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【小市民シリーズ】『秋期限定栗きんとん事件』の感想

※米澤穂信『秋期限定栗きんとん事件』のネタバレがあるので注意!

米澤穂信の『秋期限定栗きんとん事件』を読んだのでその感想を書いていこうと思う。

この作品は小市民シリーズの3作目となっており、主人公である小鳩君と小山内さんの2年生~3年生の時の出来事が描かれる内容となっている。『夏期限定~』の事件からお互いに離れるようになった2人がそれぞれ他の相手と付き合いだし、それぞれの立場から1つの事件についてどうかかわるかという話になっていく。

この小説の良さとしてはやはり関係性だと思う。最後の方にしか小鳩君と小山内さんの絡みはないけど、そこがやっぱり良い。お互いに小市民になりたいのだけどどうしても有能さを発揮してしまうというその仕方なさを共有している感じが好き。推理要素も日常ミステリらしさがあって面白いとは思うけど個人的にそこはおまけで、関係性が主たる楽しみ要素だと思っている。

なので上巻の方は正直そこまで楽しめなかったというのがある。互いに別の相手と付き合いだす生々しさは良かったけど、その付き合う相手のキャラが薄くてあまり好きになれなかった感じがする。

ただ構成はうまいと思う。中丸さんとの付き合い描写は結局そこまで意味がなかったけど、氷谷に目を向けさせないためのミスリードとして機能しているし、小山内さんの謎の行動も上手くミスリードとなっている。仮に中丸さんと付き合う描写が無かったら氷谷が犯人だろうなというのが、わかりやすくなってしまうため、もっと単純な小説になってしまっていたと思う。なので全体としては緻密にできているなという印象。下巻からの怒涛の伏線回収は見事だと思った。

「栗きんとん」というのが単なる秋的スイーツだから表題としているだけじゃなくてしっかりと比喩的に意味があったのが良かった。他の米澤穂信作品を読んでも思うけど細かい部分が上手い作家だと思う。個人的に推理にそこまで興味がないタイプだからなのかもしれないけど、自分は米澤穂信さんが描く推理以外のキャラクター的人間描写にとても惹かれる。今回もそんな要素が光った作品だったと思う。

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