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株式会社STYLYインタビュー【eSG INTERVIEW】

子どもたちの想像を、現実へ映し出す

心に描いた理想的な「未来のまち」を見ることができたら、それはどんなまちでしょうか。そして、その世界を実際に「体感」してみたいと思ったことはありませんか。
 
人気ゲーム「Minecraft」の作品コンテストである「Minecraftカップ」では、たくさんのこどもたちが「未来のまち」を描いています。2月に全国大会が開催された今年のコンテストには、全国13ブロックから、500作品の応募がありました。
 
この「Minecraftカップ」の東京ブロック大会には、みんながワクワクするような未来の東京を表現した作品に贈られる「東京ベイeSG賞」が設けられています。今年は、"多様な気候を再現できる施設"や、"天高く伸びる垂直農場"など、驚きのアイデアが満載の作品『The Future Earth-自給自足も可能にするサステナブルな社会へ』が、この賞を勝ち取りました。
 
そして、この受賞作品がARとVRになって、今年の「SusHi Tech Tokyo 2024」に登場します。作品が描いた未来を現実の風景に重ねて楽しんだり(AR)、VRゴーグルで内部を体験することができる技術を提供するのが、株式会社STYLY(以下、スタイリー)です。
 
スタイリーは最先端のXR技術(AR、VR、MRなどを包含する技術の総称)による「空間コンピューティングのプラットフォーム」を開発・運営し、あらゆる空間をメディアの中でまるで実際に体験しているかのように感じさせる、新しいテクノロジーでの表現・体験を提供しています。
スタイリーの澤田有人さんに、XR技術と作品の魅⼒などについてお話を伺いました。

©Minecraftカップ運営委員会
第5回Minecraftカップ「東京ベイeSG賞」受賞作
『The Future Earth-自給自足も可能にするサステナブルな社会へ』
©Minecraftカップ運営委員会

想像以上に作り込まれた作品をXR体験に

そもそもMinecraft(以下、マインクラフト)で作られた世界がARやVRになるとは、どういうことなのでしょうか。受賞作のXR化について、澤田さんは、マインクラフト自体にもともと豊かな機能と表現力があるとした上で「それでも」と続けます。

「きっと、こどもたちが思い描いた世界には、マインクラフトで表現しきれなかったこともあると思います。私たちはXR技術で表現力を拡張し、こどもたちが本当に描きたかったものを表現するつもりです。」

例えば、こどもたちが作った世界全体を俯瞰的に⾒たり、建物の内部に⼊り込んだり、花⽕を上げたり、動的で多角的なアプローチ変更が可能になったり。マインクラフトにはできない表現を加え、受賞作の持つ魅力を多角的に「体験」できるようにしたいと意気込みます。

株式会社スタイリーの澤田有人さん

「受賞作は、海外在住の子も含めて19人のチームで作ったそうです。その人数で1つのものを作り上げた事実も驚きですが、この19人という人数に違わない、広大で緻密なマップがすごい。細部まで作りこまれていて、きっとみんなが喧々諤々(けんけんがくがく)の議論を重ねながら、作り上げてきたことが見て取れます。」と澤田さん。しかも、その構造は夢物語ではなく、ロジカルな検討を積み重ねたものに見えると指摘します。
 
「たとえば垂直に伸びる農場も、ただ面白そうという発想じゃない。現在の当たり前を疑い、さまざまな制約をなくす工夫として表現していると思います。こどもたちがテーマと真摯に向き合い、設計しているのが伝わります。」と澤田さん。最終形はまだ見えていませんが、熱のこもった説明が、作品への期待をにじませます。

次世代の「体験づくり」に目を向けて

スタイリーはさらに、マインクラフトからXRを作るプロセスをこどもたちに実際に体験してもらうワークショップの企画・運営もサポートしています。
 
「今回、受賞はできなかったけど、素晴らしい作品を作ったこどもたちをワークショップに招待し、マインクラフトで作った世界をXRに変換する部分を体験してもらう予定です。こうした取組を通して、ARやVRの魅力を多くの方に体感してもらいたいと思っています。」

3月16日開催、東京都主催の
Minecraftカップにおける「東京ベイeSG賞」表彰式、ワークショップの様子

そう語る澤田さんに、自身のVR体験についてお聞きしました。
 
「ホラーゲームですね。私は普通のホラーゲームは楽しめるんですが、VRのホラーゲームは怖くて一歩も進めません。薄暗い夜の林を、勇気を出して進むと、ゾンビがわーっと走ってくる。もう現実に戻りたいって気持ちで、頭のデバイスをはぎとってしまうわけです」と笑います。「それくらい、凄まじい。映像を見ているのではなく、自分が体験している感覚になるんです。」
 
これまでモニターの中にあったコンテンツが、その境界線をなくして、生活のあらゆる空間に投影できるようになる未来。XRのコンテンツは、私たちの現実とつながり「視聴」ではなく、その人の人生の「体験」と感じられるようになる、そこが新しく、面白いのだと澤田さんは強調します。

ARTBAY TOKYOアートフェスティバル2023 XRによってスポーツやアートの体験が大きく変わる

また、ESGという観点からもXR技術はとても重要な役割を持つ、と続けます。
「まず物質的な制限をもたないので、ひとつの空間にさまざまな体験を提供することができます。まちづくりで大きな建造物を作るといった場面ではその合意形成でも役立つでしょう。さらには、身体的・空間的なハンディキャップを超えて人々に平等な機会を与えるといった場面でも重要になっていく技術です。」
 
モニターの枠から放たれた"空間メディア"は、現在の私たちには想像もできないほど、大きな可能性に満ちています。
 
「けれども今はまだ、圧倒的にコンテンツも足りないですし、コンテンツを作る人も足りない。そうした意味では、今回のような機会に、子どもたちがXRを通じて"体験を作る"といった観点を持つきっかけになると、とても嬉しいなと思っています。」と澤田さん。
 
子どもたちが描き出した未来の都市は、次世代の技術でどんな体験となるのか。「SusHi Tech Tokyo 2024」で公開されるXR作品に、ぜひご期待ください。

株式会社STYLYのオフィスの様子。最新のVRヘッドセットが並ぶ


〈用語の補足説明〉
AR (Augmented Reality):
現実の世界にデジタル情報を重ねて表示する技術です。スマホやタブレットでよく使用されます。
VR (Virtual Reality): コンピュータによる3D空間に没入できる技術です。ヘッドマウントディスプレイというゴーグル形のデバイスを利用します。
MR (Mixed Reality): ARのように現実の空間とデジタルを融合させつうつ、VRのように立体視による没入感を得られる技術です。ゴーグル形のデバイスを利用します。
XR (Extended Reality / Cross Reality): AR、VR、MRを含むすべての拡張現実体験を指す言葉です。
マインクラフト(Minecraft):コンピュータの3D空間でブロック状の部品を集めて、建築や冒険などが楽しめるゲームです。世界的な人気があり、「教育目的用」といったバリエーションが存在します。
ESG:環境(Environmental)、社会(Social)、統治(Governance)の観点から事業や組織の持続可能性を評価する概念です。


(文・松本浄)