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『山の話し』 科学随筆U30(一)「ワイヤーロープの振動と林業」を読みながら、山歩きを思い出す…

『窮理』第25号の科学随筆U30(一)「ワイヤーロープの振動と林業」すぎおとひつじ著を
読みながら、頭の中では約10年ほど前に訪問した大台ヶ原を思い出していた。

ワイヤーロープの振動と林業 窮理第25号より


「ワイヤーロープ…」の話は岡山から香川県金毘羅さんを抜け、高知の土佐山田へ…そして話は主題のワイヤーロープへ、張りかげんの話しが物理学を絡めて進んで行く。


 僕は高知の山には入った事は無いが、昔好きだった山歩きの際に奈良の山中で見かけた気がするし、杣人≪そまびと≫に憧れた時に色々調べた記憶が残っていたので、「そうそう」と想いながら楽しく読めた。
 そんな「杣人」の想い出を少し綴ってみたいと思います…


大台ヶ原


  大台ヶ原は奈良県と三重県にまたがる、関西では有名な山で大阪からも日帰り登山もできる。コロナ禍以降、山遊びから縁遠くなってしまったので最近の事情はよく知らない。その日の行程は大台ヶ原と云っても、三重県側の大杉谷渓谷登山口から入山し桃の木小屋で1泊、2日目は粟谷小屋でも1泊、計小屋2泊するつもりの贅沢な行程だった。

大杉谷登山口

 通常は三重県側の大杉谷登山口から渓谷沿いに登って行くと桃の木小屋で1泊し翌日、大台ヶ原山の日出ヶ岳まで登り、大台ヶ原登山口からバスで最寄り駅へ行く行程で登るのが一般的だと思うがその時は大杉谷と大台ヶ原を漫喫したかったので、贅沢な行程を選んだ。
 同行者は山歩きを始めて1年程の、空手道場の後輩だ後輩と云っても僕よりも強くキックボクシングのとある団体のチャンピオンになった男だ。
 キックボクシングを辞めて自身の進路に悩んでいた時に山歩きに誘った、意外にも行きたいと言い出したので彼が悩みを抱えている最中に数回山に入った。その後、彼は、空手道場を開き、結婚し、山に誘っても「ちょっと無理です」と断る様になった。勿論その辺は僕も通り過ぎてきた道なのでよく分かる。


 大杉谷渓谷から大台ヶ原への山歩き計画は大荒れだった。台風が接近していたのである、まだ沖縄にも来ていない台風だが、山に入るとなるとやはり気がかりだ、1日目は何の問題もなく、(否あった…が…)桃の木小屋にたどり着いた。

桃の木小屋


 問題があったのは桃の木小屋へ至る渓谷の道。
渓谷の道は山の岩肌を削りつくられている。所々山を伝う水が滴り落ちて路面は濡れている。岩をくり貫いたトンネル、トンネルの先の路面の横は崖だ…トンネルを抜け滝のように水が滴り落ちる場所に差し掛かった時、相方が駆け抜けようとした…「走るな!」と僕が声を挙げると同時位に相方は見事に転んだ…ゾッとした…
本人はもっとゾッとしただろう…
転んだ横は直ぐ崖だ、僕は軽く説教をしたが(下ろし立てのSCARPAの登山靴を過信していたようだ…こんな岩肌登山靴の方がよく滑る…)、本人は思った以上に応えていて神妙になっていたが、周りの景色に慰められ直ぐに元気を取り戻した。

岩のトンネルを抜けた後おもいっきり転ぶ
岩肌を削り作られた道

桃の木小屋で風呂も食事も漫喫し、登山者誰もが気になるのは天候だ天気予報の時間には小屋のラジオの近くに集まり、台風情報に耳を傾ける。(桃の木小屋から向かい側の山に、あのワイヤーロープが張られている多分、向かい側の山の林道辺りかと想像する…)

 翌朝の行動も登山者それぞれだ、大台ヶ原を目指す者、大杉谷登山口へ向かう者、登山口へUターンする人が多い様に思えた、何処かの大学の登山同好会は勢いよく、大台ヶ原を目指した、自分達も大台ヶ原を目指したが、粟谷小屋の宿泊はキャンセルし大台ヶ原からその日のうちに下山をしようとと考えた、相方に伝えると「そんなにヤバイですか?」と脳天気ぶりを見せてくれた…「風がだいぶ強なってるし、明日バス運休になれば、下山する手段がたたれるからな…」、山中では携帯電話は圏外なので、そのまま小屋まで行き小屋の主にその旨を伝え料金も払い下山する事になると相方に話し、相方はなっとくしてくれた。

 しかし…
それでも、納得してくれない人がいた…
小屋の主だ…

 山小屋に到着し出迎えてくれた山小屋の主人に「明日のバスが運休する可能性が高まったので今日の内に下山したい、申し訳無いがキャンセルしたい、勿論お金はお支払いします」と伝えると、勿論納得してくれると僕は思い込んでいたが…
「今日の予約が5組でみんなキャンセルやねん、自分ら下山するとゼロやん、わし折角上がって来て食事の用意もしたのに…明日の事は心配せんでエエから泊まっていって」予想していなかった主人の言葉に少したじろぎ、「でも…」と言う言葉をさえぎるように、主人は「最寄り駅迄、車で送るから」と言って…
 ならば…と泊まることになった…

10月だが雨に濡れると寒いだろうと主人は薪ストーブに火を入れてくれた
小屋の主人は杣

  予想通り、山の天気は大荒れで小屋が吹き飛ぶのではと思うぐらいの大荒れだった…
「明日は奈良県側のバスは確実にないな…」と考えつつ、夕飯を用意してくれた主人と色々話ししていると。
主人は「俺の本職はソマや!」と言う、僕「???」「ソマ」
主人「そう、ソマ」
僕「そま…杣…杣人?」
主人「そう!それ杣人」
相方「…???」「何それ?」
僕「杣人やん、木こり」「憧れの杣人や!」
主人「杣人が憧れ?」
主人「タカスギのCM好きやった?」
僕「タカスギ~♪タカスギ~♪タカスギ~♪ですね、あれもカッコよかった」

僕「カッコいいですやん!」「woodjobも観ましたよ!」
主人「ウッドジョブ観たんや!あれ、少し出てんねん!監修も関わったし!」
僕「めちゃめちゃ凄い人なんですね~」
と話は弾む、相方は…当然置いてけぼりにしてしまった…
主人は「全日本そまびと選手権大会」にも何度も出場して優勝もしていると、誇らしげにトロフィーを見せてくれた。

次の日…
大荒れの山から、いち速く脱出する為に杣人主人は大慌てだ…
 杣人主人も未だ九州にいる台風のせいで、奈良の山がこんなことになるとは、想像していなかったようだ…
大慌てで山小屋の戸締りをして、杣人主人のジムニーに乗り込む「やっぱりジムニー」と僕がボソっと呟くと杣人主人の顔が緩む…
「そう、ジムニー最高!」と杣人主人は笑顔で応える。
そう、夕べ酒を酌み交わしたわけではないが…
杣人主人と僕は「タカスギグループCM」によって信頼関係が生まれていたのだ。

そんな杣人ジムニーの運転は凄まじい、どんな、遊園地の絶叫マシンより凄絶だ!
林道の下り道をガンガン飛ばす…
しっかりシートに掴まっていてもゴンゴン頭をぶつける…
元キックボクサーの相方はこの非日常をなんとかスマホで切り取ろうと両手を話したとたんに杣人ジムニーの天井に頭をぶつけて、KO寸前だ…
林道は昨日からの雨で崩落したのか、鋭利な刃物のように尖った岩がゴロゴロしている、途中車を止めて「あそこに杉の苗植えてんねん!」と林業に興味深々の僕の為に案内も忘れない、又止まる「あそこ檜」そして急発進。
気分はダートレースだ…
今さっき崩落したばかりの様な崖の横を通ると、コッン、コッンと切り立った崖の上から小石が降って杣人ジムニーのボディーをかすめる…

時には流石にスピードを緩めてくれたが…「ヤバイな山崩れてるやん…」とホンチヤンの杣人が漏らす言葉で心拍数が上がる程の危機感を覚えた…
そして、車の挙動がおかしい…杣人ジムニーの主も気づいた様だ…「なんや…」ジムニーの異変に気づいたが原因がわからない様だ…
僕「パンクちゃいますか…」
素人の僕はこんな鋭利な岩がゴロゴロいや、ガラガラしている所をあのスピードで走るとパンクするやろ…いや、下手したら裂けてバーストか…と心配していた…
玄人の杣人ジムニーオーナーは「ジムニーは無敵と信じ込んでいた」わけだ…
車を停めて杣人ジムニーオーナーはタイヤを確認する…「パンクしてる…参ったな…」
どうも、タイヤ交換したことがないようだった…
ここはジムニーの素人の僕が、ジャッキのある場所を探しだし、タイヤ交換のお手伝いをし無事にジムニーは走り出した…
杣人ジムニーオーナーは「お客さんにえらいこと手伝わせすんません」と言った…
僕は「そんな…水臭い事言わんとって下さい」と返す…
そう僕らは「タカスギ~」と酒も飲まずにハモった仲間だから~と心の中で呟いたのだ。

暫くすると杣人ジムニーは「杣人ワイルドスピードジムニー」に変貌した。
崖からイノシシが飛び出してくるわ、鹿の群れも崩落を予知してか転げ落ちるようにかけ降りてくる…素人の僕は「山体崩壊」の言葉が頭を過る…




山体崩壊した山

そう、昨日「山体崩壊」した山道を僕らは通って来たんだ、大杉谷渓谷は崖崩れではなく、山が崩壊し長い間、大杉谷~日出ヶ岳へ抜けるルートが寸断されていたんです、確かこの山歩きの前年にルートがなんとか通れるようになった経緯がありました。
「杣人ワイルドスピードジムニー」はそんな山の間を縫う林道を猛スピードで駆け抜け…アスファルト舗装がなされている道へと進むのだ。
そして、アスファルトの道路が見えた時の安心感…
日頃は「アスファルトの道路より土の道が落ち着くよね…腰にも優しいし…」とか考えながら山道を歩いていた自分がアスファルトに安堵感を覚えた…
そして杣人ワイルドスピードジムニーは杣人の本業の製材所に到着した。

 杣人製材所の珈琲は本当に「ホット」するホットコーヒーだった、そしてその製材所は檜を扱う製材所だったので心安らいだ…
杣人製材所はヒノキチオールたっぷりの安らぎの場所、(杣人主人にお願いし、檜おがくずも頂き、その後自宅で檜チップで燻煙したヒノキスモーキーな燻製を飽きる程作った。)
そして、杣人主人に丁寧にお礼を言って製材所からバスで津市へ向かい帰路へと着いた。

津駅へ


 








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