのは難しいですが、同時に楽しさも感じています」

作り手が楽しんでいるからか、五木田さんの胴は見れば見るほど目が離せなくなるような、不思議な魅力にあふれていた。

毎日を心豊かにしてくれるアイテムも

胴塗りを製作する一方で、五木田さんは箸や弁当箱なども手掛けている。
なかでも少し太めに作った箸が人気で、こちらも胴と同じく乾漆粉を用いた技法で作られている。

持った瞬間、すっと手に馴染むような感覚。
同じ塗り方でも乾漆粉や全体に塗る漆の色を変えることで、全く違った表情になる。

「箸は使っているうちに箸先の塗りが薄くなっていくので、塗膜に厚みを持たせて長く使えるようにしました」

五木田さんの作品は、どれも美しさだけでなく使う人のことを考えた優しさに満ちている。実際に購入した人たちからも「使いやすい」と評判だ。

さらに五木田さんならではのアイテムといえば、この曲げわっぱだ。
こちらはヒバ材を使い、内側に和紙を貼って漆を塗り重ねてある。

「わっぱは薄い木を曲げて作るので、箸で傷つくことがあります。それを避けるために和紙を貼って強度を増しています」

漆には抗菌作用があり、実はお弁当箱に向いている素材でもある。
五木田さんが手掛けた曲げわっぱも人気で、毎日のお弁当に愛用している人も多い。

漆の魅力を余すことなく伝え続ける

そんな実用性を重視したアイテムのほかに、五木田さんはアクセサリーも手掛けている。

金属の薬莢に漆を施したキーホルダーは、「これに漆を塗ったらどうなるんだろう?」という発想から生まれたアイテムで、ミリタリーファンにはたまらない風合いを放つ。

また、漆の樹皮を加工して作ったブローチも、ひときわ目を引く一品だ。

漆を採取する「漆掻き」の作業は、初夏から秋の終わり頃にかけて行われる。漆を掻き終わった木は伐採されるのだが、それをもったいないと感じた五木田さんは「漆掻きブローチ」を考案。
漆掻き職人が付けた掻き傷が、唯一無二の模様となって刻まれている。

五木田さんは「これからも樹皮を使った作品づくりに挑戦したいです」と教えてくれた。

インタビュー中、丁寧に言葉を選びながら語ってくれた五木田さん。

静かな佇まいが印象的だが、その奥には彼にしか作ることのできない世界が無限に広がっているように感じた。

果たして、これからどんな作品を世に送り出していくのか。

きっとそれは、多くの人々に漆の新たな魅力を気づかせてくれるだろう。


◆五木田さんの作品が購入できるお店
漆屋/岩手県盛岡市緑が丘4-1-50アネックスカワトク2F

上米内駅工房&カフェ/岩手県盛岡市上米内中居20


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