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「人生は相対的である」・・・あなたの人生の物語

こんばんは

人生というのは、とてもとても相対的なものである・・そんなふうに感じた、「あなたの人生の物語」という本の感想を綴ります。


概要

※ネタバレを含みます

女性の言語学研究者である主人公、ルイーズは、あるヘプタポッドと呼ばれる”エイリアン”とのコミュニケーションを目的として、実験室に招かれる。
この小説はそんなシチュエーションから始まります。

話が進むとともに、ルイーズはその”エイリアン”・・ヘプタポッドの扱う言葉について理解を深め、その骨子を習得していきます。

テーマ

この物語の言わんとしていること、それは「人生は相対的である」という主張ではないかと思いました。

ルイーズはエイリアンの記述様式を理解するにつれ、彼らの言葉は時系列的な変化を全く考慮しておらず、始点と終点・・出発点と結論を認識した前提で表す記述様式となっている・・そう捉えるしか仕方がないということに気がつきます。具体的には、以下の文章で例示的に表現されています。

「物理学は、全く異なる2通りの方法で説明できる。一つは時系列の因果率的で、もう一つは目的論的だが、いずれの前提に立っても適格性を奪われない。」

この世の中は、私達人間の認識においては時系列的な変化をたどっているように感じるけれども、客観的な現象を表現する立場に立てば、「すべての物事は目的論的に変化する」前提の組み合わせによっても表現できる、という理論です。むしろ、光の進行方向を推測する上では、目的合理的な考え方のほうが使い勝手がいいケースもあります。

つまり、客観的な事象と私達人間の感じるところの間には、実は一つ大きな壁があります。物事を時系列的な因果律を前提に認識してしまう、というバイアスです。

推しポイント

この物語の面白いところは、筆者としては上記の結論を意識しながらも、読者にはそれを悟らせないような語り口を展開していることです。

筆者は読者に対して、感傷的な昔話を思い出すように語りかける文体をとっています。読み始めは「ああ、おばあちゃんが昔のことを語っているんだな」そういう先入観を与えるような語り口で動き始めます。

やがて物語が進むに連れ、その先入観は「時系列的な順序性」の罠にドップリと浸かった私のバイアスが感じ取った感覚だった・・

そのことに気付く瞬間があります。その時はじめて筆者の主張を理解し、「あれ・・これまでの話ってもしかして・・・」と、細い糸で用意されていた伏線に気がつくことができます。

また、その伏線のいわんとしているところは含蓄に富んでいて、一般的なミステリー小説では感じ取れないような後味を残してくれました。

おわりに

冒頭、「人生というのは、とてもとても相対的なものである」そんな風にこの本の感想を記しました。相対的という単語は、その単語自体に相対性・幅を含んでいると思います。相対的と呼べる範囲は、受け取る人の解釈に委ねられます。

どの基準において相対的なのか?については言及していないからこそ、なんとなく思い描く相対、というイメージは人によって様々だと思います。

私自身、色々な価値観があることや、それぞれに正しさや納得感があるということを自分なりに大切にしてきたつもりですが、「時系列上の出来事」それ自体が絶対的ではないということを前提として意識するには至っていませんでした。

この本を読んで、私の感じる時系列での変化、という物の見方自体が絶対的ではないということに気が付き、価値のある気づきを得たと感じることができました。

ぜひお手すきの際に、一読していただきたいです。

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