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村山上貯水池堤体強化工事 ~ICT活用工事~

※本稿は、令和2年9月、都庁内に配信したブログ内容です。

☆村山上貯水池堤体強化工事 ~ICT活用工事~ について紹介します。

(1)村山・山口貯水池の概要
 村山・山口貯水池は、東京都と埼玉県にまたがる狭山丘陵に位置するアースダムです。この貯水池は、村山上貯水池、村山下貯水池及び山口貯水池の3貯水池があり、合計貯水容量は3,435万㎥で、都民が一日に使用する水の8日相当分を蓄えることができます。
 貯水池は、通称「多摩湖」、「狭山湖」と呼ばれており、湖の外周は、緑豊かな公園として開放され、都民などの憩いの場となっています。堰堤からは、奥多摩の山並みが一望でき、春の桜、秋の紅葉、バードウォッチングなど、四季を通じて豊かな自然を楽しむことができます。村山貯水池の第一取水塔は、重厚なデザインのドーム屋根、アーチ窓でアクセントをつけたタイル張りの外壁が特徴で「都選定歴史的建造物」に選定されており、貯水池のシンボルとして親しまれています。

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(2)貯水池の歴史
 東京水道の最初の水道拡張事業において、これまでの給水能力を倍増することを目的に、多摩川を水源とした貯水池を築造し、流量が豊富な時に貯水して、渇水時に放流する流量調整貯水によって得た水量を利用する計画を立てました。計画段階では、大久野貯水池(現在の「日の出町」)と村山貯水池の2案を挙げていましたが、検討の結果、平野部で工事が容易であることや、貯水池としての地盤も良好であること、工期が短く早期完成が見込めることから、村山貯水池案が採択されました。村山貯水池・山口貯水池、そこを水源とした境浄水場、浄水した水道水を貯留する和田堀給水場(現在和田堀給水所)を一体として整備する拡張工事を行うこととなり、大正2年に着工しました。当時の機械施工は限られたものであり、つるはし、シャベル、タコ、もっこが活躍し、土堰堤心壁は粘土を綿密に突き固めて、その前後に勾配のゆるやかな堤体を盛土しました。しかし、大正3(1914)年、欧州で勃発した第一次世界大戦及び大正12(1923)年の関東大震災の発生という予期できない事態に遭遇し、材料、労働力の確保が困難になるなど、多くの壁にぶつかりながらも、着工から24年間の歳月経て、大正13年にようやく完成しました。

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(3)貯水池堤体の強化
 平成7(1995)年に発生した阪神・淡路大震災(兵庫県南部地震)では、高層ビルや高速道路、橋梁等の倒壊や破損は、わが国の防災、建築、土木をはじめ、各方面で未曽有の被害となりました。水道施設においても、浄水場や給水所の池状構造物の亀裂破損や柱の座屈、管路の破損などで甚大な被害が生じました。なかでも、西宮市にあるニテコ貯水池のアースダム形式の堰堤は、中堰堤が崩壊しましたが、幸い、渇水期で貯水量が少なかったことから被害には至りませんでした。しかし、同様のダム形式の村山・山口貯水池を管理する当局にとっては、対岸の火事では済まされない事態でした。このような状況を受け、各堤体の耐震解析を行い、必要な補強を行うこととなりました。
 耐震解析を行った結果、堤体の安定性に問題はないものの、堤頂部に沈下が生じ、堤体に損傷を受ける可能性があることが判明しました。3つの貯水池のうち、大きな被害が生じると予想される貯水池から堤体の耐震補強を進めることとし、山口貯水池については平成9(1997)年度から14(2002)年度、村山下貯水池は平成14(2002)年度から20(2008)年度にかけて工事を施工しました。現在は、村山上貯水池の堤体の強化工事を行っています。

(4)村山上貯水池の堤体強化工事
 村山上貯水池の堤体強化工事は、堤体の一部を撤去し、既存の堤体に強化した盛土を施工する抑え盛土工法を採用しています。掘削土量は約12万㎥、盛土量は約20万㎥、掘削と盛土の総量は、小学校のプール760杯相当となります。昨年度までに仮締切工事を完了し、その後、歩道の切り回しや植樹の伐採等を行っており、10月より既存堤体の掘削を開始します。

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 本工事では、事故防止や生産性の向上を期待して、ICT技術を活用・導入することとしています。ICT技術は、3D測量及び3Dデータを用いた設計や、今後施工するICT建機による盛土施工や敷き均し工、施工管理や品質管理、完成図の作成で利用します。なお、本掘削に先立ち、今年2年6月よりドローンによる測量用撮影を実施しました。

<ICT機器活用の用途及び目的>
〇測  量…レーザースキャナ等による3次元測量
 →ICT建機による掘削、盛立の施工管理に活用、土量算出に活用
〇施工機械…ICT重機(バックホウ、ブルドーザ、振動ローラ)
 →モニター画面に施工状況を表示(マシンガイダンス)
〇施工管理…UAV(ドローン)による写真測量、RTK-GNSS(衛星測位システム)測量機器による3次元測量
 →出来形管理の省力化

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(5)今後の展開
 人口減少社会においても、適切にインフラを維持・更新しながら、都民へ安全でおいしい水を提供していくためには、ポストコロナにおける働き方改革を進め、都におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進していくことが重要です。
 今回の村山上堤体強化工事へのICT技術の活用は、水道局にとって、最初のICT活用工事となります。本工事から得た知見を蓄積し、工事部門のみならず、維持管理部門におけるICT技術の活用も推進し、DXを加速させていきます。