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本の中から出てくるのは…?/『本だらけの家でくらしたら』/文:編集部 小島範子

 本をふると、中からその本の登場人物があらわれる…そんなことができたら、素敵だと思いませんか?

『本だらけの家でくらしたら』(N.E.ボード 作/柳井 薫 訳/ひらいたかこ 絵)の主人公のファーンは11歳の女の子。両親は仕事熱心できちょうめん
すぎ、ファーンからすると「タイクツ」な人たち。父親は庭の芝生のことばかり気にしているし、母親はバーゲンのチラシばかり見ています。でもファーンは、見た目も両親とまったく似ていないうえに、「すごく変わった子」。小さいころから、身の回りではふしぎなことがちょくちょく起こっていました。コオロギの絵本を開くたびに、中からコオロギがとびだしてきたり、降ってきた雪が、文字の書いてある紙きれに変わったり…。

 ある日、実の父親を名乗る人物が家を訪ねてきたことで、ファーンは自分が産院でとりちがえられていたことを知ります。母親はすでに亡く、自分がふしぎな力をもつ〈ダレデニアン〉の血を引いていることも…。

〈ダレデニアン〉は、本をふって、中からモノを取り出すことができたり、ほかの人に変身したりと、さまざまなことができる能力を持っています。生まれながらの〈ダレデニアン〉もいれば、ファーンの実の父親のように、訓練して〈ダレデニアン〉になる人もいます。けれども、父親はいまだ半人前で、一人前になるために『〈ダレデニアン〉になる方法』という本をさがしていました。その本の内容をファーンの母親から教えてもらい、〈ダレデニアン〉になれたのです。そしてファーンもその本を解読する力を持っているにちがいない、と思ったのです。でも、その本をさがしている怪しいマイザーという男の存在も伝え、自分たちが先に本を見つけなければ、とファーンを急かします。その本は、きっとファーンのおばあさんの家にあるだろうと考え、ふたりは下宿人を装って乗りこんでいくことに。

 おばあさんの家は、いたるところに本がありました。コーヒーテーブルの上と下、ソファーの上、階段、廊下…本の間に細い通路ができているようなぐあいです。そんな家で下宿人として暮らしながら、ファーンは本がどこにあるのかという謎を追い、また亡くなった母親の姿をもとめ、父親の愛情を確認しようとし、敵であるマイザーと戦うことになるのです。

 謎解きのおもしろさ、育ての親の愛情を実感できずにいた少女の居場所探し、さらには作者がちょこちょこと顔を出して、おしゃべりをする、という、にぎやかな要素が詰まった物語です。読み終わると、ファーンがたくさんの愛にかこまれていたことがわかり、ほっとします。

 また、ひらいたかこさんによる挿絵も、この本のおもしろさを倍にして伝えてくれます。

 物語中盤では、『床下のこびとたち』の〈借りぐらしや〉や『指輪物語』のホビットなども登場します。この魔法に魅力を感じた読者にとっては、おもしろい本を紹介してくれるブックリストとしても楽しめます(日本で翻訳されている本のリストもついています!)。

 もし、ファーンと同じ力があったら、みなさんはどの本をふってみたいと思いますか?

『本だらけの家でくらしたら』 
N.E.ボード 作
柳井 薫 訳
ひらいたかこ 絵

文:編集部 小島範子

(徳間書店児童書編集部「子どもの本だより」2023年3月/4月号より)


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