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タイ、ほほえむのは、君かわたしか

「なんかさあ…ゾウ、乗ってみたくない?」

大学2年生の夏やすみ、駅前のハンバーガー屋さん。
身体の熱を冷ますように、わたし達はシェイクを飲んでいた。

「ゾウ?ゾウって…あの?」

「そう。パオーンのゾウ。」

「まあ、乗れるなら乗ってみたいけど…」

「ほんと?じゃあ、タイ、行こうよ」

*****

こうしてわたしは、「ゾウに乗るためだけにタイに行く」という思いつきの旅に、友達を引き込むことに成功したのだった。


日程は、9月の上旬。3泊4日だったか、4泊5日だったか。
グアムから帰国したばかりだったわたしは、パッキングもそのままに、数日前に到着した空港から、また、飛び立った。

同じ空港から飛び立っても、1度として同じ空はない。
それなのに、いつだって雲の上は青くて、わたしの心を掴んで離さない。


飛行機の窓から見える景色がすきだ。
すきな景色はいくつもあるけれど、なかなかの上位に食い込むくらい、すきだ。

たまに、天使のはしごが見えるときは、機内を見渡して、この空を見ている人がいないか、頭をふって慌ててさがす。
だれも見ていないとわかると、きっとこれは、わたしだけに神さまがプレゼントしてくれたのね、とご機嫌に鼻歌でも歌ってみたりする。


(ちなみに、天使のはしご、は下記画像のような、太陽のひかりが雲の切れ目からみえることで、これが飛行機のまどから見えることがある)

ええっと、そうそう。
タイのはなし。

とにかく、ゾウに乗りたくて。タイについたのは夜だったから、朝、陽が出るのを待って、すぐにオプショナルツアーに申し込んだのだった。


想像と現実が、一致しなかったり、擦り合わせがうまくできないということは、人生においてよくあることで、今回も、まさにそれだった。

だれかに教えられたわけでも、習ったわけでもない。
ただ、幼少期に読んだ絵本の中の「ゾウさん」は、水色に近いグレーで、やわらかくて、ふわふわで、長い鼻を人間の胴体にまきつけて、あそんでくれるものだと思っていた。


……のに。


実はゾウってね、とっても硬いの。
それから、硬い皮膚の表面には、無数の毛が生えていて、「ゾウさん」のイメージのまま、ご本人さんと対面したわたしは、すこし、(ううん、とっても)びっくりしたのだった。
それと同時に、「...うん、まあ、そうだよね。動物園のゾウはふわふわな感じしないもん、当たり前よね」など、妙に冷静な自分も出てきたりして、笑いがとまらなかった。

(ただ、「長い鼻でまきつけて、あそんでくれる」ことは事実で、それはとても楽しかった)


と、まあこんな感じで1日目が終わり、初日にして訪タイ目的を果たしてしまったわたしは、2日目からの予定にも胸をおどらせながら、シーツにくるまった。


明日もきっと、いい日になる。
そんな予感をかかえて眠れる夜は、あと何度訪れるだろう。


読んで頂いてありがとうございます。サポートして頂いた費用は、次の旅への資金にさせていただきます。広い世界の泣けるほど美しい景色や、あふれ出ることばを伝えたい。