Shooting star(シューティング スター)

ベルベットブルーの照明が揺れるバーで 私は あなたに出会ってしまった。

初めて 訪れるバーという お洒落でムーディーな雰囲気に 呑み込まれそうになっていた 私を あなたは 手招きした。

「よかったら。」

グラスとコートを 自分側に寄せながら あなたは そんな言葉を発した。

お店の雰囲気を差し引いても あなたの横顔は 素敵に見えて。

胸の高鳴りを抑えるのに 必死で。

黙ったまま 隣に腰をおろした私を あなたは どう思ったの?

聞けるはずもないのに 求めてしまう。

「初めて?」

「は はい!」

声は上擦って バタバタと慌てふためいて。

「じゃあ しょうがない。」

あなたの飲んでいるショットグラスが 妖しく光って 目を離せなくなる。

「何を飲んでおられるのですか?」

言葉遣いすら 狂ってしまう。

感情の迷宮に迷い混んだ私は 抜け出し方を知らない。

「ん? あ これ? バーボンのロックだよ。」

「マスター 同じものを!」

「待って…マスター いつもの初めての人でも飲みやすいやつで。」

「かしこまりました。」

シェイカーに注がれる 見たことのないお酒と果実達。

「どうぞ。」

差し出されたカクテルグラスの中で 躍っているのは 私の心と 未知の液体。

「これなら 飲めると思うよ。」

恐る恐る口をつけた舌先に広がった味わいに クラクラする。

「…美味しいです!」

「よかった。」

マスターもグラスを拭きながら 満足気な表情を浮かべていた。

「よく 来られるんですか?」

「マスターには お世話になってる 色々と。」

「そうなんですね。」

続かない会話が 私の歯車を摩擦熱で 熱し続けた。

何を思っているのだろう?

私は 待つことしか出来なかった。

「彼女と 別れたんだ。」

微笑みながら 余りに すんなりと敗けを認めるその姿が 私を縛りつけていた。

「辛いですか?」

配慮の足りない発言をしてしまったと 後悔する。

「辛くないと言ったら 嘘にはなるけど これも悪くはないかな…」

私という地面に 突如として 降り注いだ流星群は 止むことを忘れていた。

この人がいいと 思ってしまった気持ちに もう 嘘はつけない。

「あたしじゃ ダメですか?」

「それも 悪くない。」

これが 私とあなたの始まり。

明るくなる外界とは裏腹に 私とあなたの世界に ベルベットブルーの深さが 更に浸潤していく。

それは 流れ星のような出会い。

行き先は 分からない 片道切符を 握りしめて 終わらない旅が 始まる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?