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大学研究者が事業を提案する仕組み=大学提案!事業化された方へインタビューしました。

こんにちは!「大学の基礎研究を、社会実装につなげる架け橋」大学提案担当です。

大学提案のインタビュー企画、第3回をお送りします。
ご登場いただくのは、東京医科歯科大学笹野 哲郎(ささの てつお)教授です。


先制医療で寝たきりを減らす

笹野教授からは、「寝たきりを20%減らすAI心房細動検診」事業をご提案いただきました。
日本の寝たきりの約20%は心原性脳梗塞が原因ともいわれています。その多くは“心房細動”によって生じていますが、心房細動を早期に診断することは難しく、脳梗塞の発症後に心房細動の診断に至ることも多い状況です。
そこで、これまでの研究をもとに、AI心電図と遺伝子解析により、有病予測を行い、早期の診断に繋げることで脳梗塞や寝たきりを防ぐという事業です。

*心房細動
 不整脈の中で、もっとも患者数が多い病気の一つ。心房が十分な収縮をせず、けいれんするように細かく震えることで脈が不規則になり、動悸、息切れあるいは倦怠感などの症状があるが、無症状のことも多い。

<都民から投票を募った時の資料>

医師でもあり、かつ研究者でもある笹野教授。ご自身の研究内容や思い、今後の展望…などなど、たくさんのお話をお伺いしました!

治療法は確立しているのに、診断が難しい “心房細動”

―事業を発案するに至った経緯を教えてください。

笹野 教授:私は心房細動の研究をしてきたんですが、この病気は「早く見つける」ことが難しい病気なんです。
診断には、発作中の心電図記録が必要なのですが、発作の頻度が低い初期は、受診時に発作があるとは限らないので、診断が困難でした。

ただ、薬や処置などの治療手段は確立しているので、診断がつけば多くの方を治せます。そのため、脳梗塞などの合併症を起こす前に、いかに早期に診断できるかが重要です。AI心電図などの技術開発によって、早期に診断ができる環境が整ってきました。

心房細動の患者数は国内で約100万人と言われますが、診断に至っていない潜在患者も、さらに約100万人以上いると推定されています
多くの人に心房細動について知ってもらい、早期の診断につなげる、そんなパイロット事業を構築したいなと考えました。

がん検診だけじゃない!心房細動も早期診断が大切

―心房細動は怖い病気なのでしょうか?

笹野 教授: 心房細動には心不全や認知症など数多くの全身性合併症がありますが、もっとも重篤なものとして脳梗塞、とりわけ心原性脳梗塞が挙げられます。他のタイプの脳梗塞に比して重篤となる場合が多く、5年生存率は約40%とも言われており、これは多くのがんよりも悪い数字といえます。

また、生存できても、寝たきりや重度の麻痺が残る場合も多く、社会復帰できる人は20%を下回るとされているんです。
私も医師として、そうした患者さんを見てきましたので、がん検診と同じくらいに、みなさんに心房細動の早期診断の必要性を知ってもらいたいと思います。

<ホルター心電図を紹介してもらいました>

大学提案制度は、研究と社会実装をつなぐ架け橋

―なぜ今回、東京都の大学提案へ応募されたのでしょうか?

笹野 教授:ビジネスモデルの確立に向けた研究助成などに比べ、社会課題の解決や社会実装をターゲットにした制度は、多くないように感じています。より広いフィールドで予防的医療の取組を進めていくためには、自治体との連携が不可欠だと感じており、大学提案はまさに渡りに船でした。

<都知事から感謝状を贈呈される様子(令和6年2月)>

ブレイクタイム☕

―モットー、常に心掛けていることはありますか?

笹野 教授:私は、医師でもあり、また研究者でもあります。
「研究成果を少しでも社会に還元したい」
そんな思いを胸に、日々、臨床や研究に励んでいます。

<とてもきれいな研究室でお話を伺いました>

行動変容で予防的治療が当たり前の社会に

―将来的な展望を教えてください。

笹野 教授:心房細動は加齢とともに発症頻度が増加する病気です。高齢社会を迎えたわが国では、今後、患者数が増大し、注目を集めていくことになると考えています。そのような中、入院などの大がかりな検査をせずとも、小型心電計や遺伝子解析などで、簡単に有病予測や疾患のリスク評価ができれば、すごいことです。さらに進んで、医療過疎地でも、自分の病気のリスクを確認できる、そんな社会に向け、パイロット事業を成功させるとともに、行動変容を起こしていきたいと考えています。

―この事業により、その展望に向かって着実に歩みを進めることが期待できます。ありがとうございました!
 笹野教授の今後のご活躍をお祈りしています!

都では、今年度も「大学研究者による事業提案制度」を実施中です。
事前相談は5/8まで、提案応募は5/31まで受付中です。
詳細は以下のページをご覧ください。ご応募お待ちしています!