サンプル翻訳① COVID-19への対応の仕方について

グローバルヘルスイシューに投資するビル&メリンダ・ゲイツ財団を持つ、ビル・ゲイツ氏のCOVID-19に対するコラムをボランタリーに翻訳いたしました。 製薬・医療・ヘルスケア関連の翻訳業務のご依頼、お気軽にご連絡ください。

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【翻訳内容】

新型コロナウイルスへの対処法
COVID-19への対応の仕方について
次の感染症に備えるために

執筆:ビル・ゲイツ

2020年2月28日(読み終わり時間6分)

あらゆる危機において、リーダーは、同じくらいの重要度をもつ2つの責務があります。1つは、差し迫った問題を解決すること、2つ目は、その事態が再び起こることを防ぐことです。
COVID-19 の大流行は、この点においてうってつけの事例です。世界は、人々の命を守る必要がありつつも、同時に一般的にアウトブレークへの対応方法の改善を迫られています。前者は緊急であるが、後者は必然的に長期的にもたらされる結果です。
アウトブレークに対し我々の対応能力を上げるという長期に渡った課題は、今に始まった話ではありません。グローバルヘルスの専門家が、1918年のインフルエンザ拡大のスピードと深刻度に相当する新たなパンデミックの発生は、「もし」に関することではなく、「いつ」に関することだと何年にも渡り注意してきています。
ビル&メリンダ・ゲイツ財団は、は、近年、世界がこのようなシナリオに備えるための重要なリソースを投入しています。
現在、複数年に渡るチャレンジに加え、差し迫った危機に直面しています。先週、COVID-19 が、我々が懸念し続けてきた、100年に一度の病原体のように猛威を振るい始めています。 私は、事態がそれほど悪化しないと願っていますが、そうではないとわかるまで我々は起こりうることを想定しなければなりません。
COVID-19はこれほどの脅威だということには2つの理由があります。まず、COVID-19は、健康問題を抱える高齢者に加え、健康成人を死に至らせる可能性があること。
これまでのデータは、今回のウイルスが1%程度の死亡リスクをもっていると示唆しており、この死亡率は、一般的な季節性インフルエンザよりも何倍も増して重篤で、1957年のインフルエンザ拡大(0.6%)と1918年のインフルエンザ拡大(2%)の間に位置づけられます。
2つ目に、COVID-19は、きわめて効率的な感染経路をたどります。通常の感染者は、新たに2-3人へと病原体を広めます。これは、急激な拡大を示す割合です。加えて、病態が軽度の人もしくは症状がまだ出ていない人からも感染する可能性があるという強力なエビデンスがあります。これは、COVID-19が、症状を示している人のみから感染拡大し、感染経路の効率のずっと低い中東呼吸器症候群や重症急性呼吸器症候群(SARS)よりも、ずっと抑制が難しいということを意味します。
実際は、COVID-19は、SARSと比較し、4分の1の時間で、10倍の感染事例をもたらしています。
幸いなのは、国家、州、地域行政や公衆衛生の機関が、COVID-19の拡大抑止へのステップを次の数週間に渡り取ることができることです。
例えば、人々の対応を援助することに加えて、担当の政府機関は、低所得層、中所得層の国をパンデミックに備える様、援助すべきです。
これらの多くの国の医療制度は、すでに追い詰められた状態で、新型コロナウイルスのような病原体は、これらの国を急速に圧倒してしまうでしょう。そして、より裕福な国の自然な望みとして、彼らの国民をまず最初に対応すると仮定すれば、貧困国は、政治機能や経済的なレバレッジがほとんどなくなってしまいます。


”アフリカや南アジアの国の対策準備を助けることで、我々は命を助けることができ、ウイルスの世界的な拡散を遅らすことができます。”

アフリカや南アジアの国の対策準備を助けることで、我々は命を助けることができ、ウイルスの世界的な拡散を遅らすことができます。(最近、メリンダと私は、COVID-19の速やかなグローバル対応の立ち上げのためにコミットした合計最大1億ドルの金額の多くの部分が特に後進国に注力しています。)
また、世界的にCOVID-19の治療とワクチンに関連する作業を加速する必要があります。科学者は数日でウイルスのゲノム配列を決定し、いくつかの有望なワクチン候補を開発することができました。また、Coalition for Epidemic Preparedness Innovations(CEPI)は、既に最大8つの有望なワクチン候補を臨床試験に向けて準備しています。
これらのワクチンのうちの1つもしくは幾つかが動物モデルで安全性効果が証明された場合、早くて6月の大規模な試験に向け準備することができます。すでに安全性がテストされている化合物のライブラリを利用し、機械学習を含む新しいスクリーニング手法を用いて、数週間以内に大規模な臨床試験に対応できる抗ウイルス薬を特定することにより、創薬を加速することもできます。
これら全ての手順は、現在の危機に対処するのに役立つことでしょう。 しかし、次に流行した時により効率的かつ効果的に対応できるように、より大きな体系的な変更を加える必要もあります。
低・中所得国がプライマリーヘルスケアシステムを強化するために支援は不可欠です。診療所を建設するとき、感染症の蔓延と戦うためインフラストラクチャー建設の一部も負うことになるでしょう。
トレーニングを受けた医療従事者は、ワクチンを提供するだけにとどまらず、疾病パターンをモニターし、感染症のアウトブレークの懸念を世界に対し発信する早期の注意喚起システムの一部としての役割も果たします。
世界は、関連組織が即座にアクセス可能な症例データベースやそれぞれの国に情報共有を求める規制を含む疾病サーベイランスへの投資も必要です。政府機関は、緊急事態において、在庫備蓄や在庫の転送の際の供給者リスト同様、感染症対応に向け備えていた地域のリーダーから世界的なエキスパートまで、トレーニングを受けた担当者リストにアクセスを持つべきです。
さらに、安全で効果的なワクチンや抗ウイルス薬を開発し、承認を取得し、動きの速い病原体の発見から数か月以内に大量に提供できるシステムを構築する必要があります。
これは、技術、外交、予算面において障壁がある厳しい課題であり、官民パートナーシップを要します。しかし、これらの課題はすべて克服可能です。
ワクチンの主な技術的課題の1つは、感染症の流行に対応するには時間が掛りすぎるタンパク質の古い製造方法を改善することです。我々は予測可能な安全性を持つプラットフォームを開発する必要があります。そのため、規制当局の審査が迅速に行われ、製造業者が低コストで大量生産が容易にできるようになります。
抗ウイルス薬に関し、既存の治療および候補物質を素早くかつ標準化された方法でスクリーニングするための体系的なシステムが必要になります。
もう一つの技術的な課題として、核酸ベースの構築体が含まれる点が挙げられます。これらの構築体について、ウイルスゲノムの配列が決定されてから数時間以内に産生することが可能ですが、現時点で、それらを大量に生産する方法を検討する必要があります。
これらの技術的ソリューションに加えて、国際的なコラボレーションとデータ共有を推進する外交努力が必要です。
抗ウイルス薬とワクチンの開発には、多国間の大規模臨床試験とライセンス契約が含まれます。我々は、有望なワクチンや抗ウイルス薬の候補をこのようなプロセスで迅速に進められるように、研究の優先順位と試験プロトコルに関するコンセンサスを得る様手助けするグローバルフォーラムを最大限に活用する必要があります。
これらのプラットフォームには、WHO R&Dブループリント*1、ISARIC (the International Severe Acute Respiratory and Emerging Infection Consortium trial network)*2、及びGlo-PDR (the Global Research Collaboration for Infectious Disease Preparedness)*3が含まれます。
目標は、患者の安全性への懸念を回避し、3か月以内に最終的な臨床試験結果と規制当局の承認を得ることです。
*1:2014年に西アフリカで流行したエボラがきっかけで、感染症に対応する医療技術やワクチンの開発のために生まれた計画
*2:国際重症急性呼吸器・新興感染症協会
*3:感染症のアウトブレークに対する国際連携ネットワーク

“これらに割り当てる資金を何倍も増やす必要があります”

続いて、資金に関する問いが沸き上がります。これらに割り当てる資金を何倍も増やす必要があります。
新型コロナウイルスワクチンに関するフェーズIII試験を完了し、規制当局の承認を得るには、さらに数十億ドルが必要であり、疾病サーベイランスと対応策を改善させるには、また更なる資金が必要となります。
このためになぜ、政府の資金が必要なのでしょうか?民間セクター単独で解決できないのでしょうか?パンデミック対象の製品は非常にハイリスクな投資であり、製薬企業はリスクを排除し、集中して取り組むためにも公的資金が必要になります。
加えて、政府機関やその他の資金提供者は、グローバル公共財として、数週間でワクチン供給ができる製造設備に資金提供する必要があります。
これら設備は、通常は予防接種プログラム用のワクチンを製造し、パンデミック時に速やかに生産を切り替えることが可能となります。最後に、国々の政府は、ワクチンを必要とする人々に向けたワクチンの調達と提供のために資金を確保する必要があります。
明らかに、パンデミック対策に向けた数十億ドルは多額のお金です。しかし、問題を解決するためには必要な投資規模です。
そして、COVID-19がサプライチェーンと株式市場を混乱させている様相を見ただけでわかるはずですが、パンデミックがもたらす経済的なダメージを考えると、投資に値します。
最後に、政府と産業界は合意する必要があります。その場合、パンデミック時に、ワクチンと抗ウイルス薬が単に最高入札者に販売されることはなく、感染症の流行の渦中にいる、最も必要としている人々のために入手可能で手頃な価格となります。これは正しいことであるだけでなく、感染の伝播を避け、大流行を防ぐための正しい戦略でもあります。
これらのアクションは、リーダーが今取り組むべきものです。無駄にできる時間はありません。

この元の記事は、New England Journal of Medicineのウェブサイトに掲載されていたものです。私がこの医学雑誌に、2015年にグローバルなパンデミック対応システムの必要性について執筆し、また2018年に新規呼吸器系ウイルスによってもたらされる脅威について執筆したものです。

お問合せはこちらまで: info@quinsence.jp

*オリジナル記事:https://www.gatesnotes.com/Health/How-to-respond-to-COVID-19?fbclid=IwAR1yXBIM8EXQWhndCglecCxl9UPWqP0umH6nhf4s68U9jxJpo7kly3Arx6M


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