見出し画像

ソーシャル・チェーン 鎖を解きはなて  オレらの親分6

 世の中をすねて入ってきたこの業界なのに、なぜか世間サマのことがすっきり見えてくるから、おかしなもんだった。学校時代はまるっきし勉強しなかったのに、ましてやニュースなんてまともに見ていなかったもんや。それがどや、毎日見てるから、おかしなもんや。といっても、ネット中心やけどな。

 そういいながら、鉄は、先日の友人の話を思い出していた。
 不良時代の仲間で、いまは更正してある工場で働いていた。ところが最近、サラリーとか職場待遇で会社側ともめていて、いつのまにか持ち前の男気とリーダーシップで、友人が先頭にたって反対運動をやっていたらしい。
 
 業を煮やしたのか、突然そこの工場長が一計を案じてやってきて、友人にこういったそうだ。
 君に、この現場の責任者になってもらいたいんだけど、どうだろうか。ぜひ君にやってもらいたい、と工場長が懇願したという。友人はえっ、と一瞬思って、そうかオレは上からこんなふうに見られているのか、思うと友人は恐縮したそうだ。

 それでどうしたの、と鉄が聞いたら、もちろん引き受けたさ。君を見込んでとか、君しかここをまとめる者がいないというんだもの、しようがないよといって、いままでの反対運動がウソのようにおさまったという。
 もちろん友人のおかげでなったらしい。後で聞いたことだが、責任者になったといっても形だけで、地位が上がったとかサラリーが上がったわけではなかった。

 ここでふと、いくら鉄でも知っている、『荘子』のなかの「朝三暮四」の話を思い出した。サルまわしの親方がサルたちにトチの実を、朝三つ、暮れに四つといったら、サルたちが怒ったので、朝四つに暮れ三つといったらよろこんだという有名な話。
 友人の話を聞きながら、思い出していた。実態は変わらないのに、いい方で変わって見えるということをいいたいみたい。でもそれよりも、いい方次第で、人を手なずけられるんだなとも思った。

 そして最近、ちらっとテレビを見てもなぜか芸人がニュースのキャスターをやっているのが不思議だった。大衆に硬くなくて、親しみを持つからだろう。
 寄席のイロモンからトーク番組のキャスターへ、そのトーク番組のヒナダンから旦那さんがいない朝昼のニュース番組のキャスターへ。
 芸人服から首をしめたようなネクタイのスーツに代わり、世の中のスネ者から髪七三分けの常識人に代わり、芸人息子の両親が喜んで、一般受けするような美しい言葉が飛び交って、社会的地位もギャラも上がって ┅
 芸は下がっていくのに、なぜか上がっていった。芸を磨かないで、空気を読んで処世術ばかり磨いていった。だから芸がないのでスキャンダルがあったら、一発でオジャン、ひかえている代わりの太鼓持ちはイッパイいてます。ご主人様のテレビ局に少しでも逆らったら、なおさらオジャンな、そんな世界に住みついてしまった。

           
           ○


 ほんと覚めた👁(目)で、テレビを見るとよく世の中がわかってくるなと鉄は思うのだった。しばらくテレビを見ないで離れていたから、なおさら思った。
 じっさい、コメントしている評論家やジャーナリストと称する連中もそうだった。毎日、事件とか災害がどこかであってるし、会社経営や政治がらみ、原子力問題とかもある。
 
 だから利権に絡んで、非難されるからかどうだかわからないけど、その道に関係ある奴らが、テレビ、ラジオ、雑誌などにひんぱん出ている評論家やジャーナリストをピックアップして、なんとか委員会の審議委員とか大学客員教授に、なぜかつけなさっている。
 ピックアップされる方も気持ちをくすぐられるのか、利害関係があるのか、顔はクールでも喜んで肩書きを拝借なさっておられるというわけ。何のためか、最初からわかっている。口を黙らせるってわけさ。これをある意味で、ワイロともいう人がいます。まったく、さっきの工場長と友人の話と同じじゃないか。

 また逆に、会社組織等にハクをつけるために、たとえば横綱審議委員会とかプロ野球コミッショナーに、上級国民のOBをつけるなどしてる。
 これなんか、まだ大相撲やプロ野球の組織している連中は、じぶんたちの社会的地位に自信がないんだな。スポーツは政治家や経済人がいないと成り立たないから、身体が資本で知的コンプレックスもあるし、上に逆らわないで目の前のことを一生懸命やっていればお金が入ってくるし、人気も出てアイドルともつきあえる。  
 
 それにスポーツ選手のボクたちにはスポーツをやることでしか恩がえしできません、スポーツをやることだけが人々に勇気を与えますなんて、政治家や経営者が聞いたら泣いて喜ぶような、誰も異議を唱えさせない決まり文句があるから大丈夫ってわけさ。
 どこかでじぶん自身の弱さをごまかし、みずから鎖をつけてなぐさめているのだった。

 オレたちの業界も、警察の上級幹部OBを名誉総裁にして、社会的地位をあげなきゃいけない日が来るかもしれない。まんざら、一度出来あがっていったら、なしくずし的になっていくかもな。そうなったら、悪さができなくなって廃業になってしまうこともある。意味わかんない。そうして鉄は賢いことをいいながらも、どこか間が抜けていた。



























 






 





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?