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手紙その30

2007年3月20日は、君と初めて出会った日。
2013年3月20日は、長男の誕生日。
なんの偶然だろうね。

2007年初頭。
ずっとピアノで弾いていたメロディーがあった。
気がついたら、そればかりを繰り返し。
だけど、続きのメロディーが降りてこない。
メロディーが、前に進みたがっているのを感じるのに前に進まない。

曲が展開されていったのは君と出会ってからだ。
その時に僕は、『もしかして…』と思った。

2009年1月、僕に病気が発覚した。
そこから、さらに曲が展開された時、確信した。
君との思い出がメロディに変わる。

君と病を乗り越えた。曲が進んだ。
君と旅をした。曲が進んだ。
君にプロポーズをした。曲が進んだ。
君と結婚式を迎えた。曲が進んだ。
長男が生まれた時、曲が終わった。

僕は、曲名を考えた。
6年間の思い出そのもののような曲。
このまとまりのない散文詩に、
このまとまりのない思い出に、
一貫しているものは何だろう。
この思い出は誰との思い出なのか。
僕は、常に誰とともにあったのか。

そうして『あいとともに』とまず名がついた。
僕の名前も入るし丁度いいと思った。

曲が完成してからはとにかく弾きまくった。
自分の技術の限界にも挑戦してみようとアレンジにアレンジを重ねた。
けど、まだ君には聴かせていなかった。
君に聴かせるにはまだ早いと思っていた。

そして、この曲が誕生し2年の月日が流れた。
その間、他の曲は生まれなかった。

2015年、次男が生まれた年の秋。 
ある友人が結婚すると言う。
その披露宴に僕と君を招待する、と。

僕はサプライズが好きだ。
友人に電話で結婚式場を先に聞き出した僕は、
その電話を切るなり式場に電話した。

『そこにピアノはありますか?』

やめときゃ良かったと思った。
披露宴3日前から食欲がなくなっていた。
前菜も味がしない。
ビールも…酔い過ぎたら演奏に支障が出る。
脚が震えるし、唇もなんか冷たく感じる。
ため息ばかりつくから友人が心配する。
『中尾、元気ないやん』
元気…があれば何でもできるけどなぁ。
僕はできるんだろうか。

僕の出番が来た。
『新郎のご友人、中尾友彦様によるピアノ演奏…』

『曲名は「with love」』

そう、僕は曲名を変えた。
妻と友人に送る曲だから『愛と友に』でも良かった。だけど、このときばかりは名前が邪魔だ。
ダブルどころじゃないミーニングだ。
あからさま過ぎるし。もう英語にしちゃおう。
『with love』でしっくり来た。

司会者から紹介があった時、
君は『え?弾くん?!』と驚いていたが、
その顔を堪能する余裕などあるはずない。
君と友人に仕掛けたサプライズなのに。
こんなに緊張してるとは誰へのサプライズだよ。

ピアノを前にして僕は頭が真っ白だった。
ピアノってどうやって弾くんだったっけ。
ああ、そうだ、かれこれ8年間同じ曲しか練習してこなかったじゃないか。
とりあえず一番最初の『レ』に右手の薬指を持ってこよう。
あ、そうすると左手は自然と『ド』の位置に…

あの時、ずっと弾いていたあのメロディーから
僕らの物語は始まった。


今日は2024年3月20日。
僕は、手紙を書いている。
その道程で様々な出会いや別れ、
気付きや学びがあった。
これまで色んなことを書いてきた。
伝えなくても良かったものもあったが、
ほとんどが伝えたかった事だ。
だけど、もっともっと根源的で、もっともっと深い、伝えたかった想いがある。

ほんの最近のことだ。
ふと僕は気になった。
『with love』が文法的に正しいか。

するとこんな一文を見つけた。

「with love」は英語の表現で、日本語では「愛を込めて」という意味です。手紙やカードの結びの言葉として、家族や友人など親しい相手に使われます。

Google検索より

驚いた…
どうやら僕はずっと君に手紙を書いてたらしい。 
17年前、出会ったときから。
あの時と比べると、ずいぶん髪の毛も薄くなってきたし、お肌もシミができて、潤いが減ってきた。
うん、お互い年を取ったもんだ。
長男も10歳を越えてしまった。

だけど、変わらないものもあるんだよ。
少なくとも僕はね。

ありがとう。
これからもよろしく。
今度、君にプレゼントしようと決めたよ。

花束を。

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