元カレを不意に思い出す
12月13日。
『笹本圭一さんが誕生日です!お祝いしましょう!』
律儀にFacebookが知人の誕生日を通知する。
『あいつも41歳なんだ。』
ふーん。っという感情しかわいてこないし、連絡もしないけど彼のことを思い出した。
笹本圭一(仮名)は元カレというやつだ。
信用金庫で働き、私が四年目になったときに新入社員として入ってきたのが彼だ。
一浪×大卒入社なので23歳。
短卒入社の私も23歳であり同学年になる。
初めての後輩であり年齢も同じということで、仕事への気持ちが楽になった気がした。
というのも、私は3年間10歳以上年齢が離れた女性の先輩に、しこたまいじめられていたからだ。
そうそういじめは無くならないだろうけど、新入社員がいるだけで雰囲気は変わるものだ。
あと、気軽に話せる人間がいるのはありがたい。
新入社員はもう一人いて、大卒の女の子だった。ややおっとりしているけど、真面目で素直で良いこ。
私は彼らに何が出来るかを考えた。
絶対、悲しい思いはさせたくない。
社会人になって、人間関係でこれでもかというほど泣かされた。
誰にも頼れず、相談出来ず、でも人間関係ごときで辞める自分は情けなくて嫌だった。
そんな思いをかかえて仕事をするなんて非効率すぎる。私は彼らがスムーズに立ち回れるようにサポートした。
まずは座席表を作り、各々名前と役職などを書いた。管理職には、○○代理とか○○副長とか○○審査役とか○○副審役とか、信用金庫ならではの言い方があってややこしい。
偉い人はとりあえず把握すべき。
パートさんなどを含めると、名前を覚えるのは大変な気がする。あと、何より気を使ったことは、、、
怖いお局注意報。
とにもかくにも女性の先輩は怖い。
というか、性格に難がある。
『この営業嫌いだから、事務処理後回しにしよ~』
とか、私情がモロに仕事に出るタイプだ。
笹本圭一は、総合職なのでそのうち営業に配属される。そんなお局を初手で攻略しておかなければ、営業になったとき詰む。
いいか?お局にはペコペコしておけよ?
立ち回りは本当に大事だ。
なんだかんだ、お局に文句言われながらも平穏にやっていたように思う。
自分の経験値から、出来ることは精一杯してあげよう。私は、そう仕事が出来る先輩でもないけれど、業務以外の誰も教えてくれないようなことを伝えたかった。
そして、笹本圭一が入社して何ヵ月かがたったとき。
『トミーさん!飯でも行きません?』
支店の奥にある金庫室で、ひっそりと誘われた。なんとまぁOLみたいな状況だ。
お局達がよく
『トミーさんと笹本くん、付き合えばいいのにwww』と、ちゃかしてくるのが頭に浮かぶ。
ニタニタ面白がる姿がなんとも不快だった。
そう考えると、一緒にいるところは見られたくないなぁと思ってしまう。笹本圭一には失礼だけど。でも、彼にどうこう問題があるわけではない。
トミー『、、、いいよ!行こうか!』
笹本圭一『まじっすか?やった!』
そこから、笹本圭一のブーストが凄かった。
食事の次は映画に誘われ、ドライブに誘われ、とにもかくにもガンガン誘われた。
そして、なんやかんや告白というものをされた。たぶん人生で初めてだったように思う。
笹本圭一いわく、新入社員で余裕がないときにサポートしてくれたのが嬉しかった。
しっかりものでお姉さんみたいだとのこと。
いや、お前を特別扱いしたわけではない。
告白してもらって何様だというかんじだが、冷静にそう思ってしまった。あくまで仕事なのよ。そして、しっかりものでもなければお姉さん気質でもない。本来は末っ子気質がバリバリに強い甘えたがりだ。
なんとも、私のことを勘違いしているなぁと思って告白はお断りした。
あと、なにより私は片思いをしていた。
そちらへの気持ちがいっぱいで、とりあえず付き合うという選択肢はなかったのだ。
すると、、、
『じゃあ、待ってれば良いってことですね!』
、、、
鋼のメンタルよ。
そう、彼は鬼ポジティブ人間だった。
今さら彼のスペックを紹介するが、簡単にいうと『勉強を頑張ってきたタイプの三軍』だ。
正直、見た目はとてもモサッとしている。
23歳なのに、40歳と言われても納得出来るくらい老けている。さらに私服は超絶ダサく、真っ黄色のTシャツを着てきたことがあった。出会い頭に思わず叫んでしまった。
『いや、愛は地球救わねぇよ!』
男性のビジュアルにこだわらない私が、珍しく耐えられなかった。しかし、そんな彼は何故だか自信家だ。きっと育ちが良く、ひねくれるきっかけが無かったのだろう。自分の良いところや、成功体験から常にポジティブ思考だ。
三軍のくせに、、、
三軍は自信がなくネガティブで、ひねくれていて、ありえない被害妄想をするのが定説だろ。
そう思ってしまう私の性格の悪さも、彼とは合わないなと思った。
翌日。
どんな顔をして会えばいいか分からないが、とりあえず普通に接した。
笹本圭一『いつも通りで嬉しいです!諦めなくても良いですよね!』
いや、だから。
ここ会社なんよ。
私だって割りきるよ。
なんで、そんなメンタル強いの、、、。
それから、なんと3回も告白をされた。
初回含めると4回になる。
私はというと、片思いの相手と付き合えたのだけど、一瞬でフラれてしまった。
そのタイミングを入念に突いてくる作戦だったのだろう。
4回目ともなると、さすがに『もういいや。』という気分になる。
付き合ってみて好きになったら、ラッキーじゃんという感覚でOKをしてみた。
出会ってから、2年後くらいだったと思う。
粘り勝ちって凄い。
付き合ってみると、彼の私に対する期待はとてもでかかった。『こんな女の子なはず』というイメージで、ずっとずっと片思いしていたのだろうなと感じた。
付き合ったからには、彼女として期待に答えてあげるべきじゃないか。
尽くしてくれる優しさに、お返ししなきゃじゃないか
根が真面目な私は、そう考えながらも何かザワザワする。
、、、好きでもないのに?
あぁ。
感じ取ってしまった。
他に好きな人がいるわけでもないけど、積極的に彼氏の笹本圭一を好きになれなかった。
ということで、数ヶ月でお別れをしてみた。
数ヶ月で何が分かるというんだって話だけど、嘘をついているような罪悪感が気持ち悪くて仕方ない。自己中で申し訳無かったが決断をした。
数年後、笹本圭一が結婚したと耳にする。
たぶん、20代のうちだったと思う。
そういえば、私とも結婚したいと言ってくれていたのを思い出した。
結婚願望が強い属性だったのだろう。
Facebookには盛大な結婚式の写真が掲載されていた。横浜みなとみらいの、いかにも高そうな式場で真っ黒なスーツやドレスの招待客に囲まれている。きっと、ほぼ職場関係者だろう。
信用金庫人は、何故か結婚式に黒を着がちだ。
『将来安泰なんだなぁ、この子。』
バシバシ稼いでるであろう笹本圭一。
その嫁は不自由しないだろう。
きっと、裕福な暮らし確定だ。
しかし、結婚する前、その後も度々連絡は来ていた気がする。
会おうと言われるたびに『彼女いるなら無理』『結婚したじゃん』と、優等生ぶったことを言っていた。断る言い訳として。
そして、30代になり私もいよいよ結婚の話が出た。ちょうどそんなとき、また笹本圭一から連絡が。なんとなく、自分も結婚するし会ってもいいかなと思った。
何年かぶりの笹本圭一は、役席になったらしく途中で部下から電話が入っていた。
役席というのは金融機関の管理職だ。
あぁ、ガチで稼いでるやつだ。
内心そんなことを思って『仕事頑張ってるんだね』と労った。すると
笹本圭一『覚えてる?トミーが営業成績で全店トップ10に入ったら結婚してあげるって言ったの。』
あぁ、軽いノリで言った。
うん、言った。
冗談で。
本当に数字とって偉くなってた。
きっと、悔しい気持ち、見返したい気持ちがあったのだろう。普通に凄いと思う。
頑張って昇格したので嫁はもちろん専業主婦。
そして家事が完璧で、自分のことを心底愛してくれる。
家も買って、子供も産まれてすごく幸せだとのこと。
きっと、女の子らしく世話焼きで尽くすタイプの子なんだろうなと思った。
うん、私と真逆だね。
私と結婚しないで良かったねと、本当に思った。子供産んで専業主婦って一番向いてないし。
そして、笹本圭一が幸せで良かったなと思った。思ったのに。
笹本圭一『嫁は俺のこと好きすぎるから絶対疑わないんだよね~。』
なんともザワつく発言だ。
深く聞いてみると、社内不倫をしているとのことだ。
キモい。
心底嫌悪感がわいた。
『三軍のくせに調子こいてるじゃねぇよ』という気持ちと共に、ある感覚に気付く。
私も彼に真面目であるという期待をしていたんだ。
そう、私は彼に対してめちゃくちゃ真面目な人間で、彼女に一途というイメージがこびりついていた。
そんなこともなかったらしい。
やはり、私たちは合わなかったんだなと答えあわせが出来た。
そして、思う。
嫁の顔が私にそっくりなんよ。
自意識過剰で思い上がったことを言ってしまうと
理想の嫁見つけたね!!!
そんな風に思う。
そして、三軍のくせにポジティブで自信家な人間は、やはり相性が悪い。
慎ましく生きやがれ、まじで。
Facebookのおかげで、元カレを思い出した話でした。長々読んでくださりありがとうございます。
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