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物語は前へ進み続ける。劇場版おっさんずラブによせて

おっさんずラブは“前進し続ける物語”だ。

今世紀最高のラブコメディであり、人を愛することを真剣に描いた作品であることも間違いない。
2018年のドラマを見て、その真摯さと貫かれた作り手たちの信念に心臓を撃ち抜かれた。
先月公開された劇場版もその芯はぶれていなかったと私は思う。

※以降劇場版のネタバレあり。

劇場版は新キャラ2名が参戦し「禁断の五角関係へ」「愛の頂上決戦<ラブ・バトルロワイアル>」と煽って煽って、
ほんとのところのテーマは『家族』『夢』。
ドラマ版で晴れて結ばれた春田と牧くんが家族として二人で生きていくために悩んですれ違ってしまうというストーリーだ。

劇場版が公開される前、私なりの展開予想をした(前の記事)。
ドラマ版ではついつい相手に流されてきた春田が(部長に力いっぱい背中を押されながらも)牧くんに好きだと伝え抱き締めた。春田の成長物語だった。
春田の絶叫告白を一度は突き放そうとした自己犠牲的な牧くんが、今度は春田を全力で引き寄せて愛を告げるのでは。それでようやく二人は両想いになれる、劇場版は牧くんの成長物語になるんだろう、と想像していた。

劇場版で二人はもうちゃんと両思いでしっかり結ばれていた。
劇場版は『両思いのその先』を見せてくれた。
春田の幸せのために身を引く牧くんはもういない。もう「春田さんのことなんて好きじゃない」なんて号泣しながら大嘘つかない。
牧くんは、やりたかった仕事を任されまっとうしたいと自分の望む生き方をするために春田との関係に向き合っていく。
もう、どうしたら好きになってもらえるかなんてステップじゃないのだあの二人は。
関係は止まらなかったし片思いに戻ることもなかった。

部長もそうだ。
劇場版の部長は事故で春田の記憶を失い、また恋に落ちる。
春田を諦めきれてないことにすれば設定上は簡単に牧くんとの三角関係をもう一度作ることができたはずだ。
それでも「やっぱり好き、は反則」とプロデューサーが貫き、だから部長は記憶をなくして改めて春田に恋に落ちた。
そして春田と部長のあの過去はなかったことにもないがしろにもしていない。
部長は部長で進んでいた、と描かれている。

“前進し続ける物語”を表する最たるはラストシーンだと思う。
海外赴任に発つ牧くんと見送る春田は、固く抱き締め合った後短いことばを交わし、お互いを背にして歩き始める。
二人は一瞬立ち止まるが振り返らず踏み出す。そして終幕。

このシーンと対になっているのが、物語中盤の花火大会の約束を確かめ合う橋でのシーン(いわゆるきんぴら橋)だと思う。
春田は春田家へ、牧くんは実家へ、それぞれの帰路についた二人は振り返り手を振る。その数日後、花火大会で破局に至るのだ。

じゃあ手を振らずに離れたラストシーンの二人は?
きっと大丈夫なんだと、祝福で胸が詰まるのだ。

振り返る/振り返らないシーンは、ドラマや物語で暗喩としてしばしば使われるのかもしれないけど、
完結と謳った物語をこの形で締めくくったことで、物語、おっさんずラブそのものの姿勢を表していると私は感じた。


で。
前進を続けるおっさんずラブはキャストを変えたSeason2の放映がアナウンスされた。
やっぱり振り返らない、止まらない、戻らない姿勢は強い。タフだ。
天空不動産編は完結したけれど、なかったことにもないがしろにもしないで、進み続けてくれたらいいな、と今は思っている。

今日も劇場へ足を運んだ。11回目の鑑賞。
いつもエンディングは穏やかな気持ちで迎えていたんだけど、
今日は、ブーケトスをキャッチした部長の「黒澤武蔵、幸せになりまぁす!」で急に涙があふれ出してきた。
それから、振り返らずに顔を上げて歩みゆく春田と牧くんにもぼたぼたと泣いてしまった。

きらきらの、本当にきらきらのまぶしい笑顔で、幸せになると宣言する部長の進む先にどうかあたたかい幸せがありますように。
春田と牧くんが、喧嘩したり小突き合ったりしながら、お互いの大事なものを尊重し合って、苦難も一緒に乗り越えていけますように。
ほんとなんなのこいつって腹が立っても、だから一緒にいたいと何度も強く思えますように。
みんなが進んでいく先を見守ることができないから、願って願って涙が出た。
進み続ける彼らにずっとずっと幸せが続きますように。

物語が存在しなくても彼らは生き続けていると思える彼らだから、私はやたらめたらに末永い幸せを願う。

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