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革新的映画「マトリックス」続編 感想


■プロローグ

 1999年、進学校で受験勉強に励んでいた高校時代、大学進学をせずにアメリカへ行くという同級生が現れた。渡米して映画監督を目指すのだという。その彼が触発を受けたのがマトリックスだった。
 当時、体を後ろに反らせてありえない体制で弾丸を避けるキアヌ・リーブスに世間は興奮し、ものまねする人が増えるくらい流行ったのを記憶している。しかし正直私はそこまでピンと来ていなかった。だから、映画監督を目指して渡米した彼に驚きを隠さずにはいられなかった。
 大学生になった私は、なぜ彼がそんなに心惹かれるようになったのか、すごく引っかかっていた。それから改めて様々な記事など読むうちにすっかりマトリックスの虜になっていったのだった。

■マトリックスがフェイバリットムービーへと変化した理由

 マトリックスの革新性は情報化社会を予見し、いち早く映画に取り込んだ点だと思う。その理解が進めば進むほど私は心底しびれた。 
 既存のSF映画といえば、スター・ウォーズのように宇宙をまたにかけるもの、ブレードランナーのように未来的な世界を描くもの、またバック・トゥー・ザ・フューチャーのようなタイムトラベルものなど名作が存在していた。しかしここまでうまくデジタル社会のエッセンスを巧妙に取り込んだ映画はなかったのではないだろうか。
 SFにおいてアクションはある種の必要枠であり、作者はいかにして戦うか深く考えるところだと思う。あくまでもかっこいい戦闘機や銃、はたまたフォースのような魔法という縛りがあったと思う。しかし、デジタル世界での戦闘を考えたとき、それはゲーム空間での戦いに拡張された時点で自由度が一気に上がっただけでなく、さらにプログラミングで可変的に世界を構築してしまう、ちょっと次元を超えた世界観なのだ。当時の私からしたら想像の及ばぬ世界であったものの、HTMLやエクセルマクロに触れるにつれて、その発想のユニークさが増すばかりだ。今でこそテック系企業がIT技術を駆使してイノベーションをお越し世界に影響を与えるようになったが、この映画がその先駆けだったんじゃないかとも思うほどだ。120台のカメラを使って回り込むように被写体を捉えるバレットタイム撮影、未来的な世界なのに、オールドスクールなフィジカルなカンフーがワイヤーを使うことでSF映画に化ける点も革新的だ。
 また設定として、実は私達が行きている世界こそがデジタル世界で偽物だ、しかし大抵の人は偽物を希望するという皮肉も非常に痛快だった。ちなみに(当時)ウォシャウスキー兄弟は監視/管理社会がめちゃくちゃ嫌いで、その怒りをぶつけたなんて話も聞く。そんな社会の未来は、機械(AI)が牛耳って人間自体が支配されているディストピアなのだ。
 デジタル社会を先駆け的に映画プロットに落とし込み、SFアクション映画にイノベーションを起こした点と、今日議論されるAI化社会の行く末を描いている点がマトリックスの凄みだと思う。

■2021年マトリックスレザレクションズに革新性の魂がこもっているか?
#ネタバレあり

 私の答えはYesだ。2010年代になってからやたらとSF映画の続編ものが作られる様になり賛否両論あるが、脚本やCGのレベルもそれなりに上がっていて面白い作品に仕上がっているとも思っている。一方でビッグタイトルという「既定コンテンツ」頼りでないと新しいものを生み出せないのか?という惨めさも心の奥にある方が少なからずいるのではないか?
 しかし心配ご無用だ、そんなのわかっている、そんなの十分わかって作っているんだ。という監督のメッセージが聞こえてしまうくらい、ネオの現在の状況とそこからマトリックスが再び始まるまでの脚本は最高だった。新作ではマトリックスの生みの親と設定され眠らされているネオに対して、親会社ワーナーが続編を迫る。これは映画の世界であるが現実とリンクしている。そして、続編を作るプロセスで俗っぽいものでいいのか、豪快さやアクションを押した方がいいとかいろんな議論がなされるが、これはネオに語りかけているようで、「続編を作ってもいいか」を観賞者にも問いかけられているようだった。このプロセスを経て、マトリックスファンはこの映画の続編を承認する。管理社会とか権力が嫌いな尖ったウォシャウスキーにとって、「コンサバ的な続編制作」を決行する上で外せないプロセスであったのではないだろうか?続編を作って作者だけが批判されるなんてのもフェアじゃないし、双方向性のあるオーディエンス巻き込み要素がうまく取り入れられていたのに私は興奮した。
 また、今日、AIが人間の知能を追い越すと言われている2046年問題や、それ以降人間のスペックを超えたAIが技術革新を行うことで、加速度的に人間の想像を超えて技術が発達すると言われる「シンギュラリティー」などの言葉が広く浸透しつつある世の中で、その辺の考え方にアップデートがあった点も面白かったと思う。それはAIの協力者の登場だ。私の頭の中でも結局地球を汚染したり格差が広まりに歯止めをかけられない人間に生き残る勝ちがあるのか、この問いに中々答えをだせないでいる。しかし人間のイマジネーションとか愛とか、人間がそれを今よりもっと育てて高い次元に持っていけば人間が生き残るチャンスはあるのかなんて考えたりする。だから人間に好意的なAIが出てきたのは、もしかしたら前シリーズのネオとトリニティーの愛とかそういったものが、AIの琴線に触れる何かを見出したのではないか?そんな気がしてならない。実際二人が神話化されいた描写も非常に興味深い。
 そして映画ファンなら周知のウォシャウスキー兄弟が二人とも性転換手術をして女性になったことによるエッセンスも重要なポイントだ(残念ながらリリーは不参加でラナだけでの参加となった)。ジュエリーブランドであるティファニーという名前で、子供を生んで平穏な家庭に入ってしまったトリニティーが現実に目覚める切れ味や、空中浮遊をネオより先に実現する点など色濃く反映されている。あとは個人的には女性の新キャラ、バッグスが今後どういう展開を見せるか非常に気になるところだ。というのも名前自体が「(コンピューターの不具合を指す)バグ」であり、彼女の髪色が、非現実を表す青の錠剤と同じ色をしている点で何かを起こす予感がしてならない。

■エピローグ


 上述のとおり、映画の焼き増し時代における続編制作への憂いをはねのける傑作だったと私は太鼓判を押させてもらう。ちなみに、アメリカへ飛び立った高校時代の同級生は今は日本に帰ってきて、大手のゲーム会社でCGのディレクター職で活躍している。方や、私は高校生の時点で大学というレールにのっかって就職という言わば管理体制下の人生を歩むものの、それはそれで挫折もあったりで決して楽ではなかった。体制に従順であることが必ずしも安定ではないことを感じた20年であった。
 マトリックス続編が単なる娯楽映画でなく、多くの人の目を覚ます起爆剤にもなったら私は嬉しい。

■マトリックスレザレクションズ 公式ページ
https://wwws.warnerbros.co.jp/matrix-movie/index.html

#マトリックス
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#映画感想


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