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東京都下水道局ドローンを活用した汚泥焼却炉の点検

◇汚泥焼却炉の役割

 下水道局は、日々の暮らしや経済活動によって発生する汚水(1日あたり約581万m3:令和3年実績)を、水再生センターで浄化し、川や海に戻すことで、快適な生活環境と都市の水循環を支えています。
 汚水の中に含まれる固形物などを汚泥といいますが、汚泥は、図①のように濃縮・脱水により水分が絞られ、脱水汚泥となります。脱水汚泥は、汚泥焼却炉(以下、焼却炉)内で空気と混合し、焼却されて焼却灰となります。焼却灰はコンクリートの材料などに資源化しています。
 焼却炉は、このように汚泥を処理するためになくてはならない重要な役割を担っています。

◇焼却炉の構造

 焼却炉の大きさは色々ありますが、東京都の区部で使用される主なものは、1日あたり300tの脱水汚泥を処理する能力があり、内径7m程度・高さ20m程度の円筒形状(イメージ図参照)となっています。汚泥が空気とよく混ざるように、焼却炉の内部はドーム状の空間となっています。
 この空間を支えるため、外側は鋼材で作られていますが、焼却炉の内部は耐火レンガ等の耐火材を貼り付け、燃焼温度の850℃以上に耐えられるような構造となっています。

汚泥焼却設備(写真)と焼却炉(イメージ図)

◇焼却炉の点検

 焼却炉は、鋼材と耐火材の熱膨張率が違うため、長年使用しているうちに、剥離やひび割れが発生します。
 この劣化(ひび割れ)が一定以上になると、焼却炉内の熱が、ひび割れから外側の鋼材まで伝わり、破損してしまいます。そこで、定期的に焼却を停止し、炉内に点検員が入り、剥離やひび割れの幅をノギス等で測る点検を行います。点検の結果から、必要に応じて、剥離やひび割れの発生した箇所に耐火材を詰める補修を行っています。

ひび割れ箇所
耐火材を詰めたひび割れ箇所

◇通常の点検方法

 炉内には細かい焼却灰が浮遊しているので、点検員は防護服等の安全対策を施した上で焼却炉内部へ入ります。そして、耐火材の剥離の状態や10㎜以上のひび割れを図面に記録しています。そのため、記録に時間を要し、また、炉底部から見上げるので、高所のひび割れの幅は測定が難しい状態でした。

点検員の安全対策
通常の点検方法


手書き点検報告書

◇ドローンを活用した点検方法

 今回試行したドローンを使った点検は、20㎝四方程度の小型ドローンに搭載したカメラからリアルタイムに伝送される炉内映像を見ながら、ドローンを炉の外から操縦する方法(FPV飛行:First Person View)で行いました。

ドローン機体
炉外からドローンを操作

【ドローン機体の詳細】
・点検口から入孔可能な小型(外寸:191×179×54mm)
・焼却炉外部~内部を無線伝送する延長アンテナ(トランスポンダー機器)
・設備を傷つけないプロペラ防護枠付き
・機体回収用コード装着可能
・機載カメラ Full HD 1920×1080pix 30fps
・動作可能温度 -5℃~60℃
・対粉塵性能(可動部のシール等)

ドローンを活用した点検方法

 機載カメラで撮影されたFull HD動画を、フォトグラメトリ技術※により立体化することで、剥離やひび割れの位置や幅を測る(解析ソフト使用)ことができます。
 また、焼却炉の上部もドローンが接近して撮影できるため、これまで見づらかった高所のひび割れも鮮明に捉えることができるようになりました。

焼却炉の立体モデル
立体モデルからひび割れを計測

 この点検技術の導入により、点検員が防護服等の安全対策することなく、炉外から安全にドローンを操縦し、確実に早く点検することが可能となりました。 
※フォトグラメトリ技術とは、被写体をさまざまなアングルから撮影し、その複数のデジタル画像を解析・統合して立体的な3Dモデルを作成する手法です。