見出し画像

輝く日に/-sweet teenager 6-

 待つのって嫌いじゃない。待ち合わせはいつものタリーズコーヒー、あの人今日はどんな格好して現れるのかなとか、わたしを見つけたらやっぱりさっさとお店を出るのかなとか、どこへ向かうんだろう最初はやっぱり中古レコード屋かなとかその後電気屋に行って新しい i phone のチェックかなとか、でもわたしもピアス開けたばかりだしピアス見るの付き合ってくれるかなとか、それからそれから、そう、一番最初に顔を見たら何て言おうかなとか、そんなことを考えながら窓の外を眺めていると、あっという間に時は過ぎてしまう。

 今日も表はきんきんに昼の太陽が照っていて、お店に入ると急に汗が噴き出してくるものだから、ついアイスカフェオレを頼んでしまう。後悔する頃には遅くって、椅子に腰を落ち着けて冷たいそれを半分くらい飲めば、汗はすっかり引いてむしろ寒いくらい。ノースリーブの腕をさすって恨めしくグラスを眺める。もともと冷房苦手なんだからホットを頼めばよかったっていつも思うのに、ドリンクを頼む時にはつい忘れてしまう。

 飲むのをいったんお休みにして外を眺めると、眩しい光に溢れた窓の外、女の人たちは日傘の陰、高校生の子たちは惜しげもなく腕も脚も剥き出しに、トラックの運転手さんは缶コーヒー片手に汗をぬぐいながら車に乗り込む。お店の外は、夏の熱気に満ちている。

 あの人きっと、汗だくになって来ると思うわ。夏がきて初めて知ったけど、暑がりで汗っかき。でも足を出すのは嫌だって言って、いつでも足首まであるチノパンなの。なんでかな、別にハーフパンツとか短パンとか、穿けばいいのに。おじさんだって気にしてるから?そんなの気にしたことない、だって、そんなに男の人とお付き合いしたこともないし、わたしまだ大学生になったばっかりだよ、大抵の社会人はおじさんだよ。

 窓の外を、腕を組んだカップルが通る。いいな、わたしも腕を組んで歩いてみたい。あの人、腕組むと肘の内側に汗かいちゃうからって、あせもできちゃうからって、絶対組んでくれないの。気持ちは分かるけど、あの人この間首にあせもできたのよね、赤ちゃんみたい。ジョンソン・アンド・ジョンソンのベビーパウダー、子どもがいる訳でもないのに手放せないって言ってた。

 今晩のご飯はどうしようかなあ。一か月ぶりに泊まれるって言ってたけど、カレーでいいかなあ。わたし、暑い時期のカレーは余計美味しいと思うんだけど、汗かきながら食べるの嫌みたい。そうだな、いつものうちのエアコンの温度設定は二十八度だけど、今日はそうね、二十五度くらいには譲歩しよう。

 あーきれいだなあ、外がきれいだ。お日さまがきんきんとしていて木々の葉が光り、空は青くて、道行く人たちの夏服が目に染みるほど鮮やか。世界中が輝いてる、休みの日って、あの人を待つ休みの日って、なんでこんなにも全てが輝いてるんだろう?

「早いね。待った?」

 急に耳元で声がする。わたしは現実に引き戻される。振り向くとそこにはあの人の姿。

「あ、ううん、全然」

 わたしは口をあいて、ちょっと息を吸って、それからにっこり笑う。ちらっと目線を落とすと、あ、アイスカフェオレ、あまり減ってない。そうよね、そうだ、わたしそれほど待ってないよね。

「行こうか」

 あの人がわたしを促してお店を出ていく、その後ろ姿を追いながら。
 わたし、ちょっとだけ思うの。わたし、あの人を待っている時間の方が、好きかもしれないの。

---------------------------------------------------

カバーフォトは、「みんなのフォトギャラリー」より、MAHO さんの写真を使わせていただきました。ありがとうございマス!

アマゾンギフト券を使わないので、どうぞサポートはおやめいただくか、或いは1,000円以上で応援くださいませ。我が儘恐縮です。