足の障害と靴の医学

Jpn J Rehabil Med vol46 No.10 2009
慶応義塾大学月が瀬リハビリテーションセンター 橋本健史先生

Keyword:足アーチ、後脛骨筋、捻挫陳旧例、靴の構造

足アーチの構造
1.解剖
 足には3つのアーチ構造①内側縦アーチ、②外側縦アーチおよび③横アーチが存在する。内側縦アーチは踵骨、距骨、舟状骨、楔状骨、中足骨とこれらをつなぐ靭帯および筋群からなり、足部内側でアーチを作っている。外側縦アーチは踵骨、立方骨、中足骨とこれらをつなぐ靭帯および筋群からなり、足部外側でアーチを作っている。横アーチは楔状骨、立方骨、中足骨とこれらをつなぐ靭帯および筋群からなり、足の横方向でアーチを作っている。
2.機能
 足部アーチ構造には、Truss mechanismとWindlass mechanismをいう2つの機能がある。橋本らは、赤外線反射マーカーと3次元動態解析装置を用いたバイオメカニクス的手法を用いて歩行解析を行った。その結果、踵接地時に足アーチは急激に低下し、立脚期に徐々に低下を続け(Truss mechanism)、踵離地時に増大する(Windlass mechanism)ことを確かめた。
後脛骨筋腱機能不全
 本疾患の原因は足アーチ機能に重要な働きをする後脛骨筋腱が加齢などにより壊死を起こして生じる。
1)    病 因
 後脛骨筋は脛骨、腓骨および下腿骨間膜から起始して、踵骨、舟状骨、楔状骨および第2,3、4中足骨とほとんどすべての足根骨に停止する。回外筋としてだけではなく、足アーチを保持する重要な腱である。しかしながら、その内果下方において血管の少ない疎血部位が存在し、加齢とともに血流障害が生じて機能不全となることがある。
2)診 断
 足部内側の疼痛を訴え、後脛骨筋腱に沿う圧痛があったら本疾患を疑う。本疾患の診断においては、single heel rise testとtoo many toe signおよび単純X線所見とMRIが有用である。Single heel rise testとは、片脚立位で爪先立ちが可能かどうかを調べる検査で本疾患では不能である。too many toe signとは、後方から立位を観察したときに患側の足趾がたくさん見えることである。
3)分 類
 Johnsonらによって、3つに分類された。Stage1は疼痛が内顆に限局し、扁平足変形のないもの、stage2は疼痛が足部内側の広範囲に拡がり、偏平足変形が生じているが徒手で矯正可能なもの、stage3は疼痛が足部内側、外側に拡がり、偏平足変形が矯正不能なものと分類された(下表参照)。

後脛骨筋腱機能不全 Johnsonらの分類

足関節外側靭帯損傷
 足関節捻挫は下肢外傷の中で最も多い外傷である。安易な治療がなされがちであるが、約20%は陳旧化するといわれ、変形性足関節症をまねく場合もあるので、初期の慎重な治療が必要である。
1)  診 断
 足関節外果部における前距腓靭帯・踵腓靭帯の圧痛を確認する。徒手足関節ストレス検査を行い、左右差を確認する。単純X線検査で距骨骨軟骨障害、三角骨症候群、距骨外側突起骨折など他の異常がないことを確認することが大事である。
2)  分 類
 重症度に応じて3つに分類するのが一般的である。1度損傷は靱帯の軽度の部分断裂であり、軽度の腫脹、疼痛があるが、足関節ストレス検査は陰性である。2度損傷は靱帯の中等度の断裂であり、足関節ストレス検査が陽性となる。3度損傷は靱帯の完全断裂であり、腫脹が著しく、荷重ができないほどの疼痛である。
3)  治 療
1度損傷に対しては、鎮痛・消炎のための内服・湿布・関節可動域訓練・足関節周囲筋力増強訓練(セラバンド・tilt boardを用いる)が勧められる。2度、3度損傷に対しては、足関節ストレスX線検査を行い、距骨傾斜角10°以上は靱帯の完全断裂とみてよい。2度損傷については、固定はせずに早期からの理学療法がよいとする報告と10日程度のギプス固定(荷重は許可する)がよいとする報告があり、論争中である。橋本らは、3週間のギプス固定を行い、その後、理学療法を行って良い結果を得ている。3度損傷については、2度損傷と同様の保存治療でよいとする意見と観血的治療(靱帯縫合術)が必要であるとする意見に分かれる。橋本らは、距骨傾斜角15°以上の症例で、とくにスポーツ選手や足関節を酷使する症例の場合には観血的治療を行っている。
4)  陳旧例
 急性足関節捻挫の約20%が慢性化する。足関節不安定性が存在し、疼痛と不安定感を訴える。この不安定性が歩行時のいつ生じているのか不明であったが、橋本らは片側性の陳旧性足関節外側靱帯損傷患者の歩行分析を行い、健側と比較した結果、歩行周期の踵設置直前に患側の足関節が異常に内反、内旋していることがわかった。この不安定性が繰り返されて、やがて変形性足関節症に進展していく可能性があると考えている。
治療は足関節周囲の筋力増強等の理学療法が中心となるが、6カ月の保存治療に抵抗する症例に対しては手術を行っている。手術方法はさまざまな方法が報告されているが、遺残靱帯などを利用する解剖学的再建術と移植腱などを用いて靱帯を再建する非解剖学的再建術とに分類される。橋本らは、半切、遊離した短腓骨筋腱を移植して、靱帯を再建する方法を行って良い結果を得ている。術後は膝下ギプス固定を行い、術後1週で荷重歩行を許可、術後4週でギプスを除去して、理学療法を開始、2か月からジョギングを開始、6カ月で元のスポーツへの復帰を許可している。
靴の構造と機能
 足の障害の予防、治療に欠くことのできないテーマが靴の選択、処方である。適当でない靴によって、さまざまな足の障害が生じ、また、正しい靴によってさまざまな足の障害を治療することができる。
1)  靴の構造
 靴は、さまざまな部分の集合体である。なかでも重要な部分がシャンクであり、これが足アーチを支え、助ける役目をしている。また、側面から見たとき、靴は全体として、舟型をしており、歩きやすい構造を持っている。前方のそりをtoe spring、後方のそりをheel springといい、全体として、rocker bar構造を持っている。
2)  靴の機能
 それでは、靴は実際にはどのような機能を持っているのであろうか。靴のはたらきとしては、足の保護と装飾である。これは、靴の起源が古代ローマ軍兵士の靴と中世貴族の靴にさかのぼることでわかる。橋本らは、靴に小さな穴を開けて、そこから赤外線反射マーカーを貼付させて歩かせ、裸足と靴を履いた時とを3次元動態解析により比較した。その結果、靴を装着すると、踵接地直後の急激な足アーチの低下は緩和されたが、踵理知後の足アーチ高の回復は減少した。また、歩行相全体の足アーチの変化率は減少した。すなわち、靴は足への衝撃をやわらげ、足アーチの負担を軽減していることがわかった。
 以上を勘案して、足によい靴とは、まず足のサイズに合っている靴(足を靴の前方につめた時に踵に鉛筆が入る程度)、飾革が十分にひろく、足趾を保護していること。また、月形しんが十分に踵をサポートし、ふまずしんがしっかりしており、靴が中足趾節間関節部で曲がること。また、ヒールが強度十分で衝撃を吸収できることなどである。
おわりに
 以上、足の障害と靴についての知見についての報告を紹介した、現在人にとっては足と靴は不可分の関係である。どちらも知識も健康な生活にとって大切なことであると考える。
感想
 足アーチ構造、足の障害、靴に関する基礎的な用語が確認できる文献である。学生時代から足を苦手にしている私にとって、またこれから足について見識を深めていきたい私にとって、初めに出会えた文献がこの文献でよかったと思う。臨床上、足、または下半身のトラブルの為、外来リハを受けられる方は多い。これから見識を深め、よりよいフォローができるように努めていきたい。

次回
 9月13日:Factors affecting foot posture in young adults : a cross sectional studyについて報告します。

投稿者:小林博樹

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