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スピーチの原稿(4)デッサン

人生は山あり谷あり。嬉しいこともありますが、危ない誘惑もあります。たくさんのチャレンジもあるでしょう。そんなチャレンジに打ち勝てればいいですね。でも、負けることだってあります。

みなさんは何かにチャレンジをしてうまくいかなかった時、どうしていますか?

実は、私は2年前から大学生になって、美術大学の2年生なんです。

昨年の10月の末、デッサンの授業をとりました。

私はちょっとどきどきしていました。なぜかって? それはヌードデッサンだったからです。

わたしはこれまでヌードデッサンなんてやったことがありませんでした。

そのせいか、変な妄想がうずまき、ふくれあがり、爆発しそうになったのです。

当日、わたしはどきどきしながら学校へ行きました。教室にモデルさんが入ってきました。ちょっと小柄で可愛い子です。モデルさんは、恥ずかしがることもなくさっとコート、そして服もぬいでポーズをとってくれました。

授業がはじまりました。

モデルさんは15分間ポーズをとってくれます。その後、10分の休憩。その繰り返しで3日間です。私たちはずっと描いています。

ああ、はじまりました。うう、はじまりました。でも、はじまったら、興奮どころではありません。

私はモデルさんを見て、懸命に鉛筆で描いていきます。まわりには、20名ほどの学生がほとんど話さず、鉛筆や木炭で描く音がするだけです。

すると、隣でキャッキャっとふざけ合っている女性が二人いました。不真面目な子たちです。私は言葉にはしませんでしたが“真面目にやれ!”と言う念のこもった視線を投げかけていました。

描いていると、汗が出ます、汗が吹き出してくるのです。タオルで拭うほどの汗です。私は興奮しているのか・・・いいえ、部屋の温度が高いのです。

室温は当然ながら、モデルさんにあわせています。だから、わたしは汗をかきながら、セーターを脱ぎ、カラーシャツを脱ぎ、Tシャツになっていました。

全体を見回る先生の声がときおりします。

「大嶋さん、この線だけどねえ、おかしいでしょう。

 ほら、ずれているよね。ここよくみて、鎖骨がここにあるからこここうならないよ。それにここの骨は・・」

「そうですね」

「しっかり見て描いて」

はい、じっくり見ていいんだと思いながら、私はみました。じっくりと・・

わたしは見ていました。裸ではありません、骨を見ていました。もはや、興奮どころではありません。モデルさんが休みのときに、他の人のデッサンを見て回りました。みなさん・・・うまい! 隣のチャラチャラした女性たちは大したことないだろう・・。(見たら!)。えっ・・・・・才能がある・・・。

わたしの作品がとてもはずかしくなってきました。

その日の夜、私は家に帰ってこんな風に女房にこぼしていたんです。

「やっぱり、みんな絵がうまいよ、なんか自信がなくなるよ」

「パパ、できない自分に向き合わないと。だから学ぶんでしょ」

「そうか・・・できない自分・・・そうだ・・・」

その言葉に勇気づけられて2日目、3日目の授業に参加してデッサンを仕上げることができました。けっして上手とは言えなかったけれど、完成させることができました。

わたしの仕事は研修講師です。だから先生先生と言われます。しかし、時々、勘違いをしてしまうことがあります。おれっ先生なんだって。偉くなった気になります。

しかしわたしが大学生の時間は、何をやってもできない自分が出てきます。でも、何か学んでいるとき、できない自分と出会ったときに、その向こうに新しい自分がいることを感じることができるのです。そして、自分よりもできる人がいるというのをはっきり受け入れることができます。その思いが、謙虚になること、学び続けることを教えてくれます。人を素直に尊敬でき、わたしもかわろうと努力する気力が湧くのです。

みなさん、何かをチャレンジしてうまくいかないときに、できない自分に向き合えますか? 言い訳して正当化したりしませんか? 言い訳をしても自分は変わりません。人を批判しても自分はかわりません。自分に向き合ってはじめて変り始めます。

2020年が始まって一月半です。お正月に立てた計画にすでに挫けたりしていませんか? めげないでチャレンジを続けてください。あなたができない自分に出会った時、そのときこそ、できない自分に向き合わなきゃ!

         ※        ※        ※

2020年のトーストマスターズの日本語のスピーチとしてエントリーしたときのものです。エリアコンテストで3位で終わりましたね。でも、私にとっては大学での体験が峻烈で、その時とても話をしたいストーリーでしたね。若い人たちの才能に触れていい刺激をもらったものでした。


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