プリン

思い出の中はドンドンと綺麗になっていく。初恋が磨き上げられていく。トキメキは光沢をまとう。一緒に見た映画は名作になり、一緒に食べたコンビニスイーツはどんなパティシエより凄腕になる。

「一緒に食べたなあ」閉店のお知らせが貼られたラーメン屋を見ながら、独り言が飛んでいった。家を引っ越したわけじゃないから、駅からの帰り道は全て思い出になる。毎日がセンチメンタルなのだ。いいかげん面倒になってきた。

思い出が、いた。というか、そのものが。「久しぶり」階段の上から落ちてきた言葉が脳天に降った。足。ずいぶんとまた、足出しちゃって。

「久しぶり」耳から入ってきた自分の言葉が、自分の言葉に聞こえない。条件反射は、取り繕う隙間が無かったんだ。

「プリン、食べる?」「食べる」「鍵」「はいはい」ようやく目線が平行になる。「はい」コンビニのビニール袋を渡される。「じゃあね」「え…?」「ばいばーい」帰って行った。

また、思い出が増えた。きっとまた、綺麗になっていく。プリンが美味かった。

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