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第60話 友人の話-続き

「前世のことって、責任をとらなきゃいけないものなんでしょうか?」

ひとり暮らしをしているクリヤマくんの家に、ある日女性が訊ねてきた。
見知らぬ人だったが、休日で暇だったこともあり、なんとなく家に上げた。

「フツーの感じだったし、古い知り合いかな、と思ったんです」
30代半ばというから、クリヤマくんと同世代だ。

顔を見ていると、なんとなく懐かしい気がしてくるが、名前はわからない。
小学校の同級生とか、そんなのだろうか?

「あなたとは、前世で一緒だったの」
思い出せない、というクリヤマくんに彼女はいった。

「あ、やっちゃった、と思いましたね」
イタイ人を家に入れてしまった。
そう後悔したのだ。

そんなクリヤマくんの思いなどかまわず、女性は淡々と、前世の出来事を語る。

それによると、彼女は遊女、クリヤマくんは大きな商店の次男坊だったという。
道ならぬ恋に落ちた2人は、駆け落ちする。
やがて未来のない逃避行に疲れ、心中を決意すると、自殺との名所として有名なとある崖を訪れた。

お互いの片脚を帯で縛り、左手も縛った。
そのかっこうで2人ともが刃物を持ち、刺し違えるつもりだった。
崖っぷちを選んだのは、万が一にも死にきれない場合に備えてのことだった。

うまくいかなかった。
クリヤマくんの包丁は彼女の腹を深々とえぐった。
一方、彼女の包丁は、クリヤマくんの肋骨で止まった。

痛みで我に返ったのだろう。
クリヤマくんは帯を切り、彼女を捨てて逃げ出した。
彼女は失意の中、息絶えた。

最初は興味本位で聞いていたクリヤマくんだった。
だが悲惨な出来事を淡々と語る女性が怖くなってきた。

「どうやってぼくを見つけたの?」

夢で見たのだという。
住んでいる家の様子や、仕事をしている姿などなど。
断片的な夢だったが、その情報を伝えて興信所に探させたら、大した苦労もなく見つかった。

残念ながら、自分にそんな記憶はない。

クリヤマくんが告げると、女性は無表情のままうなずいた。
ただ、彼女に伝えなかったことがあった。

「俺、左胸に細長いアザがあるんですよ。たしかに、そこを刃物で突いたんなら、肋骨で止まるだろう、って位置に」

どうしてほしいのか。
女性に訊ねてみたが、特に要望はないという。
知っておいてほしかっただけ。
そう告げると、彼女は去った。

「ただ、最近どうも体調が悪いんですよ」

ときおり胸がキリキリと痛む。
会社の健康診断では、危険な不整脈が出ているといわれた。

「見える」という後輩のOLからは、よくないものが憑いている、とも指摘された。
「呪いというか、そんなものらしいです」


どうなっちゃうんだろう、俺。
そう悩んでいる彼から話を聞いたのは、もう2年前のことだ。
その後は連絡がとれていないので、元気にしているかどうかわからない。


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