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スピーチの原稿(7) 襷(たすき)

 頑張れ、頑張れ・・・お〜襷がつながった!私は、今年の1月、正月恒例の大学駅伝を興奮しながら見ていました。駅伝には、人を熱くさせるものがあります。襷を受け取り、次の人に渡す、この行為が人生そのもののように思えるからでしょう。実は私はテレビを見て、一つ決断したことがあります。



 今から6年前、2017年の8月、私はバンクーバーで開催されたトーストマスターズの国際コンベンションに参加していました。2日目午前のセッションで、私は自分の席を確保して部屋の外に行こうとした時です。
 
 前から歩いてくる人に気づきました。
「あれっ、トニー?」
「トニー、日本で指導を受けたプーさんです。覚えてくれていますか。」
「ぷー? おお、ここで、インストラクターに会えるのは嬉しいね。そうだ、新しい本のチラシをあげよう。ぜひ、これを多くの人に伝えてほしい」
 トニーからもらったのは、新しいマインドマップの本のチラシでした。
「そうだ、良かったらこのセッションの後、ランチをしながら、情報を交換しないか?」
 ほんとですか。え、でもどうしよう!? このセッションが終わったらすぐにホテルに戻らないといけなかったんです。というのは、朝、慌てていて財布をホテルに忘れてきました。パスポートも全て入れたものです。

 でも、トニーからの誘い・・・トニーとは、世界的に有名な教育者でマインドマップの考案者です。2016年のトーストマスターズインターナショナルからゴールデンギャベル賞の受賞しているすごい人なんです・・何より大切なのは、私の人生を大きく変えた恩人です。そんな人から、ランチしようって誘われたんです。どうする、どうする、友秀! 
「トニー、(ポーズ)ダメなんです。どうしてもこのセッションの後ホテルに戻る必要があります。でも、まだ大会は始まったばかりなのでどこかのタイミングでおねがいします」
 
 結局、私は、大会の期間中にトニーと話す時間を見つけられなかったです。
 
 私が、はじめてトニーに会ったのは、今から16年前、2007年、私がマインドマップのインストラクターの指導を受けた時でした。
 
 私は、こんな自己紹介をしました。
「私はニックネームが、くまのプーさんです」
「ぷー? あのおバカなやつか、ははは」
そういって笑っていました。それからの4日間、私は子供のように学んでいました。私が、その時、マインドマップの方法だけではなく、一人の教育者としてのあり方を学びました。
 
・演習中も絶えず、部屋の中を歩きまわっている理由を聞いたら、
「こうやって参加者のエネルギーを体全体で感じています」と言われました。
・「子どもたちにマインドマップを広げたくないですか」とみんなに訴えていた姿から、未来の可能性を広げたいという熱い教育者のマインドに触れました。

 私は今、研修講師の仕事をしています。私が今こだわっている講師の心構えは、ほとんど全てトニーから学びました。
 
 トニーは、マインドマップという方法を世界中に広めて、たくさんの人に考える力を伝えてきました。
 
そのトニーは、2019年4月13日、私がバンクーバーであった年から2年後に、この世を去りました。
 
 最初にトニーの死を知った時、二つのことを考えました。一つはバンクーバーで無理にでもランチを一緒にして話せばよかったと言う後悔です。
もう一つは、バンクーバーで渡されたチラシの本について思ったんです。実は、その本は、その後、出版されませんでした。トニーのスピーチにかける想いは、繋がらなかったのです。そこで、私はこう思ったんです。本が出版されていないなら、私が書こうと。
 
 しかし、これはいつの間にか、忘れていたんです。恩人の訃報を聞いて、決断したはずだったのに、最も簡単に忘れていたんです。
 
 昨年末、資料の間に挟まっていたチラシを見つけて思い出しました。自分のことにがっかりしました。そんなタイミングで、私は正月の駅伝を見ていました。
 
 必死になって走る若者たち。襷を繋いで倒れ込む姿・・・
 
 私はこの時、トニーから渡されたチラシのことを思い出していました。このチラシは、私がトニーから渡された襷だったとその時、気づきました。だから、私がつなごう、やろうと決断したんです。
 
 襷が象徴しているのは、人からの思いを、誰かにつなげていくことです。人生では、いろんな形の襷を、誰から受け取ったり、誰かに託したりしているのでしょう。
 でも、その襷に気づかなかったり、忘れたりすることがあると思うんです。気づいたら、その時から、考えませんか。あなたなりのやり方で、それを伝えてください。
 あなたは誰かから襷をもらっていませんか?


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今回のスピーチの内容をマインドマップにしたもの

 このスピーチは、2023年のトーストマスターズインターナショナル、ディストリクト76(簡単にいうと日本地区です)での、日本語のおけるスピーチコンテストのファイナルに出場して、2位をいただた時のものです。トニー・ブザンという世界の影響力のあった恩師を思いながら語りました。 

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