快感

誰かに髪の毛を洗ってもらうのは本当に気持ちが良い。オシャレにあまり興味が無い僕が月に1度美容院に行くのは、もうほぼそれが理由の全てな気がする。

今日の担当は、女の人だった。少し、緊張する。なんだか少し力強さに欠けるところがあって、先月の、片側だけやけに髪が長いヒョロい男の人が良かったな、なんて思った。とはいえ、仕事が丁寧な印象で、髪の毛を触ってくれている時間が先月よりも長い気がした。

「おつかれさまでしたー」終わった。終わってしまった。お疲れなのはアナタでしょう、といつも通り心の中で返事をする。むしろ僕の疲れはゼロになっている。

会計を前に、荷物を取り出してくれる。体に遅れた肩までの髪が目に入った。なんだろう。このテのことには詳しくないし、見て分かるスキルを持っていない僕であるが、違和感は届いた。聞いたことのある言葉で言ってみるなら、ツヤが無い、だろうか。僕の心地よさを分けてあげたい。アナタがくれた快感が、アナタに足りていない。悲しいなあ。

「ありがとうございました」会計を済ませてお店を出た。髪の根元なのか頭皮なのかハッキリしないスッキリの源が風に吹かれてより際立つ。来月は、指名してみようかな。誰かを指名するのは初めてだし、お金も余計にかかるけど、あの人なら良いかな、と思うんだ。

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