子どもの靴のトラブルの診かたについて

塩之谷 香先生(塩之谷整形外科院長)
MB Orthop.35(12):75-86, 2022

Abstract

 適切なサイズと良い品質の靴を成長段階に応じて選び、きちんと履くことはこどもの足部の正常な発達を促すために重要である。わが国における靴選びの知識の浅さ、足靴に対する無関心、靴を履く動作の習慣化が出来ていないなどが基盤にあって、足の痛みや変形のトラブルの原因が靴にあったとしても見逃されていると思われる症例は非常に多い。患者が普段履いている靴のサイズや品質、履き方をチェックすることは非常に重要であり、その問題点を指摘して適切な靴に変更し、必要に応じてインソールを使用することによって症状を改善させることができる。そのため、下肢症状を有する患者に対しては症状やX線画像のみを診るのではなく、足と靴が適合しているかどうかを診るスキルを身につけることが望ましい。足靴に関しての知識を深め、適切な靴を履くことを習慣化することにより、高齢化社会における歩行能力の維持、健康寿命の延伸までを見据えた取り組みが必要である。

はじめに

 こどもの「あしが痛い」という訴えは実際にどこが痛んでいてどこに原因があるのかを鑑別することが重要であるが、しばしば困難であることは多くの整形外科医が感じている事ではないだろうか。
 痛がる場所に圧痛も変形も可動域制限もなく、単純X線画像でも所見がない場合は「異常ありません」「様子を見ましょう」などとしか対応できないことも多い。しかし、塩之谷先生はこのような軽微に見えるこどもの下肢のトラブルのうち、多くの割合が靴と関連があるのではないかと感じておられる。塩之谷先生は25年にわたり自院および関連病院で靴外来を継続して、下肢症状で来院するこどもたちの靴をチェックすると、ちゃんとした靴をきちんと履いていることはほとんどない。靴の指導をするだけで症状が消失することが非常に多い。下肢の症状に対して、履いている靴のチェックを行うことは必要であり、異常を見つけて正しい靴選びや履き方の指導ができることは重要である。

適切な構造をしているか

基本的に必要な靴の構造について

 足が靴の中で前滑りしないように甲の部分を面ファスナーや紐などで固定できる構造であることが必要である。スリップオンで履くものは靴の中で足が前にずれ、つま先が靴に当たるということがしばしば起きる。また踵と靴が固定されず靴擦れを起こすことがある。靴が脱げやすくなるため、無意識のうちに足趾を踏ん張り、余計な筋力を要してしまって下肢の疲労感を生じる原因となる。面ファスナーは足背から面で張り付けるものではなく、折り返しベルトになっているほうが固定性は高い。
 靴底は踏み返し時にMP関節に一致した位置で折れ曲がる構造であることが必要で、どこででも曲がるような柔らかすぎる靴、どこでも曲がらないような硬い靴、中央から2つに折れてしまうような靴は不適切である。
 靴のかかと部分は踵骨を垂直にホールドできる硬さが必要である。かかと部分を手でつまんでみたときに簡単につぶれるような靴は、特に踵骨が外反傾向にあるような小児では不適切である。歩行が不安定な児において、踵骨をホールドできる靴を履かせるだけで安定した歩行ができるようになることは珍しくない。
 可能であればインソールが取り外しできる靴を選択することが望ましい。インソールと足を合わせてみることで、購入の際およびしばらく履いてからでもサイズのチェックができるし、必要に応じて治療用インソールに入れ替えが可能だからである。
 塩之谷先生が共同代表を務める「日独小児靴学研究会(JAGSS)」では「子ども靴に必要な10の機能」を策定して提唱している。1)軽量性.2)フィット性.3)安定性.4)支持性.5)固定性.6)屈曲性.7)衝撃緩衝性.8)グリップ性.9)通気性.10)耐久性である。こどもは成長過程において必要な条件は異なり、例えば歩き出す前の乳児が履く靴では、靴を履くことに慣れさせるための「軽量性」「フィット性」は重要であるが、体重も軽く長距離を歩くわけではないので「耐久性」は不要である。歩き初めたばかりの幼児では歩行動作を獲得するために「安定性」が必要である。歩き初めからしばらく経過し、幼稚園に入る事には様々な路面や歩行動作をするため、「安定性」に加えて「支持性」も求められる。スポーツを始める年代になると「屈曲性」や「グリップ性」、運動領が多くなると「耐久性」を求められるようになる。歩き初めから成長終了まで、各年代に応じた機能的な靴を選んで履くことは、快適な歩行を維持するために非常に重要である。

サイズは適切か

1. 小さすぎる靴
 小さすぎる靴を履いていれば足部を圧迫して変形を起こす可能性があることは自明の理である。こどもは靴がきつくなれば訴えるだろうと親は思っているが、実は徐々に圧迫が加わっていると慣れてしまって、靴の中で当たるどころか足趾が屈曲するほどの変形を起こしていても平気な子供もいる。定期的な靴サイズのチェックが必要である。
2. 大きすぎる靴
 親は「足はすぐ大きくなるから大きめを買っておこう」「大き目の靴のほうが足に良いだろう」と考えがちである。しっかりと足に固定できる形状のものであればやや大きめのサイズでもかまわないが、大きめの靴をスリップオンで履くと足が前方にずれてしまってつま先が当たったり、踵が動いて脱げやすくなったりする。大きめの靴であっても固定具を適切に使用すれば問題は少ない。
3.靴内の異物
 適切なサイズに見えても、靴の先端に砂が詰まっていて足趾の先端を圧迫していることがある。足趾の屈曲変形を訴えて来院した患者に時々みられる。靴のインソールの先端の下に砂が入っていると、単に靴を逆さにしても砂は出てこない。インソールを外すと、砂に押されてインソールの先端がまくれ上がっていることが見て取れる。またインソールが中底に接着していて外れない場合でも、先端に砂が入っていることがある。が、患児はそれに全く気づいていないことが多い。

履き方は適切か

 手を使わずに足を入れることができる靴を「履きやすい」と思う傾向がある。確かに履くのには簡単かもしれない。が、往々にして「履きやすい」靴は「脱げやすい」靴でもある。「履きやすい」靴が「歩きやすい」「走りやすい」「動きやすい」靴ではない。スポンと足を入れる「スリップオン」の履き方に慣れきってしまっていて、手を使って「紐を緩める、結ぶ」「面ファスナーを剥がす、引っぱる」動作をすることを「めんどうくさい」と感じてしまう日本人が大半ではないだろうか。実際に靴外来に来院するこどもから大人まで、靴の着脱動作を観察すると、緩めにしてある背側の留め具や紐はそのままで、つま先を床に打ち付けて手を使わずに足をねじ込む。靴のかかと部分を踏んで足を入れてからかかと部分を引き上げるなどの動作をする患者が9割を超えるといっても過言ではない。持参した靴を見ればどのような着脱の習慣になっているかはほぼ一目瞭然である。
 靴の履き方の不適切な患者にいつもの履き方をさせ、片足だけ正しい履き方に修正して歩いてもらうテストを行うと左右の履き心地、歩きやすいの差に驚くことが多い。
 品質の良くない、ヒールカウンターのない柔らかい靴であればかかと部分を踏んで足を入れることは簡単である。しかし、靴を履くための誤った動作が幼少時から当然となっていればかかと周囲の構造(ヒールカウンター)がしっかりした靴でも無理やり履いてしまい、ヒールカウンターを壊してしまう者もいる。ヒールカウンターを踏んでしまうと変形し前方に潰れるため、足が前方に押し出されてつま先が靴に当たる。また、ヒールカウンターの素材が壊れて踵に傷を作ってしまうことすらある。

すり減っていないか

 通常の歩行状態であれば靴のかかと部分は外側から擦り減ってくることが多い。靴底の素材が劣悪であったり、履き方が悪く踵を引きずったりしているようであると、足長の成長で靴を買い替える時期が来る前に靴底のへりが大きくなり足関節の傾きを生じることがある。

履き物の選択は適切か

 夏休みには通学靴でなくてサンダルを履くというこどもたちも多いが、最近一般的になっている樹脂製のサンダルは足部周りの保護が全くできない。歩行やこどもたちの遊びの不特定の動きに長時間の着用をすると、無意識のうちに脱げないようにするために足趾に負荷がかかり、疲労の原因となる。夏休みの終わりに下肢のだるさや痛みを訴えて来院する子供に常用している履物をチェックすると大抵が樹脂製のサンダルである。足回りを見ると足部の固定も支持もできておらず、足部に負担がかかるであろうことは容易に推察される。
 最近はスポーツの若年化が進み、それぞれのスポーツ種目でトレーニングシューズ、スパイクなどを履き分けていることも多いが、高価なため買い替えを躊躇してサイズアウトしていたり、トレーニング中もスパイクのまま練習を続けていたりなどで足部にトラブルを生じていることもある。

指定靴の問題

 学校教育現場で、各校ごとに単一の履き物を指定されることが多くある。足の形態は個人ごとに違うが、同一規格の履き物のサイズ違いを履くように指示される。幼稚園から高校まで、私立校のみならず公立校でも行われている。上履きではスリッパやいわゆるバレーシューズなどが多く、体育館で履くシューズなどが多く、体育館で履くシューズ、通学時に履く靴などに指定があり、足の痛みや変形を生じたとしても他の履き物を履くことが許されてないこともある。また、許可が得られるとしても診断書が必要であったり、異装届けが必要であったりと手続きが必要なこともある。塩之谷整形外科には診断書を求めて遠方から来院する患者もおられるとのこと。他方、他の生徒・学生と異なった履き物を履くことが嫌で、足に合わなくても無理をしてしまう場合もある。
 こどもの足の成長に必要な要素を満たさない履き物が学校単位で画一的に強制されていることもある。例えば愛知県のある市の公立小学校の指定体育館シューズと上履きを下図に示すが、こどもの足部発達に必要な構造を満たしていない。下図の症例は6歳男児で、小学校に入学してから下肢の痛さとだるさを訴えるようになったと来院した、踵部はやや外反傾向にあり、指定の履き物では内側縦アーチから後方を支えることができない。このような履き物で一日中過ごしていれば、足部の負担を生じて下肢の疲労感を生じて当然である。

ある小学校の指定履き

 特定のメーカーの靴ではあるが、運動場速く走れるという左右非対称の靴底の構造が特徴の靴がある。多少なりとも左右非対称の構造が立位や歩行に影響が及ぶようであれば、足部の正常な発達に悪影響を及ぼす可能性がある。逆に立位や歩行に全く影響が及ばないようであれば、走行時に好影響を及ぼすという謳い文句は誇大広告と言えるのではないか、学校の上履きとして正式採用している小学校もあるというが、実際に左右非対称の靴底の靴を履いていて足部・足関節の痛みを訴えて当院に来院した患者も複数おり、常用すべきではないと塩之谷先生は考えておられる。

ローファーを指定されている場合

 ローファーを履いている足のトラブルを訴え、来院する患者は非常に多く、例えば外脛骨障害、外反母趾、内反小趾、陥入爪、後爪郭部爪刺しなど多岐にわたる。なぜローファーが問題なのかというと、スリップオンで履くのみで、靴の甲の部分に足を保持できる機能がないためである。また単一の規格で作られていて、足が細長いとか薄い学生、甲高であったり足幅の広い学生ではサイズの選択に難渋する。学校指定のローファーでかかとがぴったり合い、甲の部分も押さえられ、なおかつ爪先に余裕があるという足の持ち主を探す方が難しいのではないかと思われる。したがって多くの学生は3年ないし6年にわたって足に適合しない靴で通学を強要されるのである。たとえ靴に指定を設けるとしても「黒い(革)靴」「華美でないもの」「ヒールの高さは3㎝以内」などのゆるい縛りにするべきで、足の形に合わせて選択の自由を認めるべきであると考える。
 陥入爪で通院している女子高校生に靴などの思い当たる原因を尋ねたところ、入学式の帰りですでに爪が痛くなったという症例がいた。通学靴がローファーであるのみならず、就活のときにはパンプスを履くようにとの指示が出ている患者もいた。厳密にはこども靴の範疇から外れるが、女性にパンプスを強要するということがあってはならないと、2020年3月の参議院予算委員会で当時の安倍首相が答弁している。その後パンプスが指定であった大手航空会社の女性社員の靴も、ローヒールなども認められるようになっている。指定の靴で足部の疼痛や変形を生じる可能性がある以上、一定の靴を履くことを強要することは人権侵害であろう。

考 察

 日本では靴の歴史が浅く、靴をきちんと履くという習慣が根付いていない。第二次世界大戦後に大量生産されたスリップオンで履く動作が基本になってしまっているのではないかと思われる。スポーツの現場においても靴ひもをきちんと縛っている者はいなかったという報告があるが、靴ひもをきちんと締めるだけで歩容が改善するという報告もある。スポーツ指導者がきちんと靴を履くことを指導することが必要だが、その意識は薄い。手を使ってきちんと固定具を使用するようにと伝えると、「だって早く早くって言われるもん」「きちんと履いていてみんなより遅くなっちゃう」と、きちんと靴を履くことより早く行動することを要求され、靴についての教育が全くされていない日本の現状が浮かび上がる。
 不適切な靴を履き続けることが習慣となっており、壊れた靴、すり減った靴、サイズアウトした靴を履いていても本人は全く無頓着で当然と思っており親も気づいておらず、足のトラブルを生じてから対処することになる。このような靴を外来で見ることは決して珍しいことではない。足部に適合していない靴を履くことにより、スポーツのパフォーマンスが上がらないどころか転倒や捻挫などの外傷の原因となることもある。
 日本では靴のサイズに関して統一された規格がなく各メーカー独自基準により設計生産されているため、同一サイズ表記であっても靴内の寸法が全くバラバラの大きさであるということはほとんど知られていない。JIS規格があるといっても、表記するサイズが靴型や金型などの寸法に一切関係がなく、履く人の足の寸法に合わせた「足入れサイズ」となっている。靴の歴史が長い欧米ではサイズ表記は「靴型サイズ」といって靴型や靴自体の大きさを示しているが、日本のように「足入れサイズ」を採用している国は比較的少ないという。靴に表記されているサイズを信じて購入する日本人は多いが、サイズ表記が全くあてにならないということを知っている者はほとんどいない。
 ドイツではWMS※1こどもの足の実寸から割り出された統一木型を使用した靴の規格があり、それぞれの足長に対して幅広・中間・細幅の3種類の靴が存在する。また機能的に適切で、素材や染料なども無害なものを使っているなどの条件に合致していることが求められている。いろいろな事情があってすぐに統一木型のシステムを導入することは難しいと思うが、日本でも少なくとも靴の表記サイズと実寸が一致するようにならないと消費者の不利益は続くと考える。

日本フットケア・足病医学会
こどもの足靴改革ワーキンググループについて

 日本フットケア・足病医学会という、足病変に対しての医療を行う様々な職種が参加している学会がある。整形外科医にはあまりなじみのない学会である。評議員総数184人のうち、整形外科医は9人と5%にも満たない(2021年12月現在)。もともと糖尿病足を扱う糖尿病内科医、血管外科医、形成外科医、看護師らが中心となって発足した学会で、現在会員数は約5,000人を数える、塩之谷先生はその前身の日本フットケア学会の発足間もない頃から関わっていたが、当初は糖尿病足病変などについての話題が中心であり、靴についてもそれほど関心は払われていなかったように思われている。しかし、現場で日々足病変に大事する看護師らから「どれだけ足の病変をケアしても靴の選び方や履き方が悪ければ治らない」「なぜ日本人は足や靴に対しての関心と知識がこれほどないのか」「もしかしたらこどもの頃からの靴選びや履き方の習慣に原因があるのではないか」「こどもの足や靴から見直さないといけないのではないか」という気運が高まり、理事長である神戸大学形成外科寺師浩人教授の肝煎りで「子供に足靴改革ワーキンググループ」が発足した。塩之谷先生はこのグループのリーダーを務めている、2022年9月現在、こどもの靴選びについての手引き書をまとめられている段階である。まずきちんと足を計測したり、靴を選んだり、靴を履く時間や手間を惜しまないことを浸透させること、また品質の良い靴を適切な値段で流通させることなど、教育、製靴業などを含む横断的な取り組みが必要となるため、息の長い活動を続けていきたいと考えておられる。

まとめ

 こどもの足の愁訴、疼痛、変形などは靴が原因となっていることが多いが、見過ごされていることが多い。症状や画像所見を診るだけでなく、「もしかしたら靴が原因かもしれない」という視点を持つことが重要である。

感想
 指定靴としてトレーニングシューズを履く事が多い。トレーニングシューズをチームで揃えて入場行進をする際に履くと見栄えが良い。また、金属歯やポイントのスパイクを履かなくなったベテラン選手、バッティングが専門となった選手が、トレーニングシューズでプレーする印象がある。このトレーニングシューズを幼少期、学童期の選手が着用するのに私は疑問を感じる。確かに、ランニングシューズより雨天の際に便利である。ソールが硬く、マジックテープであることが多いトレーニングシューズを、特に小学生の時は見直す必要があると考えている。同様に、中・高生、大学生にでも選手にあったソール、アッパーのシューズでプレーする方が足部や全身にはいいと考えている。
 しかし、足部が固定されることで強靱な足部に成長する可能性も否定できない。経済面や成長課程など様々な面を考慮してシューズを選択して頂きたい。堅苦しくなったが、それほどシューズの選択が重要だと考えてます。

次回
2月14日に投球動作において損傷されうる肩・肘関節構造の解剖学的知識について報告します。

投稿者:小林博樹

※1WMSは、ドイツ靴研究所が策定し、推奨・運用している子供靴の規格だ。「W」は「Weit=広い」、「M」は「Mittel=中間」、「S」は「Schmal=狭い」という意味。ネーミングは、このように靴の幅について「広い」「中間」「狭い」の三つを規定していることに因んでいる。

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