答えを求めていたあの頃。
暑い日が続くと思い出す。
29歳で結婚して、結婚式が終わり、1年が経ったころ。
どうしても拭えない違和感に気づいてしまった事に。
答えを求めて辿り着いた地で、ある決心に至ったことを。
写真は、瀬戸内海にある豊島という島の「母型」という展示だ。
独身の頃、直島には行った事はあったが、豊島には行った事がなかった。
写真を見て、1度はここに訪れてみたいとかねてから思っていた。
行きたいと思わせてくれた写真がこれだ。
豊島美術館の「母型」は、一日を通して、いたるところから水が湧き出す「泉」です。ふたつの開口部からの光や風、鳥の声、時には雨や雪や虫たちとも連なり、響き合い、たえず無限の表情を鑑賞者に伝えます。静かに空間に身を置き、自然との融和を感じたとき、私たちは地上の生の喜びを感じることでしょう。
なんて綺麗なんだろう。
でも、結婚したし、しばらくは行く事はできないだろう。
そう思っていた。
話を戻すが、当時、元旦那との違和感に気付いてしまった私は、これからどうするか迷っていた。
外から見れば、良い旦那だからだ。
私のわがままな気がしていた。結婚して1年しか経っていないし、私が我慢すれば、全て丸く収まるような気がしていたからだ。
でも日に日に募る違和感に、心はどんどん冷えていっていた。
その時、職場の研修で岡山に行く機会があった。
基本は研修だが、午後いっぱい空き時間になる日があった。
豊島に行けるだろうか。
電車、船を調べて、
「発着時間をきちんとすれば行ける」
そう思った。
私は、研修に行く事にした。
元旦那には、研修に行かなければならないと伝えて。
元旦那と離れる時間がある事も少しほっとしていた。
冷静にこれからの事を考えたかったからだ。
研修へは、仲の良い同僚と一緒に行った。
同僚は快く、私の計画全てを受け入れてくれた。
事情も知らないのにだ。
研修当日は、朝からソワソワしていた。
スーツを着ているのにこれから、島に行くのだから。
でも心のワクワクは止められない。
午前の研修が終わるのを待って、終了と共に駅まで走り出した。
電車に乗って、岡山から宇野港に向かった。
その日は天気も良かった。
スーツなのに、船に乗るなんて初めてでワクワクしていた。
船から学生服や仕事着の人が降りてくるのを見て、島の人にとっては、船が普通の交通機関である日常も新鮮だった。
島に着いて、電動自転車で美術館まで走り出す。
自然の多い道を、海風が気持ち良く吹いて、
「私、本当に島に来れたんだな。」
と実感した。
来れないと思っていた豊島に来れた事に、
「なんだ、できるじゃないか。できない事ないじゃないか。」
と思った。
豊島美術館に着いて、更に気持ちは揺れ動いた。
自然の音しかしない、風を感じて、水が生き物のようにコロコロ動いてはなくなって。
ただその繰り返しの空間。
頭の中を静かにする事ができた。
私は、冷静になりたかったのだ。
のちに、母型をデザインした内藤礼の映画を見るのだが、内藤礼にとって、「作品を作る事は、祈りのようなものだ」と言っている部分があった。
とても納得する部分があった。
あの自然を感じて、心を静かにする時間というのは、正に祈りのような時間だったのかも知れない。
帰る頃には、私の心は決まっていた。
何も知らない同僚に、なぜここにきたのか、島にきて何を思ったのかを話すうちに心が落ち着いていった。
同僚は、静かに話を聞いていた。
あの頃、がむしゃら過ぎて自分の気持ちが見えなくなっていた私に、自分を見せてくれる心落ち着ける場所だった。
今でも大切な場所。
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