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孤独な研究者の夢想

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認知科学研究・最近読んだ本・統計など研究に関係することを書きます。
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2019年4月の記事一覧

センス・オブ・スケール展

たまたま立ち寄った横須賀美術館で行われていた『縮小/拡大する美術 センス・オブ・スケール展』 Miniaturized / Magnified Artということで、 様々なものの「スケール」をハックしてみると「見立て」の世界がその先に広がっている というコンセプトで、様々なアーティストがつくったインスタレーションが展示されていました。 展覧会は中谷宇吉郎の雪の写真と、国友一貫斎の太陽と月のスケッチから始まり、「身の回りのミクロの世界」と「遠い宇宙のマクロの世界」を

行動・環境・内面に働きかける「自己調整学習(Self-Regulated Learning)」

自己調整学習は"Self-Regulated Learning"という訳語がつけられる。自分をいかにうまく「調整」していくかというプロセスは、そのものが「学習」の本質である。 Zimmerman(1989)の研究では、社会的な要素を考えた上での自己調整学習が提案されている。 Zimmerman, B. J. (1989). A social cognitive view of self-regulated academic learning. Journal of Ed

すべてのバイアスの母「確証バイアス」

あまりにありふれている「確証バイアス」自分にとって都合の良い事例だけを取り入れる。こんな考え方をしたおぼえはないだろうか。 ・「A型の人は几帳面」や、「O型の人はおおざっぱ」など、血液型で性格がだいたいわかる。 ・体の調子が悪いとき、自分と同じ症状でも、軽症である根拠ばかりを探してしまう。 ・雪国出身の人に「じゃあ、スキーは得意なんですよね?」と聞いたことがある。 では、私も修士論文で題材として扱い、「確証バイアス」を確かめる実験課題として扱われている「ウェイソンの2−4

数と量の結びつき(数の表象:Numerical Representation)

簡単な算数から、高度な統計学まで、人は「もの」や「こと」を「数字」に置き換えて測ることで、物事を理解しようとしている。 では、次の問題を考えてみよう。 0から100までの線があった時、74はどのくらいか問われるのだ。 これは「数字」と「線の長さ」の紐づけ、量的な感覚がどの程度あるのかを測ることのできる実験出る。この実験は様々な研究者でされたのだが、 下記のように3つの仮説が立った上で、どのやり方がマッチしているか、実験が重ねられた。 一番左から、「対数曲線モデル」「

場面で変わってしまう「ルール確認」力(Wasonの四枚カード問題)

いきなりだが、下の問題を考えてみてほしい。 今、目の前に4枚ののカードがあり、それぞれ片面にはアルファベットが、もう片面には数字が書かれている。 「A」「D」「4」「7」の四枚のカードが並んでいるが、これらが、 「片面が母音ならば、もう一方の面は偶数でなければならない」 というルールが成り立っているかを確かめたい。そのためにこの内の2枚のカードをめくることができるが、あなたは、どのカードを確かめるだろうか? ひょっとして、「A」と「4」を選ばなかっただろうか?実際

私たちに芽生える素朴理論

今回は、私たちが日常生活を送っていく中で発見し、いつも作り上げている「素朴理論」について、考えてみる。 素朴理論をあぶり出す調査 まず、下の問題を、その先を見ずに考えて欲しい。 この写真のaの点、bの点、それぞれにどのような力がかかっているだろうか。 この問題、ハーバード大学の学生に出題され、下記のような回答が80%を超える結果になった。上昇しているときは上向きの力がかかり、下降している時には下向きの力がかかる、というモデルだ。 ただ、科学的に考えると、下のようになる

アブダクション(仮説推論) 『系統樹思考の世界』

この本は、系統樹思考と分類思考の対比から見て取れる科学哲学や科学史が取り上げられています。 系統樹は「時間的変化」の重要性を表現する方法で、ある意味,現代において「分類することで決定する」神格化されてしまった「科学」を改めて考えさせられます。 私がこの本を読んで感じた重要な論点としは, 「論理学・心理学でいうアブダクション」 「進化生物学・統計学でいうアブダクション」 の意味の違い、系統樹思考と分類思考の違いと人の認知特性があぶり出されてきました。 1. 論理学

自己調整(セルフ・レグ)とセルフ・コントロール信仰 『「落ち着きがない」の正体』

「メタ認知」といえば、『メタ認知的コントロール』、すなわち、自分がつぎにどのような行動を取るか、「判断」をすることが強調されがちである。 特に「落ち着きのある子」が「今後の学業成績が優秀であった」ことがわかったセンセーショナルな研究、「マシュマロ・テスト」が有名である。 マシュマロ・テスト 1963年にアメリカの心理学者ウォルター・ミシェルが行った実験がある、それは、子どもが人生で成功するための、自制心の重要性を解くときに必ず引用される。 4歳から6歳までの600人の子

「メタ認知」とはなにか 『メタ認知 基礎と応用』

最近ようやく一般的用語になりつつあるメタ認知。定義がなかなか難しく、「自分自身を見ているもうひとりの自分がいる」などといった説明がされたりします。 今回は、メタ認知の教科書から「メタ認知とはなにか」について考えてまいりたいと思います。 ダンスキーとメトカルフェによって著されたメタ認知の教科書。当然のことながらメタ認知の話から参りますが、その前に「メタ」ではない「認知」とは何かという話から始まります。 「認知」とはなにか Wikipediaでは下記のように書かれています。

折り紙からソフトウェア開発まで ー私達につきまとう「計画錯誤(Planning Fallacy)」

私たちは、何かをする時ぼんやりと「どのくらいの時間がかかりそうか」を見積もっている。 日常にありふれた「計画」 例えば、朝起きて家を出るまでの時間を思い出してみてほしい。 髭をそって顔を洗って、朝食を食べて、食器を洗って、歯を磨いて、着替えて、ゴミを確認して、といった具合に手順は簡単に思い出せるだろう。さらに、毎日行っているこれらのルーティンに関しては、だいたい髭をそって顔を洗う時間は10分程度、朝食には30分程度、といった具合に時間配分も正確にすることができる。 しか

限界的練習を形作るフィードバック 『超一流になるのは才能か、努力か』

昨日は、コンフォートゾーンを超える「限界的練習」についてご紹介した。 今回は、エリクソン教授の提唱する「限界的練習」の理論において、重要な位置づけである「フィードバック」について、日常的に大人が陥りがちなフィードバックとの違いを見ていくことで考えてゆきたい。 まずは、本文から「限界的練習におけるフィードバック」の節があるので引用する。 限界的練習には、フィードバックと、そのフィードバックに対応して取り組み方を修正することが必要だ。トレーニングの初期にはフィードバックの大

コンフォートゾーンを超えて超一流になるには 『超一流になるのは才能か、努力か』

超一流のスポーツ選手、演奏家、プロ棋士、初心者とは次元の違うパフォーマンスを発揮する人たちは、いずれも何らかの共通点があるように思える。 先日引退したイチロー選手の言葉を引用したい。 ──イチロー選手の生き様でファンの方に伝わっていたらうれしいということはありますか。  生き様というのは僕にはよくわからないですけど、生き方と考えれば、さきほどもお話しましたけれども、人より頑張ることなんてとてもできないんですよね。  あくまで測りは自分の中にある。それで自分なりにその測

遊びと行為の喜び 『フリープレイ 人生と芸術におけるインプロヴィゼーション』

前回の記事でご紹介した笛吹の寓話。 そこでは、若き笛吹の弟子は「承認されるため」や「師匠からの期待に答えるため」や「恥をかかない」ために演奏をしたときに、 「なにかが足りない」状態に陥りました。 しかし、得るものも失うものも、何もなくなった瞬間に本当の意味での演奏、すなわち「プレイ」が起こったのです。 遊び〈プレイ〉こそが創造的活動の源泉 『フリープレイ 人生と芸術におけるインプロヴィゼーション』の著者、ナマハノヴィッチは、その中で創造の源泉は、遊び〈プレイ〉のこころ

笛吹きの寓話と達人 『フリープレイ 人生と芸術におけるインプロヴィゼーション』

「自由な遊び〈フリープレイ〉」と創造性の源泉や創造的なブレイクスルーについて考えることは、「創造」を考えるために役に立つのではないだろうか。 スティーヴン・ナハマノヴィッチ著の『フリープレイ 人生と芸術におけるインプロヴィゼーション』では、冒頭に日本のある昔話を紹介している。 それは、こんな話だ。 中国で発明された新しい笛を持ち帰った、ある日本の音楽の達人がその音の美しさに惚れ込み、みんなに聞かせました。 ある町でコンサートをしたところ長老から「まるで神のようだ!」と大