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カリグラファー / レタリングアーティスト 本秀也 -TDP生のストーリーマガジン【com-plex】 Vol.6-

デザインだけではない、これまでの経験が活きていく。東京デザインプレックス研究所の修了生を追ったストーリーマガジン「com-plex」。

今回ご紹介するのは、カリグラファーやレタリングアーティスト・デザイナーとして活躍する本秀也(もとひでや)さんです。本さんはSNSでカリグラフィーの動画を見たことがきっかけで、カリグラフィーの作品制作を開始。現在ではPR用の文字デザインやイベントでのペイントサービス、レッスンなどを手掛けています。今回は、本さんにカリグラファーという職業やスキルの磨き方、今後の展望などについて、お話を伺いました。



カリグラファーという職業

カリグラファー / レタリングアーティスト・デザイナー 本 秀也(もと ひでや)さん

――まずは、「カリグラファー」という職業について教えてください。

カリグラファーとは、文字をデザインする「カリグラフィー」を職業とする人のことを指します。仕事内容はさまざまですが、私の場合は主に企業のロゴ制作やカリグラフィーのサービスイベント、一般の方に向けたレッスンなどを行っています。

カリグラフィーのサービスイベントに関しては、最近、ラグジュアリーブランドで開催された新作コレクションPRのイベントがありました。そこではノベルティのボトルに付いたレザーストラップに、文字を刻印させていただきました。お客様に好きな文字や言葉を指定してもらい、その文字をタブレットに書き、レーザー彫刻機で彫っていくという流れです。フォントを4種類から選べるようにしたことで、お客様好みのデザインに仕上げることができ、とても喜んでくださいました。

――カリグラフィーはいつ頃から始めましたか?

2015年の年末ですね。当時、Instagramに日本語の筆文字を投稿していました。小学生の頃6年間、習字教室に通っていたため、筆文字(書道)を書くことは好きで、趣味として投稿していたような感じです。ただ、同じようにSNSに筆文字の作品を投稿している方も多く、特に長年の経験がある書家さんたちには勝てないなと思うようになりました。

そんな中、SNSでカリグラフィー動画の投稿を見つけ、和文とは違う欧文のかっこよさと美しさに魅了されました。日本ではまだまだカリグラフィーが今ほど認知されていなかったこともあり、「これができたらおもしろいかも」と思いました。それからはカリグラフィー作品をネットや書籍で見ることに没頭するようになり、見よう見まねでアルファベットを書くなどして、独学で勉強をスタートしました。


文字は自由に表現できる

――企業への営業活動はどのように行っていますか?

作品や企業とのコラボレーションをInstagramに投稿することが仕事につながっています。また、Instagramを通じて、グループ展などに参加させていただき、メーカーさんや広告代理店さんなどに私を見つけていただいたりしました。

――これまでに印象的な仕事はありましたか?

ファッションブランドのイベントでのカリグラフィーサービスです。ホリデーシーズンのフレーズやお客様の好きな言葉、名前などをカードに書かせていただきました。私が文字を書いていると、お客様も興味を持って見てくださいます。そして、完成したカードを差し上げると喜んでくださり、それがとても嬉しかったですね。やっぱり、お客様の目の前で制作することは特別だと感じました。

その他には、壁面に文字を描く仕事も印象的でした。デザインした文字をプロジェクターで壁に投射して、鉛筆でアウトラインを取り、それからペンキ等で塗る。描く媒体によって、作業工程が全く異なります。手元に収まるサイズの紙とは違い、壁面に描く時は体全体を使う必要があります。

――媒体ごとのスキルはどのように身につけてきましたか?

何度も書いて、書く物(ペンや筆等)、書かれるもの(紙や板等)、それぞれの特徴を研究しました。以前、チョークで書くお仕事を頂いたことがあります。普段から使っているペンとは異なり、チョークには濃淡が出ますし、削れやすく先の形が変わりやすいです。そこは難しい点ですが、おもしろさでもあります。チョークで書くことに慣れていないうちは、何度も書きながらチョークの特徴を身体に覚えさせていきました。媒体ごとのスキルは、そうした経験の積み重ねで身についてきてると思います。

――カリグラフィーのスキルを磨くために心掛けていることは何ですか?

まずは多くのカリグラファーの作品を見ることですね。InstagramやYouTubeなど、世の中に出ている作品をインプットしていく。これは制作のモチベーションにもなります。そして、好きな文字を真似して何度も書き、その法則やカリグラファーのクセを見つけ、「この部分はもっとハネたほうがいいかな」「この辺はもう少し太く」など、自分が心地よい形に変化させていくんです。このインプットとアウトプットの繰り返しが、スキルを磨くためには欠かせないことだと思います。


仕事を続けながら制作する日々

――TDPに入学したきっかけを教えてください。

インターネットでグラフィックデザインの学校を探して、社会人でも通える夜間のコースがあるTDPに入学することを決めました。

幼い頃からものづくりやアートが好きで、漠然とデザイナーになりたいなという想いはありました。ただ、美術大学に通うということはなく、高校卒業後は1年間ほど、カナダのモントリオールに留学して、帰国後は英語専攻の大学に通いました。今考えると、当時、毎日のように触れていたアルファベットが、今の仕事につながっているかもしれません。

大学卒業後は英語を活かすため、長崎のホテルで働き始めました。しかし、広告業界に携わりたいと思い、東京の広告代理店に転職しました。その会社では企画や制作ディレクションなどに携わっていましたが、自分で作品を作りたいという思いが強くなり、グラフィックデザインを一から学ぶ環境に身を置くため、仕事を続けながらデザインを学ぶことができるTDPに入学しました。

――TDPの授業ではどんなことをしましたか?

TDPの授業は実践が中心で、さまざまな作品を制作する機会が多かったです。特に作品発表の場がとても大切な時間でしたね。クラスメイトの作品についての感想を伝えることはもちろん、自分の作品に対してもみんなに意見を言ってもらう。これは自分ひとりではできないことなので、主観にとらわれずデザイン力を高められる時間だったと思います。

その中でも印象に残っているのは、実際にある飲食店のメニュー表を新しくする、リブランディングの作品制作です。自分でお店を探し、おこがましくもメニュー表のリニューアルを交渉しました。メニュー表のほかにもポスターを手掛け、手書きの文字も使用しました。

――TDP修了後は、どのような活動をしていましたか?

2016年に会社を辞め、フリーランスとして独立しました。当時はまだカリグラフィーの仕事はなく、ハウススタジオの運営スタッフ兼グラフィックデザイナーとして働いていました。備品や予約の管理、お客様の案内などの業務の傍ら、ドアや備品にペイントしたり、グラフィックを制作したりと、グラフィックデザインのスキルを使う機会が多くありました。

その後は、TDPで知り合った友人から雑誌のタイトル文字やロゴデザインを依頼されるなど、少しずつカリグラフィーの仕事を頂けるようになりました。

――TDPでの学びが今に活きていると感じますか?

もちろん活かされています。カリグラフィーは手書きしますが、レッスン用のワークシートや提案用の資料作成、画像制作などIllustratorとPhotoshopをよく使用しています。TDP入学までほとんど使用できていなかったですし、グラフィックデザインの基礎等、講義で課題をこなしながら身につけたスキルや学習方法はずっと活きています。


カリグラファーの認知度を上げたい

――ご自身が考えるカリグラフィーの魅力を教えてください。

ビジネスでもプライベートでも活用できるのが魅力です。ビジネスではプロダクトやサービス、ブランドやCI(コーポレート・アイデンティティ)まで色んなアプローチができます。プライベートでも誰かの名前やメッセージを書いたり、自分自身の持ち物をカスタマイズしてみたり、世界に1つだけの物をつくることを楽しんでいます。

――今後の展望を聞かせてください。

様々な業界の企業とコラボしていきたいです。アナログ・デジタル、大きさ、書体を問わずに書けるのが自分の強みなので、色んな媒体で魅せるカリグラフィーをより多く提供できるようになりたいです。また、対面型のイベントを増やしていきたいですね。カリグラフィーは日本ではまだ定着していないのですが、イベントで書いていると、多くの方々が興味を持ってくださいます。そうした機会を増やし、カリグラフィーの認知度を上げていきたいです。

――最後にTDPへの入学を検討している方にコメントをお願いします。

長い間デザイン学習の始め方に悩んでいたり、ライフスタイルを変えたいと感じていたら、実行してみたらいかがでしょうか?デザインを学びたいけど、その一歩が踏み出せない方もいると思います。独学という方法もありますが、モチベーションを保つことは難しいかもしれません。その場合は、学校という環境を活用してみてください。クラスメイトや講師との交流が必ず刺激になるはずです。修了後の仕事につながる可能性もあります。そうしたリアルな場を活用して、自分の環境を変えていく。それがデザインを学ぶ新たな一歩になると思います。

――本さん、本日はありがとうございました。



今回のインタビューでは、カリグラファーという職業やスキルの磨き方、今後の展望などについて、本さんに伺いました。

カリグラファーとして、企業イベントからレッスンまで、さまざまな活動に取り組む本さん。少しでも多くの方に文字の魅力を〈伝える〉という姿勢は、人々を喜ばせている数々の作品やパフォーマンスの中に表れているようです。今後の本さんの活躍に期待したいですね。

次回も、今まさに現場で活躍しているTDP修了生にお話を伺っていきたいと思います。

◇本秀也さん
 Instagram:https://www.instagram.com/moto.lettering/
 ポートフォリオサイト:https://hideyamoto.myportfolio.com/

[取材・文]岡部悟志(TDP修了生)、土屋真子
[写真]前田智広