大学生のためのトリセツ|読む、書く、集中するためのノウハウと読書ガイド

はじめに

今年は件のウイルスの影響で多くの学生がオンライン授業を余儀なくされており、特に新入生など十分なガイダンスのないまま高度な自学習を要求される場面が多いようです。そうした学生のために、今回は学習生活のコツを、できるだけ丁寧にわかりやすくお伝えしたいと思います。
具体的には本の読み方、レポートの書き方、集中の仕方についてお伝えします。内容は向こう数年通用すると思うので、来年あなたが先輩になったときにもこの記事を紹介してあげて下さい。きっと役に立つと思います。

方針(とりあえずここを読んで下さい)

本noteは目次が示すとおりかなりの項目を含んでいます。この記事の最短ルートは方針→目次→本の使い方-目次ノートの仕方→各項目読破です。本noteや自己啓発本、How to本のような行動のコツについての本は、(例えば、眠る、本を読む、集中するなど)ひとつひとつの行動についてのコツ(ポイントとも言う)がそれぞれ1つか2つ書いてあって、残りは具体例と読書案内、それ以外は読む必要のない「つなぎ」に過ぎません。ですからまず「本の使い方-目次ノートの仕方」でそうしたポイントを抽出する読み方のコツを掴んだ後、その方法で各項目から必要なポイントを抜き出していって下さい。

時々出てくるコラムは本文の流れを踏まえていますが、本文はコラムとは独立しているので読む必要はありません。一つとても長いコラムがありますが、いわゆる古典と呼ばれる難解な著作や哲学書を読むことを志す人は読むことをおすすめします。

このnoteは行動のための知識を提供します。ですので読み終えたらすぐにその知識は使って下さい。具体的には「本の使い方-目次ノートの仕方」を読んだ時点で、この読書ノートの方法をこのnoteに適応してみて下さい。そして繰り返し使って下さい。使っていくうちに学生生活は楽になっていくはずです。

※このnoteはPCやタブレットなど大きめの画面で読まれることを想定しています。

スマホで読む人は目次をうまく活用して下さい。
また、スマホ向けに本noteを再編集し、読みやすいよう分割する企画もあります。完成した暁にはTwitterでお知らせし、ここにリンクを張ります。

自分で勉強する

【目的】
あなたは今レポート課題を課されました。あるいは自分である分野の勉強をはじめようと奮起しました。そういうときまず必要になるのは図書です。以下ではあなたが本を確保し、読み、使って、レポートを書くまでのコツを順を追ってみていきます。

0.そもそもなぜ本が必要か


この節は今後前提とする「引用する本の必要性」とその理由を説明します。初めてレポートを書く学生は絶対に読んで下さい。レポートを書いたことがある2回生以上の学生で引用の仕方をわかっている人はこの節を読み飛ばしてこの先の項目を読むことができますが、読んだほうがこの先の項目の意味がよくわかります。

【レポートを書くとき】
レポートを書くときになぜ本が必要かを説明します。

レポートとはそもそも何でしょうか。レポートは(問題と)主張理由でできています。主張とはある問いに対するあなたの答えです。

例えば「連峰は晴れているか」という問いがあります。このとき「はい、晴れています」「いいえ、晴れていません」というのが主張です。そして「(連峰を指して)ご覧の通り、雲ひとつありません」「(同じく)ご覧の通り、雲に覆われて雨が降っています」というのが理由です。レポートのお題が「連峰は晴れているか」なら「はい、晴れています。なぜならご覧の通り雲ひとつ無いからです」「いいえ、晴れていません。なぜならご覧の通り、雲が立ち込めて雨が降っているからです」がレポートです。

(実際にはこんなお題はありえませんが)あなたがこれと同様のお題を出されたら、あなたは連峰が晴れているか晴れていないかを答え、その理由を答えなければなりません。大学で出されるレポート課題は「はい」「いいえ」では答えられない問題をお題として出されたり、自分で問題を作って答えたりしなければならない(そして時には問題と答えという形を取らない)レポートもあるのですが、その辺りについては後で詳しく話します。まずは、レポートには主張と理由が必要だと憶えておいて下さい。

レポートになぜ本が必要か、ですが、それはレポートには理由が必要だからです。レポートであなたは自分の主張を述べることになりますが、その主張は自分勝手じゃない、他の人にもわかってもらえる主張でなければなりません。基本的にレポートの良し悪しはその主張が「妥当かどうか」によって決まります。「妥当であれば」評価は高く、「妥当でなければ」評価は低くなります。主張が「妥当である」というのは、その主張が自分勝手な判断(独断的ともいいます)ではなく、他の人にもわかってもらえる(客観的といいます)ということです。自分勝手じゃない、他の人にわかってもらえる主張をするには、妥当な理由を示すのが一番です。そのための手っ取り早い方法が、本から「引用」することです。

引用」は本から文章を引っ張ってくる(自分の文章に他人の文章を載せる)ことですが、「引用」は盗作やパクリとは違います。「引用」は学問の世界のルールに従って、他人の文章を他人の文章とわかるように引いてくることを言います。基本的に「引用」は理由や主張の補強としてしか引いてきてはいけません。レポートの主張として他人の文章を引っ張ってきたり、他人の文章を他人の文章だということを明らかにせずに自分の文章に載せたりすると、それは盗作やパクリになります。これは学問の世界ではご法度中のご法度、絶対にやってはいけないことです。ですから、そんなつもりはなくとも自分の文章と他人の文章を区別がつかないように引いてきてしまうと盗作扱いになってしまいます。「引用」はそれだけ慎重にやらなければいけないことなのですが、リスクが大きい分、うまくやればリターンも大きいのです。リターンというのは、あなたの主張が客観的になることです。「引用」をうまく使って主張が客観的になればなるほど、あなたのレポートの評価は高くなります。

つまり、本はあなたのレポートを客観的で妥当なものにするために必要なのです。あなたのレポートが評価されるには主張が客観的で妥当なものであることが必要で、主張が客観的であるためにはその理由が客観的で妥当なものでなければなりません。そして、理由は「引用」によって客観的になることができます。だからレポートを作るときには引用するための本が必要なのです。

コラム
巨人の肩に乗る」という言葉があります。巨人というのは先人が積み上げた知識の山のことで、あなたがこれから引用したり参考にしたりする先行研究のことです。あなたがレポート(論文ともいいます)で書くのは、そんな膨大な先行研究の上に乗せる一粒の芥のようなオリジナリティです。あなたが書くことがオリジナルであること、そして先行研究のおかげで論文が書けていることを明らかに示すために、あなたは先行研究の引用をしなければなりません。
ちょっと難しいことを言いましたが、これが引用の根本思想です。上ではわかりやすいようにあなたの主張と理由の関係から引用を位置づけましたが、背後にはこうした考え方があることを知っておいて下さい。卒業論文など、あなたはいずれ大きなレポートを書くことになります。そのときは「巨人の肩に乗る」というフレーズを思い出してください。

【ある分野の勉強をするとき】
ある分野の勉強をするときになぜ本が必要か、も述べておきます。

本というのはたくさんのお金と労力によって出来上がります。つまり本の中に書かれてある知識が、それだけのお金と労力に見合うと筆者や編集者、出版社が考えたということです。

小説が好きな人なら、「本を買うときには表紙買いするといい」ということを聞いた事がある人や、経験則として知っている人もいるでしょう。表紙がいい、装丁がいい本というのは編集者に愛された本です。つまり表紙がいい本は編集者が愛するほどいい本だということです。

これは学術書の場合(編集者や筆者のセンスがそれぞれなので)あまり当てはまらないことも多いですが、そもそも論文が本になるとか講義や研究が本になるということが、小説がいい装丁をもらうことと同じくらい、論文や研究が読者に愛されたということを意味しています。小説と違って学術書というのは一般にあまり売れません。ですから本当に内容が良くて売れるもの、ちゃんとした読者や研究者がいる大学が買い取ってくれるものしか基本的には本として刊行されないのです。つまり、本になっているということが知識として妥当であることを示すある程度の目印になるのです。ただし、お金さえ積み上げれば本は刊行できてしまうので、出版社や著者はちゃんと確認したほうが良いです。また、いくら刊行されるだけの妥当な知識だとみなされても、よくよく吟味しなければ本当かどうかはわからないということを忘れないで下さい。特に研究する場合はそうした視点を忘れてはいけません。


1.本を用意する

あなたはレポート作成と自学のために本が必要であることをよく理解しました。ここから先は本の選び方、図書館での借り方、読み方、ノートの付け方、返し方、本屋での本の買い方、買った本の使い方を教えます。

 図書館を使う
 1.1 本を探す、選ぶ

本を探す、そして選ぶ。時間さえかければいくらでも取り返しがつくので必要以上に警戒する必要はありませんが、この後出来上がるレポートの質や知識の質は選んだ本で決まると言っていいでしょう。基本的に大学図書館で漁った本はマトモな著者がマトモな出版社から出している場合がほとんどなので普段のレポートぐらいなら気にしなくても構いません。とりあえずOMRISを使って本を探しましょう(公立図書館と大学図書館はたいてい同じOMRISというシステムを使っています。「本を探す」で紹介するコツを掴めば公立図書館でも自由に本を探すことができます)。書店、古書店で本を選ぶときに注意すべき点は後述します。まずは大学図書館で本を確保してみましょう。

 本を選ぶ

本の探し方の前に、本の選び方を知っておきましょう。

【本とはなんぞや】
本とはそもそも何でしょうか。本とはそもそも紙の束、物質です。ですから、枕にしたり重しにしてぬか漬けを漬けたり、美術のモチーフとして使ったりできるわけですが、これは私達が言及したい本とはちょっと違います。ここでは本の使い方の違いが重要になるわけです。本とは何事かが書かれたものです。私達の関心があるのはその書かれた何事かです。この何事かによって知識を得たりレポートを補強したりするわけです。
本は使い方が重要だ、と言いました。この場合使い方というのは読み方でもあります。読み方については後述します。

【目次を使う】
本というものには何事か(書かれているので、記述とも言います)が書かれています。しかし200ページも300ページもある中でお目当ての記述を見つけるのは簡単ではありません。

そこで役に立つのが目次です。レポートを書くとき、何かを知ろうとするとき、私達はレポートに使える、あるいは新しい知識を与えてくれる一行を探しています。その一行はかならずある話のあるテーマに属しています。目次は本に含まれているテーマの見取り図です。ですから、目当ての行が属しているテーマが分かれば、自ずと目当ての一行を探す場所も限られてきます。例えば万葉集について何事か知りたい、その記述を使いたいのなら万葉集というのがテーマです。この場合タイトルに万葉集と入っている万葉集についての本だけでなく、目次に万葉集と書いてある本も役に立ちます。万葉集のような大きなテーマなら書名だけでも欲しい記述を見つけられるかもしれませんが、もっと狭いテーマ(例えば萩原朔太郎の猫町についてとか)だと書名ではどうにもなりません。ここで目次を見ることが必須になってきます。
これは後述しますが、目次は読み方とも重要な関係があります。とにかく、目次は大事だと思っておいて間違いはないです。


レポート課題などで引用する一行を見つけるために本を漁る人はこの下のコラムは読まなくて良いです。

コラム
本を読む順番の問題
何事かある分野について知ろうとする初学者は、最初に読む本、本を読む順番というのをとても悩むと思います。

本を読む順番については大きく2つの考え方があると思います。教科書主義原典主義です。

教科書主義
はその名の通りまずは初学者向けの教科書を読めと言います。教科書主義の方々は良質な教科書を示してくれる場合と、いくつか新書・概説書を並行して読めという場合があります。良質な教科書がある場合は取り敢えずそれを読めば後はどんどん他の本へ進んでいけばいいという話になるのでしょうが、大概の教科書は紙面の都合上紹介しきれないトピックや省略の都合で誤解を招く書き方があったりする場合があり、こうした不足は原理的には拭えません。ですから、複数の教科書で食い違う記述を顕にすることでこうした欠点を明らかにしつつ、教科書に共通して書かれる基本通念は押さえることができるように複数の新書・概説書を並行して読むことが推奨されます。
対して原典主義は教科書に載るような名著の原典、これから知ろうとする分野の名著の原典を読むことを推奨します。日本語以外が原典の場合は元の言語で読むことが推奨されます。これは翻訳の問題があるからです(単純に刊行されている翻訳が古くて読みにくい場合や、原典の術語が向こうの語感でないと理解できないことがある場合など理由は様々です)。原典主義者の方々は多くの場合(翻訳も含めて)教科書の解説や学術書の分析は解釈を含むので正確ではない、少なくとも原典を読んだことにはならないといいます。哲学の場合こうした傾向は顕著です。特に古典を読む研究者は読解が仕事ですから、教科書だけ読むなんて考えられないわけです。実際、原典を読んで見ればわかりますが本物に触れるのと教科書で解説されるのは全然違います(これは翻訳書で原典を読んでも分かることですが)。例えば書き口や記述の性格は教科書ではわからないことです(カントはやたら一文が長いとか、ショーペンハウアーは類比がうまいとか、フッサールは石橋を叩いて割りそうなほど地味に進むとか、結構ちゃんとパラグラフ・ライティングしてるとか)。著作によっては日本語での研究があまり見られないこともありますし、その人物や著作に言及する以上は原典の読解は必須です。

さて、本を読む順番の話しに戻りたいと思います。僕は原典主義も教科書主義もどちらも正しいと思っています。ただ、どちらも欠点があります。教科書主義は必ず情報の不足や不正確が、原典主義はそもそも難しすぎて読めない場合や、その原典の歴史的背景や問題意識を知らずに読むことができないことが問題になります。本というのはそれ自体閉じたものでもありますが、開いたものでもあります。つまり、ある原典をそれだけで整合的に読んで理解することはできますが、同時にそうした読解や解釈がさらに解釈を生むという連鎖は、その本の周辺で起こっているし、その本の中でも多くの場合起こっているということです(例えばカントの純粋理性批判をそれだけで哲学書として読むことはできますが、カントの属する合理論の系譜とその問題点や、経験主義、特にバークリーの突きつけた問題と経験主義自体の欠点についてこの本がどういった応答関係にあるのかと言う読みも同時に成り立ちます。というより、多くの場合両方の読みなしにある本を整合的に理解することはできません)。なので、本を読む順番については原典主義と教科書主義、両方採用すべきだと僕は思います。要するにどっちから読み始めてもいいが、できるだけ早いうちに教科書と原典両方読んでおくのが良いということです。

本を読む順番の回答
教科書の不完全性と、原典が要求する知識量の両方の問題をクリアするためには、教科書と原典両方読めばいい。これが本を読む順番の問題に対する僕の回答です。一見問題が解決していないように見えますが、僕のアプローチは問題を解消することができます。つまり、順番によって生じる欠点を、順番がわからなくなるぐらい加速して交互に読むことで順番の問題を回避・解消すれば良いというアプローチです。

具体的には次のようになります。複数の教科書・概説書と問題の原典を借りてきて、とりあえず原典の序文を読んだり中身を拾い読みしたりしながら、どんな書き方か、何が問題か、どういう回答を考えていそうなのか見当をつけます。これは何日かかかったとしても一日に何時間もかけてはいけません。この時点で全然原典が読めないとか意味がわからないという場合はその本が何についての本なのか、歴史上どういった位置づけを得ているのかの知識が欠けていると思われるので、教科書の基本的な解説や訳書の訳者改題などを読むと良いです。背景知識を得たら先程と同じ様に原典を読み進めたり、同じ箇所を読み返したりして下さい。できるだけ原典の記述を自分の頭で追体験するように思考しておくのが望ましいです。著作のイメージが持てた所で概説書類を漁って、思想の全体像、他の著作を含めた思想の全体的なイメージをいくつか勉強します。大概の哲学者は教科書的なメジャーな読みと、ひっくり返したような読みの2つがあるので両方念頭に置いておくと良いです。ここまでくれば研究書と原典を行ったり来たりしながら原典を頭から尻尾まで読解・解釈して下さい。このとき他の読解との差異や共通点がわかれば理想的です。

以上が本を読む順番の問題への僕の回答です。障害が少なく理想的な読解がスムーズにできた場合を想定しているので、具体例のように行くことは簡単ではないと思います。特に、原典を読んで自分の読解のイメージを掴むのは誤読にならないようにすることが大切で、また一番難しいところだと思います。そこで、僕は学内の友人と読書会を開催していました。読書会についてはまた別のnoteで詳しく書く予定です。コレを見て興味がある、やり方がいまいちわからない、読解の面倒を見て欲しいという方は是非僕のTwitterアカウント(@nisshinngeppo_)にダイレクトメッセージを送ってみて下さい。学内者を優先しますが、何事かお手伝いできるかもしれません。


 本を探す

まずは大学図書館のホームページにアクセスしてみましょう。資料検索のページがあるので、そこの検索窓にいくつかキーワードを入れてみましょう。シラバスやレジュメで教科書的なテキストが示されている場合は取り敢えずそれを借りて、そこから参考文献を漁っていくこともできます。そうした本の紹介がない、適切なキーワードが思いつかない、あるいは上記の方法で必要な図書が十分に見つからない場合はNDC(日本十進分類法)を使って蔵書検索をすると良いです。

日本十進分類法(にほんじっしんぶんるいほう[1]、Nippon Decimal Classification[1]; NDC[1])は、日本の図書館で広く使われている図書分類法である。最新版は新訂10版(2014年12月発行)[2]。もり・きよし(森清)原編、日本図書館協会分類委員会改訂。(中略)分類記号に「0」から「9」のアラビア数字のみを用い、大まかな分類から細かい分類へと順次10ずつの項目に細分していく「十進分類法」の一つ。たとえば、「文学」は「9xx」→「日本文学」は「91x」→「(日本文学の)小説・物語」は「913」、というように下の桁ほど下位の細かい分類を表現する。(中略)日本の図書館における図書分類法のデファクトスタンダードであり、2008年の調査では公共図書館の99%、大学図書館の92%がこれを使用している(新規受入の和書の場合)[3]。検索や蔵書管理のための「書誌分類」や、また請求記号として資料を書架に並べる際の「書架分類」として利用される。また配架作業の効率化のため、本の背表紙などに分類記号を印字したラベルをはることが多い。
Wikipediaから引用(最終更新日6月15日、最終閲覧2020/07/12) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%8D%81%E9%80%B2%E5%88%86%E9%A1%9E%E6%B3%95

こうして本を検索すると図書のタイトルがズラッと並ぶので、書名から特に関連の有りそうな図書をクリックしてみましょう。図書にもよりますが、あらすじや目次を見ることができることが多いです。関係のない図書はコレを見てどんどん省いていきます。

スクリーンショット (137)
スクリーンショット (138)

ふるいをかけて残った図書は、所蔵館、配置場所、請求番号を控えておきます。スマホのカメラで撮影したりスクリーンショットしたりして、図書館ですぐに見られるようにしておくと良いです。基本的に図書館にも蔵書検索用のPCが置かれているので、追加で図書の検索をしたい場合や学校帰りにさっと寄る場合はそれを使うと良いでしょう。しかし、図書館でゆっくり蔵書検索するわけにもいかない(検索用のPCには限りがあり、利用者はそれより多いので)ので家で検索しておくのが懸命です。

目当ての本が見つかったら図書館に行きましょう。図書館の本はNDC順に従って収められています。館内案内図と控えておいた配置箇所、請求番号を見ながら探すと見つけられます。初めて図書館に来て館内図を見てもよくわからない場合、探しても本が見つからない場合はカウンターで請求番号を示してお願いすれば職員の方が持ってきてくれます。このとき当該図書の所蔵館には注意が必要です。研究科所属の図書や別の棟の図書は別途手続きが必要であったり、そもそも普段行く図書館には置いていなかったりするので簡単には借りられません。これもカウンターで相談して下さい。

 1.2 本を借りる

【借り方】
図書館で本を見つけたらカウンターへ持っていきます。市大の図書館(学術情報センター)は2階に貸し出し・返却カウンターがあります。図書カード、市大生は学生証をカウンターのPCで読み取り、貸し出し状況を管理します。この貸し出し手続きを経ずに図書館から本を持ち出そうとすると図書に仕込まれた磁気に入出ゲートのセンサーが反応してブザーがなります。結構恥ずかしいので注意しましょう。それから、図書カードは忘れてはいけません。大阪市立大学の場合はそもそも図書カード(学生証)を忘れると図書館に入館できません。気をつけましょう。

【図書の取り扱い】
基本的なことですが、借りた本を汚したり壊したり又貸ししてはいけません。紛失ももちろんアウトです。やってしまった場合はカウンターで相談しましょう。それから、意外と念頭にない人が居るようですが、本に書き込みをしたり線を引いたりするのはよくありません。付箋も、図書によっては(古い図書は特に)付箋の糊で印刷が剥げてしまうのでできるだけ使わないようにしましょう。本に書き込みをしたい、付箋を張りたい場合は購入しましょう。本を借りる以外に手に入れる方法は後述します。学術書は定価が高いものが多いですが、古書店などをうまく使うと安く手に入ります。各地の古書店やネットオークション、古本市などを使うと読書生活は随分豊かになります。

 1.3 本を読む=本を使う

先に「本の選び方」で本は使い方が大事だ、この場合使い方というのは読み方のことだと言いました。そのとおりです。重要なのは本の読み方=使い方です。もっと重要なのは読み方と使い方がイコールで結ばれることです。ここには、「本を読む」というのはいわゆる「小説を読む」ような読みだけを想定しているわけではない、という含意があります。

大きく分けて本には3つの読み方があります。拾い読み目次読み読解の3つです。後者になるほど時間がかかり、読み込みも深くなります。前者になるほど時間は短くすることができ、当該図書が全体として何を主張するかということへの関心は無くなっていきます。それぞれの読みはそれぞれ何を目的に本を使うかに対応します。例えばあるテーマについてある著者がどんなコメントをしているか、どんな主張をしているかを引用するには拾い読みで十分です。あるいはもう少し詳しくその著者がどういった理由を持っているのかも含めて主張を引用する際には目次読みが適当です。逆にその著者が全体としてどういった思想を持っているのか、どんな複雑な背景や整合性のもとにその主張をするのか(どちらかというとその整合性の方に)関心がある場合には、詳しく読解しなければなりません。

コラム
基本的に本の読みは開いた読みと閉じた読みの二元論と、逐語的な読みと肌感での読みの二元論の二次元(それぞれの二元論を縦軸横軸でとる)で理解することができます。もちろんここからさらに次元を追加することはできますが、基本は二次元で十分です。上で言及した3つの読み方は開いた読みと閉じた読みのスペクトラムから開いた読みとして拾い読み、閉じた読みとして読解、中間として目次読みを抽出してきたと考えれば良いです。これらはいずれも逐語的な読み寄りで理解されていますが、例えば閉じた読みで肌感での読みには小説的な読みが考えられます(もちろん小説にも様々な読解があるのでこうした名称は語弊がありますが、混乱する方は没入的な読みと読み替えて下さい)。こうした読書論については今後機会があれば図解付きで明かしていきます。

読み方が3つあるということは本の使い方が3つあるということであり、当然それに適したノートのとり方も3つあるということになります。以下では大きく分けて3つのノートのとり方について、それぞれ具体的なノートのとり方を詳しく示しながら見ていきます。

 ノートを取る

あなたは今、大学図書館から使えそうな本を借りてきました。そして、本というのは使い物で使い方に合わせてノートのとりようがあることを知っています。

ノートというのは紙だけではありません。写真や電子テキストなど、ノートにもメディアのタイプがあるのです。タイプによってそれぞれ弱点と強みがあります。例えば写真やテキストデータは部屋を圧迫しませんが、目に見えないうちにデータ容量を圧迫するのでこまめに古いものを処分したり、ハードディスクに移し替えたりしておく必要があります。対して紙のノートは物質的にかさばりますし、綴じられていないルーズリーフやメモ帳は紛失しやすく管理が大変です。また電子テキストに比べて古いノートを参照するのが(机の奥に押しやられたりして)面倒だったりします。写真や紙のノートと違ってテキストデータだけは引用する際にコピー・アンド・ペーストが使えます。その代わり目に見える紙や写真フォルダで勝手に一括管理される写真と違って、テキストアプリには様々な種類があるので、複数のテキストアプリを使う人はどこに何を書いたか覚えておく必要があります。いろいろ試して肌に合うものに拘るとよいでしょう。

コラム
ノートのメディアタイプを拘るべきかは実は人によります。机がごちゃごちゃしていてもどこに何があるかわかる漫画家タイプの人は複数メディアを空間的に使い分けても問題ない場合が多い、と個人的には思います。ただ自分がノートをとるときのそれぞれのスタイルは確定しておくほうが良いです。毎回ノートのとり方に悩むのは非効率です。自分のスタイルを見出して拘りましょう。

  拾い読み-引用ノートの仕方

レポートで本を使うときなど、簡単に引用したいときは拾い読みして引用ノートをつけると良いです。引用のためのノートのコツはできるだけ引用箇所の前後も切り出しておくことです。文章の中でのつながりが重要な場合など、案外その前後の文章が引用されることも少なくありません。この点ページを丸ごと撮影できる写真は手頃で効率が良いのでオススメです。ただし、書店などでおおっぴらに撮影するとコピーライトの問題などに引っかかって最悪捕まるので、買った本や借りてきた本で私的にやりましょう。
具体的な例をいくつか紹介します。

【写真で撮る】
スマホなどのカメラロールに溜め込んで、日付や順番で書籍を区別できれば引用ノートとしては十分です。特に短期間(3日、4日)でレポートを仕上げるときの引用メモはこれで事足ります。本の表紙や、本の中の著者や出版社などが1ページに載った書籍情報のページを撮影してから、拾い読みして引用したいところを撮影しておくと最初に撮影した情報が見出しになって便利です。ただし日をまたいで再度同じ本を読む場合に、別の本の写真が間に挟まるのがちょっと気持ち悪いかもしれません。
楽でおすすめできる方法があります。Twitterの裏垢を作って、撮影した写真と一緒に引用したいポイントについて一言添えて画像ツイートする方法です。同じ本の引用をリプライでつなげていくと書名は一度だけ書けば良いので便利です。

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この方法はカメラロールを圧迫しないし、相当古くなれば自動的にツイートは処分されてしまうのでノートの後始末に困らない(しかも中間レポートの引用で使ったものを期末レポートで再度参照するくらいの期間はたいていツイートが消えずに遡れる)というメリットがあります。

【手書きノート】
小さい紙切れやルーズリーフ、裏紙でも良いですが、バラバラになってしまう上に、何ヶ月かした頃に同じ箇所を引用するときにはもう無くなっていて使えない、なんてことがよくあります。ノートに書くときはできるだけリングタイプのバラけにくいメモ帳や、市販のいわゆるノート(キャンパスとか)を使うほうが何かと良いです。ただ引用箇所をまるまる手書きで書き写すというのは結構手が疲れるしオススメできません。スマホが使えない環境などで、簡易に何ページに引用したい文章があるかを(例えばページ数だけ)メモして後から該当ページを写真で撮ってしまうのが何かと便利でしょう(この場合メモ用紙は小さな紙切れで十分です)。

【PC・スマホでテキストアプリを使う】
引用箇所をコピペするための保存先でしか無いので、テキストアプリは最初から入っているメモ帳アプリぐらいで構いません。スマホとパソコンのメモ帳が連動している人は積極的に純正メモを使いましょう。テキストアプリのHow toはブログなどが充実していて見ていて面白いです。

スマホとパソコンの同期に拘る人はアカウント登録をして利用するテキストアプリを使うと良いでしょう。殆どの場合書いたものはアカウントに紐付いているので、ログインするアカウントさえ同じにしておけばパソコンとスマホでテキストを簡単に共有できます。例えばScrapbox, WorkFlowy, Evernote, OneNote, Google ドキュメントなどがあります。これは邪道だと思われるかもしれませんが、TwitterやLINEで自分だけのト-クルームやチャットルームを用意すればテキストの移動は楽になるし、済んだテキストは放置すれば勝手に消えるので処理に手間取りません。個人的には中途半端にテキストアプリに拘るよりはこういう邪道で簡便に済ませるほうが頭を使わなくて良いと思います。ただ、テキストアプリにはテキストアプリなりの強みがあるので、そこに強い魅力を感じる人は是非使っていただきたいと思います。いずれもブラウザ上で動くのでパソコンにアプリをインストールしたくない、パソコンの保存領域を圧迫したくない人にもおすすめできます。

【十分な広さのあるEvernoteとOneNote】
Evernoteは十分な入れ子構造とスマホでのインデント機能、チェックリスト作成の簡便化、アプリ内蔵のカメラ機能には文字情報を抽出し見やすくする機能が備わっており、何よりウェブクリップと言う強力な個性を備えたテキストアプリです。アウトライナーとしての機能とメモとしての機能の両方を兼ね備えた万能アプリだと思えば良いでしょう。Evernoteに拘る人もいっとき前は多かったのですが、今は課金勢で本格的にこれを管理できる人じゃないとおすすめしません。というのも、Evernoteは無課金利用だと保存できるデータ量に大幅な制限がかかるからです。迷う人はとりあえずOneNoteが使いこなせるか試しましょう。ウェブクリップがしたい人とOneNoteとOffice Lensを一つのアプリで同時に使いたい人以外はOneNoteでこと足ります。

【音声入力が得意なGoogleドキュメント】
GoogleドキュメントはGoogle chromeで使うとアプリの導入無しで比較的正確な音声入力が可能になります。Chrome以外のブラウザではデバイスの音声認識に頼るらしく、音声認識能力がガクッと落ちることに気をつけましょう。Googleドキュメントを使うときはGoogle chromeで。Googleドキュメントは音声認識なしでもそれ自体シンプルで使いやすいテキストアプリです。グーグルアカウントに紐付いたクラウド上の保存容量で保存されるので、デバイス本体の容量を圧迫しにくいことや、複数のグーグルアカウントでドキュメントを共有できることが強みとしてあります。ドキュメント側の共有操作でGmailを入力すると対象者のメールにドキュメント共有のお知らせが届くのも便利。また自動保存であり、wordへの変換にも対応しています。

各アプリの紹介記事
OneNote

Evernote

Googleドキュメント

ScrapboxとWorkFlowyはそれぞれ目次読みとアウトライナーとして適しているので後述します。

  目次読み-目次ノートの仕方

-はじめに
「方針(とりあえずここを読んで下さい)」で、このnoteや自己啓発本、How to本のような行動のコツについての本は「目次読み」が基本になると言っておきました。

その名の通り、目次読みとは目次を目安に読んでいくことです。目次とは本のテーマの見取り図です。ある本がどんなテーマを扱っているのかが、目次を見ればわかります。それだけではありません。目次が示す章立て、その章の「見出し」は、各章が何を書いているのか、各章で問題になっていることは何かを明らかにします。これは各章の内容は「見出し」に要約されていると言っても過言ではありません。いや、ホントは少し過言です。なので目次読みは目次の見出しを補足する様に、目次と見出しに対してノートを追加していきます。要するに目次に対して1つか2つのポイントを抜き出して書くのが目次読みであり、目次ノートです。

これは以下で紹介する具体例を見たほうが理解できると思います。まずは紙で取るノートから。

【紙ノート】
実は参考文献表などが結構大事なので、紙でノートをとるよりはパソコンで打ち込んで当該図書のURLを添えたほうが実用的です。ただ、紙ノートはデバイスの電源を入れずとも目次を見返すことができるメリットがあります。この場合目次ノートをせずとも目次が書いてあるだけで読解が楽に進められる、ということですが、目次ノートにメリットがないわけではありません。例えば目次ノートのメリットはその読解の失敗しにくさに比して読了までの時間が読解と比べて大幅に短く済むということです。このとき目次ノートはノートに書くなら1行から2行に収めるのが大事です。目次ノートの読了までの時間の短さはノートする内容をセーブすることに由来します。できるだけ短い文章で各章、各節の解説を終えなければならないので余分な記述に気を取られること無く集中して先へ先へと進んでいくことができます。

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上の写真はチェイス・レン『真理』の目次ノートです。見開きのノートで本の半分以上の情報を完結にまとめています。この手書きノートはPCで打ち込み直してnoteにしたので、そちらも参考にして下さい。

【テキスト】
テキストアプリで目次ノートを取る場合は、Microsoft wordなどで段落番号を追加して目次を書き込むと楽です。上で紹介した目次ノートや、下で紹介する読解のノートもそうですが、一度手書きしたものをパソコンで打ち込み直すのも意外と勉強になります。手書きのノートではなんとなく過ごしていた箇所が、「実はわかっていなかった」なんてことはよくあります。こうした抜けを再確認したり、テキストに起こす段階でノートの抜けを修正したりすることでノートの正確性を高められます。

【Scrapbox】
基本的にはwordなどのテキストアプリで十分ですが、せっかくなのでScrapboxを紹介します。Scrapboxは自分が書いたノートのタイトルを、別のノート内で[]で囲んで書き込むと、ノート間で参照関係を作ることができるアプリです。[]に動画やウェブサイトのURLを入れると普通にリンクになるので、ネット上のものを簡単に参照できるノートを書きたい場合にも便利です。例えば予め目次の章立てを[書名 何章]などにしておくとざっくり書いた全体の章立てのページから、各章のノートに飛べるようにできます。

スクリーンショット (143)
スクリーンショット (141)

便利で格好いいですよね。ちなみにScrapboxはプライベートな使用や特定個人との共有の他、URLを介して全世界的に公開することもできるので、コツコツ勉強してある日突然読書ノートをバーンと公開する、なんてこともできます。

Scrapboxの紹介記事

-おわりに
目次ノートは読書の基本です。以下で紹介する読解ノートもこの延長線上にあると考えて下さい。そのため、本を正確に効率よく使うために最初は目次ノートに慣れて下さい。さっそく目次ノートのノートテイクをこのnoteに使ってみましょう。

なお、目次読み、目次ノートは読書猿氏の「読書の杖」の翻案に当たります。原典主義の方はこちらへどうぞ

  読解-読解ノートの仕方

読解は先に提示した3つの読み方の中で一番深い読み方です。演習講読の授業など、授業で読解が指導されたのでない限り、レポートでここまでの読みが求められることは普通ありません。ですが卒論レベルになると必須です。

【紙ノート】
綴じられたノートにガッツリ書き込むのがおすすめです。理想的なノートは内容の要約と、解釈、当該内容に関する文献表の3点がノートされていることです。まずは各箇所の要約からやっていきましょう。

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写真はほぼ要約のみのカンタン・メイヤスー『有限性の後で』の手書きノートです。解釈や疑問点の提起はこの手書きノート以外のノートでメモしているので、そちらが合流して参考文献表が作れれば理想的な読解ノートになります。
またこの手書きノートも打ち込んで再編集し、noteとなっています。

【テキスト】
書き込みが縦横無尽になるので、紙のノートのほうがいい場合が多いです。もし後述するやり方で本を(借りるのではなく)買った場合には、本自体への書き込みを前提にパソコンなどでのノートも考慮に入ってきます。この場合要約、解釈、文献の三点を表で分類しながらノートできるようにすると尚良いと思われます。

自分は性格的に文献解釈に文字数を割くので解釈や考察は読解ノートとは別に用意してそこで管理しており、文章読解のノートと解釈は頭の中で対応付けていることが多いです。参考文献は解釈でメモしておくことが多いですが、まだ別途管理するほど多くの文献を扱うことがないのでまだ何とも言えません。

文献表と言えるものはついていませんし表で分類しているわけではありませんが解釈と要約が揃う例として、ショーペンハウアーのnoteがあります。こちらは今後ノートすることがあればここに追記する予定なので電子タイプのノートの一例として見て下さい。

なお、こちらも基本的には読書猿氏の「拡張レーニンノート」の翻案です。原典主義の方はこちらへどうぞ

 1.4 本を返す

借りた本は返さなければなりません。図書館のカウンターか、図書館外の返却ポストに本を返しましょう。大学図書館、公立図書館ともに多くの場合返却期限は2週間です。2週間で読みきれない場合は返却期日までに延長手続きをすれば貸し出しを延長することができます。ただし返却期日までにその本の予約者がいた場合は返却しなければならないので、注意しましょう。返却期日を過ぎて返却した場合は延長した日数と同じ日数貸し出しサービスを受けられなくなるので、返却期日を過ぎてしまった場合は早めに返すよう心がけましょう。

 1.5 本を買う

どうしても返したくない、手元においておきたい本、付箋を貼ったり書き込んだりしたい本は買ってしまいましょう。お金に余裕がある学生は「読む気がする」本も買っておくと後々役に立ちます。図書館の本には限りがありますし、貸し出しにも期限があるので本を持っているに越したことはないです。また、書き込んで自分仕様にした本は愛着が湧いて魅力的なアイテムになるだけでなく、再度参照する際に非常に役に立ちます。それから、本格的に読解する際は原典かそうでなければ訳書を買っておくのが良いです。読解は2週間では済まない長期的な作業になるので、返却期日のある貸し出し図書では不便です。読書会をする場合や講読の授業に参加する場合も買っておくことが基本です。

【定価で買う】
書店や各書店のオンラインショップを使って定価で購入します。いわゆる新品を買うということです。安い中古品が出回っていない比較的新しい本や、(中古では書き込みされやすい)語学書や参考書などは新品で買うことをおすすめします。買いたい本が決まっている場合はAmazonでPrime Studentに登録して3冊以上同時購入するとポイント効率が非常によく、お得に買物ができます。買いたい本が決まっていない場合や時間に余裕があるときは書店へ行ってみましょう。ざっと書棚を回るだけでも最近どんな本が刊行されたのかわかりますし、出版社、書店が行っている各種キャンペーン(いわゆる読書フェアなど)は読書案内にもなります。実際には本を買わなくてもこれだけで書店に行く価値はあります。帰りには各出版社が出している刊行図書案内冊子などをもらって帰ると良いでしょう。帰り道で読みましょう。

Prime Studentでお得に買い物するクーポン

【中古で買う】
中古で買うと定価より安く買える場合が多いです。逆に絶版になった図書など定価での販売がされておらず、高価な中古図書しか流通していない場合もあります。どうしても買いたい絶版図書、定価より安く買える中古図書がある場合は中古で買うことをおすすめします。

中古で本を手に入れる方法はいくつかあります。実際に古書店に行くほか、古本市、オンラインの中古販売、ヤフオクなどのオークションサイトなどを使うこともできます。Amazonの中古最安値の他、「日本の古本屋」という古書のオンラインショップでの価格、ヤフオクで販売されている値段など見比べると各種ショップの相場がわかります。

中古図書が高いか安いか判断するのはなかなか難しいですが、古本屋や古本市をめぐって場数を踏むうちにわかってきます。ちなみに京都より大阪の古本市のほうが最低価格は低い傾向にあります。その代わり京都の古本市は京大周辺の古書店から本が集まるので学術書が充実する傾向にあります。古書に何を求めるかに応じてどこで買うかも選ぶと良いでしょう。オンラインショップを使うときの送料はもちろんですが、古書店巡りをする際の交通費も考慮に入れたほうが良いです。特に買う本が少ない場合、購入する図書の値段と交通費を考慮するとオンラインで買うほうが安い場合や、場合によってはAmazon(送料無料)で定価購入するほうが安いこともあります。古書店巡りや古本市に行く場合は、大量に購入するか、本を仕入れる以外の価値を見出しておくことをおすすめします。定価販売している各種書店をめぐるのと同様、古書店巡りでも様々な本との出会いがあります。古本市や古書店は学校図書館や普通の書店では見かけない本を見かける最大の機会といっていいでしょう。

コラム
古本屋に行ったらぜひやってほしいのが100円200円コーナーで新書を漁ること。これはブックオフや古本市場のような大型チェーンでもできる手軽な方法で、しかも結構役に立ちます。

1. まず二千円握りしめて古本屋に行く
2. 100円コーナーの新書を物色する
3. おもしろそうなもの、いつか読みそうなものを20冊ほど買い占めて帰る

こうして軍資金二千円でレポート4,5本文のネタが手に入ります。同じネタを他のレポートでも使えばもっと費用対効果はもっと高くなります。一度試してみましょう。

日本の古本屋

大阪の古書店、古本市

京都三大古書まつり

 1.6 買った本を汚す

本は使ってなんぼです。購入した本は遠慮せず書き込んだり付箋を貼ったりして使って下さい。
有名な思想家たちも頻繁に本への書き込みをしています。例えばフッサールは自分の思想を深めるため、自分の著作の欄外に大量の書き込みをしていました。

清水書院の「人と思想シリーズ」『人と思想72 フッサール』の序論にその事が書いてあります

また経済学者のヨゼフ・シュンペーターは常にオレンジ色の紙片を持ち歩いており、思いついたことを書き止めて本に挟んでいたといいます。没後シュンペーターの蔵書を整理してみると手沢本(欄外に書き込んだ本)が3500冊、紙片は1504枚も見つかったそうです。

シュンペーターの逸話

シュンペーター文庫

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各段落の要約やポイント、関係する本の参照先や、思いついたことなどを余白部分に書き込んでおきます。こんなふうに書き込んでおくと、各箇所でどんな話がされていたのかをサッと見返すことができます。

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書き込むのに抵抗がある人は、後で見返しそうな場所、興味のある場所に付箋を貼っておくと良いでしょう。話題によって色分けしたり、興味の度合いで付箋のはみ出す長さを変えたりすると、付箋一つで色んなことを憶えておけます。

2.集中する

【集中するために何が必要か】
「集中するために何が必要か」と考えることは集中の妨げになります。いくつかの集中するための方法と、集中が切れたときの対処を紹介するので、自分にあった方法を選んで拘って下さい。

【はじめる→集中する】
これは色んなまとめサイトや啓発本に書いてあるとおりですが、人間は取り敢えず作業をはじめてしまえば15分ぐらいは自然と集中できるようにできています。こうしたスムーズな集中の流れを妨げるものとして、はじめることの困難と、15分集中していることの困難があります。

 はじめるのが難しい

基本的に勉強をはじめるときには、ノートを開くとか特定の椅子・場所に座るとか深呼吸するとか、ルーティーンを持っている事が望ましいです。ルーティーンがあれば「その動作をすれば集中する」ということが習慣化するので、簡単に集中状態に入れます。また、勉強を終えるときの集中を切るルーティーン(ノートを閉じるとか片付けをするとか)もあると、ダラダラと集中状態を続けて疲れることを防げるので併せて推奨します。

【勉強する気がしない】
そもそも別に何はなくとも勉強をはじめるのは難しいです。ゲームとかショッピングとか他に楽しいことがあると人間は自然とそっちへ流れてしまうものです。パスカルが良いことを言っています。

一〇四
われわれの情念が、われわれに何ごとかをさせるときには、われわれは自分の義務を忘れてしまう。例えば、ある本が面白いと、ほかのことをしなければならないときでも、それを読んでしまう。けれども、その義務を思い起こすためには、何か自分がきらいなことをしようと思い立つことである。そうすれば、ほかにしなければいけないことがあるという言い訳をすることになり、この方法で自分の義務を思い出すようになる。
パスカル, 前田陽一, 由木康 訳, 『パンセ』, 中公文庫, 1975年, 79ページ

要するにやらなきゃいけないことよりも、もっとやりたくないことを念頭に置けば、それ以外をやることは何でも苦ではなくなるということです。例えばあなたは数学が苦手で嫌いだとして、大量の数学の課題が出されると普段おろそかにしている英語や社会の勉強が捗ったり、面倒だった部屋の掃除が捗ったりするなんてことがあります。これに類する経験は多くの人がしているでしょう。勉強せずにゲームをしてしまう場合は、行きたくないバイトのこととかやりたくない家事のことを考えてみて下さい。この方法は長期的に効果があるわけではありませんが、短期的な起爆剤には十分なります。

【勉強にうんざり】
勉強すると恐ろしく時間が取られたり、疲れたりするということが予感されて勉強したくないと言う場合もあります。これは勉強をより効率化して、勉強しても時間がかからない、疲れないという成功体験を繰り返すしかありません。手っ取り早く効果があるのは勉強する時間を何時までときっぱり決めて、いくら中途半端でも絶対にそこで勉強をやめることです。時間の制約があれば集中力も増しますし、ほかのことをする時間も確保できます。また、勉強するのが趣味になればいくら時間がかかっても苦ではなくなります。

【肉体的な疲れ】
体がひどく疲れていて勉強を始められないということもあります。ハードな部活帰りやアルバイトで肉体労働をした後集中できないということや、ずっと同じ姿勢で勉強を続けていて疲れている、疲労が蓄積して何が原因ともわからないがとにかく疲れているということもあります。肉体的な疲れはオフロに入ってリフレッシュしたり、ストレッチで体のこりをほぐしたりしてから眠気対策をしておくと勉強できます。また、体の疲れを癒やすために質の良い睡眠を取ることも重要です。7時間以上寝たほうがいいとか、90分周期のどこかのタイミング(3時間、6時間、9時間睡眠)で起きるほうがいいとか言われますが、個人差があるので何とも言えません。より重要なのは入眠時の状況と日中の活動です。紹介すると長くなるので以下の記事や動画を参考にして下さい。

【ぶっ通し疲れ】
同じ作業や勉強が長続きして疲れている場合は、一度散歩に行くとか軽い運動をして体の筋肉をほぐしたほうが良いです。特にオンライン授業などで同じ姿勢で作業を続けていると体が凝り固まって血の巡りが悪くなります。できるだけ太ももを動かして全身の血が循環するようにして下さい。太もも(大腿四頭筋)を動かす運動は、循環促進効果もあると考えられています。

大腿四頭筋と循環

また、同じ科目について勉強を続けていて行き詰まった場合は、他の科目に一度切り替えたり、日を改めたりするとストレス無く進めることができます。お試し下さい。

【自律神経の乱れ】
疲労の原因がわからないぐらい疲れが蓄積している場合は、生活リズムが乱れていたり、睡眠の質が悪かったりして自律神経が乱れている可能性があります。
自律神経系にはリラックスを管理する副交感神経と、緊張や集中を司る交感神経の2種類があります。多くの場合副交感神経から不調をきたすので、リラックスできない、うまく眠れない、最近ずっとテンションが高くてずっと集中できる(交感神経だけが働いている状態)などに心当たりがある人は副交感神経がダメージを受けている可能性があります。時間が取れるなら気兼ねせずゆっくり休んだほうが良いです。

【何もする気がしない】
疲れているかどうかは分からない(むしろそんなはずはないと思う)のだが、とにかくやる気が出ない、しかも他に何もする気がしないというときは丸一日何もしないほうが良いです。人間何もせずにいられないものなので次の日には元気になっているはずです(これでダメなら一度医者に行ったほうが良いです)。

また、悩みごとがあると作業を始めるのが困難になるだけでなく、はじめた後の集中も妨げられてしまいます。

 続けるのが難しい

上で少し触れましたが、悩みごとがあると目の前のことに集中するのは難しくなります。なんとか勉強をはじめてみても悩みごとがあると途中でそっちが気になって集中が途切れてしまいます。悩みごとというのは漠然とした不安から、次の予定、ベランダに干した洗濯物と天気、やりたいゲーム、買いたい本、あの子の気持ちから肌荒れ、ささくれ、鼻炎、歯痛、肩のこりまで様々です。とにかく気になることがあると意識がそっちへ向いてしまうので集中の妨げになります。

【悩みごと】
対処のために実際に悩みごとを解消してしまう方法もありますが(風邪とか体の痛みとかはこっちで対処して下さい)、それが困難な場合は悩みごとを書き出すことをおすすめします。この方法は手軽で効果的です。やり方は簡単で、人に見られない手書きのノートなどを用意して1ページ使っていいので心配事を全部書き出して下さい。これでノートを見返せば心配事については改めて集中して考えられるので、今は一旦忘れて目の前のことに集中しましょう。集中力の持続には瞑想や深呼吸によるリフレッシュも役に立ちます。吸う音、吐く音を集中して聴いてみましょう。ポイントは意識を現在に向けることです。未来の出来事についての悩みや過去の出来事についての反省から切り離されることが集中への第一歩です。

【休憩不足】
長時間ぶっ通しでの作業や、休憩を抜いたりすると持久力がなくなって集中できる時間は短くなります。こまめに休憩をとってその都度しっかりリラックスして下さい。水分補給やストレッチを怠ってデスクワークを続けると体調不良の原因になるので注意しましょう。可能なら数時間ごとに散歩に行くとか家事をするとか別の用事をして下さい。体が凝り固まることと思考が凝り固まることを防ぎます。

 ポモドーロ・テクニック

長時間ぶっ通しでの作業は集中力を奪い非効率になりますが、あまり休みすぎても勉強はできません。この微妙なバランスをクリアして効率を上げる技術がポモドーロ・テクニックです。

ポモドーロとはイタリア語で「トマト」のことで、発案者の大学生がトマト型のキッチンタイマーで時間を区切って勉強したことからこのノウハウは命名されました。発案者のフランチェスコ・シリロによると、人間が最も集中できるのは集中25分休憩5分だそうです。この「25+5分」を1ポモドーロと呼びます。ポモドーロ・テクニックは以下のステップで成り立ちます。効率よく勉強したい人は是非試してみて下さい。

1. 終わらせたいタスクを決める。
タスクは大きいものでも小さいものでも何年も先延ばしにしたものでも、何でもよいです。ただしタスクは自分が注意をそらさず完全に注意を向けられるものでなければなりません。(このとき「やることリスト」を用意しておきましょう)

2. タイマーを25分に設定する。

他のことをせず、ただただタスクに25分間費やすことを自分に誓って下さい。たったの25分ですから、やればできます!
3. タイマーが鳴るまでタスクを行う。
25分の間タスクに没頭して下さい。やるべきことが他にもあると気づいたら、紙に書き留めて下さい。

4. タイマーが鳴ったら作業を終了し、「やることリスト」にチェックマークを付ける。
おめでとう!あなたは中断なく25分間タスクをやり遂げました。

5. 5分間の短い休憩を取る
深呼吸したり、瞑想したり、コーヒーを飲んだり、仕事とは関係のないことをして脳を休ませましょう。

6. 4ポモドーロごとに20〜30分の長い休憩を取る
新しい情報を取り入れたり、次のポモドーロに備えて脳を休ませたりしましょう。

シリロのホームページから翻訳 https://francescocirillo.com/pages/pomodoro-technique

参考

アプリもあります

 効率を上げる

勉強の効率を上げることによって疲労感を減らし、より楽に勉強することができる他、無駄な時間の短縮を見込めます。

【コーヒーを飲む】
コーヒーに含まれるカフェインには集中力の低下を防止する効果が認められています。またコーヒーが苦手な人でもカフェインが含まれている食品や飲料は多く、お茶などで摂取することもできます。お茶に含まれるカフェインの量はコーヒーの約半分ぐらいですが、1回あたりのカフェイン摂取の適量は200mg未満と言われていて約コーヒー一杯分なので健康志向ならお茶で十分です。ちなみに、仏教では瞑想で眠ってしまわないように茶を飲む風習があったとか。エナジードリンクなどにもカフェインが含まれますが、こちらはその他の飲料のようにカフェインの吸収を成分が入っていなかったり、ジュースのような飲みやすさから大量に飲んでしまったりすることでカフェイン中毒を起こす場合があるようです。コーヒーなどカフェイン飲料を飲む場合は一日の摂取量に気をつけましょう。またカフェインに体がなれてくると集中力維持などの効果を期待できなくなるので、一週間で5日間飲んだら2日は飲まないようにするなどして下さい。

ネスレ コーヒーの効果

EFSA カフェイン 

適量

カフェイン中毒

お茶の歴史

【早歩きをする】
体内の血液循環を良くするものとして太ももを動かすことの重要性は上でも言及しましたが、例えば早歩きや散歩、ダッシュ、ウォーキングは認知機能の向上につながるかもしれません。激しい運動によって認知機能の向上が見られるという研究結果が発表されているのです。またこの効果はカフェインの常飲者に顕著に見られるようです。

ストレス軽減のためには緑のある公園に散歩に行くことをおすすめします。「緑の効果」(Green Effects)や「バイオフィリア効果」(Biophilia Effect)として環境デザインの世界ではよく知られているのですが、自然界の風景、緑の風景に触れると人間はストレスが軽減され認知能力や身体能力の回復が見込まれるといいます。2019年のある研究によるとストレスを軽減するという「緑の効果」は視覚刺激よりも嗅覚刺激において強い効果を発揮するそうです。朝露に濡れた森に囲まれたキャンプ場などを思い起こすと、実体験として納得できるかもしれません。

模造品の植物を鑑賞するだけでなく、実際に緑のあるところまで歩いてみましょう。道中ハードな無酸素運動などもしておくと、緑の効果でのストレス軽減だけでなく、ウォーキングの有酸素運動も含めて認知機能の向上が望めます。

日本語での紹介

論文

緑の効果についての論文

カフェイン摂取の習慣と運動が注意力に及ぼす効果についての別の論文

3.レポート

あなたはここまでの所で本の選び方、ノートの付け方、本の扱い方、そして集中して仕事をするコツを学びました。ここから先あなたはいよいよ書き方について学びます。

コラム
書く力と読む力は相関関係にあります。どちらかの能力だけが高いということは基本的になく、どちらの能力もお互いの能力を伸ばすのに必要になります。というのも、あなたが読むものもあなたがこれから書くものも同じ書かれたもの(エクリチュールとも言う)だからです。基本的には書く力と読む力はエクリチュールに親しみ、理解し、再構成する力です。本を読むことができないのに(つまり本がどんなものか知らないのに)、本を書くことはできません。また本を書くことを知らずに(つまり本が生まれるとはどういうことかを知らずに)、本を読むことはできません。読む力と書く力は一緒に成長します。ですから、よりよく本を読むことを志す人はよりよく本を書くことを、よりよく本を書くことを志す人はよりよく本を読むことを志す必要があります。ここで紹介する書き方のコツは、読み方のコツと対になって初めて意味があります。また読み方のコツも、書き方のコツと対になって初めて意味があります。だから冒頭「そもそもなぜ本が必要か」でレポートとは何かを述べておかなければならなかったのです。

 お題を確認する

問題文を間違えれば答えも間違うことになります。レポートで課されたお題は何だったかよく確認し、お題文をよく読みましょう。出された課題の問題文を読み間違えるというのは意外と起こるものです。気を抜いてはいけません。
また、お題によってレポートのタイプが分かれるのでそのことも確認しましょう。レポートの基本形は冒頭の「そもそもなぜ本が必要か」で述べたような、問いに対して主張と理由を述べる回答型です。ほかにも、回答型のうち問題提起を自分で行わせる問題提起-回答型や、単に問題提起だけを要求する問題提起型、指定のテキストの読解やある分野についてのリサーチをするよう指示し、その結果をまとめさせる報告型などがあります。

【回答型】
回答型レポートはすべてのレポートの基本です。問題は自分で作ることも先生が指定することもありますが、ともかくその問題に答えるのが回答型です。回答型レポートの評価ポイントは、回答の妥当性、主張とそれを支える理由の妥当性です。主張の妥当性は突き詰めれば理由の妥当性です。主張が一見常識的でなくとも、妥当な理由によって読者を説得することができればその主張は妥当になります。理由の妥当性には、主張を支える根拠となる事実や理論、主張をするための論証の妥当性などが含まれます。この理由の妥当性が最終的にレポートの善し悪しを決めることになります。

例えば「笑いとはなにか」というお題を課されたとしましょう。そしてあなたは「笑いとは予測が現実と一致しなかったことによる感情である」という主張をするとしましょう。このとき主張の理由として「人は普通そうなると思ったことがそうならなかったときに笑う」ということを挙げれば、これは主張を支える根拠となる事実を挙げたことになります。また主張の理由として「笑いの不一致説」(例えばショーペンハウアーの笑いについての理論やベルクソンの理論)を挙げれば、これは主張を支える理論を提示したことになります。引用の仕方は後述します。

また、理由の提示はずっと遡ってすることができます。例えば「人は普通そうなると思ったことがそうならなかったときに笑う」という事実が挙げられましたが、これを事実と他の人に認めさせるには、いったんこの事実を主張として扱って更に理由を示すことができます。例えばこの事実の具体例として、ミルクボーイの漫才「コーンフレーク」を取り上げ「この漫才が笑えるのは話題の朝食について、コーンフレークかと思ったらコーンフレークとはぜんぜん違う特徴が述べられたときである」ということを言えば、これは先に上げた事実を主張する理由になります。漫才の具体例によって、最初の主張を支える事実を補強したわけです。
論証の妥当性というのは、主張や事実について理由を述べるやり方が客観的で正しいかどうかということです。妥当な論証の形式については後述します。

笑いの理論

ミルクボーイの漫才

【問題提起型】
問題提起型は問題提起が課題になります。問題提起-回答型なら問題提起さえできればあとは回答型と同じなので、やっぱり課題は問題提起です。問題提起とは問題をたてるということです。問題にはYes Noで答えられる問題(「連峰は晴れているか」)とYes Noで答えられない問題(「笑いとはなにか」)があります。できるだけ自分で問題を設定する場合は前者の問いにしておくといいです。というのも、レポート課題の字数制限は概ね2000字から4000字で、これだけの字数では大した問題には答えられないからです。問題をたてるときにはできるだけ問題を細かく分解し、何が問題であるかをはっきり示すことが大事です。例えば「笑いとはなにか」という問題も「笑いの意味とはなにか」「笑いの契機(笑いに共通する条件)とはなにか」といったもう少し詳しい問題に分解することができます。
ここがミソなのですが、問題提起-回答型レポートは必ずしも問題から作る必要はありません。というのも、授業に関連するレポートを自由に書くよう指示された場合は、その授業に関連する文献を、そうでない場合も適当なある分野の文献を4,5冊読むと何らか底から言える自分の意見というのが見えてきます。拾い読み-引用ノートから事実を寄せ集めて、そこから導き出される妥当な主張を構成し、それに合致するように問題を立てればあなたが提出したいレポートは完成します。
またそもそも、問題提起の良し悪しというのは妥当な答えが返せるかどうかによります。例えば「地獄の釜は丸いか四角いか」という問題は、検証も考察もしようがありません(文化史的に地獄の釜の表象を分析することはできても、実在する地獄の釜そのもの―そもそも存在するかどうかもわからない―について妥当な言明をすることはできません)。こうした答えようのない問題は妥当でない問題として低く評価されます。ですから、良い問題提起をするためには妥当な答えが返せることが必要で、それを手っ取り早く知るには自分が妥当な答えを作ってしまうことですから、問題提起をする上でも妥当な主張、妥当な理由というのは重要になります。極端な言い方をすれば、妥当な主張と理由を挙げる方法を熟知していれば、すなわち回答型レポートに親しんでいるならば、問題提起型レポートは問題なくこなせるということです。そういう意味では問題提起型レポートの基本は回答型レポートです。

【報告型】
報告型レポートの評価はリサーチや読解の正確さに依存しますが、これは結局高校時代に習った国語や情報基礎の問題、リテラシーの問題です。引用の仕方を間違えなければ、後は引いてくる情報が信頼に足るものなのかを判断するための経験値と、文章を正しく読む国語力の問題だということです。演習講読などで輪読する文章のレジュメや、一般教養科目で「~について調べてきて」と言われて作るレジュメもここに入ります。
また報告型レポートは、調べてくる内容についてそれがなんであるかを書くレポートという意味では「問題の文献やリサーチによると~とはなにか」という問題に答える回答型レポートとも言えなくはありません。問題提起型と同様、報告型も基本は回答型レポートなのです。

 期限を確認する

レポートは期限を守らないと受け取ってもらえないので、必ず提出期限を確認しましょう。提出方法によっては提出期限の時間制限がその日一日中というわけにはいきません。レポートボックスへの提出の場合など、レポートボックスが入っている建物の開いている時間によっては、夕方など提出できなくなることもあります。また先生が提出日に一日中学校にいられない場合など、事情があって先生が提出期限を時間まで示してくれることも多々あります。日付だけでなく時間も確認するよう、よく気をつけましょう。

期限というと苦い顔をする人も多そうですが、期限には期限でそれ自体良い効果があります。つまり、制限時間を設けられることによって私達の集中力が上がることです。期限までに完成しなければならないので(確かにそれまではいくらでも推敲できるのですが)できるだけ効率よく文献を収集し、活用し、立論し、レポートを書くことが要求されます。期限は期限。期限までに提出できなければレポートの意味はありませんから、ちょっとずるいなと思っても「拾い読み-引用ノート」などを活用してスマートに効率よく書きましょう。

 アウトラインはレポートの設計図

スマートに効率良く書くための方法としてアウトラインをご紹介します。アウトラインとはレポートの設計図です。アウトラインには問題と、それに答える主張、それを支える理由を書きます。書き方は人によって様々ですが、大きく分けて2つの書き方があると思います。堅実なアウトラインと没入的アウトラインです。

【堅実なアウトライン】
最も間違いがなく、スムーズにレポートを書き始められるアウトラインは、主張と理由が目で見てわかるように書かれたものです。例えば次のようなものです。

アブストラクト
0.問題提起 笑いとはなにか
1.主張 笑いとは予測と現実の不一致による感情である
2.論拠 人が笑うのは予測と現実が一致しなかったときである
 2.1 ミルクボーイの漫才の分析
3.論拠2 笑いの不一致説は優越説、安堵説よりも優れている
 3.1 不一致説の説明
 3.1.1 ショーペンハウアーの理論
 3.1.2 ベルクソンの理論
 3.1.3 不一致説の定式化
 3.2 優越説の説明
 3.3 安堵説の説明
 3.4 3つの理論の中で不一致説が優れている理由の説明
4.結論 笑いとは予測と現実の不一致による感情である
参考文献表

慣れないうちはwordのアウトラインモードなどを使って階層的に書くことを学びましょう。

堅実なアウトラインを書くときに気をつけることは「問題」「主張」「論拠(理由)」をはっきり分けて書くこと、それぞれを言い切ることです。本当はレポートに書くとおりのことを信じていなくても、納得できなくても「こうだ」と言い切ることが大事です。レポートを読む教員はあなたが本当はどう思っているのかなんて知りません。レポートが評価される時に問題になるのは、ただ書かれてあることにきちんと理由がついているかだけです。もし意地の悪い友達に、普段の言い分とレポートが違うじゃないかと言われたら「考えが変わったんだ」と言って軽くあしらいましょう。

不一致説、優越説、安堵説の区別はこちらの記事を参照

人はなぜ笑うのかを問うた哲学者ショーペンハウアー、ベルクソン、バタイユの理論の簡潔な紹介

コラム
話は少しずれますが、ここでレポートや主張などに教師以外からとやかく言われることについて少しお話します。

人と主張を強固に結びつけて非難することは褒められる態度ではありません。特にその人の普段の悪態を理由にその人の真剣な議論を蔑ろにすることや、直感的に受け入れられない主張をしたことによってその人の人格を攻撃するのは多くの場合理不尽とみなされます(そもそも人格を攻撃する事自体良いことではありませんが)。

ここには人と主張は分けて考えるべきだという考え方があります。これは一般に学問の世界で苛烈な議論をする人々の間では共通認識として広まりつつあります。主張に反論されるたびに心が傷ついていたのでは議論を続けられないからです。

ただ注意すべきことは、こうした共通認識は苛烈な論争が繰り広げられる哲学などの学問分野では広く認められていますが、そうでない分野(の特に初学者)や学問に親しみのない人々の間ではあまり認められていません(というよりそうした態度があることすら知られていません)。なので、信頼できるプロやお互いによく知っている相手ではない限り、相手の主張に苛烈に反論したり批判をまくしたてたりするのは危険です。相手は自分の人格が攻撃されたと思うこともありますし、実際にそうして傷ついたり、こちらに反撃のつもりで精神攻撃を仕掛けてきたりするかもしれません。特にTwitterなどのSNSではこうしたことに注意しましょう。

【没入的アウトライン】
様々な問題意識を立ち上げて、一つの巨大で複雑な論考を目指す場合に役に立つアウトラインの書き方があります。それは没入的アウトラインです。没入的アウトラインを使いこなせば、長大な文章や複雑な階層構造を持った論考の扱いに慣れることができます。

ですが、それだけのリターンがある分、リスクの大きいアウトラインです。結論から言ってしまえば、没入的アウトラインはレポートをまるまるボツ草稿にしてしまうことがあります。というのも、没入的アウトラインはアウトラインならざるアウトライン、思考の中へと直接入っていき、論拠と主張の複雑な関係に直に触れながらそれらを整合的にまとめあげようとするパワープレイのことだからです。

というのはつまり、どういうことでしょうか?

没入的アウトラインは以下のステップによって成り立ちます。

0. 本を読んだり何かを体験したりして刺激されたことを頭の中で醸造する
:レポートのお題や授業のテーマ、それに関して読み漁った本や気分転換に読んだ本、体験したことなどを早くから心のなかに大量に溜め込んでおいて、このステップでは集中して2,3日の間それらのことについて悩みます。「ウーン」と唸るぐらい悩んでおくと良いでしょう。

1. 頭の中で動いている文字列を全部書き出して記述ブロックを作る
:本を読んだ感想や、ある主張についての意見、自分自身が思うその問題についての正しいこと、自分の主張やほかの論者の主張を正当化するたくさんの理由(理由としての事実)、それら事実の正確性や、それら事実に対する受け取り方についての意見、今はまだ他の記述との関係性が見えてこない思いつきやひらめき等々のことを、それぞれタイトルを付けながら大量に書き出します。ここでタイトルを付けて書き出した記述の塊一つ一つを仮にブロックと呼びます。
こうやって書き出す作業に入る前に書かずにしっかり「ウーン」と唸りながら悩むことを続けていると、この作業で書き出す記述の数は多く、質も良くなります。またできるだけそのようにして無自覚な問題意識に基づいて悩んでおくと、書き出される記述も一つの方向へまとまりやすくなります。

2. 書き出したブロックの順番を入れ替え、引用の準備をし、問題意識を呼び覚ます
:書き出したブロックの順番を入れ替えたり、ブロックの記述を書き足したり消したりしながら、何が問題になっているのか考えます。このときできるだけ具体的な本や引用元についてのメモ、引用する文言などをブロックとして関連する場所に書き入れておくと、思考が問題の事柄から外れるのを防ぎつつ問題へのシンクロ率を挙げていくことができます。最終的にはこのステップで自分が何を問題にしたいのか、何に問題意識があるのかを一応形にします。

3. 問題意識に沿ってブロックの網目構造をリニアに並べ替える
:問題が形になれば、それに沿ってブロックを整備していきます。具体的には問題から離れて関係がないブロックを削除し、問題に答えるための材料になるブロックを集めて何度も並び替えつつ、それぞれを説明する理由のブロックとその理由ブロック同士のつながりを明らかにしながら、ブロックの網目状の構造をだんだん理解し、その構造についての直感を読めるものにするように縦横に並び替えつつ、リニア(直線的)な文章として編集していきます。この中で網目の構造そのものや、そこから浮かび上がってくるもののどれかが問への答えとして自覚されるので、問と答えを意識しながら、そこへ向かうようにブロックを並べ替えると次第に文章の形へと変わってきます。

4. 並べ替えたブロックをアウトラインとして、レポートを何度も書き直す
:こうしてブロックの正しい順番がわかったら、さっきまでの文章をアウトラインとして一からレポートを書き始めます。このときステップ3がうまく行っていないと、書き始めたレポートをまた第2のアウトラインとして、ブロックを並べ替えて引用を整理し、また改めて一からレポートを書き始めることになります。筆者の場合この全文書き直しの回数は平均3回です。ステップ3までで約1週間以上かかるので、多分その頃には同じことを考えすぎて頭がおかしくなっているでしょうが、逃げてはいけません。理性を働かせてあなたが組み上げた問題意識と記述のブロックのユイツの正しい並べ方を見つけ出して下さい。これは逃げなければ必ず見つかります。ただし、この全文書き直し作業は約4日、もっと長いと1週間ぐらいかかります。この段階に来ると他の課題を並行処理できないレベルになると思うので、課題のスケジュール管理には最新の注意が必要です。

見ての通り没入的アウトラインはパワープレイです。もちろんかかる時間も馬鹿になりませんし、他のことができないレベルで同じ主題を考えることになるので恐ろしく非効率です。ですが私の知る限り、没入的アウトラインはとても長い文章を自分で納得して書くための唯一の方法です。また、インプットが長期に渡ってなされたものや主題がはっきりしているものは、この方法を使うと短時間のうちに長くて含蓄のある文章を書くことができます。(ちなみに僕の書くnoteの殆どはこの方法の様々なアレンジで書かれています。)

『思考の整理学』は知識を醸造し思考にしていくプロセスについて詳しい。没入的アウトラインを書くには必須の知識であるが、一般に思考する感覚を持たない人には良い処方箋になると思う。

千葉雅也の書くことへの態度は没入的であるが、有限性という節度によって堅実でもある


しかし、あくまで基本は【堅実なアウトライン】です。期限付きのレポート課題に挑むあなたは、まず【堅実なアウトライン】で何度もレポートを書き、学生生活やレポート課題に馴染んで下さい。そうした生活の中で、自分の興味のある分野についてたくさんのことを学び、改めてそれをまとめて書き出したいと思ったときには【没入的アウトライン】で本気で納得して書くことを体験して下さい。
これから【堅実なアウトライン】を修めようとする新入生のあなたにも【没入的アウトライン】の概要を見せたのは、あなたの書く質素でスマートな物書きの先には、どっぷりと浸かるような享楽的で没入的な物書きもあるのだと教えたかったからです。
ここから先は【堅実なアウトライン】で書くことを前提に話していきます。

【紙】
アウトラインを紙に書くのは最もポピュラーで簡単な方法です。アウトラインは直接本文にならないし、短いレポートなら構成した階層構造がコピペしたいほど複雑で長いものになることはありません。そのため、レポートを書き終わった後のアウトラインはおおかた処分することになります。裏紙にしたりして簡単に捨てられるので、紙のアウトラインは処分に困りません。また、問題提起や主張を考えるときに紙を使うのが便利なので、その延長線上でアウトラインも紙で書くことが多くなると思います。
ちなみに、問題提起や主張を考えるときは、他の論者の主張や、それを支える事実、自分の見解(一つに決めなくて良くて、矛盾してもたくさん書き出すこと)などをマインドマップのように書き出して関係を線で結んだり、そこにメモを追加すると楽です。

【WorkFlowy】
テキストアプリを使う場合にはアウトラインモードがあるアプリが便利です。パソコンでの作業の場合はwordのアウトラインモード(タブ一覧→表示→アウトライン)が簡易で便利です。またスマホアプリにはインデントを組み上げる機能がついたテキストアプリも多いですが、中でもWorkFlowyははじめからアウトラインモードで進行するアプリで、アウトラインでしか書くことができないというシンプルな仕様が特徴です。ブラウザで開くことができるほか、アカウント登録でアカウント間のテキストの同期が行われます。アウトラインの各項目を横線でチェックする機能によってチェックリストとして運用することもできます。

テキスト上にアウトラインを書くことのメリットはインデントの管理によって理由の階層構造を視覚化しやすいことです。もちろん手書きでもできますが、一部の下部構造を非表示にしたり、ほかのテキストアプリにデータを共有したりコピー・アンド・ペーストするには紙よりもテキストアプリが適しています。テキストアプリはアウトラインからレポートへの以降がスムーズなので、書き上げたアウトラインに直接書き足して膨らませてレポートを作りたい人はテキストアプリの使用をおすすめします。また階層構造が複雑なものは電子上でアウトラインを作って、それを加筆修正するようにレポートを書くと楽です。

また、WorkFlowyはアウトラインだけでなく様々な使い方があります。次のリンクは倉下のWorkflowyの使い方の記事です。

 アブストラクトは読者に向けるレポートの見取り図

ここでアブストラクトについても述べておきましょう。アブストラクトとはいわゆる「概要」で、よく研究論文の頭についているやつです。論文(あなたの場合はレポート)がこれから何を主張するのか、どんな方法でそれを主張するのかを完結にまとめた文章をアブストラクトといいます。普段課題で出される分量のレポートは短いのであまり複雑な章節構造を構成することはありません。よって、レポートはたいてい目次が付きません。目次のないレポートが読者にとって読みやすいものになるように、目次の代わりにアブストラクトをつけるのです。アブストラクトは「このレポートの問題は何で、どんなふうに何を主張するか」の見通しを読者に与えます。これがないと誤読されてしまうとか、最悪の場合誤読の結果低い評価を受けるということもありえます。レポートを提出する相手がいくら読解のプロだとしても(またそうではない教員もいます)素人のあなたの書いた文章が読めるように書かれていなければ、誤読はおおいにありえます。できるだけチャリタブルに(つまり書き手の私達に味方するように)整合的に読んでもらうためには、アブストラクトで筋を通しておくのが一番です。
アブストラクトは、アウトラインができた段階で書いて、アブストラクトを拡張する形でレポートを書くやり方。アウトラインからレポートを書き上げて、アブストラクトを最後に書くやり方。大きく分けてこの2種類があります。ただ、書いているうちに主張や理由を訂正することや、論を進める方法を変えることもあり得るので、アブストラクトのとおりにレポートが書けるわけではなくありません。この場合は書き上げたレポートの本文に従ってアブストラクトを修正することになります。逆に、書き上げたレポートを読み込んでアブストラクトを作る中で、レポートに不整合やおかしな点が見つかって、アブストラクトに従ってレポートの筋を通すための修正をすることもあります。この場合後から書いたアブストラクトに従ってレポート本文を修正することになります。「どちらから出発した場合にも必ず書き直さなければならなくなる」ぐらいに思っておいて下さい。ただし、最も間違いがないのは修正の余地のないアウトラインに従って書くことです。レポートの設計図であるアウトラインが修正の余地ない出来であれば、アブストラクトから出発しても本文の執筆から出発しても書き直しが起こることはありません。できるだけ良いアウトラインが書けるよう心がけながら繰り返しレポートを書くといいでしょう。

 書く

さあ、いよいよ本文の執筆です。

 パラグラフごとに主張を構成する

先のアウトラインを参考にレポートを書いていくわけですが、それぞれの節の中では意味ごとに段落を分けて、それぞれの段落が1つのことを主張し、それに続く行はその主張を説明したり理由を示したりするようにします。

これはパラグラフ・ライティングと呼ばれる論文書きのルールで、読者が文章を間違えずに読みやすくなる効果があります。大学入試で勉強した英文のほとんどがこのパラグラフ・ライティングに則っています。また大学で学ぶ英語の文章もパラグラフ・ライティングになっているので注意してみてみましょう。

パラグラフ・ライティングにはいくつか入門書がありますが、ウェブ上にも簡潔な書き方の案内があります。例えば以下のページを読みながら自分の文章をパラグラフ・ライティングになるように心がけてみて下さい。

とてもわかり易いパラグラフ・ライティングの実

  妥当な推論の形式

レポートは主張と理由でできています。そして、主張と理由を結んでいるのが推論です。

例えば「地面が濡れている、雨が降ったなら地面が濡れているはずだ、さっき雨が降ったはずだ」という文章(文章1)について考えてみましょう。「さっき雨が降ったはずだ」というのが主張です。「地面が濡れている」「雨が降ったなら地面が濡れている」というのが理由です。

そして、ここには理由から主張にいたるまでの推論が隠れています。ここでの推論は、文章1を次のように記号化するとわかりやすいです。「B、A→BのときA」(文章1‘)。「→」は「ならば」の記号化で、論理学の世界では条件法といいます。B、A→Bが前提でAが結論です。これが文章1に隠れていた推論ですが、これは間違っています。論理学を知っている人ならこれが誤った推論であることはすぐわかると思いますから、今回は文章1で考えてこの論証のおかしなところを示しましょう。

「地面が濡れている」というのは事実なので疑いようがありません。また「雨が降ったなら地面が濡れているはずだ」というのも正しい(妥当であるというのと同義です)でしょう。ですが「さっき雨が降ったはずだ」という主張はこれらの理由(だけ)からは正しいことにはなりません。なぜなら、水撒きとか水道管の破裂とか、雨がふらなくとも地面が濡れていることはあるからです。文章1の推論を正しくするには、雨以外の地面が濡れる理由すべてが否定されることを示さなければなりません。

このようにして、主張と理由の関係は吟味され、推論の妥当性は主張の妥当性を評価する基準の一つとなります。

これで、理由があっても必ずしも主張が正しくなるわけではないこと、理由によって主張を正しくするには正しい推論の形式に則っていなければならないことをわかってもらえたと思います。

正しい推論形式にはモーダスポネンス、モーダストレンス、場合分けによる証明、背理法、帰納的論証、仮説演繹法、アブダクション、アナロジーなどがあります。以下にその形式を一覧にして並べておきます。自分の論証が正しいかどうか不安になったら、この一覧表と自分の論証を見比べて下さい。

モーダスポネンス(modus ponens)
AならばB。A。ゆえにB

モーダストレンス(modus tollens)
AならばB。しかしBでない。ゆえにAでない。

場合分けによる証明(constructive dilemma:構成的ジレンマと訳す)
AかBのどちらかである。AならばC。BならばC。ゆえにいずれにせよC。

背理法
Aでないと仮定して論証すると矛盾してしまった。したがってA。

帰納的論証
aもpである。bもpである。cもpである。…したがってみんなpである。

仮説演繹法
Hという仮説が正しいならば、Bが成り立つはず。じっさいBである。したがって多分H。

アブダクション
Aということがすでにわかっている。Hという仮説をおけば、なぜAなのかがうまく説明できる。他になぜAなのかをHと同程度に説明できる仮設はない。したがって多分H。

アナロジー
aは重要な点でbと似ている。bについてはcということが成り立つ。多分aについてもcが成り立つ。

レポートとそこで使う論証の形式については戸田山『論文の教室』6章が詳しい

 引用

学部生のレポートは引用の技術で決まるという人もいるぐらい、正しい引用の仕方は大事です。引用で気をつけることは、引用文の書き写し方、出典(参考文献)の示し方です。

noteのような特殊な媒体では直接URLを貼ったりすることで出典の記載などを省略してしまっているので、(間違った引用の仕方はしていませんが)レポートのときに参考になる引用の仕方はしていません。教員の授業資料での参考文献の示し方や、授業中指示される引用の仕方にまずは忠実に従って下さい。

各教員の指示する引用の方法と筆者の紹介する方法が食い違っていては混乱させてしまうので、ここでは引用の具体的な方法は紹介しないことにします。基本的には教員の指示に従い、指示がない場合は教員の執筆した文章(論文など)の引用の仕方を真似すれば良いと思って下さい。

特に指示がなく、そもそも引用の仕方がわからない、教員の引用の仕方もよくわからないという人は以下に紹介するサイトなどを参考にすると良いでしょう。

また引用の使い方として3つのタイプがあります。賛成反対補足です。

【賛成引用】
引用する文章に賛同できる場合に、自分の主張を補強する形で引用します。「俺はこう主張する。同様の主張がAからもなされており、これは別の理由による」というように多方面から自分と同様の主張を肯定することで主張の説得力が増します。

【反対引用】
自分の主張に対する反対意見として引用します。「私はAと言っている。別の論文は反対にBと言っている。しかしBはこれこれの理由で正しくない」というようにすると、自分の主張への反対意見が潰されて間接的に自分の主張の説得力が増します。

【補足引用】
例えばレポートでは触れられなかった研究領域の代表的な論文などを挙げて、レポートの主張から言えることを示唆すれば、主張の及ぶ範囲を広げ、レポートでの問題提起や主張の意義を深めることができます。

最後に一つ注意喚起があります。引用はレポートの主張の説得力を上げてくれるので、積極的に使うべきです。ただし自分の主張や考察よりも引用文のほうが長いレポートは(報告型レポートならともかく)自分の主張がない、自分で十分な考察ができていないレポートとして低く評価されます。引用は自分の主張あっての引用です。用法用量には注意しましょう。

コラム
1本のレポートを仕上げるのに何冊の本を読むかは、レポートが属する研究分野や学生の性格によって様々です。
いわゆる古典と呼ばれる著作を取り扱うレポートは事前に4~5冊ぐらいの概説書・新書を読んでおけば引用はほぼ古典1冊で済むという人もいますし、僕のように概説書はほとんど読まずに古典を読んで、論文を3~4つほど参考にする(場合によっては古典しか読まない)という人もいます。また、社会学や現代形而上学などで自分の主張を立ち上げるタイプのレポートだと僕の場合は教科書や論文などを適当に引きながらそれらを手がかりに自分の主張をたてるのですが、これも古典的な社会学の名著や主要な文献だけ引いて済ませてしまう人もいるようです。また言語学や社会学のレポートで(製本された)本は使わず論文を中心に引用するケースも多いと思います。これは別にどちらが良いとかどちらが悪いということはありません。課題と自分に一番あった本の読み方、引用の仕方をするのが良いということです。
ただ忘れてはいけないことは、ここで挙げた人たちは皆同様に1回生、2回生の間にレポートの書き方や本の調べ方についての授業を各々受けているということです。まずは基本を憶えて、使っていくうちにその形式に自覚的になりましょう。しだいに学問ごとのやり口や自分の肌に会うやり方というものがわかってきます。

 読み返す

ここまでのことをマスターすれば、レポートを書くのは苦ではなくなります。問題は書き直し、推敲です。書き上げたら必ず日をまたいで読み返すようにしてください。誤字脱字の訂正はもちろん、論証の妥当性や、引用の仕方、主張の一貫性など基本的なところから確認して下さい。特に徹夜で書き上げたレポートや一日で一気呵成に書き上げたレポートは抜けや失敗が多くなります。客観的に見て読める文章かどうかもしっかり確認しましょう。一度印刷して読み返したり、他の人に読んでもらったりすると良いでしょう。信頼できる友人に読んでもらうのも手ですが、同じ様にレポートに煩わされている相手を気遣うなら、家族などあまり学術的文章に親しんでいない人に読んでもらうのもいいかもしれません。逆に友人と互いに論文を読みあってお互いに問題を指摘して完成度を高めるのも一つの考え方です。一度提出したら訂正はできないので、悔いのないように確認しましょう。

 提出方法を確認し、正しく提出する

おめでとう!あなたはレポートを完成させました。しかし教員の手元に届かなければ意味はありません。授業の曜日、時限、授業名、自分の名前と所属(学部学科など)、学籍番号、提出日を明記して教員の指示した仕方でレポートを提出します。

4.勉強を続ける

課題が終わって遊びに行く、ゲームをする。構いません(僕もゲームは好きです)。ですが「もうちょっと勉強していればもっと早くレポートが書けたのに」とか「普段から勉強してれば本を探すのももっと楽だったかな」とは思いませんか。

レポートが課されているときのような集中力で勉強し続けるのは簡単ではありません。ですが長く緩やかに本と付き合っていくことで、勉強はもっと身近なものになります。勉強が身近になれば、短期的に集中して勉強するのも難しいことではありません。

本と仲良くなるのに一番手っ取り早い方法は、読みきれない量の「読みそうな気がする」本を買って、積み上げておくことです。積み上げるというのは文字通り本を積むのです。これを世間では「積ん読(つんどく)」といいます。積ん読は世間一般にはあまり褒められませんが、読書家の中では常識的な行為です。部屋に積み上げられた物質としての本は、存在感を増し、こちらに「取りて読め」と語りかけてきます。そうした環境で生活するうちに、暇があればなんとなく本を開くことが常態化するでしょう。ここまでくればあなたの勝ちです。本に親しみ知識を吸収することで、あなたの視界は開け、思考の幅も次第に開けてくるはずです。

ここまで来るのに大事なことは有限化、言い換えれば「諦めること」です。世界には無数の本があり、あなたが学部生の間に一つの分野の本を読み切ることさえできないでしょう。本を買い込み積ん読することは、そうした無限の読書を「諦めること」、買い込んで有限化した本を読むと決め込むことになります。勉強の大敵は「あれかこれか」と何をするか、何を読むか悩んでしまうことです。こういうとき迷いを断ち切るのは、自分の好みだったり、本屋での偶然の出会いだったり、根拠のない有限化です。授業での図書案内や、教授のおすすめの本、読書フェア、教科書の読書案内やこの記事の読書案内が、そうした有限化の装置として働きます。積極的に使って下さい。

勉強するときに大事なのは、与えられた図書リストや偶然の出会いを運命のようにみなし、鵜呑みにして、一瞬だけバカになることです。迷いを断ち切らなければ何かになる(何かを修めた、何かを知った人になる)ことはできません。そしてまた新しい情報にさらされて自分が「凝り固まっていてキモい」ことに気づくことが、新しい段階に入るきっかけになります。

勉強における有限化の大切さと、勉強の哲学については千葉雅也『勉強の哲学』を見て下さい。

勉強の哲学

有限化の大切さについてのインタビュー

 道連れにして勉強する

有限化の方法として、期限を設けるということがあります。例えば難しくて一人では読めない本を読み切るためには、同じ本を持った人で集まって、お互いにレジュメを切るように強制力を働かせることが効果的です。これを読書会と言います。こうした有限化としての読書会の効果と方法は読書猿氏の次の記事が参考になります。

また、読書会には読解をすり合わせてお互いの読みを精密にする段階があります。こうした読書会の作業の効果や、その他の恩恵については普段僕が実施している読書会や哲学史の勉強会を具体例に、改めて記事を書くつもりです。

5.読書案内

権威的かつ面白みのある、学部生目線の読書案内をします。

思考の整理学
外山滋比古による思考とメモについてのエッセイ…なのだが、正直説明するのは野暮だとおもう。何刷も刷られており中古が激安なうえに、そもそも定価が高くないので騙されたと思って買って読んだほうが良い。


論文の教室
哲学者・論理学者の戸田山和久による論文の書き方講座。とても読みやすい文体で書かれており、レポートの書き方はこれで学ぶのが一番良い。このnoteを読む以上の時間の余裕があるなら、論文の書き方については正直これをよく読んだほうがはるかに役に立つ。書き方がわからない学生必携の書。


大学生のストレスマネジメント -- 自助の力と援助の力
大学生活で直面するストレス全般に言及し対処法をわかりやすく教えてくれる本。これからレポートを書く学生はとりあえず1章、2章を読んでみよう。恋愛・人間関係の悩みやゲーム依存についても詳しい。

読書について
ショーペンハウアーによる名著とも言うべき読書論。基本的には原典主義というか古典主義なのだが、ここで主張されるのは意外にもアンチ読書論。つまり「あんまり本なんて読むな」という本なのだ。本の読み過ぎで自分で考えられなくなった哲学者たちを、ムキムキの文体でボコボコに批判するのはいつ読んでも痛快。ただし、この本を部分的に鵜呑みにしてはいけない。彼は本の読み過ぎを批判するが、彼自身はカント研究者としてキャリアをはじめた哲学者だった。彼が本当に主張しているのは、限られた人生でよりよく読書するためには(悪書を避け)古典を積極的に読み、考えるときは本やメモに頼りすぎてはいけないということだ。


読んでいない本について堂々と語る方法
ピエール・バイヤールによる超エキサイティングな読書論。書物をわれわれの語りが生み出すスクリーンとして捉え直すことで、原典主義ではありえない本の読み方、語り方を紹介する。単純に文学論や読み物としても面白い。


夜は短し歩けよ乙女
言わずと知れた森見登美彦による小説。ここで紹介したいのは2章109-111ページの少年の読書論だ。彼は「本はみんなつながっている」という。書物の参照関係はテキストと作者の関係によって網目をなしていて、孤立した本というのは考えられないという思想だ。これは上で紹介したバイヤールの1章でも展開される読書論だが、森見はそれをみごとに古本市で示してみせた。一読する価値あり。アニメ化もされている(そのシーンも有る)。


記号と事件―1972‐1990年の対話
哲学者ジル・ドゥルーズによるインタビュー集。ドゥルーズ自身インタビューを嫌ったので、貴重なインタビュー集ではあるし、ドゥルーズ自身がドゥルーズ哲学について語るドゥルーズ哲学の入門書的な位置を占めていることもこの本については重要である。だが、インタビューでガタリとの共著『アンチ・オイディプス』に言及する際に繰り返し「自分たちの本は機械だ」と言っていることに注目して欲しい。ドゥルーズはたびたび本を機械と称しアプリのようなものとして扱う。これは本を参照関係のある網目の上の点としてみなすのではなく、孤立して読者と相互関係する装置としてみなす思想だ。上で紹介した森見やバイヤールの思想とは対をなす思想として頭に入れておくと、本を読むやり方にバリエーションが増える。アプリ(機械)として作られた本として『アンチ・オイディプス』や、國分功一郎によると(NHK 100分で名著)スピノザの『エチカ』がある。


アンチ・オイディプス

エチカ


読書論としてPSYCHO-PASSの槙島聖護が面白いことを言っている。これはアプリとして本を読むことの一つの具体例かもしれない。


本の話をしよう
長田弘の『本の話をしよう』ではハードとしての本についての面白い考察が読める。


どんな仕事も「25分+5分」で結果が出る ポモドーロ・テクニック入門
ポモドーロの発案者本人が執筆したHow to本。


倉下忠憲のブログ
倉下忠憲がテキストアプリなどを使った整理術に詳しい。デジタルデバイスで文章を書いたりメモを整理する人にはとても参考になると思う。


要点で学ぶデザインの法則
緑の効果やバイオフィリア効果もここに載っている。デザインに関する心理効果について学びたい人や、デザインの理念について知りたい人にはおすすめの良本。英語ならアルファベット順に各項目が並んでいるところ、翻訳しておいて並べ替えていないのでそこはちょっと不便。しかしデザインのプロがデザインしているだけあってレイアウトは見やすく各項目も印象に残りやすい。
心理学的な効果の勉強になるだけでなく、創作物はもちろん自分の学習生活をデザインする上でも役に立つ項目があるので一石二鳥の良書。


志学数学
数学者による数学研究の心得本だが、学問を志す人なら誰でも刺さると思う。


勉強の哲学
千葉雅也によるドゥルーズ的・ラカン的・ウィトゲンシュタイン的な勉強の哲学。「勉強とは、保守的で教科書を鵜呑みにするような態度(バカ)から外れてキモくなることだ」という洞察から、ドゥルーズのサド・マゾ論を下地にいかにしてキモくなるか、そしてまたいかにしてバカに戻る(バカに成りなおす)かを論じる。4章ではその具体例としてアウトライナーやEvernoteの活用例が示される。千葉は哲学者・ドゥルーズ研究者であるが、ビジネス書の文体を模倣することでとてもわかり易い・読みやすい体裁になっている。


各分野のレポートで使える教科書と古典

【古典を読みたい教科書主義者へ】

オックスフォードのReadings in Philosophyシリーズ
古典を読みたい原典主義者は、取り敢えず訳書を読んだり訳書を片手に原典を読んだりすれば良いのだが、教科書主義者が古典に当たるにはReadingsを使うと良い。Readingsは古典作品の抜粋がメインの本で、英語圏では古典作品に触れられる教科書として親しまれている。各出版社から様々なものが出ているので各自調べてみると良い。
日本にはこういうスタイルの本はあまりないが、アリストテレスについては有名なものがあるので下で紹介する。


アリストテレス哲学入門
日本で読めるアリストテレスのReadings。出隆によるアリストテレス哲学の入門。著作の抜粋をつかってアリストテレスを紐解いていく。


ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』を読む
Readingsではないが、野矢茂樹による『論理哲学論考』の丁寧な読解が読める。野矢茂樹主催の読書会か演習講読に参加する気分で読めてとてもいい。


田中美知太郎全集 プラトン1~4
日本で読めるプラトンの概説書。田中美知太郎によるプラトン哲学の読解。抜粋の数はReadingsとまではいかないが、ギリシア古典の大家なのでまず間違いない。

筑摩の増補版全集21~24がプラトン1~4にあたる


【哲学の教科書・入門書】
自分は哲学科なのでちょっと詳しく紹介します

西洋哲学史―古代から中世へ (岩波新書)
熊野純彦によるタレスからデカルトまでを扱う。古典の抜粋をしながら流れるような文章で哲学の歴史を追っていく。

西洋哲学史―近代から現代へ (岩波新書)
上の続編。


西洋哲学史稿
九鬼周造による西洋哲学史の名著。ちょっと古い言い回しや漢字が難しいと思われるかも知れないが、宮沢賢治や江戸川乱歩が読めるなら難なく読めるはず。というより、想像以上にわかりやすくてビックリすると思う。


ヨーロッパ諸学の機器と超越論的現象学
現象学の祖であるエドムント・フッサールによる西洋哲学史。「西洋の哲学は歴史的に見て現象学に収斂するのだ」という壮大なことを主張しようとする本であるが、デカルト以降の哲学者の理解には眼を見張るものがある。
市大生は「哲学史演習・講読」がこの本を取り扱っているので、「哲学史通論」をとってから、この授業を履修することをおすすめする。


反哲学入門
木田元による哲学の入門書。古代ギリシアの形而上学(存在の考え方)から、カントの近代哲学、ハイデガーの存在論へと大股に哲学史を渡り読者を哲学の世界へ導く。


言語哲学大全
飯田隆によるラッセル・フレーゲ以降の言語哲学の概略と問題を扱う良書。現代哲学に親しみたい人はこれを読んでおくと良い。


現代存在論講義
倉田剛による現代存在論の入門書。わかりやすくて丁寧な文句なしの良書。


形而上学レッスン
テオドア・サイダーによる現代形而上学の包括的な入門書。議論も良質。


論理学
野矢茂樹による論理学の入門書。

論理学を作る
戸田山和久による論理学の入門書。野矢と戸田山どちらが肌に合うか見比べてみると良い。


現代哲学のキーコンセプト 真理
チェイス・レンによる現代真理論の入門書。とてもわかりやすい。
現代哲学のキーコンセプトシリーズは他にも、確率、因果性、非合理性などがある。

この本は以前noteとしてまとめておいた。目次とブックガイドぐらいにはなる。


ワードマップ現代形而上学: 分析哲学が問う、人・因果・存在の謎
色んな分野の入門書が揃うワードマップシリーズのうちの1冊。現代形而上学のトピックを概観したい人、文献案内を見たい人向けの入門書。


饗宴
短くて手に入りやすく読みやすい古典。哲学書に触れたことがない人が初めて古典に触れるにはこのあたりが良い。

方法序説
こちらも、短くて手に入りやすく読みやすい古典。


構造素子
樋口恭介によるSF小説。言語論的転回以降の「言語=世界の限界」ということのイメージを掴むにはちょうどいい。


生物から見た世界
哲学書ではなく、生物学の思想書なのだが、ユクスキュルの「環世界」概念はコペルニクス的転回以降の主観主義の「世界」をイメージする役に立つ。またこの本自体興味深い実験と考察を含んでいる。


【その他の分野のおすすめの文献】
哲学以外の入門書・教科書を紹介します。

現代思想の教科書
石田英敬による現代思想の教科書的な総まとめ。メディア論を専門にする筆者の目線から、学生に身近なスマホや広告を例に取りつつ現代思想が取り組んできたテーマを明快に示す良書。


人文地理学への招待
地理学の入門書・教科書。


ワードマップ 現代文学理論
ワードマップシリーズの一つ。ソシュール、バフチン、バルトなどを参考に文学理論について紹介する入門書。


リサーチ・リテラシーのすすめ 「社会調査」のウソ
社会調査の様々な誤用を批判する新書。社会学、心理学など社会調査を扱う場合にはまず読んでおくと、適切な資料を見分けたり、引用するときに使い方を失敗せずに済む。


モラルの起源――実験社会科学からの問い (岩波新書)
亀田達也による社会学、心理学と倫理学をまたぐ新書。社会や倫理に興味のある学生、レポートで取り扱う学生におすすめできる良書。


言語学の教室 哲学者と学ぶ認知言語学 (中公新書)
野矢茂樹と西村義樹による言語学の新書。初学者におすすめ。


教育入門(岩波新書)
教育学の読みやすい新書。


街場の教育論
内田樹による教育に関する11の話が載っている。教科書ではないが、教育学関連の良書。


想像の共同体
ベネディクト・アンダーソンによる言わずと知れた名著。ナショナリズムについて言及するならこの一冊があると便利。そしてナショナリズムに言及する機会はままあるので複数のレポートで使える。


マックスウェルの悪魔―確率から物理学へ (ブルーバックス)
哲学でも、因果の向きや時間の向きについての議論で、エントロピーという熱力学の概念に言及することがある。また情報量の増大という意味で人文学でもエントロピーという言葉を使うことがある。そのエントロピーを数学に疎い学生でも理解することができる良書。


無限論の教室 (講談社現代新書)
野矢茂樹による無限論の新書。無限とはなにか、だけでなくカントールの対角線論法、カントールのパラドックスについても易しく学べる。


さいごに

長大な文章を最後まで読んでくださった読者の皆様、ありがとうございました。この記事が示したノウハウがあなたの学生生活の役に立つことを祈っています。

この記事の構成上の問題や、不足について指摘していただいた皆様、読書案内の作成に協力して下さった皆様に感謝します。

こうした僕の面倒な思いつきに付き合って下れた学友の皆様なしにはこの記事は完成しませんでした。改めて深く御礼申し上げます。そして夜遅くに突然LINEしてすみませんでした。

また、引用した数々の書籍やブログは大変役に立ちました。

この記事も次の僕のような書き手を生むことを期待しています。

それでは、またいつかお会いしましょう。



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