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運命の人は一人じゃない

彼が遠いところへ行ってしまった。
彼女を置いて。

確かに、きれいな海が見たいと言っていつのまにか福岡から沖縄に引っ越していたりふらっといなくなるところがある人だった。
今度は、追いかけてはいけないような遠いところらしい。

落ち込む彼女にわたしは「運命の人だったよね」と言ってしまった。
そんなこと言ったら、もうこれ以上いい人と出会えないみたいな気持ちになってしまうかもしれないのに。
家に帰ってから、しまった、と思った。


彼も彼女もわたしの友達だ。
幼なじみといってもいいかもしれない。
わたしたちは保育園から中学校までずーっと同じクラスだったのだ。
田舎だから、クラスが一つしかなかった。
なので、もうみんな兄弟のような、家族のような感じだった。

高校生になってからも休みの日は誰かの家に集まって遊んだ。
そんなとき自然と、彼と彼女は隣に座った。
かといって、ヒューヒュー!と冷やかされるような恋の感じはなく、なんかしっくりくるんだね、とたぶんみんなが思っていた。

例えば、ソフトクリームひとつをふたりで食べていてもあたりまえすぎて誰も何もつっこまなかったんじゃないかと思う。
それぞれ別に好きな人がいて、彼女の恋バナに彼の名前が出てくるわけでもなかった。

やがて、大人になってみんなに会う機会もへり、久々に彼女に会って話を聞くと、なんと、ふたりはいい感じになっていたと言うではないか。
納得した。
もともと一緒にいるのがあたりまえな感じがあったのだから、それが恋愛に変化してもおかしくない。
もう恋愛の過程飛ばして、家族になろうかってなっても納得しちゃう。

だから、しみじみ「運命の人だったよね」と思ってそのまま口に出してしまったのだ。


そんなふたりにどうして〝別れ〟が来たのだろうか。
わたしは不思議でならない。
もしかして本当は〝別れ〟てないのかもしれない。
いつかまた、出会うのかもしれない。
すっごく遠い未来で。


そんな運命の人だけど、運命の人って一人じゃないんじゃないかな、と思う。
ということを、あの日彼女に言えなかった。
言いそびれたのだ。
彼女の運命の人はあと4〜5人いるんじゃないかなと思う。

彼女は放っておけない人だ。
初めて会う人とも友達のように話せるようなところがあるのに、あまり胸の内を明かさなかったりする。
担任の先生が言ってもきかないことも、彼女が言うとなぜかみんな素直にきくというお母さんみたいな存在なのに、甘えん坊なところもあった。

誰かに彼女の側にいてほしいと思う。
最近会ってないけど、彼を超える運命の人と今頃お付き合いしているかもしれない。


彼は…

彼はどうしているのだろうか。
どこへ行っても友達に囲まれている人だったから、彼の好きなきれいな海と空の国でワイワイと暮らしているのかもしれない。


わたしは彼のことも彼女のことも大好きだ。
別々の場所にいても、それぞれ幸せでいてほしい。
ちょっと目頭熱くなるくらい心から想う。




#あの日言えなかった言葉
#みんなで書く部


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