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水道局研修・開発センターの紹介

※本稿は、令和3年3月、都庁内に配信したブログ内容です。

国内最大規模の水道研修施設!最新のICT技術を導入!
~水道局研修・開発センターの紹介~


(1)研修・開発センター
 研修・開発センターは、多摩川の水質悪化のため昭和40年代に上水の浄水処理を休止した玉川浄水場の敷地の一部(約1万9,000平方メートル)を活用し、平成17年4月に開設された国内最大規模の水道研修施設です。
 東京都の水道事業は、ダムなどの水源施設をはじめ、浄水場、給水所、約2万7千キロメートル(地球の約3分の2周)に及ぶ配水管網など、膨大かつ多様な施設を有しています。お客さまに、安全でおいしい水を安定的に供給するためには、これらの施設を絶え間なく運転し、常に良好な状態で維持管理し続けていかなければなりません。
 そのためには、原水水質の変化に対応した浄水処理技術や震災・大規模な漏水事故発生時の迅速な対応など、水道独自の業務ノウハウや現場に直結した技術が極めて重要です。
 当センターでは、将来にわたりお客さまに安全でおいしい水を安定的に供給していくため、研修部門と開発部門とが連携し技術の継承と職員の能力向上及び現場のニーズに的確に対応するための研究開発に取り組んでいます。
 また、当センターの建物、施設の目的、機能及びデザインが高く評価され、平成24年10月には、行政施設部門における最も優れた建築物として、第13回公共建築賞(国土交通大臣表彰)を受賞しています。

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(2)研修部門
 水道のノウハウは多岐にわたり、それぞれの技術も一朝一夕には習得できません。一方で、限られた人材の中で円滑に事業を行っていくうえでは、即戦力が求められる状況となっており、早期かつ継続的な人材育成を行う必要があります。そのためには、現場の実態に近い研修環境を整え、体験することを通じて、水道施設への理解を深めていくことが効果的です。百聞は一見に如かず!目で見て触って、ポイントをつかむ、これほどの体験型の研修施設は、国内でも他に類を見ません。
 研修施設には、水をつくる浄水処理、水を運ぶ配水管、ポンプなどの設備機器、地中漏水を疑似的に発生させる施設のほか、機器などの仕組みや構造を理解する実物模型(カットモデル)などがあります。

(ア)浄水処理実習プラント
 実習用に設置された日量200立方メートルの浄水場(プラント)です。
原水は多摩川の河川水で、原水の分析から、凝集剤や消毒剤の投入量の決定、薬品投入、処理結果の評価(濁度、pH、色度、残留塩素濃度、アルカリ度)まで、実際の浄水場の浄水処理と水質分析を実習で学ぶことができます。

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(イ)配管実習施設
 配水管や器具を用いて配管や接合、通水試験までの一連の作業を体験することができます。実際の現場を模した深さと角度が変わるピット内で、大口径(500ミリメートル)の耐震継手管を接続(ひねり配管)する研修を行うことができます。
 なお、大口径配管実習施設は、国内に東京(当センター)と名古屋の2会場のみであり、当センターは(公社)日本水道協会が実施する自治体や民間企業を対象とした技術研修会に活用されています。

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(ウ)機械実習室・電気実習室
 機械実習では、ポンプの特性曲線の測定やポンプの分解・組立てを行い、ポンプ基礎を学ぶことができます。また、配管を実際に組み立てることで屋内の水道配管の基本を学ぶこともできます。
 電気実習では、浄水場・給水所で使用されていた実物の電気設備を用いて、安全に点検、試験するための作業手順を習得します。また、シーケンス実習では模擬配線台で制御回路を組み、バルブ等の実物の装置を動かすことにより、電気設備の仕組みを学ぶことができます。

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(エ)各種体験フィールド
 疑似漏水を発生させて、漏水音の聞き分けや漏水探知、割継輪(漏水した箇所を覆う分割された管)や凍結工法による漏水修理等、技術の基本を習得することができます。また、設備のカットモデルや構造モデルを掲示し、構造や仕組みなどの知識を蓄えることもできます。
 このフィールドは、国内の事業体のみならず、(独)国際協力機構(JICA)等を通じた海外の研修生や視察の受入れにおいても使用しています。

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(オ)危機管理への対応
 管路、設備、水質、震災など、実際の事故をもとに作成したデータ及びシナリオを用い、ロールプレイング方式による実践的な訓練(役割分担に応じた疑似訓練)を行う「職員教育訓練システム」を開発し、平成20年度から危機管理研修において運用しています。令和2年度は老朽化した機器の更新を行い、令和3年度からは新システムによる危機管理研修を実施していきます。
 また、研修におけるICT技術活用の一環として、令和2年度新たにVR機器を導入しました。令和3年度から技術系研修及び講習会等での活用を予定しており、実際に体験することができない様々な事故・災害をVRで疑似体験させることにより、危機管理・事故対応能力の向上を図っていきます。

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(3)開発部門
 水道局を取り巻く事業環境やお客さまニーズは刻々と変化し、局が直面する技術課題も多種多様となっています。こうした技術的課題を解決するため、直営調査のほか委託研究や共同研究などの手法により、企業や大学の発想・最新技術を活用した技術開発を推進しています。研究開発業務から生まれた発明については特許を取得しており、現在29件の権利を保有しています。
 また、研究開発の成果を局内外に発信する目的で、研究開発報告会を毎年開催しています。令和2年度は新型コロナウイルス感染症対策のため、web開催としましたが、他局や近隣水道事業体含め約70名にご聴講いただきました。
 さらに、東京都・大阪市・横浜市をはじめとする16の水道事業体でICT情報連絡会を組織しています。本連絡会は、水道事業体が抱える課題に対し、水道関連以外の企業からも、ICTを活用した技術提案を幅広く発信してもらう機会としています。第1回情報連絡会は令和元年10月に当センターで開催しました。産官学から281名の参加をいただき、15企業から27件の技術提案がありました。
 この連絡会で得た技術提案は、局内に設置したICT戦略検討・活用推進委員会に情報提供し、ICTを活用した技術的課題の解決に取り組んでいます。
 研修部門で紹介した、VR研修シナリオは、第1回情報連絡会における技術提案から採用したものであり、バックホウとの接触事故等、水道工事で頻発する事故に特化した6つのシナリオを新たに作成したものです。

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(ア)独立電源による水源モニタリングシステムの開発
 多摩地区山間部には、電力インフラや有線の通信方式による遠隔監視が利用できない取水源が存在します。水源モニタリングシステムは、太陽光発電と蓄電池による独立電源を使用し、無線技術で通信を行い、遠隔監視を行うものです。
 これにより、常時監視が可能となり、取水施設をより適切かつ効率的に維持管理できるようになりました。東日本に甚大な被害を及ぼした令和元年東日本台風の際にも、現地の状況を明確に映し出し、その通過後、職員は安全性を確認した上で現地調査に向かうことができました。

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(イ)管内調査ロボットの研究開発
 管内調査ロボットは、口径800ミリメートル以上の水道管を対象として、空気弁から管内に挿入することで、管路を断水することなく内面を調べることができる機器です。管内調査ロボットには、移動用のスクリュー、水中カメラ、照明等が搭載されており、これらを用いて管内面の状況(接合状況、発錆状況など)を外部モニターにてリアルタイムで確認することができます。

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(ウ)消火栓水圧確認システムの開発
 消火栓水圧監視システムは、首都中枢機関等、重要施設への給水状況を把握するものです。震災時等に管路被害が発生した場合には、水圧低下を検知し、携帯通信網を通じて、震災対応と事故対応を専門に担う水道緊急隊へ即座に警報を発報します。
 これにより、水道緊急隊は給水確保に向けた対応を迅速に取ることができます。

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(エ)折りたたみ開栓器の開発
 開栓器は、水道管路に設置されているバルブや消火栓の開閉を行うための器具です。震災などの災害時には、断水被害の拡大防止や重要施設の水圧確保作業のために、開栓器を携行して現場に出動する必要があります。しかし、現行の開栓器は長く重量も重いため、二輪車での携行ができませんでした。そこで、軽量でバイク等にもコンパクトに収納可能な折りたたみ式の開栓器を開発しました。

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(オ)複合電源システムの開発
 複合電源システムは、災害時の電源確保及び平常時の商用電源の使用量削減を目的として、太陽光発電、蓄電池及び商用電源を組み合わせたものです。
 研修・開発センターは、災害時に他都市等からの救援隊(他水道事業体の応急給水等の支援部隊)の受入本部となっており、災害時の連絡・情報収集用の電源確保が課題となっていたことから、本システムを救援隊活動時の通信機器やパソコン等の電源で使用することとしています。
 また、震災時以外の活用も図るため、センターに隣接する応急給水施設の夜間照明用電源とする作業を進めており、令和3年4月から稼働予定です。

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(4)今後の取組
 今後とも、現場経験に裏付けられた総合的な実務運営能力を有し、現場の状況に応じて臨機応変に対応できる人材を育成していくとともに、水道事業が抱える技術的課題に対応するため、ICTや高度な浄水処理技術など、最新の技術動向も踏まえながら精力的に研究開発に取り組み、安全でおいしい水を安定的に供給していくための基礎づくりに努めてまいります。