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[暮らしっ句] どんぐり2[俳句鑑賞]

大人編


 木洩れ日を踏んで 団栗拾ひかな  白石正躬

 子どもの目に映っていたのは、おそらくどんぐりだけ。木漏れ日の美しさは意識されてなかったと思います。それが歳を取ると、どんぐりそのものよりも拾う子どもたちの姿や木漏れ日など景色の妙に感じ入ってしまう。
 哲学?でいうところの「風景の発見」というやつですね。生きていくのに精一杯な間は、景色を美的に鑑賞することなどなかった。どんぐりそのものへの関心が薄れたことで、風景が立ち上がってきたという。
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 どんぐりの 小さき盃 あつまれり  庄中健吉

 お酒の盃のように見えたのでしょう。呑兵衛さん、思わず舌なめずり~
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 団栗や 帽子を脱げば 土方焼け  吉井潤

 ふつう、どんぐりの茶色を見ても、日に焼けた肌は連想されないと思いますが、帽子がとれた部分は確かに水着の跡のよう。ちょっとなまめかしい。「水着あと」としないで「土方焼け」としたのが硬派~
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 みちのくの どんぐり拾ふ 旅愁かな  山本潤子
 拾いきし どんぐり捨てて 旅終る  山本潤子

 たぶん旅の目的はちゃんとあったと思います。観光とか温泉巡りとか食べ歩きとか、でもちょうど、どんぐりの時期に重なったもので、つい幾つか拾ってみたら、行く先々で拾わずにはいられなくなったと。旅の間は、どんぐり拾いも日課の一つになっていた。
 ところが、せっかく集めた宝物のようなどんぐりが一日にして、ただのどんぐり戻ってしまった。心が平常モードに切り替わったわけですね。
<旅は、もう終わり → どんぐりは、もういらない>ではなく、
<どんぐりは、もういいかな → 旅は、終わった>と順序が逆転していた
ことが詠まれている。これは最新の脳科学にも合致してます。意識より先に何かが判断を決定しているという。
「脳科学でも……」なんて云い方をしましたが、そんなこと云われなくてもアーティストは気づいていたわけで、そういうことがあるからアートは特別なんでしょう。

ブラッ句

 受付に どんぐり 結婚相談所  涼野海音

 みなさん、ご自分は特別な人間で、お相手についても「フツーでいい」と云いつつ<かなりの高望み>をされるようです。収入、年齢、外見、その三つのふるいにかけるだけで、個々の条件では上位半分あたりで妥協しても、三つクリアできる人は8分の1。もう一つ条件が増えると16分の1。条件が8つも並べば512分の1ですから。全然、フツーじゃない。
 でもでも、発想さえ切り替えることが出来れば、ハードルはいっぺんに下がります。その魔法の言葉は「ドングリの背くらべ」!
 お相手へのこだわりもあなた自身も、他人から見れば似たり寄ったりですよ~ ということですね。ドングリを512個並べてその中から理想の一個を選ぼうとすれば現実がわかりやすいかも。おそらく選びきれませんから。
 わたしが云うと皮肉っぽいですが、そこに気づかない間は何度、お見合いしても……なわけで、それを「受付に どんぐり」を並べて表現するあたり、その「結婚相談所」さん、やりますねえ~♪

出典 俳誌のサロン 歳時記 どんぐり

どんぐり
ttp://www.haisi.com/saijiki/donguri1.htm




イラストは、MULTIPLIER197【クリエイターチーム】の作品です。
ありがとうございます!


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