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ネガティブをポジティブに変える力

 私は「自分をよく見つめて可能な限り深く考えやりたいと思ったことをやる」という生き方をしてきたと思う。
 心の病を持ってからもそれは変わらなかった。その時々に自分にできることできないことを見極め「いま最善なこと」を考え「やろう」と思ったことを選択してきた。
 満足している。
 それができたのには、明確な理由がある。
 「俺はやりたくないことはできない人間なんだ」と強く認識したことがあったからだ。

 それは高校の部活動での経験だった。
 私は中学でもやっていたバスケットボール部に所属した。顧問はたいへん厳しく指導するタイプだった。私は身長も技量も高くなかった。レギュラー組には縁がなくその他大勢の中にいたが、バスケットボール自体が好きだったから通常の練習ができていれば満足だった。
 2年生の半ばになり、口より先に手が出る顧問から体育教官室に呼び出された。「マネージャーをやってほしい」という話だった。私は「自分は上手くはない。でもプレイしていたい。マネージャーになるとプレイできなくなる。嫌だな」と思った。
 私は答えた。
 「はい。やります!」
 断ったら殴られると思った。

 その日の夕方から、私はプレイすることができなくなった。笛を吹き、チームメイトに練習メニューをやらせるだけになった。辛かった。しかし「やります」と言った責任感だけで3年生の最後の試合の日までマネージャーを務めあげた。
 やりおおせた。なんとか。
 しかし、同じことをもう一度やれと言われても無理だと思った。「俺はやりたくないことはできない人間なんだ」と知った。

 これ以降、私は小さなことから大きなことまで「本当にそれをやりたいか?」とよく吟味するようになった。あの頃の二の舞はしたくないから、その悔しさをバネにしてやってきた。それを思うと、ネガティブな経験も活かし方によってはその後の人生をポジティブに変える力があると思う。過去の苦い経験に囚われている人のヒントになれば。

(800字)


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