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子どもの本の専門店 エルマー

 福岡県春日市にある子どもの本の専門店「エルマー」にお邪魔し、1989年の創業当時から代表を務められている前園敦子さんにお話をうかがいました。編集部がエルマーを取材するのは、1996年、2006年に続けて3回目です。

 前園さんが子どもの本のお店を始められたのは、親子劇場の活動で本の係を担当されたことがきっかけだったそうですね。
 当時、親子劇場の会場では、本の販売もしていました。劇の原作以外の本も売っていて、たまたま私は販売する本を選ぶ係になったんです。それで、どんな本を子どもに読んでもらったらいいだろう? と、子どもの本をいろいろ読むようになり、それが子どもの本の店を開くことにつながりました。
 でも、営利目的でお店を開くというよりは、地域の子育ての支援をしたい、という思いが大きかったんです。私自身子育てで大変な思いをしたので、若いお父さんお母さんのお手伝いができれば、と思っていました。
 子育てのなかで何が大事だったかな、と考えると、私にとっては「本」。育児ノイローゼになったとき、絵本を読んでいるとほっとして、まさに本に救われたと感じました。それもあって、子どもの本の店を開くことにしたんです。

 開店から30年以上、地域の子どもたちが通い続けるお店になっているそうですね。
 本を買うためでなくても、お店に遊びに来てくれる子がたくさんいます。
 お店には、おもちゃや折り紙、かるたなど、遊ぶものも用意してあって、子どもが何人か集まれば、さあ、遊ぼう! と、私やスタッフ、ボランティアの方なども加わって、ゲームやかるたなどが始まります。遊ぶときは、私も、勝つために本気(笑)。
 親御さんと本を買いにきたお子さんが、帰りたくないといってだだをこねることも。そんなときは「××時に迎えにきてくださればいいですよ」と、お子さんをあずかったりします。
 コロナのあいだも、一度もお店を閉めませんでした。お店の外にゴザを敷いて、かるたをして遊びましたよ。
 経営は楽ではなく、お店を閉めようと思ったこともありました。でも、そういう話になったとき、家庭に事情があっていつもお店に来ていた小学校高学年のある女の子に「私、どこに行ったらいいの?」と言われて…。やめてはいけない、子どもの居場所はやっぱり必要、と強く思い、ここまで続けてきました。
 スタッフのほか、ボランティアでお手伝いしてくださる方など、本当に多くの方に支えていただいています。お店の中の飾りなども、私ではなく、お客さんや知人が作ってくれたものばかりなんですよ。本の「ポップ」を子どもが作ってくれることもあります。

 お店に置く本を選ぶ方針は?
 本は心を育てるものですから、「売れるから」ではなく、子どもの心に寄りそう本を、こだわりを持って選んでいます。キャラクターものの本は置いていません。悪いとは言わないけれど…。読んだらそこで終わりではなく、大人になっても、子ども時代に読んだことを懐かしいと思ってもらえるような、心にひびく本を届けたいと思っています。ロングセラーの本は、ぜひとも、もっと売っていかなくては…。また、戦争をしてほしくない、子どもを戦場に送りたくない、というのも、私の強い思いです。
 もっとも、私自身が気になるものだけでは偏ってしまうので、知人の司書さんに意見を聞いたりして、自分のアンテナに引っかかるもの以外も置くようにしています。
 近頃は、大人の都合を押しつけるような子ども向けの本が増えていることも、残念に思います。また、大型書店に行っても、ロングセラーの本を売っていないことも多いです。大型書店でも、「売れる本」だけでなく、いろいろな本をぜひ置いてほしいと思います。

 お店では、さまざまな催しも行っているんですね。
 お話会や、読み聞かせ、サイン会、赤ちゃんのいるお母さんたちに絵本やわらべうたを紹介する会も開いています。エルマーが、お母さんと赤ちゃんの居場所、また、お母さん同士をつなぐ場所になれば、と思っています。
 文庫や読書ボランティアの方々の勉強会をお店で行うこともあります。地域の読書ボランティアの人が学ぶのは、とても大事なことだと思っていますが、「場所」があると、横のつながりを作りやすいんですよ。そうしたつながりのお手伝いができればと思っています。

 30年以上子どもたちのそばにいて、最近感じられることはありますか?
 ゲーム漬けの子が増えましたね。新型コロナウイルスの流行以降、ますます実感しています。本の売れ行きを見ると、絵本はそうでもないのですが、小学生向けの本の売れ行きがとても悪くなりました。当店の常連のお子さんの周りから、少しずつ本の話題が広まってくれるといいんですが…。
 また、以前に比べて、おけいこごとをいくつも抱えて忙しいお子さんが多いですね。それでも、習いごとの帰りに顔を出して、「ひとつ級が上がったよ!」などと報告してくれたりする子がいるのは、うれしいです。

 徳間書店の本はいかがですか?
 『皇帝にもらった花のたね』がおすすめです。「正直ものは救われる」のがいいと思います。『ゴハおじさんのゆかいなお話 エジプトの民話』もいいですね。大人にもぜひ読んでほしい本です。

 ありがとうございました!

お店の情報
〒816-0801 
福岡県春日市春日原東町3-16-5
TEL:092-582-8639
10:00〜19:00
定休日:第2火曜日
最寄駅:西鉄大牟田線春日原駅より徒歩1分
    JR鹿児島本線春日駅より徒歩6分

(徳間書店児童書編集部「子どもの本だより」
 2023年7月/8月号より)

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