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児童相談所の整備について~足立児童相談所改築工事~              

 児童相談所(以下、児相)は、児童福祉法に基づき、18歳未満の子供に関するあらゆる相談を受け付け、面接・家庭訪問・診断等を行い、子供に適切かつ必要な援助を行う施設です。東京都には、都立児童相談所が10か所あり、足立児童相談所は足立区を担当しています。平成28年の児童福祉法改正により、特別区も児相を設置できるようになったことから、今までに世田谷区をはじめ8区が児相を開設しています。
 足立児相は、旧台東児相所管の足立区と葛飾区を分離して昭和59年に設置されました。相談受理件数は、都立の児相のうち2番目に多く(R3年度)、また、10年間で相談受理件数が2倍になるなど増加傾向にあります。中でも全体の約半数を占める虐待相談が10年間で5倍強と大幅に増えており、対応する職員の増員をはじめとした体制強化や関係機関との連携強化が求められている状況です。

 こうした背景を踏まえ、児童相談所機能の強化等を図るため、現地での建て替えを行いました。改築にあたっては、以下の3点に配慮して計画しました。

(1)相談者への配慮

 児相には、様々な事情を抱えた方が訪れます。改築設計にあたり、来所された方が落ち着いて安心して過ごせる場となるようエントランス及び待合室の材料の選定を行いました。来所してすぐ目に入る外壁にはレンガタイルを採用し、内部へ導くように待合室まで連続させました。本施設が立地する足立区はかつてレンガが主要産業であったこと、旧足立児相は外壁にレンガタイルを使用していたことから、その地域特性や意匠性を継承しました。レンガは、色合いや割付けをメーカーと調整し、1枚1枚異なる風合いの温かい印象のアクセントウォールとすることができました。また、冷たい印象になりがちなコンクリートは、杉型枠を用いて木目の凹凸をつけることで、温かみを感じられる計画としました。

 入ってすぐの待合室には、調湿機能のある漆喰を壁仕上に、また、多摩産材の不燃木ルーバーを天井仕上に採用するなど、天然素材により相談に訪れた人を温かく迎えられるような環境づくりを目指しました。

 児相で受ける相談の多くがセンシティブな内容であるため、プライバシー保護への配慮が必須です。小さい相談室を複数設け、相談室へ至る廊下を折れ曲がった雁行配置とし意図的に見通しづらい計画とすることで、相談者同士の接触に配慮しました。また、廊下の各所で採光を確保し緑地が視認できる開口部も配置して、心理的不安を少しでも軽減できるよう配慮しました。

 その他、壁や建具は遮音性能のあるものを採用し、窓ガラスにはフロスト調フィルムを貼るなど周囲からの目を気にせず相談できるような諸室計画としました。加えて壁下地に固定しているスイッチボックス等に遮音シートを貼ることや、ダクト・配管の壁貫通部穴埋め処理に遮音シートを使うなど防音性能を高める処置を施しています。

 仕上材の選定にあたっては、設計時だけでなく工事施工時においても児相職員からヒアリングを重ね、現地でサンプルを用いて確認しながら行いました。仕上げの異なる小さな部屋が多くあるため施工時に手間や時間がかかりましたが、施設側と工事側で認識を共有しながら進めることができました。

(2)フレキシビリティ・セキュリティの確保

 児相に寄せられる相談件数は年々増加しており、都における児童福祉司の定員は20年前の3倍強、児童心理司の定員は4倍強に増員し、体制の強化を図ってきました。また、相談件数の増加に加え、相談内容も多様化しています。現在足立児相では、非常勤職員も含めると虐待対応強化専門員、家庭復帰支援員など19の職種の職員が配置されており、子供の事情に合わせた対応を随時行っています。相談、調査、診断等により外出する職員も多く、通報があった場合は夜間も対応するため、在席時間・勤務時間もさまざまです。
 以上のとおり、児相をめぐる状況は時勢にあわせて変化しており、フレキシビリティのある建物計画が求められています。今回の計画では、執務室は間仕切りのない大きな空間として、什器のレイアウトにより多様な使い方が可能な計画とし、会議室は可動間仕切り壁を設け、会議の内容・規模に合わせて使い分けが可能な設えとしました。

 また、更衣室の間仕切り壁は将来の職員男女比率の変化に対応できるよう位置の変更が可能な設計としました。当初は男女の面積比率を1:1としていましたが、現在は女性職員が多いため、施設管理者の要望により女性更衣室が大きくなるよう壁位置を調整して施工しています。
 児相では、相談者の個人情報を保有しているため、厳格な情報管理が求められています。執務室の壁に設けた書棚には施錠可能なシャッターを設けセキュリティを確保しました。そのほか、扉の開閉状態を事務室内で確認できるようにすることで扉の閉め忘れ等による事故を防止しています。

(3)近隣へ配慮した建設計画 

 本計画は、現敷地での建て替えであり、延べ面積は2倍以上、階数も2階から3階建てへボリュームアップしました。周囲は戸建て住宅を中心とした低層の住宅地であるため、近隣への影響に配慮して計画しました。

 小さい敷地で面積を倍増させるためには、敷地目いっぱいに建物を配置する必要がありました。特に東側は道路に沿うように建物の外形を計画したため、建物ボリュームをボックス単位に分散させるとともに、外壁の色や外装材を使い分け白や明るいグレーなど彩度を抑えた色彩とすることで、対面の戸建て住宅へ与える圧迫感を軽減し、周辺の落ち着いた住宅地の景観との調和に配慮しました。
 また、東側道路は、狭隘で歩道がなく見通しもよくありません。足立区公共施設等整備基準により、歩行者の安全確保を鑑み、道路に隣接して視認性の高いインターロッキング舗装による幅員1.5m~2.0mの自主管理歩道を設けました。外構は、季節の移り変わりを感じられるよう様々な種類の植物を配置するとともに、ケヤキの木を残置して旧足立児相の雰囲気を残しつつ西側の公園との連続性を考慮しながら快適で潤いのある環境となるよう計画しました。

(4)おわりに

 数十年前とは子供を取り巻く環境は大きく変化し、近年子供に関する施策が次々に打ち出されるなど、いま社会が子供・子育てに注目しています。児童相談所の工事は子供とその家族を社会でサポートするための最前線の事業であり、児童相談所のあり方も変化し続ける中で、いま求められている機能をはじめ、今後のニーズと時代の変化に対応可能なフレキシビリティも重視することで、単なる老朽化更新にとどまらない設計・工事とすることができました。
 財務局では、都立高校や都立病院など都立施設を所管する各局からの委任を受けて行う工事や財務局で所管する都庁舎の改修工事などを行っています。また、全庁的な技術管理部門として各種基準類などの整備も行っており、今後も、都政の重要課題を踏まえた都立施設の整備に取り組んでいきます。
                        (財務局建築保全部)