スピーチの原稿(1)幸せのレシピ


これは、2019年の日本(ディストリクト76)の全日本スピーチコンテストのために作ったものです。ファイナルの一つ手前、ディビジョンコンテストで3位になり、本戦に駒を進めることはできませんでした。

このスピーチのタイトルは、食事を大切にすることが、幸せにつながるというメッセージを凝縮したものになっています。このスピーチに出場する人は、夢とか挫折を乗り越える、とかのスピーチが多い中で、もっと日々、すぐにできること、それでいてものすごく大切なことを伝えたいと思って作っています。

スピーチの中で出てくる、ちくわ鍋は全くの誇張もなく、そのままを語っています。今でも、あの時の「百円のちくわ鍋」のうまさは、忘れられません。でも、同じものを今、食べても絶対にあのときのようにおいしいとも思えないでしょう。食事とは、その時の場、人などの要素が大切だと思っています。


幸せのレシピ(ヴァージョン9)
みなさん、幸せになりたいですか? なりたいですよね! では、どんな状態になれば幸せだと思いますか?もっと収入が増えればいい? 会社で偉くなる? 家を買う? どれも大切ですが、それ以上に大切なことがあると思うんです。もっと身近で基本的なこと・・・何だと思いますか? 私はそれを幸せのレシピと呼んでいます。
ひと月前のことです。仕事のプロジェクトがうまく行ったんです。大成功でした。その日に夜、嬉しくて祝杯をあげました。 その日は女房がいなかったんです。だから、ひとりで贅沢をしたんです。
「えーと、特上カルビ一人前、特上ロース一人前に、特上骨つきカルビ、いや極上骨つきカルビにしてください、これ二人前。それとこの氷点下生ビール!」
肉汁がじわーんと口の中に・・・いい肉は違います。良い仕事を終えたときの最高のご褒美です。それを堪能した時間、30分、かかった費用10000円。店を出たとき満腹、家に帰ったら・・・なんか物足りない・一人焼き肉、いまひとつ幸せを感じない。
先日のことです。またしても女房が出張中。ひとりで外食はさびしいで、久しぶりに料理をすることにしました。私はね、こう見えても結構料理が上手いんです。料理は特性のオムライス。レシピ本をにらみ、チキンライスを作り、ふわふわの卵でうまく包み込むことに成功。いつもはここが失敗ですが今回はばっちり。ケッチャップソースで仕上げ。春菊とベーコンのサラダに、ちょっと贅沢なワイン。ひとりでテレビをみながら食べました。いつも以上の出来に満足しながらも、いつも以上に短い10分で終わる食事。そして豪快に散らかったキッチン。皿を洗いながら、満腹感はあるけど満足感を持てません。ひとりオムライス、やっぱりいまひとつ幸せ感じない。
じつはわたしには、とってもおきの美味しくて幸せを感じた経験があります。
私が大学4年生の最後の春・・・バイト先の友だちが就職のお祝いだと招待しれました。私は豪華なところに連れて行ってくれるかなとと期待していたら、いつも彼の古いアパート。そこで鍋パーティ・・・おまけに私たちは金がなかった。「おい、いくらある? おれ千円!」「おれ、500円」「大嶋、お前もいくらか出せよ。お前のお祝いだ」しぶしぶ私は千円だしました。
買ったのは白菜一個、えのき茸一袋、ちくわ4本、豆腐一丁、それに味ぽん。あとはビールを買いました。べこべこのアルミの鍋に、使い古されたカセットコンロでつくるちくわ鍋。
「大嶋、食え食え、もう煮えてるよ」
「んんん、このえのき茸いける、それにちくわ最高にうまい!」
そのちくわ、4本100円みたいな安いやつ。 肉なし、魚なし、メインがちくわ。それが最高に美味かったんです。
考えてみれば、その二人とは、ホテルのバイトの研修からずっと一緒。いつも夜勤をしていろんなことを話しました。ちくわ鍋をつつきながら、たくさんのことを話し、笑い、飲みました。大学の4年間いつもバイトを一緒に頑張った仲間だからこそ、そのひとときが楽しかったし嬉しかった。
みなさん、美味しくて幸せを感じたことはありますか? 特別なお祝い事ではなく、普通の日でも美味しくて幸せを感じたことありませんか? その時に誰かいませんでしたか? 家族、仲間、親友とか、あなたの大切な人がいませんでしたか? 私は幸せを感じるときはいつも誰かと一緒で、その食事、その時間、その場を分かち合っていました。そうなんです、幸せのレシピとは、誰かと食事をすること、その時を分かち合うことなんです。だから、ひとりの1万円の焼き肉よりも、仲間との500円のちくわ鍋に私はいっぱいの幸せを感じたんです。
あと大切なことがあります。それは食事は、1日3回が基本です。だから、毎日毎日、カウントダウンしていくんです。だから、無駄にしないでください。朝、立ちそばでさっさと一人で食べるとひとつ無くなります。 お昼をひとりで牛丼とかバーガーで済ませるとまたひとつ無くなります。一人で贅沢なステーキなんて立って食べてもその機会が無くなります。
幸せとは、毎日の積み重ねが作っていくものです。特別な時も、普通の時も、人と食事をする、人とその時間を分かち合う。それが「幸せのレシピ」なんです。みなさんは、今晩、誰とご飯を食べますか?


このスピーチでは、鍋をつついているところは、以前習っていた落語のように、扇子を使って食べるジェスチャーをしました。やっていて、とても楽しいスピーチでした。しかし、これはファイナルでやってみたかったな。幸せっていうキーワードは、昨今、幸福学などの学問分野もできて、研究が進んできているので、ヴァージョンアップして再び、いつか挑戦してみてもいいな、とその機会を狙っています。


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