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賀来賢人「忍びの家」の世界2位ヒットに学ぶ、黒船Netflixの意義

この記事は2024年2月26日Yahooニュース寄稿記事の全文転載です。

Netflixで公開されたドラマ「忍びの家 House of Ninjas」が大きな話題になっています。

このドラマは主演の賀来賢人さんが、共同エグゼクティブ・プロデューサーにも名を連ねる形で企画した作品で、現代に「忍び」がいるとしたらという設定のドラマになります。

上記の本編映像にみられる迫力あるアクションも魅力の一つですが、忍者の家族をめぐるストーリーや、欧米のスパイ映画を彷彿とさせるような「BNM(Bureau of Ninja Management)」という組織が文化庁にある設定など、画期的な取り組みが様々にされているのも印象的な作品です。

完全オリジナル作品での快挙

Netflixでヒットした日本の実写ドラマと言えば、「今際の国のアリス」や「幽☆遊☆白書」など漫画原作の作品の印象が強いと思います。

ただ、この「忍びの家」は賀来賢人さん原案の完全オリジナル作品。
漫画原作のドラマのように既存ファンがいる作品ではないのにもかかわらず、公開初週でいきなり世界16カ国で1位を獲得し、92カ国でトップ10入りするという快挙を成し遂げてしまったのです。
これは、「今際の国のアリス」シーズン2や、「幽☆遊☆白書」に匹敵する規模の成功で、日本の完全オリジナル作品の実写ドラマとしては快挙と言えます。
世界から人気のある「忍者」をテーマにしたドラマというのがポイントになったのは間違いないでしょう。

その反響ぶりに、賀来賢人さん自身も「脳みそがついていけません」と驚きを隠せない様子を投稿されています。

もちろん、こうした日本の実写ドラマの世界ランキング入りは、Netflix内のランキングと言うこともあり、段々と珍しい現象ではなくなってきていると感じている方も少なくないかもしれません。

ただ、今回の「忍びの家」のヒットには、オリジナル作品という点だけでなく、もう一つ日本の映像業界にとって非常に重要なポイントがあります。
それはこの企画が、賀来賢人さんの持ち込み企画だったという点です。

コロナ禍をきっかけに生まれた企画

賀来賢人さんが、Netflixに企画を持ち込むに至った経緯は既に様々なメディアのインタビュー記事で発言されていますが、コロナ禍の影響で撮影がなくなってNetflix三昧になり、韓国のエンタメのレベルに打ちのめされたことがきっかけになっているそうです。
その後、日本のコンテンツで世界で勝負したいと考えるようになった過程で、忍者に目をつけ、2020年にNetflixに企画を持ち込んだのだそうです。

最終的に賀来賢人さんは、2022年9月に事務所から独立を公表。
翌週にはNetflixと共同で「忍びの家」を制作中であることを発表されます。

それから1年半がたち、完成した作品が今月公開され、大きく注目される結果となっているわけです。

当時のインタビューで賀来賢人さんは「命懸けの作品」という表現をされていますが、まさにその覚悟が伝わってくる作品に仕上がっていると言えるでしょう。
 

「黒船」として日本の映像業界を変えたNetflix

ここで改めて考えたいのは、賀来賢人さんが企画を持ち込む先としてNetflixが存在することの意義です。

Netflixが日本に上陸する際、多くのメディアがNetflixを「黒船」と表現し、海外の巨大な動画配信サービスが日本に上陸することで、日本の視聴者や市場をNetflixに奪われる不安を口にしていました。

そのNetflixの日本上陸から今年で9年になろうとしていますが、Netflixの会員数は2020年の段階で500万人を突破してはいるものの、おそらくまだ1000万人は超えておらず、世帯普及率が50%を超えると言われる米国のような圧倒的な存在にはなっていません。
Netflixは日本の市場を、短期間で海外に奪っていってしまうような存在ではなかったと言えるでしょう。

ただ、逆にNetflixが日本の映像業界にもたらした変化は、文字通り鎖国状態だった日本の映像業界に「黒船」として、大きな価値観の変化を引き起こしたことにあると言えます。

Netflixにより、「ONE PIECE」、「今際の国のアリス」や「幽☆遊☆白書」のような日本の漫画作品の実写化が世界に求められていることが明確になりましたし、「全裸監督」や「サンクチュアリ」のような日本のオリジナル実写作品が海外でも見られることを証明してくれました。

それにより賀来賢人さんのように海外に目を向けて挑戦をする日本の映像関係者が着実に増え、「ONE PIECE」や「鬼滅の刃」のようなアニメ作品はもちろん、「ゴジラ-1.0」のような実写映画も海外でヒットするようになってきていると考えられるわけです。

実はNetflixは、日本の映像業界が世界に目を向け、本気で世界に挑戦するきっかけをもたらしたという意味で、本当の意味での「黒船」だったと言えると思います。
 

日本のテレビ局以外の選択肢がある意義

賀来賢人さんは日本のコンテンツで世界に挑戦するために、Netflixに企画を持ち込んでいますから、そもそも日本のテレビ局に持ち込むという選択肢はなかったと思いますが、この企画が日本のテレビ局に持ち込まれた場合に実現していたかというと、その可能性は限りなく低かったはずです。

最近では、日本のテレビ局も海外に売れる可能性を感じて、ドラマの放映枠を各局増やしていると言われますが、その結果一つ一つのドラマにかける手間やコストが減っているのではないかという指摘もあります。

テレビドラマ「セクシー田中さん」における悲劇をきっかけに、日本の映像業界における漫画のドラマ化における構造的問題が世間の目にさらされることになったことも、象徴的な出来事と言えるでしょう。

日本のテレビ局が、テレビドラマをテレビCMの放映収入を得るために粗製濫造する状態になっているのではないか、ということがこうした問題の根底にあるとも言われているわけです。

賀来賢人さんのような新しい挑戦をしたい役者や映像クリエイターにとって、Netflixという新しい企画の持込場所ができたことは幸運なことと言えるでしょう。
 

日本の映像業界の底上げにつながるか

当然、今後注目されるのが、日本のテレビ局や映画会社などの映像業界の変化です。

Netflixという「黒船」が存在感を増すことにより、日本のテレビ局や映画会社は比較対象として比べられることが増えることになります。
いつまでも低予算で、短期間のスケジュールでのドラマ制作をつづけていると、優秀な役者や映像クリエイターほど、Netflixのような新しい環境を選ぶようになってしまうはずです。

日本のテレビ局や映画会社が、「黒船」Netflixによって開国された日本の映像業界において、古い時代の侍のままでいるのか、新しい時代に合わせて変化できるのかは大きな分岐点と言えます。

もちろん、日本のテレビ局や映画会社においても、既に新しい挑戦は始まっています。

象徴的なものが、通常のドラマ制作費が1話あたり3000万円と言われる中、1億円を超える投資をしたと話題になった「VIVANT」でしょう。
ただ、その後福澤監督が、大赤字だったことを明言し、続編は未定であることを告白されていたことを踏まえると、日本のテレビドラマのビジネスモデル転換の難しさが分かります。

ただ、実はNetflixにおいても今日のような日本の実写ドラマの数々のヒットは約束されたものではありませんでした。

筆者はNetflixにおける日本のコンテンツのトップである坂本和隆氏にお話をお聞きしたことがありますが、その際に最も印象的だったのは、坂本氏とNetflixも「全裸監督」から「今際の国のアリス」や「First Love 初恋」など、一つ一つ日本の実写ドラマの成功を積み上げることで成功の規模をあげ「幽☆遊☆白書」のような大規模な作品を作れるようになってきたという事実です。

映画「ゴジラ-1.0」の米国における大ヒットも、東宝が地道に米国における販路を広げてきたことが貢献していると言われていますが、こうした一つ一つの取り組みが、日本の映像業界の世界への扉を一つ一つ開けていき、日本の映像業界全体の底上げにつながっていることは間違いないでしょう。

今回の賀来賢人さんによる「忍びの家」のヒットもまた、その底上げにつながっていることは間違いありません。

今後も、「黒船」Netflixや賀来賢人さんの「忍びの家」の成功によって刺激を受けた日本の才能やコンテンツが、世界への真剣な挑戦をされていくことを楽しみにしたいと思います。

この記事は2024年2月26日Yahooニュース寄稿記事の全文転載です。

なお、今日2月27日の雑談部屋「ミライカフェ」は13時から、この記事をネタに開催します。
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