若者が留学しないのは私達、大人のせいだという話
「最近の若者は内向き思考で留学にも行かない。これはけしからんことだ」
こういう論調のニュースを定期的に見るのだが、実際に留学もした私にとってそのセリフはおかしな話だ。
なぜなら、若者が海外留学しない、内向き思考の理由は彼らのメンタルだけのせいではないからだ。
実際は、我々大人が作った社会のシステムに若者が適応した結果だからと思っている。大したメリットも与えないのにリスクだけ若者に犯させようとしても若者だって馬鹿じゃない。
そういう話を今日はしたい。
若者の半数は留学したくない
この記事によると日本政府は50万人を海外への留学生として送り出したいようだ。非常に大きな目標だと思うが、アンケートによれば日本の若者の半数は海外留学をしたくないと考えている。
それもそのはずで私が学生だった10年前から既に「留学はコスパ悪い」と言われ始めていた。どうしてコスパが悪いのか?それは支払う
「金」や「努力」は明確に高いのにリターンが不明確なのだ。ということで、留学のデメリットを理解するために留学の種類について整理しようと思う。
①正規留学:4年コース
一つ目は海外の大学に正規の留学生として入学するコースだ。4年くらいその大学に滞在してしっかり学ぶことになる。
リターンもしっかりあるが、その代わりのキツさもしっかりある。しかも日本に帰ろうと思ってる場合、日本で役立つリターンでなかったりするので「ただハードモードをプレイしていた人」になりがち。
メリット
留学先の学問をしっかりと学べる
卒業後、その国に滞在できるビザが出る可能性
経験としては一番タフ。乗り越えれば強靭な人間に成長してる(かも)
デメリット
日本での就活において不利。(卒業時期が違う、学閥がないので情報が回らないなど)
シンプルに勉学がキツイ(外国語で大学レベルの勉強をしないといけない)。鬱になったりする若者は絶えない。
②交換留学:1年or半年コース
二つ目は交換留学。日本の大学に入った後、海外の大学に半年、または1年間行くことができるというシステムになっている。大学生の間は1年間も海外に住めるという機会は稀なので、みんな大体ここを目指す。
そして一番コスパがいいのもこれ。観光気分で外国滞在をして自分の大学に復学できるのがちょうどいい。
メリット
1年or半年滞在できる。
旅行気分(海外を感じたいも含む)レベルの理由で海外に行きたいなら十分な期間その国にいられる。外国滞在中も日本の大学に籍を残しておけるのでその後のキャリアも心配なし
デメリット
実態として長期旅行。そのため相手の国を社会人レベルで深く知ることは不可能
「交換留学行ってきました」だけでは何のアピールにも就活ではならない。
現地の大学で選べる授業が制限されていたり、実質言語クラスに回されて、「大学運営言語学校」と化している場合もあり、学問を学ぶというより語学を学ぶで終わる場合が多い。
③語学留学:1週間-1年
これは単純。語学学校に通って、現地の言語を学ぶというケース。最短1週間から通えてビザの関係上マックスが1年から2年になる場合が多い。
メリット
すぐ入れる。金さえ払えば誰だって入れる。
中長期滞在のビザが発行される。1年くらい滞在できて国によってはアルバイトも許される。
デメリット
社会人としては評価されないどころか、裏でマイナス評価になる可能性あり。
現地社会で働いていくためのコネクションは非常に薄い。
ということで、リスクがあるがリターンもある順に留学の種類を3つほど並べてみた。ほとんどの人がこの留学プラン3つかワーキングホリデーで海外に渡っているはずだ。
そしてこの「リターン」、ここにこの問題の核心がある。難しい留学をすればするほど日本社会で得られるメリットが減るのだ。
正規留学したけれど、評価されず
仮に難しい留学をすればするほど、日本社会で活躍できるし、社会からも報われるとしよう。それなら、いろんな学生が海外を目指すようになると思う。
例えば海外に留学しなきゃ年収800万以上は無理だぞ!みたいな社会システムになっていれば早慶あたりに入る若者は全員海外大卒になってるだろう。はい、これでこの問題は解決だ。
ところがそんな風には決してならない。なぜならこの国の就活システムは学閥が強い影響力を持っているからだ。
これは決して東大や、京大を出ただけで社会から優遇されるという話ではない。長年にわたる先輩たちの蓄積のおかへで日本社会を駆け上がるためのコネクションと情報が集まっているからこれらの学閥は強い。
例えば東大初のイケてるITベンチャーがバイトを初募集するとなったら、お金を払ってリクルートに求人を載せるだろうか?いや、それなら大学の後輩を連れてきた方がずっと優秀で手数料もかからない。こうやって新しいビジネスを手伝う経験は彼ら学閥所属者の中で貯まっていく。
では海外大学を卒業した人たちはどうか。残念ながら日本のエリート街道をひた走っている学生たちと比べればこういう情報には疎くなる。だから海外で努力して、いい大学を4年で卒業してきてもその血が滲むような努力を報いてくれるような企業があまりいないのだ。
結果若者はアホらしくなり、そういう道を選ばなくなる。
例外はあくまでも海外大学への進学の理由がその国での就労や永住の場合だ。その場合はもちろん現地の大学を正規の方法で卒業することは強いメリットとなる。が、そうなると人材流出につながるので、これは日本政府や日本の大人が望んでいる「外向き思考の若者」ではないだろう。あくまでも大人たちは海外に行って利益を持ち帰ってくれる若者を待ってるはずだ。
そんな都合のいい話あるだろうか?
正規留学は楽なものでは決してない。蓋を開けてみると多くの日本人留学生が鬱になってた経験があるとか、みんなそれぞれ謎の宗教に入ったみたいなケースもある。生活も与えられるプレッシャーも決して楽なものではない。
そこまでやったメリットが明確にないとして、どこの若者が喜んで海外に飛び込むだろうか?
とはいえ交換留学は長期旅行
ということで、正規留学は茨の道の割に得るものが少ないという話をしたが、では交換留学はどうだろうかというと金銭的なメリットはそんなにない。
なぜなら交換留学で実務に直結する内容を学べることはほとんどないからだ。
例えば私が行っていたイタリアの大学は外国人用の語学講座を持っていて、交換留学生は授業の半分をその語学講座で埋めていた。そんなんでは母国に持って帰るような技術を学んだりするには不十分な環境ではないか。
実際、交換留学中にやっていた事と言えば、授業をちょっと受けて、観光し、同じ留学生と交流したりくらい。そりゃ、帰国後話のネタになるような珍エピソードの一つや二つはできたが、どれも思い出レベルの話で「実績」というには程遠いものだった。
自分の人間性を磨く、見聞を深める...
そんな曖昧なメリットを享受するだけでも海外に行くメリットがあると思うなら交換留学はデメリットの少ない最高の留学方法だが、就活に役立ったりする内容ではないので若者みんなが目指すようにはならない。あくまでも物好きが選ぶ高尚な娯楽だ。
そして語学留学も本質的にはこれと同じで高尚な娯楽であることから脱却できない。
重要なのは明確なメリット
海外に行かない事を大人は非難するが、非難するばかりでなぜ若者が海外に渡航しないのか真剣に考えていない。
しかしこうやって説明したように理由は明確で「明確なメリットがない」からだ。
例えば過半数の若者は大学受験をする。なぜかといえば明確にメリットがあるからだ。就職の際には高卒だと選べない高給の仕事が大卒には解放されている。
こういう明確なメリットがあれば過半数はそこに向かって行動する。転じて海外留学に対して国はそこまで動機づけをしていない。
何故か。
それは結局のところ、この政策の本質が単純労働者の受け入れが本題であって、日本人の海外留学はお題目でしかないからだ。
国は「人材交流」のためと留学生増加政策を推し進めている。そのため日本人側もある程度海外に行ってほしいと思っている。しかし、実際興味があるのは週28時間バイトしてくれる外国人留学生が日本に来る事だ。
国は彼らを集める過程で見栄えが良くなるように日本人の若者にも海外に行ってくれと話しているにすぎない。しかしその後押しが外国人留学生への対応に比べて大して存在しないのがいい証拠だ。
海外留学、この言葉は美辞麗句で脚色されがちだ。実際はパーティして観光するだけの一年だとしても何か意義のある事をやってきたような免罪符を学生に与えてくれる。
しかし実態として海外留学が高く評価されることはない。国だって口だけ海外留学したらいいんじゃない?と言っているだけだ。だからもし本気で日本人留学生を増やしたいなら政策を作ればいいじゃないかと思う。
いつも若者のせいにするのはかわいそうというものだ。しかし今日も留学ビジネスは成立している。それは明確なメリットがないにしてもキラキラワードに釣られる若者が一定数いるからだ。
だからこの業界弱者ビジネスの様相を呈しているし、大人がもっと制度設計してやるべきだと思っている。
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