ブラオケ的吹奏楽名曲名盤紹介~吹奏楽の散歩道〜 #8「全日本吹奏楽コンクール課題曲の歴史④」

80〜90年代の課題曲オリジナル曲の名曲

コンクールシーズンもいよいよ全国大会を残すのみ。
皆さんの贔屓の楽団は全国大会まで行けたでしょうか。
今年の素晴らしい演奏を聞かせていただきたいものである。

さて、今回も課題曲のお話を。
前回までマーチについて語ったが、今回は80年代〜90年代のオリジナル曲に
スポットを当ててみよう。


80年代のオリジナルといえば80年代後半に代表的な3曲があるので、これは出しておかなければならないだろう

1985年(第33回)B:波の見える風景(真島俊夫)
1987年(第35回)A:風 紋(保科 洋)
1988年(第36回)A:深層の祭(三善 晃)

どれも現代でも演奏され続けている、課題曲を超えた名曲と言えるだろう。
「波の見える風景」は前回「五月の風」でもご紹介した真島俊夫の(多分)デビュー作。
1988年にはオリジナルのスケッチも復活させる形で編み直し「改訂新版」として出版され、課題曲版と改訂新版ともに演奏されている。
その後の氏の活躍についてはこの場で語るまでもないだろう。

「風紋」は長年課題曲の人気ランキングで1位を取り続けるほど人気曲で、保科 洋氏の代表作の一つだ。
後年これも原典版として出版され、どちらも演奏される機会が多い。

「深層の祭」は課題曲の中でも難曲として有名で、技術的にも音楽的にも大変レベルの高い曲。
しかしさすが巨匠三善晃。前回「クロスバイマーチ」もそうだが、不思議と聴けば聴くほど面白い曲で、流石にレベルの高さから一般で取り上げる団体は少ないものの、現代でもプロの吹奏楽団を中心に演奏される機会の多い名曲である。

90年代に入ると、93年からマーチ、オリジナル隔年になり、更にオリジナルの曲の演奏時間の長さの基準が6〜7分に伸びた。そういった改革を推し進めた結果、採用される曲も実験的な曲が多かったのか、世代を超えて語り継がれるような曲は残念ながら生まれなかったようだ。

しかし、作曲家という視点では現代でも活躍している作曲家がこの90年代でデビューしている。

1992年(第40回)B:吹奏楽のためのフューチュリズム(阿部勇一)

1994年(第42回)Ⅲ:饗応夫人―太宰治作「饗応夫人」のための音楽(田村文夫)

1998年(第46回)Ⅱ:稲穂の波(福島弘和)

「吹奏楽のためのフューチュリズム」は前回の「ラメセスⅡ世」でもご紹介した作曲家だが、その後も「大唐西域記」、最近だと「交響詩ヌーナ」等、現代でも活躍する作曲家である。
「吹奏楽のためのフューチュリズム」は大変美しいメロディーと世界観が個人的に非常に好きなのだが、全国大会レベルでは演奏される機会は少なかったが、職場の名門、「ブリヂストン吹奏楽団久留米」が大変素晴らしい演奏を残しているので是非聴いてみてほしい。

「饗応夫人」も課題曲として伝説的な曲。現代的な手法で非常に難易度の高い曲として一躍有名になった曲だ。
作曲家の田村文夫氏もこれをきっかけにデビューし、96年にはヤマハ吹奏楽団による「かわいい女」、99年には「アルプスの少女」の委嘱が全国大会で披露され、現在では「バッハのための幻想曲とフーガ」が演奏される機会が多く、名前を知ってる方も多いだろう。

「稲穂の波」は当時全国大会でも演奏する団体が多く、人気の曲であった。
まさに福島弘和氏のデビュー曲であり、その後2000年には「道祖神の詩」で朝日作曲賞を受賞するとその後「祝典序曲「祈りは時の流れに輝く」(2004年)、「桜花幻想」(2005年)、「交響的詩曲『走れメロス』」(2006)、「アイヌ民謡「イヨマンテ」の主題による変奏曲」(2006年)、「梁塵秘抄〜熊野古道の幻想〜」(2006年)等様々な団体から委嘱されるようになり、「ラッキードラゴン 〜第五福竜丸の記憶〜」(2008年)で大ブレークするのは皆さんご存知のところであろう。

こうした曲の変遷を経て2000年〜2010年代へと突入していくわけだが、こうして年代別に課題曲を見ていくと、年代ごとに曲調もサウンドも変わっていっているのが非常に面白い。
その時々の吹奏楽事情やレベルによって求められることが変わってきているという面でも、吹奏楽コンクールの課題曲は日本の吹奏楽の変遷を映す、まさに時代の鏡のようなものなのだろう。

そして、私が一番残念なのがこれだけの曲が課題曲として発表され、演奏会でも演奏されるときに「〇〇年のコンクールの課題曲で・・・」という紹介のされ方だ。
確かに発表は課題曲なのだが、曲の良さや音楽の本質とは関係のないところなのだ。
もっと、過去の課題曲の名曲たちが、課題曲という枠を超えて吹奏楽の曲の一つとして、音楽の一つとして曲の魅力が見直され、聴衆の心を動かすような音楽、演奏であってほしいと願うばかりである。

(文:@G)

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