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美しい森を育む〜「森林管理基本方針」策定

東京チェンソーズは2006年の創業以来、山の仕事(いわゆる林業)を軸に事業を進めてきました。
当初は東京都などの公共事業が中心でしたが、現在は2014年に購入した森林での施業や、民間の法人・個人が所有する森林での施業も増加してきています。

民間の仕事においてはどんな森をつくるのか、東京チェンソーズが計画を立て提案し、施業することになります。

その計画立案の元になるものを今回改めて整理、明文化し、「森林管理基本方針」として策定しました。


目指すのは、「環境林」と「経済林」の両立

「補助金のみに頼らない林業」の実現

まずは、東京チェンソーズの森づくりにおける大前提をお伝えします。

東京チェンソーズが目指すのは補助金のみに頼らない、自立した産業としての林業の実現です。

「林業は補助金漬け」という言葉を聞いたことがある方も多いと思いますが、そう言われるのも無理はなく、植え付けや下草刈り、間伐といった作業にかかる経費の実に7〜8割が補助金で賄われています。

林業は人件費の上昇や木材価格の下落などの理由から就業者が減少。
その影響から、戦後の拡大造林期(1950年代〜60年代)に全国で大規模に植林した森林も、その後放置されることが増えました。
放置された森林では公益的機能(水源涵養や土砂流出防止、生物多様性、地球温暖化防止、保健・レクリエーション機能など)が低下するという問題が発生し、それが土砂災害等の原因になるとも指摘されています。

その対応策として導入されたのが、林業の各種作業に付く補助金です。

しかし、補助金は海外の動向や政府の方針で増減するものなので、一民間企業としてそこに頼り切ることはできません。
かつて代表の青木は、補助金に依存することについてこう話していました。

補助金頼りというのは健全ではないと感じていました。
けっきょく補助金がなくなったら、そこまでなんです。自分が森林を何とかしたいと思ったとしても、自分の力では何もできなくなってしまう。補助金がなくなったら、どんなに足掻いても何もできないんです。こういう状況は健全ではないと思いました。
補助金はあくまでも事業を補助してくれるお金です。
文字通り補助として利用できるものは利用しますが、それだけに頼らない、産業として自立した林業を実現したいと思っています。

環境林と経済林の両立を目指す

補助金のみに頼らない林業を実現するために、東京チェンソーズが本業の森林管理を通じて目指すのが「環境林」と「経済林」の両立です。

「森林管理基本方針」を作成した林業事業部マネージャー・飯塚

今回の方針作成の中心を担った林業事業部マネージャーの飯塚達郎は、「環境に配慮した作業をすることで、地力(ちりょく)を保つことができ、それが経済的にも良い効果がある」と話します。

地力とは植物を生育させる、大地(土壌)の総合的な力のことで、農業分野では「土壌肥沃度」と言われることもあります。

環境に配慮した適切な作業が施された森林は、落ち葉や下草が一面に広がり、多彩な動植物が生育できる、地力に満ちた豊かな森林となります。
こうした森では樹木も健全に育つので、木材生産の場としての機能を発揮するのに加え、森林浴などで人が集う場としても機能します。

一見、相反するように見える環境と経済ですが、実は環境に配慮して作業することは、環境にのみ寄与するのではなく、経済林を作ることとイコールなのです。

地力(ちりょく)を保つ森は下草が一面に広がる

森をゾーニングして管理

環境林と経済林の両立を目指す「森林管理基本方針」は、以下3点に留意して策定しました。

  • (かつての労働集約型施業を闇雲に継続するのではなく、)林業就労人口が減っている現状に合わせた省力化(より少ない労力で最大限の効果を発揮)

  • 森林の公益的機能の持続化

  • 収穫時(50年先!)のリスク分散を見据え、樹種や樹齢がより複雑(多様)な森林を目指す

さらに、森林を斜面の傾斜や道路・民家との距離などの条件に応じて6つのパターンに分け(6つのゾーニング)、多様な森林への誘導を基本の考えとしています。

分かりやすく言うと、樹種や樹齢が同一なモノカルチャー的な森林から樹種や樹齢もさまざまなダイバーシティ的な森林への誘導を基本とする、ということです。

ここではその中から3つの例を挙げます。

1.木材生産と公益的機能の回復を目的とした複相林
(スギ・ヒノキの人工林も広葉樹も育つ森林へ誘導)

将来に残す木を選定し(○印)、そのライバル木(×印)を間伐し収穫する
間伐の効果で将来木(○印)の周りが明るくなり、下層植生が豊かに。将来木の周りの木が成長し、新たにライバル木(×印)になったら間伐して収穫する
将来木(×印)の周りの間伐を繰り返すことで下層植生が成長し階層がより複雑化
将来木が十分大きくなったら収穫。林床に生えていた高木種(○印)が大きくなり次期将来木候補となる

多摩地域の森林は多くが戦後の拡大造林期に植えられた、樹齢がほぼ同一のスギ・ヒノキの人工林です(樹齢60年〜70年)。
こうした森林では木材生産を行なうとともに、公益的機能を確保するため、さまざまな樹種・樹齢により階層が複雑化した森林をつくってゆきます。

対象となるのは比較的傾斜が緩やかで(平均斜度が35度以下)、木材を搬出するための森林作業道を作ることが可能な森林です。

まず初めに木の状況などから経済的に有望と見込んだ木を「将来木」と設定。その周りの木を間伐します。
間伐後生えてきた下層植生は特に利用可能な高木種(イタヤカエデ、ヤマザクラ、ケヤキなど)を残し、その後人手をかけて植え付けしなくても更新できるようにします。

こうした森は何代にもわたり伐採・搬出を繰り返すことが可能な経済林でありながら、同時に樹種も樹齢もさまざまな環境林ともなります。

2.木材生産を主目的とし、公益的機能に配慮した森林
(スギ・ヒノキの人工林を維持し、更新する)

環境に負荷をかけすぎない面積でスギ・ヒノキを伐採(×印)
伐採跡地に再びスギ・ヒノキを植栽
植栽木が育ったところで隣接するエリアを伐採・搬出、その後再び植栽する

傾斜が急で森林作業道が作設できず、上記1の方法が取れない森林では、木材生産を主な目的に、現状のスギ・ヒノキを中心とする人工林を維持します。

伐採は公益的機能を失わない程度の面積(隣接する森林の木の樹高の2倍程度まで)で実施。
隣接するエリアでの作業は、植栽木が十分育つまで(10年くらい)間隔を空けて実施します。
跡地に再びスギ・ヒノキを植栽することで、将来の木材需要にも応えられる経済林であるとともに、放置林化を防ぎます。

3.公益的機能を主とし、木材生産も行なう広葉樹林

優先する樹種を中心に伐採し、樹種の多様化を図る
天然更新して管理
更新した樹種が十分育ったら、隣接するエリアを伐採、更新を図る

普段の生活で薪が使われなくなって以来、広葉樹林は高齢で樹種に偏りが見られる森林になり、ナラ枯れなどの病害を受けやすい状況となっています。
木材利用が可能な場合は優先する樹種を中心に伐採を行ない、天然更新させ、森林の若返りを図ります。
その際、できるだけ樹種の偏りがないよう配慮し、将来的に階層が複雑化することを目指し、また、周辺住民が散策などで自然と親しむ場としても利用できるよう考慮します。


以上、3つのパターンについて説明しました。

しかし、中には傾斜が急すぎて木材の搬出路(森林作業道)が確保しにくいことなどから、木材生産が困難だったり、地域の日照権の問題から一定エリアを伐採する必要がある森林も存在します。

そうした森林では前述の3つの点をふまえた上で、地域あるいは山主(施主)さんからの要望がある場合は対話をしながら、その森に合った最大公約数となる方法を選んでゆくことになります。

6パターンの基本方針(※あくまでも基本です)

東京チェンソーズは企業理念で「地球の幸せ」のために、「美しい森林を育み、活かし、届けます」と掲げています。

東京の木の下で
地球の幸せのために
山のいまを伝え
美しい森林を育み、活かし、届けます

東京チェンソーズ企業理念

「美しい森林」という言葉には人それぞれイメージがあると思いますが、私たちが考える「美しい森林」とは、環境と経済が両立する森林のことです。

環境と経済が両立する森林は、森を手入れする人やその森を訪れる人、その森から出る木材を利用する人など、さまざまな人の関わりが必要です。

森の作り手として、私たちがやるべきことは、森を良く観察し、自然と調和した施業を実践してゆくこと。
そうして経済と環境の2つの観点からずっと続く「美しい森林」を育むことで、その地域や人の幸せの一助となれたらと思っています。

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