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著者と話そう 岡根谷実里さんのまき

 世界各国の食べものを紹介する大判絵本『世界の国からいただきます!』(アレクサンドラ・ミジェリンスカ&ダニエル・ミジェリンスキ文・絵/ナタリア・バラノフスカ文)の日本語版監修を担当された岡根谷実里さんにお話をうかがいました。

『世界の国からいただきます!』
(A・ミジェリンスカ&D・ミジェリンスキ文・絵/ナタリア・バラノフスカ文/
岡根谷実里日本語版監修/徳間書店児童書編集部訳)
は、料理やお菓子のレシピも多数掲載

 岡根谷さんは「世界の台所探検家」としてご活躍ですが、具体的にはどのようなことをされているのでしょうか?
 世界各地の家庭にお邪魔して、一緒に料理をさせてもらい、料理から見えてくる暮らしや社会について発信しています。会社員時代の2020年に『世界の台所探検 料理から暮らしと社会がみえる』(青幻舎)という著書を出しました。現在はフリーランスで雑誌、ウェブなどさまざまな媒体での執筆や、講演、小中学校・高校での出張授業などを行っています。

 どのような経緯で今のお仕事をされるようになったのかうかがいたいのですが、まず子ども時代のことを聞かせてください。
 長野県で育ちました。祖母と同居の三世代家族で、兄と妹との三人兄妹。特別「食」へのこだわりがあったわけではなくて、いろいろなことに興味がある子どもでした。よく言えば好奇心旺盛ですが、飽きっぽいという見方も…。自分としては、ひとつのことに飽きてしまうというより、おもしろいことが見つかるとどんどんそちらへ向かってしまう感覚。たとえば、ペーパークラフトを作り始めたものの、完成させる前に何か別のおもしろいものが見つかって放り出し、半年後くらいにまた興味が向いて完成させる、なんてこともありました。習い事も、ピアノ、水泳、バスケ、サッカーなど、いろいろさせてもらいましたが、長続きしなかったものも多数あります。
 本は、学校の図書館で借りて、よく読みました。「わかったさん」や「怪盗ルパン」などのシリーズが記憶に残っています。
 夏休みの自由研究には、多大なエネルギーを注いで取り組みました。世界の国旗を調べたり、食品の着色料を調べたり…。でも、自分で選んだというよりは、親に勧められたテーマが多かったと思います。

 著書にも書かれていますが、高校生時代にひとつ転機があったそうですね。
 高校で地理の授業にのめりこみました。先生がさまざまな国の暮らしを具体的に話してくれて、それが本当におもしろかったんです。実際にナツメヤシの実を見せてくれたりもして…。自分の知らない世界があるということにわくわくさせられました。授業で見聞きしたことが、ニュースや日常生活のなかでも目につくようになったりするなど、それまで何気なく素通りするだけだった自分のまわりが、地理の知識のおかげで、より立体的に見えてきます。それがおもしろく、世界への興味が生まれました。
 将来やりたいことは決めないまま大学に進んだのですが、学生の国際会議など、ピンとくる活動にいくつか参加しているうちに、自分の興味がだんだんとはっきり見えてきて、国際協力の仕事をしたい、と思うようになりました。道は自分で切り拓くことができる、ということや、自分で何かを選ばないと何も起こらないということにも気がつきました。
 できれば技術を身につけて、現場で働きたい、インフラを作る仕事をしたいと思ったので、土木工学を専攻し、大学院時代には、交換留学でウィーンに行きました。留学中は、西欧、東欧、トルコなどさまざまな国の友人ができ、バックパックで30カ国くらいめぐる旅行もし、刺激的でした。国連組織のインターンに応募し、その仕事でケニアに行ったのですが、インフラが不幸を生むという現実ものあたりにしました。大きな道路が作られることになり、学校や家が立ち退きを命じられ、村の人たちは誰も喜んでいなかったのです。幸せを生むと自分が信じていた国際協力が、不幸や犠牲も生むという現実を知り、愕然としました。
 そんな村の人たちも笑顔になったのは、食事の時間。帰国し、就職活動をするなかで、インターネットでレシピサイトを運営しているクックパッドという会社に出会い、「毎日の料理を楽しみにすることで、心からの笑顔を増やす」という理念に共感し、働き始めました。食も社会のインフラだと思っているので、私としては大きな方向転換をしたつもりはなかったです。

 どのようにして「台所探検」に出かけるようになったのでしょうか?
 海外への興味は尽きなかったのですが、仕事では海外へ赴く機会がなかなかなく、ならば自分で行ってみようと思い、知人のつてを頼りに、休暇に世界の台所へ出かけていくようになりました。自分の経験を社内の人に知ってほしくて、社内のブログのようなところに、「台所探検」の報告を書きはじめ、会社を辞めた同僚にも読んでもらえるよう、一般のブログにも書くように。読んでくれた人から、本の執筆やテレビへの出演依頼が来るようになりました。本を出したあと、反響に手ごたえを感じ、私がやっていることをおもしろがってくれる人がいるなら専念してみよう! と、会社を辞めて今に至ります。食を通して、わくわくすることを伝えていきたいと思っています。

 『世界の国からいただきます!』の仕事はいかがでしたか?
 行ったことがある国でも知らないことがいっぱい書かれていて、わくわくしながら取り組みました。「興味の扉」を開くのにとてもいい本ですよね。本に出てくるレシピを試したり、食材を買ってみたりして、本に載っていることをリアルな体験につなげることもできるし、また本に戻って、歴史や社会背景を知ることもできる。本と現実を行ったり来たりできるところが、いいなと思っています。

 今後の抱負を聞かせてください。
 食べものは身近な題材ですが、食や料理を通して、「世界にわくわくする」仲間を増やしたい、と思っています。4月に新しい著書『世界の食卓から社会が見える』(大和書房)が出たので、ぜひご覧ください。

 ありがとうございました!

岡根谷実里(おかねやみさと) 
1989年長野県生まれ。東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。
著書に『世界の台所探検 料理から暮らしと社会がみえる』(青幻舎)、『世界の食卓から社会が見える』(大和書房)、訳書に『世界の市場 
おいしい! たのしい! 24のまちでお買いもの』(河出書房新社)
がある。

(徳間書店児童書編集部「子どもの本だより」2023年5月/6月号より)


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