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海を越えて炎上したドイツ企業の「春の香り」CMに学ぶ、面白広告のリスク

この記事は2019年4月3日にYahooニュース個人に寄稿した記事の全文転載です。

 日本では桜も見頃を迎え、新入社員も入社し、新元号も発表になり、と一気に春らしい話題が多くなっていますが、ドイツ企業の「春の香り」のCMが物議を醸しているのをご存じでしょうか。

 CM動画をネット上に公開したのはホルンバッハというドイツのホームセンター。

 農村で作業している白人男性の衣服を、研究員が真空パックにして自動販売機で販売するという謎の舞台設定になっています。
 そして、その衣服を日本が舞台と思われる都市部のOL的な女性が匂いを嗅いで喜ぶという、正直一見しただけでは意味が分からないCMです。

 具体的な動画の問題点については、下記の記事に詳しいですので、そちらを読んで頂ければと思いますが。

 動画の内容とは別に、炎上に対する対応を含めて、日本企業にも参考になる点が多いと思いますので、ここでも簡単に時系列をまとめておきます。

■3月15日 ホルンバッハがツイッターで春の香り広告を公開

■3月中旬 動画公開直後から人種差別だという批判が多数発生

■3月18日 ホルンバッハ側は白人男性・白人女性バージョンをリプライに投稿する形で、人種差別ではないと批判に対応

■3月27日 ドイツ在住の韓国人であるGang氏がChange.orgで抗議のキャンペーンを開始。1000名以上の署名を集める

■3月28日 抗議をきっかけに、欧米のメディアが記事でとりあげる。

■3月28日 ホルンバッハ側がツイッターに釈明文を投稿。
      全く謝罪の意思が感じられず更に炎上。

■3月30日 日本でもメディアで取り上げられ始める

■4月2日現在  抗議の署名は1万8千人を突破。ホルンバッハ側は沈黙を継続

ドイツでは面白広告で昔から有名?

 筆者は最初、消臭芳香剤か何かのCMで、匂いが消えるという話なのかなと思ったんですが、そうではなく、日本において男性が若い女性の中古の下着を買っているという話を元に、男女を入れ替えてアジア人女性が匂いを楽しむというパロディにしているんだとか。

 ホームセンターが、なぜこんな嫌悪感を感じてしまうようなCMを作る意味があるのか良く分からないのですが、どうもこのホルンバッハという会社は、昔から面白広告で有名なホームセンターのようです。

公式Instagramにもちょっと変わった写真や動画が並んでいますので、ホルンバッハからすると、今回の動画もそうした面白動画の一環ということなのでしょう。

 おそらく、自分達のメインターゲットである農作業をするドイツ人男性に対して、「あなたたちが頑張っているのは美しいよ」と伝えたくて、あえて、あなたたちの汗臭い衣服もアジア人女性にとっては買うほど良い匂い、というパロディのクリエイティブを作ったものと想像されます。

 日本人からすると、人によっては嫌悪感しか湧かない動画だと思いますが、少なくともホルンバッハの広告担当や広告代理店の人達にとっては、これが笑える面白広告であり、立派な作品だから、抗議に対して釈明はすれども謝罪も撤回も削除もしない、ということのようです。

 ヨーロッパ企業によるアジア人差別動画というと昨年末にあったドルチェ&ガッバーナの炎上騒動が記憶に新しいところです。

 あの炎上騒動は、動画単独ではそれほど大きな騒動になっていなかったのが、ガッバーナ氏の過激発言によって一気に大炎上に発展。ドルチェ&ガッバーナは中国市場を失ってしまいました。

 ただ、ドルガバ炎上は、重要視していた中国市場での炎上であったため、最終的にドルチェ&ガッバーナ側は深く謝罪をすることに追い込まれましたが。

 今回のホルンバッハはあくまでドイツ国内がメインターゲットのホームセンターであり、炎上の中心地である韓国や日本は彼らにとって関係ない市場。

 ツイッター上での炎上が続き、抗議の署名が増え続けたとしても、自らの顧客であるドイツ人に炎上が伝わらず、特に自分達のビジネスに影響がないということになれば、このまま謝罪せずに風化を待つ、という対応は残念ながら十分ありえるように感じます。


日本を全く知らないわけでもない?

 今回の騒動を横目で見ていて、深刻だなと感じるのは、今回の騒動を通じてホルンバッハへの怒りが「ドイツ人」や「ヨーロッパの人」にも向いているケースが散見されることです。

 あくまで、ドイツ人全員が今回の動画のような価値観を持っているとは思えませんし、ドイツ国内でも今回の動画に批判的な白人男性は少なくないようにも見えます。
 ただ、一企業のおふざけで投稿された面白動画1つで、これだけの騒動が起きてしまうというのは日本企業も忘れてはいけないポイントといえます。

 ちなみに、ホルンバッハの人はドイツ人だし、日本のこと何も知らないだろうから仕方ないよな、と考えるのも実は少し違います。
 実はホルンバッハは、日本人の島田陽氏とコラボをしてDIYで制作するテーブル「Utsuri」を作っており、ホルンバッハのYouTubeチャンネルには、日本でロケをしたらしい動画が複数アップされています。

 今回の騒動に関連して島田氏も「何の宣伝なのかよく判らない上、アジア女性というか日本文化に対しての歪んだ認識と興味があり、擁護する面は感じず残念。」とツイートされていました

 
 広告を作った部署と島田氏とコラボしている部署が全く異なる可能性もありますが、少なくとも日本と全く関係がない企業ではなく、日本のことを知っている企業だからこそ、日本のいわゆるブルセラの問題も知っていて、それをパロディとして動画にしたという可能性もあるわけです。


日本企業にも同じリスクがある

 こうやって無知ではなく、ある程度の知識があるのに、動画の閲覧者からすると差別的な表現と受け取れる行為の加害者になってしまうことは、日本企業でもおこりえることです。

 日本でも、一昨年末の大晦日の特番で、お笑い芸人の浜田雅功氏がエディー・マーフィーを再現するために、黒塗りの顔で登場したことが物議を醸したことが記憶に新しいと思います。

 私個人も、当時は、日本国内で放送しているお笑い番組の表現で、これだけ騒動になるのかとビックリした記憶がありますが。

 今このホルンバッハの動画を見てから、あの騒動を思い出すと、当時問題提起をされていた方々の気持ちが分かる気がするのは、私だけではないはずです。

 実はこの時も日本テレビ側は「差別する意図は一切ありません。本件をめぐっては、様々なご意見があることは承知しており、今後の番組作りの参考にさせていただきます」とコメントしたのみで、特に謝罪や再放送の際のカット等の対応は取りませんでした。

 一部の方々からすると、これも今回のホルンバッハと同様の対応に見えてしまったかもしれないわけです。

 ある意味、面白広告やお笑い番組においては、何かを「笑う」構造を作る必要があるわけですが、自分達と異なる人達を「笑い」の対象にすると、実はその先にいる人達が「笑われた」と受け取るリスクがあがっていると言えます。

 直近では、日清食品がプロモーションアニメで、大坂なおみ選手の肌を「ホワイトウォッシュ」したと批判され、謝罪するという騒動もありました。

 人種差別問題については、このように笑いの対象にしていない場合でも問題になるケースがあるわけで、今後、企業の面白広告において人種の違いを笑いの要素に使う行為は、リスクが大きすぎるのは間違いありません。

 
 いずれの騒動も、インターネット以前であれば別の国のCMやプロモーション動画を、他の国の国民が見る機会はほとんどなかったわけで、騒動になる確率も低かったでしょう。
 そういう意味で、ついつい私たちは内輪の会話では自分達と違う存在を、知ってか知らずか「笑いもの」にしがち。

 ただ、もはや明らかにそういう時代ではありません。

 ホルンバッハの失敗から、私たちには学べることがいろいろあるはずです。

この記事は2019年4月3日にYahooニュース個人に寄稿した記事の全文転載です。

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