野田

バレエでは食えなかったけどミュージカルで食ってる野田さん(25)の話。


音楽座ミュージカルの冨永波奈です。

日本のバレエ人口は世界一とも言われています。美容と健康に良さそうだし、市井の教室のみならずスポーツクラブでも気軽に始められることもあって年齢を問わず人気の習い事のようです。しかし、プロのバレエダンサーになるとなったら話は別。バレエ団の舞台に立ち、生計を立てられるのはほんのわずかのトップダンサーだけという厳しい世界です。音楽座ミュージカルにもそんなバレエダンサーを目指して本気で取り組んできたメンバーがいます。でも、なぜ彼女がバレエを辞めてミュージカルに転向したのかについてはあまり深く聞いたことがなかったので、改めて話をきいてみました。

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野田 ゆかり
愛知県出身。血液型O型。
名古屋芸術大学音楽学部音楽文化創造学科ミュージカルコース出身。8歳よりクラシックバレエ、17歳よりジャズダンスを始める。バレエネクストの公演や、幸田町ミュージカル2013『さよならブルーバード』に出演。2013年3月より音楽座ミュージカルに参加。1994年生まれの25歳。
出演作品
「ラブ・レター」パッセンジャー(街の人ほか)
「リトルプリンス」黄花、渡り鳥
「泣かないで」由美
「シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ」黒鍵
「ホーム」オリジン
「SUNDAY」シシャほか
「グッバイマイダーリン★」ねずみほか

週7日バレエ漬け

小学校のすぐ近くにバレエスタジオがあって、もともとバレエをやりたかった母に連れられて見学に行ったところから私のバレエ人生が始まりました。母は強要しなかったけど、はじめて見るバレエに「やりたい」と思ったのがきっかけ。小学校2年生の時です。最初は週に1〜2回だったレッスンがだんだん増えて、中学生の時には週5〜6回のレッスンと、レッスンがない日は自主練習で稽古場を開けてもらって、結果的に週7日バレエでした。コンクールにも出ましたが、良い思い出はほとんどないんです。最初は神戸や東京に行けることが嬉しかったけど。

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先が見えない

小さい頃は「バレリーナになる!」と思っていたし、中学生くらいからはレッスンの回数を増やすために親に「バレリーナになるから増やしたい」と言っちゃった。本気でプロになろうと思ったのは中学3年生か高校1年生くらいです。でも、がんばればがんばるほどいつの間にかコンクールで賞を取ることが目的になっていました。最後となったコンクールは、自分のバレエ人生の中で一番好調で、先生や周りからも「賞を取れるかもしれない」と言われていた時。浮かれてどこか緩んでいたんでしょうね。出席とCDを提出し忘れてしまったんです。「◯番の方は棄権です」とアナウンスが入ったのですがリハーサル室にいた私はそれにも気づいていませんでした。それを機にいろんなことが崩壊していきました。

あとは骨格の問題もあります。技術は練習でクリアできても骨格は変えられない。プロとして世界で活躍するにはバレリーナにふさわしい骨格じゃないとダメなんです。もしくはセンターでソロが取れる実力が必要。自分はバレエ向きの骨格じゃなかったし、それを凌駕する実力もないことに気づいて、「それでもバレエを続けたいのか?」とその時はじめて自分に問いました。何がしたくてバレエを続けてきたのかと。最初はがむしゃらにやっていれば良かった。それでプロになれたらいいなと思っていた。でもその時の自分にはバレエの世界では先が見えませんでした。こういうことを考えはじめたのも、前に挙げたコンクールの時期です。

別の道を模索しはじめた。

バレエでは未来が見えなくなっていたけれど、それまでバレエ以外のことは何もやってこなかったので、進路を決めるといっても私には踊りしかなくて。ちょうどその時に地元の市民ミュージカルに誘われて足を運んだところ、音楽座ミュージカルの異様に元気な人たちに出会いました。音楽座の作品を観たときに「この空間(世界観)に出たい!」と思いそれまでのバレエ漬けの生活を辞めて、ミュージカルをやることに決めました。

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舞台上で声を発するなんて

高校を卒業後、大学のミュージカル科に入学しました。とはいえ人前で歌うことやセリフを言うことにはじめはものすごい抵抗があって。身体を動かすだけだったら何のためらいもなくできるのに、そもそも舞台上で声を発するとは何事、と身体がこわばりました。何をどうしたらいいのか全くわかりません。でも、バレエでは動きや表情だけで表現するものをミュージカルでは言葉と音楽も使えるから、より細かな心情やドラマをお客様に共有することができるんだという単純な発見もあり、表現の可能性が広がりました。今でも言葉を使って相手に伝えるのはあまり得意じゃないし時間がかかるけれど、全身で表現して他者に届けるという点はバレエもミュージカルも同じでした。自分の感覚的にはそこに制限が多いか少ないかの違いです。ミュージカルの方が自由だと思う。

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全身で表現する

大学生の時に音楽座ミュージカルのオーディションに合格して2013年に上京しました。ダンスはもちろんですが、セリフのある役にも何度かチャレンジしてきました。ミュージカルをやっていて改めて感じるのは、全身から何かを発せられるようになりたいということ。アプローチは様々あると思いますが、全身を使って表現したいと強く思います。言葉を発するのが苦手でも体で伝えられるようになれば表現者に違いないし、言葉(セリフ)がついた時には、さらに表現の幅が広がります。バレエだけじゃなくてミュージカルをやったからこそ身体表現で伝えることのおもしろさを実感しています。そして作品や今の生活環境を通して、人としてもっと成長していきたいです。