オーストラリアの非営利活動の全体像:Australian Charities Report 9th editionより
日本と比べて、オーストラリアのソーシャルセクターで興味深い点として、Australian Charities and Not-for-profits Commission(ACNC)という政府設立の機関があることが挙げられます。
ここが非営利団体の設立登録やガイドライン発行、事業・組織運営への評価を行っていて、ここの発信を通じて、オーストラリアのチャリティや非営利団体の全体像が分かります。
本記事では、このACNCが2023年6月に発行したAustralian Charities Report 9th editionの内容をもとに、オーストラリアのチャリティや非営利団体の全体像で特徴的な部分をピックアップしてまとめています。
ちなみに、本レポートは2021年度にACNCへ提出された非営利団体からの事業報告等の情報をもとに作成されています。そのうち、64%(31,582団体)が2020年7月1日~2021年6月末までの会計年度での事業報告、29%(14,170団体)が2021年1月1日~2021年12月末の暦年での事業報告、7%(3,650団体)がそれ以外の期間での事業報告とのことです。
オーストラリアの非営利団体の概観
日本ファンドレイジング協会が発行する寄付白書におけるインフォグラフィックのように、Australian Charities Reportではオーストラリアの非営利団体の全体像が視覚的に分かり易くまとまっているページがあります。
上記の各データで個人的にポイントだなと思う部分を意訳してみました。
オーストラリアの非営利団体の収益
上記の収益規模のデータよりもさらに詳細な分類が下記の表です。ACNCに登録されている非営利団体のうち、年間収益が1億ドル以上が0.5%、1000万ドル以上1億ドル未満が4.5%、100万ドル以上1000万ドル未満が13.4%、年間収益が25万ドル~100万ドルが14.1%、年間収益5万ドル以上25万ドル未満が20.3%。年間収益5万ドル以下が31.6%となっています。
ちなみに、BRCという15.7%の収益規模不明がありますが、これはACNCへの事業報告や財務情報の提出を特定の非営利団体に限って免除されるBasic Religious Charities というカテゴリーのこと。宗教団体に対して、こうした優遇措置があることが英語圏の国ならではとも言えて興味深いです。
それぞれの収益規模ごとに財源の内訳も出ていました。上から、Government including grants(助成金を含む行政からの補助金)、Donation and bequests(寄付や遺贈寄付)、Goods and services(物品販売やサービス等の事業収益)、Investments(投資)、Other revenue(その他の収益)となっています。
このレポートは、コロナ禍の2021年度の情報をもとに作成されているので、行政から事業継続のための補助金が非営利団体に対して出ていたことが、Government including grantsが大きくなっている理由に挙げられます。
Goods or servicesの項目もまとまった収益を生み出していますが、オーストラリアの主要な非営利団体はOP shopを運営しており、コロナ禍であっても約1200億円前後の市場規模を維持している程なので、オーストラリアの非営利セクターの収益基盤はしっかりしているように感じます。
興味のある方は、OP shopについてまとめた過去の記事もご参考ください。
オーストラリアの非営利団体の活動分野
日本においては活動分野(2023年11月時点で20種類)という表現になっていますが、オーストラリアにおいてはチャリティの目的(Charitable purpose)によって12の領域に分類されています。
特に、6番目の項目は様々な国から移民を受け入れているオーストラリアだらこその項目だと思いますし、政策提言につながる12番目の項目も特徴的に思います。
上記は法的に規定されたチャリティの目的(分野)ですが、これとは別に、CLASSIE((Classification system of Australian Social Sector Initiatives and Entities)というシステムを活用して、活動分野の詳細な分類もされています。
今までオーストラリアで過ごしてきた中で大手NGO以外で、国際関係(Internationl relations)のオーストラリアの非営利団体をほとんど見かけないなぁと何となく感じていたのですが、このデータをみて確信を得たのが全体の0.4%(355団体)しかないということ。日本においては、2023年9月末時点での内閣府NPOホームページによると国際協力NGOは9200団体以上あるので、特徴的な違いですね。
先述のExtra largeからExtra smallまでの収益規模ごとに、このCLASSIEによる活動分野で上位3つが、下記の通りまとめられていました。教育(Education)に関する活動が全体的に行われており、中規模以下の団体で宗教に関わる活動が行われ、事業規模が大きくなるほどHuman servicesに取り組む団体が多くなっていることが分かります。
オーストラリアの非営利団体の活動対象
ACNCのサイト上で、登録されている非営利団体や活動を検索することができるのですが、活動対象でも検索ができるようになっていてその選択肢が興味深かったので、下記のスクショをシェアさせていただきます。大人や子どもを対象にする活動にしても具体的な年齢層かが明記されていますし、どういう社会課題の当事者を対象としているのかが細かく選択肢として設けられているのが印象的でした。
雑感
ここまでACNCが発行したAustralian Charities Report 9th editionから、日本のソーシャルセクターの立場から興味深く感じたポイントをピックアップしてご紹介してきました。英語が読める方は、ぜひ全文に目を通してみてください。
個人的には、Charities remain a major employer(チャリティ団体は主要な雇用者の一つである。)というレポートの記載が、政府からのお墨付きでもありつつ、非営利活動が社会に根差していることの表れにも思える一文に出会えただけでも、オーストラリアのソーシャルセクターへの学びを深めることができた実感を持っています。
最後に
記事をお読みいただき、ありがとうございました。
私は、オーストラリアを中心に海外のソーシャルセクターに関する有意義な事例や知見を日本のみなさんにシェアしていけるように日々活動しています。
現在は、コストがかかり過ぎないように意識しつつも、無料の機会だけで得られる情報や出会える人では情報の質と量に課題があり、ファンドレイザーをはじめオーストラリアのソーシャルセクターの人達とつながるために有料のイベント(約2~8万円の参加費)やカンファレンス(約10~20万円の参加費)に直接参加したり、なるべく正確かつ信頼性のある情報源から情報を得られるように有料のレポートや書籍を購入しながら情報を集めています。
「海外(のソーシャルセクター)」という切り口から日本のソーシャルセクターに引き続き貢献できればと思っていますので、よろしければ、下記のサポートボタンでご支援いただけると幸いです。
一人ひとりからサポートいただけることで、様々な情報にアクセスして、様々な機会に参加して、有意義な発信を続けたいと思っています!
どうぞよろしくお願いいたします!
記事をお読みいただき、ありがとうございました!もしよろしければ、サポートいただけると日々の活動の励みになります!これからも日本の非営利活動のお役に立てるように、様々な機会に参加して得た海外のソーシャルセクターの情報や知見を発信していきますので、今後ともよろしくお願いいたします!!