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事業撤退:燕三条の町工場の一例

10年近く前になりますが、照明器具の事業から撤退しました。
大きな理由は、担当責任者の定年退職です。
小さな理由としては、後任の不在と照明器具事業の利益率低下と先行きの悪さです。

もともとCさんは、トクニ工業の顧客企業で、同じメーカーの照明器具の組み立てをやっていました。ところがその会社が業績不振で、倒産してしまいました。そのためCさんは、照明器具製造の仕事をもってトクニ工業に入社しました。
照明器具の組み立てという仕事は、様々な部品を調達し、それを組立て完成品にし、顧客倉庫もしくは設置する施設にむけて出荷します。部品の中には電材、ガラス、ゴムパッキンをはじめ、筐体、取付金具など多くの精密板金部品も含まれます。様々な部品を調達するということは、それぞれに在庫が必要になってきます。材料仕入れてレーザーで形に切れば完成というわけにはいきません。購入した部品は月を跨ぐし、仕掛品を置くスペースも必要になります。
利益率は低いですが定番品を受注できれば、安定した売り上げが見込めますし、定番品を契機として新たな特注品を受注する可能性もあります。実際に大きな案件を受注したことで売り上げが急増し、年間売り上げの50%以上を超えた年もありました。
そうした照明器具のOEM事業でしたが、LEDの普及に伴いそれまで電球を使用していた施設向け照明などが、LED仕様に置き換わっていきました。軒並み照明器具メーカーは、LEDライトの生産を中国やタイなど海外の生産拠点で行い、そのまま器具に取り付け完成品になった状態で輸入するようになりました。LEDライトの部品だけを輸入し、国内で組み立てるという案件は、特注仕様などごく限られたものだけになってしまいました。
照明器具のカタログが刷新されるたび、従来型のモデルが消えていく様は、正にPPM分析でいうところの負け犬の枠に収まってしまいます。

ということで、担当責任者の定年退職に合わせて、照明器具事業から撤退しました。

照明器具事業は撤退した年、年間売り上げの約10%を占めていました。
その翌年の年間売り上げは、その他の顧客からの売上増が寄与して、前年度比-7%となりました。その翌年には、照明器具事業をやっていたころの売上に戻る事が出来ました。
後任の不在という理由ですが、後任候補としてスタッフを採用したのですが、コミュニケーション面でうまくいかなかったのか、定着するとこはかないませんでした。何度でも公認候補をあてがえば、相性が合う人が出てきたかもしれませんが、別のスタッフを採用することはありませんでした。
協力会社としてOEMで組立作業を請け負うということは、多分にノウハウや生産効率の最適化などを必要とするものでした。ただなんの工夫無しに組立作業をしていても利益を上げることができるような、安易なものではありませんでした。

LEDライトがメインとなった照明業界ですが、建物が建つたびに照明器具は必要になるので、業界自体は無くなることはありません。またリフォーム、リニューアルといった需要もあります。
何としても照明器具の業界でやっていくのだという気構えで、取り組んでいったのなら、何かしら突破口があったやもしれません。そうなると担当責任者の不在が、事業生死を分けてしまいます。

事業拡大する時は、売り先、仕入れ先の確保、スタッフの採用、教育など、すごく大変なのですが、事業縮小する時は、タイミングさえ合えば案外スムーズに事が運ぶものです。
係る人、そして事業環境の変化。
収益をだしているうちに撤退できたのも良かったかもしれません。

コア事業に重点を置きながら経営を進めていく中で、派生する案件を一つずつ遂行し、成果を出していくことで、新たな事業として分離・確立することができるかもしれません。
また人との出会いが、新たなビジネスチャンスになるかもしれません。社内に取り込むだけが選択肢ではなく、事業母体は別であっても協業していくことで成果を出し、信頼関係を構築していくことで、より達成感のある、仕事に対して喜びを感じる事が出来る体験ができるでしょう。


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