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なぜ『香水』はヒットしたのか、SNS時代のコンテンツ・マーケティングとは?

Tokyo Otaku Modeの安宅です。『香水 / 瑛人』、流行っていますね。1年以上前にリリースされた作品が、SNSで突然火がついて拡散していくという、ちょっと特殊なヒットのしかたをしていて、マーケティング視点でもとても気になる作品です。

マーケティング視点で、なんでこんなに『香水』が流行っているのかをしばらく考えていたら、『香水』に限らず、SNS時代のコンテンツ作りの王道のようなものが見えてきたので、記事にしてみました。


コンテンツと拡散力

作品の力=コンテンツ力は視聴者の「満足度の高さ」が大事なモノサシとなります。近年だと、満足度の中で、コンテンツがヒットするかどうかに大きな影響を与えるのが、「SNSを通じて人に伝えたくなるか」、というSNSにおける共有、つまり拡散力です。

拡散力のイメージを数値化してみました。

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拡散力が1.0を超えると、1人の視聴者を獲得すると、周りにどんどん伝播していきます。コンテンツの拡散力が3.0のとき、1人の視聴者は平均して3人の新たな視聴者を引き寄せます。逆に、拡散力が1.0を下回り、例えば0.5だとすると、1人の視聴者は1人以下の視聴者しか引き寄せないため、どこかで流行が収束していきます。

拡散力が1.0超え=視聴者にとって満足度が非常に高い状態が必要です。かつ、そのコンテンツをSNSを通じて共有したくなるか、という要素を持って、自己完結しないコンテンツのほうが有利です。

SNS時代のコンテンツ力を、いったん「SNSで共有したくなるほど満足度が高い作品」と定義してみましょう。

コンテンツを視聴する人ごとに、コンテンツの満足度はばらつきはあるものの、年齢/性別/趣味嗜好/Twitterでいうクラスターなどで、「グループ化」してみることはできます。10代女性Aグループは拡散力は0.9だったけど、10代男性Bグループは拡散力1.1となったりグループとコンテンツの相性によって上下します。

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すると、Aグループでは拡散は一定で止まるが、Bグループはグループ全体まで行き渡るといったことが起こります。拡散力が高いほど「グループ」全体に行き渡るまでの速度は早い。1.1が3ヶ月だとしたら、3.0なら1週間で一気に浸透する、といった具合です。

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1年越しにヒットした理由

まったく同じコンテンツであっても、時代や場所によって、時計の短針と長針がかちっとあうように、満足度や拡散力の高い状態になりえます。『香水』はリリース直後はそこまで流行しませんでしたが、1年後に大流行したのは、こうした「時代の気分」の時計の針がぴったり合わさった可能性があります。

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コンテンツが拡散するときに、最初に火をつける一定の影響力を持つインフルエンサーの力も重要です。『香水』が1年越しにヒットしたもうひとつの可能性として、「時代の空気」は1年前にも一致していたけど、火を付けられるインフルエンサーが、たまたま取り上げられなかっただけかもしれません。

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いちどリリースされたコンテンツは、その作品の「質」は変わらないですが、「時代の空気」や「インフルエンサーの存在」など周りの環境でコンテンツの拡散力が1.0を超える状況が生まれると、SNS(YouTubeやTwitter)などを通じて一気にバズが生み出される、ということです。

そして、マスに届くために、拡散力1.0を超えるグループが大量に存在する土壌が必要です。SNSに無数に存在するひと握りのニッチなグループだけでなく、年代、性別、嗜好など、ある程度広いグループを束ねた時にも、拡散力1.0を超える状況が生まれると、大ヒットに近づきます。

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もうひとつ大事な観点として、拡散力1.0超えの「期間」があります。

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いろいろなグループで拡散力1.0超えの期間が重なることで、YouTubeの急上昇やTwitterトレンドや各種音楽ランキングなど、いわゆる「SNS上の世論」の目立つ場所に同じ期間に何度も取り上げられることで、ふだんこうしたコンテンツをみない視聴者のグループにまで、キャズムを超えて届いていく「マスへの橋」がかかるのです。

これが、「香水」がSNSを通じた大ヒットの裏側の構造だと考えます。


SNSの進化と拡散力の構造

1年前と比べて、YouTubeやTwitterの利用者が増えたことで、火をつけられるインフルエンサーも増え、もともとコンテンツとして拡散力が高かった『香水』が、コンテンツ砂漠に埋もれていた中から拾い上げられ、その周りにいる「グループ」の拡散力1.0を超える視聴者が多くいたと考えられます。

コンテンツは、繰り返し視聴されることで、個々人でコンテンツの消費が起こり、満足度は基本的には下がっていきます。ただ、『香水』は曲の組み立てがシンプルな分、スルメのような味わい深いものに仕上がっていて、その満足度は他コンテンツと比べても、非常に長い回数満足度が落ちづらい「名曲」と呼ばれるクラスの視聴体験を生み出していると考えられます。実際、私も1回聞いたあとよりも、100回以降のほうが満足度が高いのです(こうしてブログも書いちゃうくらい好きです......!)。

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『香水』の視聴回数ごとの拡散力は、例えばこんな形で推移していると思われます。1回目の視聴は0.5からスタートし、30回を超えるくらいで、1.0を超える、100回を超えると3.0まで上がりピークを迎える。その後、だんだん落ちていき、300回目以降は0.9と低下していく。イメージが伝わるでしょうか。

コンテンツは、期待値とのギャップで拡散力が向上する効果があります。実績あるクリエイターが、「高品質」のものを出しても、期待値を大きく越えない場合、通常のヒットで終わってしまいます。しかし、実績が少ないクリエイターほど「期待値」が低い分、ヒットした時、拡散力はテコの原理のように、レバレッジが効いてより大きくなる傾向があります。『香水』の瑛人氏は過去のヒットがない分、「この曲とてもいい!」とSNSでより拡散されやすい傾向にあったのでしょう。

『香水』のようにインターネット世代全体に認知され受け入れられるコンテンツは稀であり、拡散力がいろいろなグループで1.0を超え、あらゆる「グループ」で満足度が非常に高い状態が続いたということです。実際に、Twitterでは『香水』への言及は2020年8月末で秒単位で行われています。


SNS時代のコンテンツに大事なこと

SNS時代のコンテンツ作りで参考になることで、大事なことが『香水』から読み取れます。『香水』のPVが秀逸だったのは、コンテンツをコピーして創作する二次創作を呼びやすいシンプルな演出におさえられていたことです。かつ、シンプルな中にも独特なダンスが含まれて、思わずツッコミを入れたくなるような内容にすることで拡散力を底上げしたと考えられます。人気YouTuberや芸能人がこぞって二次創作をしだし、アンサーソングなどを歌いました。曲の素晴らしさ以外にも、PVの真似しやすさ、真似したくなるツッコミ要素など、SNS時代に有利な仕掛けがあったと考えられます。

一方で、曲自体にも素晴らしい仕掛けがありました。「ドルチェ&ガッバーナ」という、秀逸なサビで記憶に残り、思わず口遊んでしまうキラーフレーズを大胆に放り込んだことも、拡散力を大きく上昇させる要因になったことは間違いありません。

一般男性でも歌えるスローテンポとほとんどキーが低く、サビ以外はほとんどキーが動かない組み立ては、普通の人にとっての「カラオケでの歌いやすさ」も抜群です。アップテンポで情報量を詰め込む傾向が多い曲とのコントラストで輝きを増したと考えます。

「歌いやすさ」は得てして、単調で面白みがない曲調になりがちですが、『香水』はその大きな壁を超えてきている印象です。サビのメロディとキラーフレーズを口ずさみやすくし、歌詞にリアリティやストーリー性があり、歌い上げる声質も心地よく、「歌いやすさ」がなかったとしても、満足度は非常に高い作品に仕上がっています。


おわりに

SNSの浸透で、埋もれていたコンテンツが発掘される精度が年々高まっていて、クリエイターにとっては満足度を高めつつ、SNSで拡散されやすい形に表現をすることで、実績に関係なく、才能が発掘される時代になってきています。

さらに、YouTubeという拡散されやすい舞台で視聴されることで、広告やビジネスから得られる収益がクリエイターに還元される仕組みがダイレクトになっていて、ますます個人がエンパワーメントされる時代に突入しています。

YouTubeやTwitterなどのアルゴリズムが秀逸で、あるコンテンツに対し満足度の揃った「グループ」のセグメントやグラデーションがキレイに分類されるため、拡散力1.0の摩擦係数がゼロに近いため、これからも同じような展開で、「埋もれそうになった名曲」がちゃんと発掘されていくことでしょう。


SNS時代のコンテンツ作りなど、なにかの参考になれば幸いです。

PS. なんて、小難しくコンテンツを分析しちゃいましたが、シンプルに『香水』は名曲なので、今後も深く味わっていきたいと思います!

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