Zero外旋、Zero伸展筋力からみた投球フォームと組織損傷との関連性

阿蘇卓也先生(昭和大学藤が丘リハビリテーションセンター)
臨床スポーツ医学:Vol.39. No.4 (2022-4) 358-361

はじめに

 投球傷害肩肘(投球傷害)は投球動作によって発症する肩肘関節障害の総称であり、特に野球選手に多い。投球傷害の要因は不良な投球動作に起因すると考えられているが、その多くは身体機能低下の結果、生じている、健常選手の投球動作において肩関節はゼロポジションを取っており、その肢位は肩甲上腕関節へのストレスが少ないとされている。また、投球傷害例ではゼロポジション保持機能が低下しており、投球時には正常な肩関節運動から逸脱し肩肘関節への負荷を増加させている。そのような背景から、昭和大学藤が丘リハビリテーション病院ではゼロポジション近似肢位での肩関節外旋(Zero外旋)筋力および肘関節伸展(Zero伸展またはZeroリリース。ここではZero伸展とする)筋力評価を投球傷害例の治療で最重要視している。Zero外旋筋力およびZero伸展筋力と投球動作、組織損傷との関連性について紹介されている。

ゼロポジション保持機能評価

1.Zero外旋筋力、Zero伸展筋力評価

 Zero外旋筋力は後期コッキング期におけるゼロポジション近似肢位での肩関節外旋位保持のために必要な肩関節気脳の指標である。Zero伸展筋力は加速期におけるゼロポジション金獅子委での肘伸展位保持のために必要な肩関節および肘関節機能の指標の一つである。
 Zero外旋筋力、Zero伸展筋力を評価する際にはまず開始肢位を決定する必要がある。ゼロポジション近似肢位は上腕肩甲骨面挙上時に肩甲棘と上腕骨長軸が一直線に配列する肢位とし、肩甲骨面は筒井らの報告をもとに烏口突起と肩峰遠位端を結んだ線分がなす面としている。ゼロポジション近似肢位を確保できたら、さらに肘関節90°屈曲位、前腕回内外中間位をとり開始肢位を決定する。開始肢位を確保できたら、Zero外旋筋力は肩関節内旋方向、Zero伸展筋力は肘関節屈曲方向に徒手抵抗を加え、対象者はそれぞれ等尺性肩関節外旋運動および等尺性肘関節伸展運動を行う。その際に筋出力が十分か否か、代償動作の有無を評価する。筋出力について代償動作の有無の判断が付きにくい場合は非障害側と比較し、代償動作の有無は対象者の肘頭を把持することで評価が容易になる。

2.代表的な代償動作

 投球傷害例の多くはZero外旋筋力、Zero伸展筋力評価の開始肢位を保持できず、肩関節水平外転運動や肩関節外転角度低下が生じることが多い。
 筋出力低下や代償動作を認めた際には、それらの所見を陰性化させるための評価を行う。Zero外旋筋力、Zero伸展筋力は肩甲胸郭関節機能から影響を受けることが特徴であり、臨床では肩甲骨固定の有無で異常所見が陰性化するか判断する。肩甲骨固定で陰性化するならば肩甲胸郭関節機能の改善に主眼を置き、陰性化しない場合は腱板や前腕機能など遠位関節からの影響を考慮し機能訓練を行っていく。いずれにしてもZero外旋筋力、Zero伸展筋力を低下させている要因を的確に捉え、早い段階で機能改善していることが投球傷害例の治療で重要である。

Zero外旋および伸展筋力と投球動作、組織損傷との関連性

 Zero外旋筋力やZero伸展筋力が十分に発揮できない症例は後期コッキング期肩関節最大外旋位(maximum external rotation :MER)からボールリリース間で過剰な肩関節水平外転運動いわゆる外観上の「身体の開き」や肩関節外転角度低下いわゆる「肘下がり」を呈する。一方、Zero外旋筋力やZero伸展筋力が十分に発揮できる症例は前述の不良な投球動作を認めず、肩肘関節の疼痛が生じないことが多い。
 3次元動作解析装置(Vicon MX)を用いて3m先のネットに向かって全力投球した投球フォームを撮影しplug in gait modelで解析した投球データをZero外旋筋力低値および高値代表例で紹介されている。Zero外縁筋力低値例はMERで肩関節水平内転角度が小さい結果となっている。肩関節水平内転角度や外転角度に影響を及ぼすfoot contactでの胸郭開園角度に差がないにも関わらず、MERで肩関節水平内転角度や外転角度が低下する例は存在する。このような場合、Zero外旋筋力が大きく関わっていると考えられる。さらに、Zero伸展角度が改善することで投球時の肩関節外転角度が増加することやZero伸展筋力低下は肘関節最大内反トルクを増加させることが過去に示されている。これらのことから、Zero伸展筋力もZero外旋筋力と同様に投球動作に関係していることがわかる。
MERからボールリリースにかけての過剰な肩関節水平外転運動は投球傷害肩で多いposterosuperior impingement(PSI)の一因である。PSIは後期コッキング期で肩関節水平外転運動が生じることで上腕骨頭が前方に偏位し、上腕骨頭と肩甲骨関節窩の間に抗上方関節唇や腱板が挟まれることで発症すると考えられている。Mihataらは屍体肩を用いて後期コッキング期を模した肢位で上腕骨大結節と肩甲骨関節窩に挟まった腱板と上方関節唇にかかる圧力を測定した結果、肩甲上腕関節水平外転角度が大きくなるにつれて圧力が増加することを示している。
 肩関節外転角度低下について、Akedaらは後期コッキング期や加速期を模した肢位で上腕骨頭と肩甲骨関節窩間で生じる圧力や上腕骨頭の偏位量を屍体肩で計測した。その結果、肩関節外転角度が低下すると肩甲上腕関節内で生じる圧力は増加し、また、加速期を模した肢位では上腕骨頭が前方偏位することを示した。この結果から、投球時の肩関節外転角度低下は過剰な水平外転運動と同様に投球傷害肩の要因になり得ると結論付けられている。
Davisらは投球時の肩関節外転角度と肘関節外反ストレスとの関連性をハイスピードカメラと3次元動作解析装置を用いて検討した結果、肩関節外転角度低下を認める症例は肘関節外反ストレスが増加すると報告している。肘関節外反ストレス増加は肘関節内側側副靱帯への伸張ストレスや腕橈関節への圧迫ストレスをそれぞれ増加させることから、肩関節外転角度低下は肩関節だけでなく肘関節にも影響を及ぼすことがわかる。
 以上のバイオメカニクス的見地を踏まえると、Zero外旋筋力、Zero伸展筋力を保つことは肩肘関節へのメカニカルストレスを軽減できる可能性があり、臨床で大いに活用できる評価項目であると考える。

おわりに

 Zero外旋筋力、Zero伸展筋力が投球傷害と関係していることは事実である。しかし、これまでの研究は後ろ向き調査が多く、投球傷害の発症因子であると結論づけられていない。この報告を通じて多角的な視点からZero外旋筋力、Zero伸展筋力の研究を行うことになれば、投球傷害分野の研究はさらなる発展を遂げると考える。

感想
 Zero外旋・伸展筋力のさらなる研究が進むことを期待する。いかにゼロポジションを通すか、が大事を考えている。特に学童期、2次成長を終えていない選手にとっては上半身をうまく使いこなすこと。下半身はいつから使えるようになるべきか、結論は出ていないが、今後も学童期、少年期の野球選手に携わって個々の選手に適切な介入をしていきたい。

次回
 2024年4月17日にゼロポジション近似肢位での肩外旋筋力と投球動作中の胸郭肢位との関連について報告します。

投稿者:小林博樹

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