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主要な経済理論を10分でまとめる。ーアダム・スミスからピケティまでー

歴史は私たちに進むべき道筋を示してくれる

私たちの生活とは決して切り離すことのできない「経済」
コンビニで買い物をするのも、会社で働くのも、税金を払うのも。すべては「経済行動」の1つ。

教育・結婚・出産・老後など、経済は私たちのライフスタイルにまで関与する。経済は、私たちの「幸福」に密接に関係している。

だから、経済の話は、経済学者、社会学者、歴史学者、哲学者に任せておくには、あまりにも重要な問題。

私たち一人ひとりが、習熟度に差はあれど、みな持てる範囲の知識と、自分の意見を持ち、議論することが大切なはず。

そんな思いのもと、このノートを書きました!

そのため、経済学を学んでいる人が見たら、「言ってることいい加減すぎ!」とか、「ここ間違ってる!」とかあるかもしれませんが、お手柔らかにお願いします!ではさっそく。

目次
①アダム・スミス「国富論」
②マルクス「資本論」
③ケインズ「雇用・利子および貨幣の一般理論」
④フリードマン「資本主義と自由」
⑤ピケティ「21世紀の資本」

①アダム・スミス

~市場は自由にしとこう!~

なんといっても、近代経済学のもととなったのは、アダム・スミス(1723-90)の「国富論」(1776年)。

アダム・スミス以前の考え

 パイは平等に分配しよう!

パイとは市場(マーケット)のこと。アダム・スミス以前は、市場は限られているので、その市場をみんなで平等に分配することで幸福な社会を作れると考えられてきました。

しかし、アダム・スミスは、その考えを否定し、「パイの拡大の理論」を唱えました。

アダム・スミスの主張

幸福な社会は、パイを平等に分配する社会ではなく、生産性を高め、パイを拡大する社会の中にある。

 そのために、市場は自由放任にしておくべき(政府は市場に関与すべきでない)。市場を自由放任にしておけば、人間の”利己心”によって競争がおき、「見えざる手」によって価格が調整され、良いものだけが残り、社会がうまくいく

パイは平等に配るのではなく、大きくしちゃえばいい

アダム・スミスの考えの画期的な部分は、「パイは大きくしちゃえばいいじゃん」と考えた点。

アダム・スミスが”パイ”と言う言葉を用いたように、市場を食べ物のパイと捉えて考えてみましょう。

アダム・スミス以前の人たちは、「パイは限られているから、それをみんなで平等に分配することこそが正義であり、幸福な社会でしょ」と考えていました。

しかしアダム・スミスはその考えを否定し、「たとえ配られるパイの大きさが違くても、パイ自体が大きければ、みんな飢えることはなくね?」と考えました。

例えば、パイの大きさがものすごく小さいとする。すると、パイ全体の1%しか分け与えてもらえなかったホームレスの人は、満足に食べられず、飢えてしまうだろう。 

 いっぽう、もとのパイの大きさがとても大きかったとする。すると、たとえパイ全体の1%だけでも、パイ自体の大きさがとても大きいため、不平等ではあるが、飢えてしまうことはない。

市場もこれと同じように、とにかく市場の規模を大きくすれば、分配の割合は不平等だったとしても、貧困の人が飢えてしまうことはないと、アダム・スミスは考えたんです。

”見えざる手”に任せよう

そしてアダム・スミスは、パイを大きくするためには、市場は自由であるべきだと唱えました。

政府が関与しすぎることなく、市場を自由にしておけば、”よりお金を稼ぎたい!”という利己心による「競争」や、それに付随する生産性の向上、価格低下が働き、結果的にそれに生き残るような良い企業や製品だけが残り、社会がうまく機能すると考えたんです。

アダム・スミスはこのことを、「見えざる手」によって社会がうまくいくと表現しました。

市場は自由にしておけば、見えざる手によって良いものだけ残るように調整されて、うまく機能するようになる。だから、政府は市場には関与せず、「国防」や「司法行政」などの最低限の役割だけ担えばいいというのが、アダム・スミスの主張です。

(より詳しい話は以下の記事を参照↓)


②マルクス

~市場を放っておいたら資本主義は終わりを迎える!~

そんな、アダム・スミスの主張に「ちょっと待った!」と反論したのが、マルクス(1818~1883)[「資本論」(1867年)にて]

マルクスの主張

資本主義においては、資本家(雇い主)は、労働者に労働賃金以上の働きをさせ、その働きを付加価値として商品につけて売ることで、自身のお金を増やしている。 

そして、資本家は、その利益を労働者に還元することはない(※)。そのために資本家と労働者の格差は、拡大し続ける。

*なぜ資本家は利益を労働者に還元しない?

それは、「競争に勝ち抜くため」。もし利益を労働者に還元してしまったら、その分人件費として生産コストがかかるため、商品の値段は高くなってしまう。すると、競合他社に価格で負けてしまう。だから、資本家は労働者には、利益を還元しないとマルクスは考えました。

また、そのようにして競争力のある企業が成長していった結果、市場は力のある数社による「独占状態」になります。

すると、労働者は他に働き口がないため、嫌でもその企業の悪い労働条件を飲まなければいけなくなってしまいます。

よって、資本家と労働者の格差は拡大し続けてしまうと、マルクスは主張しました。

ちなみに、マルクスは、このような資本家と労働者の格差が拡大し続けると、やがては労働者が資本家に対して反乱を起こし、”資本主義は終焉する”と主張しました。

このような思想のもとに、マルクスは資本主義に変わる「社会主義」を唱えました。そして、その考えをもとに、レーニンによる「ロシア革命」が起こり、社会主義国家が誕生しました。

(より詳しい話は以下の記事を参照↓)


③ケインズ

~政府が介入すれば、資本主義は成り立つよ!~

そんな資本主義と社会主義の極端な主張の間を取り持ったのが、ケインズ(1883-1946)の「雇用・利子および貨幣の一般理論」(1936)

ケインズの主張

政府が市場に介入すれば資本主義は有効である

政府が市場に介入しないと、不景気から立ち直れない

ケインズ以前は、「税収入で入って来た分だけ、支出しましょう」という考え方(均衡財政)が政府の基本的な立場でした。これは、アダム・スミスの「政府は極力市場に介入すべきでない」という考えを踏襲しています。

しかし、そのような考え方には「いったん不景気になると、悪循環から抜け出せない」という重大な問題点がありました。

一度不景気になると、企業は給与を下げる。すると、政府の税収入も低下する。すると、政府から企業への支出も低下し、企業の売上が一層低下する。

このように、均衡財政では不景気から立ち直れないとケインズは述べました。

政府が市場に介入することで景気は調整できる

ケインズは変わりに、政府が財政政策を行うことで、景気は調整できると主張しました。不景気のときには、国が借金をし、公共事業に支出することで雇用が生まれ、利益が上がり、給与が上がると考えたのです。また、作った借金は、給与が上がったことによる税収入によって返せばいいとケインズは唱えました。

これは、当時においてはとっても画期的な考えでした。なんせ、国がお金に困っているときこそ、政府が借金してお金を撒き、雇用を作れ!と言う、それまでの常識とは真反対の考えだったのですから。

このように、政府が介入すれば資本主義は成り立つと考えたのが、ケインズです。この主張は、かの有名なアメリカの「ニューディール政策」など、各国の政策に大きな影響を与えました。

(より詳しい話は以下の記事を参照↓)


④フリードマン

~やっぱり政府は市場に介入すべきじゃない~

アダム・スミスとマルクスの間を上手く取りまとめてくれたように見えたケインズ。しかし、ケインズの理論は、ケインズが思っているようには機能しませんでした..

そんな中登場したのが、フリードマン(1912~2006)の「資本主義と自由」(1962)

フリードマンの主張

市場は極力自由であるべきである。最低限の介入を政府が行い、あとは個人(民間)の自由と責任に基づく競争に委ねるべきである。

ケインズ理論の欠点

ケインズの考えは、”理論上”はうまく機能するように見えました。しかし、実際にはケインズの思うようには機能しなかったんです。

それは、国が借金を返すことがなかったからです。ケインズは、国が借金をして雇用が増えれば税収が増え、そのお金で借金を返すことができると考えていました。しかし実際には、公共投資をやめたことによる有権者や国民からの反発を恐れて、国は借金を返さずに、次から次へと借金を重ねていってしまったのです。

市場はやっぱり、極力民間に任せよう

そんな問題から、フリードマンの考えは生まれました。フリードマンの主張は、「減税」「規制緩和」「民営化」の3つのポイントから理解することができます。

フリードマンは、企業の法人税の減税と規制緩和(制限事項の解除)で、企業が自由に経済活動を行える状況を確保し、ガンガン収益を上げてくれることで、経済が成長し、社会がより良くなると考えました。

その上では、政府はケインズが考えたような「大きな政府」ではなく、「国防」や「治安維持」、「インフラの整備」など最低限の役割のみ果たす「小さな政府」であるべきだと主張しました。

このようなフリードマンの考えを、「新自由主義」と言います。(よくニュースなどで目にします!)

具体的に、フリードマンは著書「資本主義と自由」において、政府が行うべきでない14項目をあげました。

1. 農産物の買取保証価格制度
2. 輸入関税または輸出制限
3. 農産物の作付面積制限や原油の生産割当てなどの産出規制
4. 家賃統制
5. 法定の最低賃金や価格上限
6. 細部にわたる産業規制
7. 連邦通信委員会によるラジオとテレビの規制
8. 現行の社会保障制度、とくに老齢・退職年金制度
9. 事業・職業免許制度
10. いわゆる公営住宅および住宅建設を奨励するための補助金制度
11. 平時の徴兵制
12. 国立公園
13. 営利目的での郵便事業の法的禁止
14. 公有公営の有料道路

新自由主義の影

フリードマンの新自由主義によって経済は確かに活発化したが、いっぽうで政府の介入を抑え、市場の競争に任せたことで、「格差」は大きく広がることとなりました。

例えば日本では、新自由主義をうけて派遣労働自由化が起こり、企業がより自由に派遣労働を採用することができるようになったことで、「派遣切り」問題がおき、「年越し派遣村」など、多くのホームレス生活の人が生まれる状況を引き起こしました。

このように、フリードマンの新自由主義は自己責任という考えが強い、「強者の理論」だとされています。

(より詳しい話は以下の記事を参照↓)


⑤ピケティ

~資本主義には根本的な構造矛盾が存在する~

最後に登場するのは、トマ・ピケティ(1971~)の「21世紀の資本」(2013)。ピケティは、300年もの各国の経済データをリサーチし、資本主義の根本的な構造矛盾を指摘しました。

ピケティの主張

株や不動産などの資本収益の推移、資本収益率(r)は、賃金や産出の成長率(g)よりも常に高い(r>g)

つまり、資産を持つ人(事業者・資本家)と労働以外になにも持たない人(労働者)の間の格差は拡大していくばかりである。


格差はたしかに拡大し続ける

ピケティのなによりの功績は、「現行の資本主義では、資本家と労働者の格差は拡大し続ける」ことを、300年もの世界各国の経済データを分析して、数値的に導き出したことにあります。

それまで、経済学の分野では、「経済成長を遂げると格差は縮小する」とされていました。[例:クズネッツ曲線、サイモン・クズネッツ(ノーベル経済学賞)]

これは、アダム・スミスが国富論にて、「パイを大きくしちゃえばいいじゃん」と主張したこととも関係します。

しかし、ピケティは300年もの経済データを分析し、この考えが誤りであることを主張しました。

(アメリカ合衆国における所得上位10%の所得が、国民総所得に占める比率を示す図。値が高いほど、格差が大きいことを示す。)

ピケティは、1942年からの格差の縮まりは、経済成長によるものではなく、世界戦争により富裕層の富が壊され、また同時期に格差是正のために、政府の意図的な介入があったからだと主張しました。(グラフ中央)

つまり、その期間を除けば、常に資本家と労働者の間の格差は拡大し続けており、格差を縮めるには、政府の介入が不可欠であると主張しました。

また、ピケティは、富の「相続」による格差の広がりを主張しました。富める者は、その富を下へ下へと相続し、さらに富を築いていく。そのスピードは、労働者が労働によってお金を稼ぐスピードよりも常に早い。だから、裕福な人と労働者との差は常に広がり続けると、ピケティは主張しました。

資本に対する世界的な累進課税を

このように、ピケティは資本主義には構造的な欠陥があることを指摘しました。そしてピケティは、このような欠陥を補うためには、世界的な「資本税」が必要だと主張しました。

資本税とは、資本、すなわち不動産や株など、金を生み出すすべての資本に対して、税金を課することです。

資本主義では、構造的に強者と弱者が生まれてしまう。だから、強者から弱者への「再分配」を制度化することが大切である、とピケティは主張したわけです。

しかし、言うは易し、行うは難し。こんな政策が富裕層の人に受け入れられるとは到底考えられませんし、もし国内でこのような法案が成立すれば、お金持ちは次々に税率の低い海外へと移住してしまうでしょう。実際、ピケティも「21世紀の資本」の中で、”真に世界的な資本課税はまちがいなくユートピア的な理想でしかない。”と述べています。しかし、諦めたらそこで試合終了。対話を続け、このような形を目指していくことが、私たちに求められる唯一のことかもしれません。

(より詳しい話は以下の記事を参照↓)

まとめ

以上、アダム・スミスからピケティまで、古典~現代までの主要な経済理論をまとめてみました。

学問というものはなんとも難しく、近寄りがたく、ついつい自分たちとは距離をおいてしまいがちです。しかし、このような経済の話は、確かに私たちの生活に、幸せに直結しています。

だからこそ、自分たちの近寄れる範囲で学問を学び、考え、自分なりの意見を持ち、それを表明することが大切であり、それこそが真の民主主義なのかなと思います。

以上、経済理論のまとめでした。

※参考
・「やりなおす経済史」
(蔭山克秀、ダイヤモンド社)
・13歳からの法学部入門
(荘司雅彦、幻冬舎新書)
・「21世紀の資本論」
(Thomas piketty,みすず書房)
・記事に添付されている各種記事



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