南国での恋

今年、50歳となる俺の彼女は、娘みたいな22歳のフィリピーナ。年の差28歳。今の俺は彼女のためなら何でもできる気がする。どんな辛いことでも耐えられる気がする。これが「幸せ」というものなのかな。人生半分を終え、やっと掴んだこの気持ち、この先どうなるのかわからないけど、とりあえず今はリア充なので考えません。へへへ。しかし、ここに至るまでは、ちょっとした紆余曲折がありました。

フィリピーナとの年の差恋愛というと、ほとんどの人が、「お金だけ、騙されてる」と思うだろう。俺も最初はそうだった。数十年前日本にたくさんあったフィリピンパブとそこにハマった友人・知人の話、遊びに行ったセブ島で騙された経験、日本のメディアで流されるフィリピンのニュース・・・フィリピンはイメージの良くない大嫌いな国のひとつだった。
今から3年ほど前、俺は、仕事の関係で、フィリピンは首都マニラから車で1時間半の地方都市、カビテに滞在することになった。滞在先は、あるフィリピン人家族の大きな家のひと部屋。その家族は小さな男の子一人を除けば女ばかり。詳しい家族事情はわからないが、ママと呼ばれる40歳の女ボスを頂点に、男の子を除けば、あとは15歳から25歳までの8人もの若いピチピチのフィリピーナばかりだった。つまり大人の男は俺一人だったわけだ。
フィリピンは常夏の国なので、リラックスできる家の中では、タンクトップにホットパンツ姿。年頃の女の子が何も気にすることなく、その姿で俺の周りをウロウロする。オリジナルのフィリピーナはスペイン、マレー系の血が入っているため、手足が長く、スラっとしたスタイルで、しかもプリッと上がったお尻と意外と豊かな胸を持つ。日本の辛いサラリーマン環境で、すでに性欲も衰えかけていた中年の俺を奮い立たせてくれるような勢いだった。
 滞在も数ヶ月が過ぎ、ほんの少しだけどタガログ語もわかりかけてきた頃、俺は家族の中の、一人の子に惹かれていた。滞在当初から、彼女は女ボスとともに秘書のように仕事の現場について来た。俺はもう中年街道まっしぐらだし、彼女はまだ19歳だったから、挨拶くらいで、何を話題にしたらいいのかもわからず、ほとんど会話を交わすこともなかったが、それでも女ボスの命令で、いろいろと俺の世話をしてくれていた。彼女には一つ下の妹がいて、妹の方が背も高く、肌も白くて、美人だった。妹は、静かでおしとやかな感じの子で、連れて歩くと、現地の男どもが振り返って見るくらい優越感にひたれたが、姉の彼女は、田舎の、地味な典型的フィリピーナといった感じで、痩せて浅黒い肌を持つ、とても元気なボーイシュな女の子であった。彼女は高校生の時、夜道を歩いてて、後ろから酔っぱらいの車に追突されるという大事故を経験している。2,3日意識もなく、意識を取り戻したのは病院のベッドの上、全身に多数の縫合痕があり、さらに前歯が少し欠けている。だから暑くてもあまり肌を露出したがらないし、笑顔でも歯を見せることは少なかった。
 ちなみにフィリピーナは黒い肌をとても嫌がる。太陽の燦々と照る日中はあまり外出したがらないし、出るときは傘をさすことが多い。そして、いつもホワイトニングパウダーを持参して、しょっちゅう顔に塗りたくっている。どうやら黒い肌は下層階級だと見られているようで、男にも白い肌が人気のようだ。日本でブームの美白よりも、「南国の妖精」と言われるフィリピーナは褐色の肌が良いと思うのだが。
 彼女の名前はジャッキー。俺と女ボスとの会話は日本語だったため、そばにいて覚えたのか、少しづつ日本語が上達していった。俺は彼女に日本語の辞書を一冊プレゼントした。彼女は飲み込みが早く、メキメキと日本語も上手くなっていった。必然的に会話も多くなり、仕事など必要最低限の会話以外は、女ボスよりもジャッキーの方が多くなっていった。俺がジャッキーに惹かれた理由の一つに、頭の良さがある。とにかく機転が利くし、何事も覚えが早い。そして、時に女の子らしい優しさを見せる。そんなに特別なことではないかもしれないが、すでに彼女に目をかけていた俺は、自分の中で彼女の評価を高めていった。
 フィリピーナはとても恥ずかしがり屋だが、一度気を許すとすぐに距離を縮めてくる。恋人じゃなくても、友達でも、家族でも腕を組んで歩き、ベタベタとスキンシップしてくる。ある知人はフィリピーナは「猫」だと言ったが、機嫌がよければベタベタくっつき、機嫌が悪くなるとぷぃっとあっちに行ってしまう彼女らの様は、まさにそれだ。
 フィリピン滞在も半年が過ぎ、ジャッキーとも二人きりで出かけるくらいに親しくなった。でも、腕は組んで歩いても、まだはっきりと恋人同士になったという訳ではなく、そろそろ俺は、はっきりさせたい、一歩進みたいと思っていた。友人・知人は、「お前は単なるクヤ(年上の男をそう呼ぶ。お兄さんとかおじさんとかいう意味)で、彼女は恋人になりたいとは考えてないよ、自分の歳を考えろよ」と言ったが、俺は独りよがりの日本人の考えで、一歩進めるチャンスを伺っていた。
 また、地元での移動にはクルマの他、よくジプニーを使う。ジプニーはドライバーそれぞれがオーナーなので、ひとりでも多く運賃をもらうために満杯にならないと発車しないことが多い。ギュウギュウ詰めなので当然密着度も高い。ぴったりとくっついたジャッキーがよく俺の膝に手を置き、また俺も彼女の手脚に触れていた。
一度だけ、彼女に聞いたことがある。「ねえ、俺のことどう思ってる?クヤか?」
「うーん。クヤじゃない。でもわからないな」
彼女は恥ずかしがってる。まんざらではない。俺に好意を持ってるはずだ。俺は自分の立場や歳のことなんて完全にどこかへ行ってしまっていた。
 ある日、ジャッキーが、「今日の夜、久しぶりに高校の友人たちと飲むけど、一緒に来る?」と誘ってくれた。
「プウェーデ?(いいのか?)俺が一緒でかまわないの?」
「オオ(はい)、アコ(私)が友達に紹介するよ。それにアテ(年上のお姉さん、おばさんの意味、女ボスのこと)の許しももらってるから」 
「シゲ(わかった)。アノンオーラス?(何時?)」
「じゃあ、7時ね」
「オッケー」
 飛び上がりたいくらい嬉しかった。
「よーし、今夜決めてやる。まずはキスからだ」
そして、7時半くらいに、彼女が俺の部屋に迎えに来た。先日、二人で出かけたモールで買った、新しいTシャツを着て。二人でジプニー(相乗りバスみたいなもの、庶民の足)に乗り、友達との待ち合わせ場所である繁華街の、人気のバクラバー(オカマバー)に行った。すでに友人たちはビールを注文し、ステージのバクラ(オカマ)たちのショーを見ながら楽しんでいた。音楽とショーの喧騒の中、10人くらいの友人たちと握手を交わすと、二人で彼女の好きなカクテルを注文した。友人たちは半分くらいがカップル。すでに子供のいるものもいる。空いた隅の席に二人並んで座り、しばしステージ上のバクラたちの掛け合いを眺める。何をしゃべっているのかはわからないが、彼女と友人たちが笑っているのを眺めていると、俺もだんだん楽しくなり、酒も2杯、3杯と進んでいった。
ショーの合間をぬって、ジャッキーが友達の席に行き、何やら楽しくおしゃべりしている。「ちっ、なんで俺のそばにずっといないんだ」と軽い嫉妬を感じながら彼女を眺めていた。彼女も相当酒が進んでいるようだ。友達とはしゃぐ声がうるさいくらいに。2時間ほどして、2回目のショーも終わり、俺たちはタバコ吸って風に当たろうと外に出た。俺たちはけっこうふらつくくらい飲んでいた。
「もうそろそろ帰る?頭痛いし、もう飲めないよ。ここは夜中はちょっと危険よ」とジャッキー。
「ああ、わかった」
赤く火照った彼女の顔を見ていたら、酔いの勢いもあり、急にすごく愛おしくなった。
彼女がケータイをいじってる時に、急に抱き寄せ、オデコにキスをした・・・
彼女は一瞬ビクッと身を震わせ、バッと俺の前から離れた。
 「何するの?!私ボーイフレンドいるよ!」
俺は戸惑ったが、努めて冷静を装った。
 「歩いて帰ろう。こっちにおいで」
 「いやよ!歩くなんて危険よ!ジープに乗るよ!」
 「じゃあ、俺は歩いて帰る。じゃあな」
 「ダメよ!危ないよ!」
 「じゃあ、こっちに、そばに来いって」
 「あなたいらない。アコはボーイフレンドいる!」
ああ、こんなはずじゃなかった。一気に酔いが冷めた気分になった。恥ずかしさいっぱいで早くその場を離れたかった。
ジャッキーは誰かに電話しながら、わざとゆっくり歩いている俺に距離を置いて付いてくる。数百メートル歩いたところで、俺たちのそばに車が止まった。ああ、さっきの電話はアテ(女ボス)にかけてんだな。仕方なく車に乗った俺は言い訳はさらにみっともないと思い、一言「ごめんなさい」と謝った。
 「ジャッキーから電話が来て、無理やりキスされたって、あなたが歩いて帰るって言ってるって。もう、びっくりして車で来たよ。二人共酔っ払ってるから、こんなことになるのよ。早く帰りましょう」と、女ボスは意外と俺を責めることもせず、車を走らせた。
 「ああ、なんてことをしたんだ、なにをやってるんだ、俺は」「俺のこと好きじゃなかったのか、いや、好きじゃなきゃ誘わないだろう」「オデコにキスくらいいいじゃないか、あんなに怒ることはないだろう」「帰ってなんて話せばいいんだよ」「友人たちはどうしたかな、見てたかな、恥ずかしい」「ボーイフレンドって誰だよ」「異国の地でこんなことになるなんて、最悪」「ここは日本じゃない、フィリピンなんだ。訴えられるかもしれない」「明日また謝るのか?」・・・家に着くまでの間、助手席でこんなことを考えてた。
 玄関を入ると、ジャッキーはさっさと階段を上がり、二階の部屋に入って行った。
 もう何を言われても、追い出されてもいいと覚悟を決めて、正直に女ボスと話すことにした。「俺はジャッキーが好きだった。腕を組んで二人でデートもしたし、彼女も俺のことを好きだと思ってた。だから行動に出た」云々。
 「あなたはカンチガイしているわ。ジャッキーはあなたを家族としか考えてないわよ。恋人じゃないわよ。歳を考えなさい。彼女はとても優しいから、あなたを家族として親しみを持ち、助けてるだけなのよ。しかも酔っ払ってキスするなんてフィリピンでは最低の行為よ。とにかくこれ以上嫌われたくなかったら、明日ちゃんと謝りなさい」と女ボス。
 ああ、また歳か、歳など関係ない若いフィリピーナとの情熱的な恋愛は、もう見てはいけない夢なのか。カンチガイしてた日本の中年ジジイ。惨めな気持ちでいっぱいになった。影で笑われていたのかも。日が昇れば、まだ20歳そこそこの小娘に頭を下げなければいけない。屈辱。しかし、オデコに軽いキスくらいでそんなに怒ることなのか。やはりフィリピーナは違うんだな。自分の部屋に帰ったが、こうすれば、ああすればと、もう取り返しもきかないのに、思いばかりが巡り、長いこと眠ることはできなかった。
 朝方眠ったらしい。時計を見ると、もう午後二時を過ぎている。酒も相当入っていたので、ぐっすり眠れたのかもしれない。いつもは三度の食事のたびに呼んでくれるのだが、今日は誰も声をかけてくれてないので、この家の者は皆、昨日の夜の件を知っているに違いない。特に、この家は若いフィリピーナばかりだ。あんなことをしたのだから、今日から娘たちの俺を見る目が違うだろうな。軽蔑されるだろうな。近寄ってこないだろうな。 
ちくしょー、なんでだよ。。。情けなくて涙が出てきた。いい中年のオヤジが小娘に気持ちが伝わらなかった、カンチガイしてたことなんかで泣くなんて。ああ、昨日のことが夢であったら。。。
このまま自分の部屋にこもってても仕方がない。腹も減ったし。何か食べよう。もし
、皆に嫌われたり、無視されたり、笑われたりしたら、もうあきらめてさっさと日本に帰ればいいや。意を決して、部屋を出ると、皆が集まって食事するリビングに向かった。
 リビングからは、いつもの、娘たちの明るい話し声が聞こえる。女ボスと娘たちはテーブルに座り、食事、多分ランチ、を取っていた。そこへ「ハイ」と声をかけて近寄ると、「やっと起きてきたわね」と女ボス。「ここに座って」と空いた席に促されると、二階に向かって「ジャッキー!降りておいで!」と大きな声を上げた。
 ああ、今は会いたくない。。。妙に緊張し、心臓の鼓動が早まってるのがわかる。顔も火照ってきた。上から声も出さずにトントントンと彼女が降りてきた。彼女が下を向いて席につくと、「クマイン タヨ(さあ、一緒に食べましょう)」と女ボス。「彼もさっきここに来たのよ。昨日の夜は二人共酔ってたでしょ。彼も反省してるわ。いつまでも怒らないの、ジャッキー。さあ、仲直りの握手ね」。俺がすかさず「パッセンシャ カ ナ(ごめんなさい)」と声をかけると、ぼそっと「オッオー(ハイ)」と俺を見ずに返した。女ボスが彼女の手を握って俺の方に差し出した。彼女の表情は暗い。目が腫れてるようで、泣きはらしたに違いない。ああ。。。俺は軽く握手した。「さあ、これで終わりね。食べましょう」と女ボス。他の娘たちは何も知らないような感じで、握手を気にすることもなく、普通にジャッキーに話しかけたりしている。彼女もそれに応えてはいるが、あきらかに元気のない様子。俺はチラチラと彼女を見ていた。彼女は決して俺を見ない。食事が終わると、片付けもせずに、ジャッキーはさっさと二階に上がっていった。バタンと強めにドアを閉める音が響いた。
 「皆、昨日のこと、知ってるんだろうな。なんせ隠し事をしないフィリピンのファミリーだからな。なんて話したんだろう?女ボスは仕方ないとして彼女は?」。その日はその一回の食事きりで、あとは自分の部屋にこもってずっと音楽を聴きながら横になっていた。
 それから約三ヶ月ほどは、俺もジャッキーもお互いに話すこともなかった。道ですれ違ってもお互い顔を合わせないようにしていた。仕事や出かけるときも他の娘たちや友達らと一緒に出かけ、たまに女ボスが彼女を連れてきても、話すこともなく、同じ屋根の下にいるものの、二人共努めて距離を置いていたようだ。彼女の表情や態度は普通の元気なフィリピーナに戻ったが、でも、俺はあの日の出来事、恥をかいたことを忘れることはできなかった。
 フィリピン人は本当に噂好きである。高学歴でなければ普通に仕事を得ることが難しいため、仕事がなく暇を持て余している女たちは友達やご近所さんと昼間の街角や市場で、男たちは夜仲間と飲みながら、子供らは学校で、いろんなゴシップ話に興じている。そんなことで、女ボスのファミリーはもちろん、友達や親戚にも俺とジャッキーのことは知れ渡っていた。オデコに軽くフレンチキスという、日本人からすれば、いや世界的にもホントに些細なことなんだが。
ジャッキーは親の影響もあり、毎週末は必ず教会に通う熱心なクリスチャン。まあ、フィリピン人は国民の90%近くがカソリック。宗教上、貞操観念の強い面もあるし、ちゃんとした公認の恋人同士にならないと、そういうことは許さないという風潮もあるだろう。あと、後日、教えられたことであり、日本でもそうかもしれないが、酒の席で酔っ払って、女の子に手を出すのは、ものすごく失礼なことらしい。フィリピーナはそれだけ恋愛に関しては真剣なのだと。シラフでなければ女の子を口説いてはいけないと。
そのくせ、シングルマザーが異常に多い。堕胎が禁じられてることもあるが、10代後半で、すでに子供が2,3人というピーナもたくさんいる。貞操観念は強いくせに、一旦惚れてしまうと、ヘーキで足を開くようだ。男も妊娠がわかると、めんどくさい、金がないと逃げてしまう。フィリピーナは、南国の女性特有の、気性の激しい情熱的な性格だが、欲望や快楽にはとても弱いし、その場のノリでやってしまって、あまり後先考えないようである。日本では普通というか、妊娠を望まなければ使って当たり前かもしれないが、フィリピーナは避妊具、コンドームを使うのを嫌がる傾向にある。一回、マニラで、ナンパしてホテルまで連れてくるのに成功した素人のフィリピーナと一戦交えようとするときに、当然のごとく、前もって買っておいたコンドームをつけたら、「あなた、私を侮辱するの!」と怒られたことがある。「なぜ?」と聞くと、「付けない方が愛を感じるし、キモチイイでしょ」だと。コンドームはあくまで病気予防が目的であり、精子を殺す妊娠防止ではないのだ。俺はしかたなく祈りながら「外出し」したもんだ。
そのおかげで妊婦さんになろうとも、ベイビーは「神の授かり物」だから喜ぶべきことであっても決して悲しむべきことではない。例え男が逃げてしまっても、ピーナの家族皆で手厚く保護して大切に育てられるのだ。それは、もし、無理矢理の望まれない妊娠であってもだ。フィリピン人は、日本人ほど血縁にこだわりがない。血が繋がらなくても、一度ファミリーと認めてしまうと血縁と同様に大切にされる。こういうフィリピンの風習文化はいいもんだと思うが、違う見方をすれば「いいかげん」なのである。前述の宗教のくだりもそう。貞操観念は強いが欲望にはめっぽう弱い、南国特有の「いいかげんさ」。「自由」に置き換えてもいいかもしれないが、良くも悪しくも、この「いいかげんさ」がフィリピン人のパーソナリティの底に流れているものだ。
 ある日、女ボスの大きな家の前で遊んでいた子供たちに、「ねえ、ジャッキー姉さんに振られたんでしょ?」と言われた。フィリピンの子供たちはマコリット(しつこい)である。会えば何回も同じことを聞いてくる。子供ばかりではない。「キスしたんだって?」「ジャッキーとはどうなった?」「ほら、あそこにジャッキーがいるよ」「結婚するの?」「なんでジャッキーが好きなの?」云々。。。なかには「お前レイプしようとしたんだって?」なんてとんでもない話をしてくる奴もいる。
 俺は「ちくしょー誰が話したんだ。きっと彼女だ。あの女だ。俺を馬鹿にしてるぜ。もう二度と話すもんか。近づくもんか。よく見りゃたいした子じゃないし」と逆恨みする始末。自分の行為を正当化することで、なんとかあきらめようとしていた。
 ある日、前日明け方近くまでかかった仕事に疲れて、何も食べずに昼まで寝てた時、部屋の窓をコンコンとノックするものがいる。ああ、もう昼飯かな?誰だろ?と起きてカーテンを開けると、そこにはジャッキーがいた。「食べるよ、リビングに来て」と彼女。俺は焦った。「あ。。。そ、そうか。ありがとう」と答えるのが精一杯だった。リビングに行くと、テーブルについているのは、女ボスとジャッキーだけ。他の娘たちは、午前中に出かけたという。俺は、何気ない会話を女ボスと交わしたが、ジャッキーとはいつものように会話もなく、彼女はさっさと食事を済ませると、俺に「もう終わった?」と聞いて、俺が頷くと、俺と女ボスの食器を片付け、キッチンで洗い始めた。
 その頃、俺は現地の友人を介して、あるフィリピーナと出会っていた。ジャッキーより年上で今年29歳。すでに前の彼氏との間に娘が一人いるが、彼氏とは同居していない。彼女が彼氏のファミリーとうまくいかず、子供を連れて自分のファミリーのところへ帰ってきたらしい。名前はフレッチェル。五年ほど前に広島のフィリピンパブでタレントをやっていた経験があり、日本語は上手かった。ジャッキーがよくしゃべる元気な田舎の女の子といった感じだが、彼女は、もの静かで経験豊かな都会育ちといったタイプで、ジャッキーは俺が気を使うことが多かったが、彼女は、ただそばにいるだけで気を使うことなく癒されるような感じだった。フィリピーナには珍しく、ファミリーや友達とワイワイ賑やかにやるのは、あまり好きじゃないみたいで、常に娘と二人だけで、俺から見れば孤独を楽しんでいるようだった。
 ジャッキーとは疎遠になってしまったこともあり、俺はフレッチェルに惹かれ始めた。ジャッキーは可愛い顔立ちだが、フレッチェルは目鼻立ちがキリっとして、日本のフィリピンパブで覚えたメイクを施すと、本当に見とれてしまうほどの美人だった。地元のミスコンテストで2位だったこともある。どうしてもジャッキーと比べてしまうが、ジャッキーが未経験の女の子を体現したような、あまりデコボコもない固い痩せた未開発の身体をしているのに対し、彼女は、ちょっと大柄な身体で、男性経験があり、子供も産んでいるせいか、バストやヒップなど、ちゃんと張ってて、さらに、ほどよく肉がついたセクシーな「そそる」女であった。
 まずはフレッチェルと頻繁にテキスト(携帯電話のメール)を交わし、彼女の質素で貧しい家にも何度も遊びに行った。当然食材は俺が払うが、彼女や彼女のママが料理してくれた。彼女は本当に料理が上手かった。休みの日など、よく午前中に二人で市場に買い出しに行き、そのまま彼女の家に持ち込み、料理してもらっていた。それまで、出かけることがなければ、食事は女ボスの家のメイドが作るフィリピン料理が中心だったが、彼女の手によるフィリピン料理はそれとはまた違った味付けで、日本での滞在の経験があるからか、日本人の好みをよく知っていた。そのうちフレッチェルの3歳になる娘にも「パパ」と呼ばれたり、彼女のファミリーは何も言わないが、なんとなく自然に彼氏のような振る舞いになっていた。俺はまだどこかでジャッキーへの未練があり、はっきり恋人、彼女と明言することはなく、言葉も濁していたが、女ボスやその娘たち、ファミリーにも「彼女でしょう?」と言われるようになった。俺も彼女には気を許し、一緒に出かけることが楽しくなった。たまに店などで「アサワ?(奥さん)」と聞かれたりすることもあり、キレイなピーナを連れて歩くのが誇らしかったし、自慢もしたかった。それでも、ジャッキーには内緒にしておきたかった。もうわかってたと思うが。ずるいと言われればその通りである。
 ある日、フレッチェルと二人きりで出かけることになった。どちらが誘ったのか覚えてないが、自然とそうなったように思う。二階にいるジャッキーに悟られないようにと裏から出ると、女ボスにクルマを借りて彼女の家まで迎えに行った。普段は短パンとTシャツのラフな格好の彼女だが、この日はピタッとしたジーンズとオシャレなポロシャツを身につけ、ちゃんとメイクを施していた。本当に惚れ惚れするほど美しい。キレイに変身した彼女を見ると、それだけでも嬉しくなった。二人で近くのSM(シューマート、ショッピングモール街)へ。これはデートだな。さっさと自分の用事を済ませると、ちょうど昼時だったので、俺は「何か食べる?」、「シゲ(わかったわ)」と彼女。「何が食べたい?」「なんでもいいわ。あなたが決めて」「うん、じゃあ、お腹すいたから、あそこのグリルレストランでもいい?」「シゲ」。店に入るとウエイターが奥の窓際の席に案内してくれる。フィリピンでは、テーブルで恋人同士だったら必ず片側に並んで座る。フレッチェルは4人席で最初に奥に陣取った俺の横に座ろうとした。まだ恋人同士になったわけでもなかったので、俺はちょっとビックリしたが、彼女はすぐに「ああ、狭いわね。ごめんなさい。こっちでいいわ」と反対側に座り直した。ふたりとも照れてニコッと笑い合った。まるで幼い恋人同士のように。ふたりとも同じハンバーグを注文した。二人きりの初めての外出で、俺はちょっと緊張していたが、気分がよかったので、いろんな話をした。彼女もそれをよく聞いてくれた。ジャッキーとの件以来あまりなかった食欲もこの日は旺盛だった。つつましくしてるのか、口に合わなかったのか、フレッチェルが「ブソッグ ナ アコ(お腹いっぱい)」と残したものも全部平らげた。
あとは二人でウインドウショッピング、まだ腕を組むまではしなかったが、二人並んで歩いた。周りは恋人同士と見ただろうか?俺は彼女の誕生日が近いことを知っていた。彼女を喜ばせようと、「もうすぐ誕生日でしょう?1000ペソ以内なら何かプレゼントするよ」。「うわー、ありがとう!」。一緒にモールを隅から隅まで、いろんな店を回り、彼女のショッピングに付き合った。ジャッキーがダーク系のボーイッシュな服が好きだったのに対し、フレッチェルはフィリピーナらしい原色に近い明るい服が好みだった。彼女はどうだったかわからないが、俺はもうすでに恋人気分だった。すでに外は暗くなり、娘にパサルーボン(お土産)のポップコーンを買い、帰ることにした。朝から晩まで時間を忘れるほど二人で過ごしたことにとても満足だった。「また来ようね」。
「ここでいい」と言うので、彼女の住むエリアEにクルマを止めると、「今日はありがとう。楽しかった。またね、おやすみ」と挨拶。俺は、降りようと助手席のドアに手をかけた彼女を引き寄せ、半ば強引に唇を奪った。。。彼女は抵抗しなかった。ほんの短い間だったけど。彼女はドアから手を離すこともなく、そのまま外に出て、もう一度「バイバイ、おやすみなさい」と言った。俺は彼女が家に続く階段を降りきるまで、ずっと後ろ姿を見ていた。彼女は振り返らなかった。両腕が外側にしなるように振られ、子供を産んだ大きめのヒップが左右に揺れてる。脚もスラっとしてて長い。まだイケるよ。「今度は。。。」と考えてると、下半身がムクムク頭をもたげてきた。
日本にいたらこんなことはなかっただろう。中年まっしぐらの50男にもなれば、身体が付いてこない代わりに、女を見る目は、妄想だけは若い時よりもいやらしくなる。駅でミニスカートの女子高生の脚を気付かれないように眺めているのも、街角で若い女の子をジロジロ見てるのも、コンビニのエロ本コーナーを人の目も気にせずに眺めているのも中年オヤジである。南国の陽気な気候と雰囲気のせいなのか、フィリピーナの純粋な小悪魔的しぐさなのか、現実に露出の多い彼女たちのスタイルを多く目にするからか、ことエロに関しては気分も身体も若い頃に戻る。オナニー覚えたての中学生のように、恋に真剣になる一方で、その場に出くわすと朝晩関係なく、アソコが固くなってくるから不思議だ。
フレッチェルと俺の関係はしばらくこのままだった。奪ったのは唇だけだ。俺が、ジャッキーのこともあって、今は、これ以上積極的になれなかったこともある。一方、ジャッキーとは必要最低限の会話は交わすようにはなったが、どこかわだかまりがあり、距離を保っていた。彼女も当然フレッチェルのことは知っているだろうけど。
フィリピーナにとって日本人の男は理想の相手でもある。今から数十年前の「じゃぱゆきさんブーム」でたくさんのフィリピーナが日本に入国し、パブ等で働いて送金、母国にたくさんのジャパンマネーを落としたことで、日本のイメージは向上した。とくに日本人の男は優しくて金持ちというイメージが定着してしまった。日本人というブランドだけで恋愛のハードルは低くなる。フィリピーナに夢を聞くと、ほとんどの子が、海外(特に日本)で働いてたくさんのお金を稼いで母国に帰り、大きな家を建てて、ファミリーで住むことなのだ。さらにフィリピーナの理想の男性像を聞くと、これもほとんどの子が優しくてお金を持ってる人である。しかも彼女らが憧れる、肌が白くてグワポ(イケメン)ならなおさらだ。イケメンといっても日本人のそれと彼女らが考えるそれとは異なる。こいつがイケメン?と首をかしげることも多々あったし。ヨボヨボのおじいちゃんでない限り、普通に元気?であれば、あまり歳は関係ない。首都マニラでは、よく定年を過ぎた日本のオジサンらが若いフィリピーナを連れて歩いてる。言うまでもないが、ある程度のお金は必要だ。日本的考えで「愛があればお金なんて」という考えはまったく通用しない。そもそも日本とは豊かさの質が違うのだ。最低でもフィリピーナとそのファミリーを食べさせていけるだけのお金は必要である。かと言って、「結局は金じゃねえか」と彼女らを非難するのも間違ってると思う。慢性的に仕事を得ることがとても難しく、一部の特権階級を除き、日常的にお金がない状況で、彼女らもファミリーを助け、生きていくのに必死なのだ。当然ながら育った環境も彼女らの考え方も異なる。善悪は抜きにして日本人とはまったく価値観が違うのだと思ったほうがよい。しかし、彼女とファミリーをある程度助けることで、一旦彼女らにファミリーだと認められれば、とことん優しく大事に尽くしてくれる。こうしたフィリピン人の気質を理解し受け入れることができないと、日本人とフィリピン人の考え方のギャップにイライラし、つい怒ってしまい、争いごとに発展し、金も失い、絶望の末に大使館に駆け込むか、帰国の途について終わることになるだろう。その場限りの短期間の観光、遊びだけにしておいたほうがよい。フィリピンでは、「持てる者は持たざる者へ施しを与える」ということは宗教的にも当たり前の世界なのだ。
しかし、頭では理解してても、日本人の価値観、考えが染み付いてて頭の固い中年男にとっては、なかなか全てを受け入れることは難しい。俺は女ボスの大きな家に下宿し、彼女のファミリーとともに生活を送ってたが、なるべくファミリーに入り込まないようにと注意してきたつもりだ。だから、他で、もし恋人同士になったとしても、日本人として彼女のファミリーの一員になることにはちょっと抵抗があった。いずれは日本に帰るだろうし。
ある日曜日の昼下がり、女ボスの家に来客があった。近くに住むジャッキーのアテ(お姉さん)の仕事友達だった。たまたま用があって近くに来たため、寄ったとのことだった。女ボスは日本人を紹介するからと部屋から俺を呼び出した。リビングには二人のフィリピーナがいた。ひとりはいわゆるパンゲット(ブス)のたぐいだったが、もうひとりは小動物、リスのような顔をした、なかなかキュートな子。名前はマリース。始終笑顔を絶やさず、顔とは違った落ち着いた声の英語で少し会話を交わした。聞かなかったが、歳は多分20代後半だろう。女ボスが「彼女、日本人好みの顔してるし、可愛いでしょ?あなた、クラッシュ(一目惚れ)?」と冷やかしたが、女ボスのすすめで携帯電話の番号を交換した。
その日の夜、彼女からテキスト(メールのこと)があった。「今日はお会いできて嬉しかった。ありがとう」。「こちらこそありがとう。今度食事でもできればいいな」と俺。日本では、すぐにこんなこと返さないが、フィリピンにいる俺はなぜか積極的になれた。彼女はすぐに乗ってきた。「いつですか?」「仕事もあるだろうから君が休みの時でいいよ」「わかりました。今度の水曜日が休みだからその日は?」「OK。どこにする?」「SM(シューマート)がいいな」「じゃあ、君の家の近くのSMまで行くよ」。すぐにデートが決まった。
そして、翌週の水曜日。女ボスに車を借り、道を聞いて早めに家を出た。途中慢性的な渋滞があり、それでも30分ほど早く着いた俺は、モールの中をプラプラ歩きながら、車で家を出るとき、二階のテラスから見ていたジャッキーのことを思っていた。もう言い訳も何もないんだが。。。
約束の時間を10分ほど過ぎた頃、マリースからテキストが来た。「ごめんなさい。渋滞でジープが遅れてて。あと30分くらいで行けます」。フィリピーナがよく使う手である。渋滞だ、洗濯してた、子供を世話してた、家族が病気になった、とだいたいこのパターン。最も多く使われるのが交通機関の渋滞である。まあ、交通機関に時刻表はないし、「フィリピンタイム」と世界に揶揄されるほどフィリピン人は時間にルーズである。早い時でも20分、30分、遅いと平気で2,3時間というのもある。特にフィリピーナはデートの約束の時間には遅れてくるのがマナーで、それが奥ゆかしくていいそうだ。
そうこうするうちにマリースから「ごめんなさい。今着きました」とテキスト。結局1時間強の遅れ。指定された待ち合わせ場所に行くと、マリースの横にもうひとり。フィリピーナは最初のデートには必ず友達等同伴で来るとは聞いてたが、ああ、やられた。でも、ファミリーや男友達同伴じゃなくてまだよかった。最初の、しかも外国人の男とふたりっきりの状況で、レイプが多発するフィリピンならではの彼女らの身の護り方なのかもしれない。友人と紹介された子もなかなか悪くはない。ふたり分払う事になるけど仕方ないか。。。
 フィリピン人はホントにカラオケとゲーム、そして写真(特に自画撮り)好きである。二人に促されるまま、最初はカラオケボックス、そしてゲームセンター、合間にたくさんの写真を撮り、最後のディナーは、庶民にはちょっと高級なチェーンレストラン、マックスに入った。だいたいフィリピン人のデートのパターンがこれで、映画はもっと親密になってからだという。俺は前の二軒でかなり打ち解けたと思ったが、ふたりとも恥ずかしいのか、お腹すいてないと慎ましい注文しかしない。俺は「大丈夫だよ。皆でたくさん食べよう」と定番のチキン、豚、魚、ライス、スープからデザートまで一通り注文した。不思議と酒は飲まなかった。仕事のこと、フィリピンのこと、日本のこと、今となっては何を話したのか覚えてないが、とにかく尽きないほど、いろんな話をしたような気がする。途中、ところどころ持参した辞書を引きながら。
 マリースの友人が今日は夜勤があるとのことで帰ることにした。「車で送っていくよ」と言うと、「専用シャトルバスがここから出てるから大丈夫」。乗り場まで行くとすでにバスが停まってた。友人は俺にお礼を言うと小走りでバスに乗り込んだ。てっきりマリースも一緒だと考えてた俺は、もしかしたら友人は気をきかせたのかもしれないと思った。しかし、先ほど帰ろうと言ってしまったので、マリースに「君は送っていくよ」と言うと、「実は今日、両親も兄弟も出かけて遅くなるらしいので家には誰もいないの。だからまだ大丈夫なの。でもあなたが帰りたいなら帰るわ」。俺はちょっとドキドキしてきた。「じゃあ、付き合うよ。でもどこに行く?」「ここの近くにバーがあるから、飲む?」「わかった。行こう」。車はモールの駐車場に置いて、歩いてバーに向かった。
 20坪ほどの狭いバーには、平日だからか、ほとんど客はいないが、フィリピンのバーらしく、大音量でガンガン音楽がかかっている。先ほど腹いっぱい食べたのでビールとピーナッツだけを注文、話をしようにも音楽がうるさくて聞こえない。店員にカラオケもあると言われたが、歌う気にもならない。結局二人とも黙ってビールを一杯飲んだだけで早々に引き上げ、モールの駐車場に向かって歩いた。反対側に入口に植木が並んでる新しい大きな建物があり、何気なく「このキレイな建物はなに?」とマリースに聞いた。「新しくできたホテルよ」。俺は冗談ぽく「入るか?ははは」と言うが、彼女は何も言わない。ちょっと飲んで気が大きくなってた俺はよし、と彼女の手を引っ張り、反対側に渡り、入口の中に入った。彼女は抵抗しなかったが、「車はどうするの?」と言った。「休憩だけだ。まだモールはオープンしてるだろ」。改めて見ると入口に大きな看板があった。中に入るとホテルのスタッフが寄ってきた。彼とともに部屋をいくつか見て回り、彼女がここがいいという部屋に決め、その場でスタッフにチップも含めて2時間の休憩代を払った。
 フィリピンにしては日本のラブホテルみたいにキレイな部屋で、バスタブはないが温水シャワーがある。早速マリースはテレビを付け、設置されてるカラオケをいじってる。なにやってんだよ。時間ねえんだよ、こっちは。「ね、一緒にシャワーしよう」「アヨーコ(嫌よ)、マヒヤ(恥ずかしい)」と彼女。ここまできて恥ずかしいもないだろう。とにかく俺は真っ先に真っ裸になった。ささ、と彼女の服にも手をかけると、「もう、わかったわ。自分でやる」。久しぶりの温水シャワーを浴びてると、バスタオルを巻いてマリースが入ってきた。
 彼女をそっと抱き寄せるとバスタオルを取り、背中から温水シャワーをかけてあげた。俺の胸に顔をうずめてる彼女の身体を正面からはっきりと見ないように気遣いながら、優しくシャワーをかけて身体を撫で回す。そして、最初はフレンチキス、徐々に開かせ舌を入れる。彼女も応える。うっすらとある唇の上のヒゲを感じる。フィリピーナはここのヒゲは馬のタテガミと形容され、高貴な象徴とされている。だから剃らない。全身にもうっすらと生えており、背中で砂鉄を磁石を散らしたようになっている子もいるが、剃ればさらに濃ゆくなると信じているので、あまり剃ることはない。遠目からはわからないが、近くで見ると足にもうっすらとうぶ毛が生えていて、それがまた美しい。日に当たるとキラキラと光って見え、草原を駆ける毛並みの優れた馬のようだ。ジャッキーもそうだった。   
20代後半とはいえ、フィリピーナの身体はやはり素晴らしい。さすがに「南国の妖精」といわれるだけある。昔、観光旅行でセブ島に行ったときに買った地元の若い娼婦を思い出した。肌はジャッキーよりは白い。水をはじくほどの弾力性のあるピチピチした肌とはこういう肌を言うのだろうか。一部のリッチな連中を除いて、ほとんどの家は水のシャワー、しかし、フィリピン人は臭いのをとても嫌がるし、暑いと一日数回水浴びをする。しかもいつも水なので肌も引き締まってピチピチしてるんじゃないだろうかと俺は勝手に考えていた。服を着ててわからなかったが、乳首は多少黒いが、意外と大きなバストの握り具合がとても心地よい。まだ固い蕾のようで未経験を感じさせる。ちゃんと処理してるのだろうか、アソコの毛もすごく控え目。彼女も少し大胆になってきたのか、石鹸を手に付け、俺の体も洗ってくれた。でも、まだ恥ずかしいのだろう、イチモツには触らずじまいだった。もうこの年になるとセックスそのものよりも、こうして一緒にシャワーしたり、お風呂でイチャイチャしたりすることのほうが楽しいし、興奮するものだ。すでにいつ突入してもいいくらい固くなっていた。彼女も見ただろうけど、あえて触れないようにしている。
 シャワーを終え、彼女をまたバスタオルでくるんであげると、俺は先に出てベッドに寝転んだ。そしていつも財布に入れておいたコンドームを少し封を切って枕元に置いた。俺が出るとシャワー室のドアを鍵をかけて閉め、何をやってるのか数分して彼女も出てきた。ここにおいでと手招きすると素直にベッドに来た。彼女はとてもイイ匂いがした。さあ、と髪から手足の指先まで全身くまなくキス、俺にしてはとても丁寧に時間をかけながら愛撫していく。フィリピーナは情熱的で即物的な快楽を求めることが多いが、シャワーも本番も、こうしてゆっくりと全身で愛を感じさせる行為はきっと彼女を心身とも満足させるに違いないと思ったからだ。確かにイチモツは他の外国人には負けるが、優しさと気遣い、マメさには負けない、これが日本人だ、という思いで。日本でもやったことないくらい念入りに全身を愛撫し終え、いざ突入という時には時間をかけすぎたのかもう萎えていた。彼女のアソコももう濡れているだろう。あえてキスだけで中に手も入れなかったのはバージンだと思ったからだ。処女を破られる痛みをなるべく軽減してあげようという気遣いでもあった。実際、若いフィリピーナにはプロでなければ、素人の子は実にバージンが多い。敬虔なカソリックが多い彼女らは、好きになれば足を開くのも早いが、それまでは守るのが普通のフィリピーナの貞操観念である。
 俺は彼女をびっくりさせないように彼女の手を俺のイチモツにあてがわさせ、握らせると勝手に上下に動かした。それで少し固くなってきた。あとは中で元気になってやる。「プウェーデ?パソック?(中に入ってもいい?)」と囁くと、彼女の股の間に入った。彼女は何も言わない。バージンを破ること、一つの山を征服したような気分、大きな問題を解決したような気分、この子の人生の歴史に初めての男として残ることの満足感、新しいネタを見つけたオナニー前のような何とも言えぬ甘酸っぱい幸福感が沸き上がってくると、もう釘でも叩けるんじゃないかと思うくらい自然にカチカチになった。彼女がいくら痛がって腰を引こうとも、血だらけになってシーツを汚そうとも、めちゃくちゃにかき回してやる、これが男だ、覚悟しろと俺は一気に腰を沈めた。。。へ??意外とスッと入り、彼女も目は閉じているが、表情も変えない。ああ、バージンじゃなかったか!?まあ、考えれば最初のデートでホテルに同行し、口では拒んでも脱がされるままに脱ぎ、俺の全身愛撫にも抵抗しなかった事を考えれば、経験人数はわからないけどバージンなわけないわな。
 初めての男じゃなかったというちょっとした喪失感はあったが、それはそれでいいし、萎えたわけじゃない。正常位で腰を動かし続けた。そこで俺は、あっ、中出しはまずいな、と一旦抜いてコンドームを手に取り付けようとした。すると、いきなり「フワッグ!(止めて)」とマリース。「私はそれ嫌い。私を侮辱するの?私は娼婦じゃないわよ」という。「ええ、何が?」とビックリ。後で知ったことだが、コンドームの使用目的はあくまで病気予防のためでバースコントロールではない。子供は神の授かりものだから、愛し合うふたりが子種を殺すようなことは許されないらしいのだ。当然堕胎も法律で禁じられている。だから初めての経験で例え妊娠しようとも憂うべきことではないのだ。10代にして初体験で母親になるフィリピーナがめちゃくちゃ多いのもそういう理由なのか。快楽でセックスを楽しむのは宗教上禁じられてるのか。そういえばマリースは食事の前に祈りを捧げてた、敬虔なカソリックか。でも、だんだん若い世代の考え方は変わってきているみたいだが。俺は、侮辱するなんて、そんなつもりは毛頭ないが、彼女がそういうなら仕方ない、コンドームを床に落とすと、そのまま続けた。
 全身を愛撫してる時もそうだが、体位を変えながらこっちは汗だくになっているのに、彼女はほとんど声を上げない。息も俺ほど乱れてない。なんだ?気持ちよくないのか?感じないのか?俺はヘタクソか?耳元で「マサラップ?(気持ちいい?)」と聞いても、何も言わない。でも、抜き差しはスムーズだから濡れている。何か味気ない。セブで買った若い娼婦は演技かもしれないがちゃんと声上げてたぞ。とりあえず自分の快楽に集中して、大好きなバックで突きまくり、果てる瞬間に抜いてお尻の割れ目にイチモツを押し付け、その上に勢いよく射精した。力が抜けて、フゥーッとそのまま彼女の背中にのしかかった。そして、再度「マサラップ?」と聞いた。「オオ(うん)」と彼女。だが、「ちょっとどいて」、そそくさとシャワー室に入っていった。どうやら外に出したのが気に入らないらしい。声を出さないのもセックスは快楽ではないからか。普通のフィリピン人は狭い家にファミリー全員で生活している。他の家族に悟られないように声を上げないのが普通なのかも。。。バージンではなかったし、他の男と比べられたかな。そして、ベイビー欲しかったのかな。でも、俺は勘弁。まだジャッキーのことも引きずっているし、フレッチェルもいる。今夜のことだけでマリースとの間に子供ができて結婚し、彼女のファミリーの仲間入りすることも嫌だ。悪いけど俺は遊びだよ。時計を見るともうすぐチェックアウトの時間。モールも閉店になる。車を出して早く帰らなきゃジャッキーはもとより女ボスにも怪しまれるだろう。彼女が浴びるシャワーの音を聞きながらこんなことを考えていた。
 それからマリースとは、一応テキストのやりとりだけは毎日続けていたが、俺自身があまり会いたいと思わなくなっていた。確かに彼女はキュートだし、優しいし、またやりたいと言えば多分拒まないだろう。けど、今度こそベイビーが出来ることになるだろう。家族にも紹介したいと家に招待もされたが、俺は仕事を口実に逃げていた。やっぱりまだジャッキーがいい、フレッチェルもいい。。。その後、マリースとは地元のフィエスタ(キリスト教のお祭り)で数回会ったが、テキストもおろそかになり、だんだんと疎遠になっていった。今だフェイスブックでつながっているが、新しいボーイフレンドができたみたいで、ほどなくその彼と結婚した。
 俺の仕事のことで、本音を言うとジャッキーと一緒に行きたいが、疎遠となっていたため、代わりにフレッチェルに同行してもらうことも度々あった。何度も言うが、フレッチェルは本当にキレイだ。もう来年30歳のママだが、磨けばモデルとしても通用すると思う。もう一度日本のフィリピンパブで働いてもナンバーワンになれるだろう。彼女は努力家で日本に来て猛勉強して半年ほどで日本語での日常会話はできるようになった。惜しい、残念だ、自分を活かせば?とよく話すのだが、今は一人娘のことが大事であまりその気がないらしい。たまに娘を会わせに別居している旦那のところに休養がてら出かけているみたいだ。すでに別れたとは言っていたが、娘のことなどで、ガードマンの職を持つ旦那に会うのは、背に腹は変えられぬ、といったところか。
フレッチェルの家には頻繁に出入りするようになっていた。女ボスの家であまり食事をしなくなった代わりに、夕方前に市場で材料を買い、彼女か彼女の母に料理してもらい、彼女のファミリーと一緒にディナーを取ることが多くなった。彼女の家は、家族ごとに狭い棟が建てられており、俺はいつも彼女の妹、フローラインの、壁がピンクに塗られた部屋でフローラインとフェレッチェルとその子供達と食事を取っていた。それは両親以外家族のいない俺には楽しいものだった。
ファミリーが田舎の親戚の家に出かけ、留守番のフレッチェルと二人だけの日があった。いつものように彼女にお金を渡し、市場で食材を買ってきてもらい、料理してもらった。彼女は高血圧気味の俺のためにカラマンシー(レモンのようなもの)ジュースまで用意してくれた。そして、いつものように妹の部屋でふたりだけの夕食となった。いろいろと気遣ってくれる彼女との幸せなひと時。他のファミリーがいないためか、お互い少し緊張していたようだ。彼女の美味しい手料理で腹一杯になった俺は普通にあぐらをかいて座ってるのが苦しくて、彼女が座ってるベッドの方に移動し、彼女の隣にピタッと座った。フレッチェルはファミリーの誰か、もしくは旦那とテキストしてるのか、ケータイをいじっていた。「ごちそうさま。いつも美味しいね。ありがとう」と彼女の肩を抱き寄せた。「うふふ」。彼女もケータイをベッドに投げ、俺の肩に頭を乗せてきた。フィリピーナでは珍しく肩までのショートヘアーが気持ちよくアゴの辺りを撫でる。いい匂い。目を下ろすと、ラフなTシャツから豊かな胸のふくらみが見え、短パンから出た白くて長い生足がとてもセクシーだ。左のふくらはぎにある、幼少期に大ケガして縫ったあとも生々しく見える。脚の付け根の平らな股間を見てたらもうたまらなくなってきた。俺はいきなり上からTシャツの中に手をいれ、ぎゅっと強めにブラの上から胸を掴んだ。彼女は一瞬体を丸めたが、そのままなされるままにしている。多分Eカップはあろう胸はちょっと固い。肉がぎっしりと詰まっている感じだ。乳首も子供に乳を飲ませたからか、大きい感じ。俺は完全に彼女の後ろに回ると、ブラをずらして、しばらく執拗に胸を揉み続けた。優しく周りを撫でたり、強くギュッと掴んだり、上にあげたり、寄せたり、拡げたり、乳首を引っ張ったり。。。女にはなんでこんな楽しいものが付いているのか。これはベイビーのものじゃない、男のものだ。もし俺にあったら毎日揉みしだいているだろう。いくら揉んでも絶対に飽きない。特に大きなものは。硬くなった股間は彼女の腰のあたりにツンツン当たっている。声は出さないもの彼女の息も少し乱れている。もうダメだ。俺は彼女をベッドに引き上げようとした。するといきなり「これ以上はダメよ」。「ええ、なんで?」「ジャッキーに悪いわ。あなたジャッキーを愛してるんでしょう?」。それはないだろう。シュウウウウウと音を立てるように、アソコが急速に萎んでいくのがわかった。
そういやフレッチェルには、とことん気を許し、ジャッキーのこともいっぱい話したっけ。愛してるとは言わなかったけど、彼女にはわかったんだな。「あなたは好きだけど、ベストフレンドね。このことは内緒にしてね」。彼女はTシャツを着たままで、俺はまだ彼女の胸をはっきり見てない。当然裸も!アソコも!ああ。そこからふたりとも座り直して、彼女が切りだし、ジャッキーのことについて話した。「あなたとジャッキーは多分お似合いよ。でも、急いじゃダメよ。彼女まだ未経験だから、あなたのキスも驚いてわからなくなったのよ。話を聞いた限り、彼女もあなたのことが好きよ。頑張って」。実は同じようなことは何人ものフィリピン人に言われたことがある。手を出した俺は恥ずかしかった。彼女は俺が考えてるよりもずっと大人だった。俺がキスは成功したのにそれ以上踏み込めなかったのは、フレッチェルにそうした達観したようなクールさを感じたからかもしれない。彼女は情熱的なフィリピーナには珍しく実際クールだった。俺は彼女を「クールビューティ」と呼んだ。彼女は一年に一回旦那のところに子供を連れて帰ってるが、子供だけじゃなく、彼女もまんざらではないようだ。フレッチェルとは今もいい関係が続いている。彼女は間違いなくフィリピーナのベストフレンドである。
フレッチェルの妹のフローラインもキレイだった。ちゃんと仕事を持つ旦那(結婚してないから実際はボーイフレンド)もいて、ふたりの間にすでに二人の子供がある。二人とも女の子である。俺は旦那とも親しくしてて何回か彼の実家に招待され、飲んだこともある。下の子は去年生まれたばかりで、仕事に行った旦那に変わり、俺がフローラインを病院に送っていったり世話をしたこともある。彼女から「二人の子供のセカンドファーザーになって」とも言われていた。フローラインも彼も仲睦まじかったが、ある日、ディナーを食べに家に行くと、フローラインが泣いていた。どうしたのかと聞くと、彼と大喧嘩して、彼が飛び出していったというか実家に帰ったという。話を聞くと、実は彼はマザコンで彼女と子供たちよりも母親を優先し、週末の休みも必ず母親のいる実家に帰るのだという。そうした態度に業を煮やし、言い争いになったそうだ。確かにフィリピン人の男はマザコンが多いのは事実。自分のファミリーを大切にするあまり、度が過ぎてしまうことも多々ある。いい大人のフィリピーノが、ママ、ママと抱きつき、キスをするなど、日常的な風景だ。俺から見ると異常に見えることもしばしば。ふたりの子供を抱えて泣いているフローラインを目の辺りにすると、勝手な思いで、守ってやりたいと考えるようになった。ここで逃げてしまうフィリピーノは多いが、子供のミルク代は払っているみたいなのでまだいい。つい先日、フローラインと旦那と三人で新しい命の誕生を祝ったばかりなのに。フィリピン人らしい、後先考えない即物的な振る舞いである。
フローラインは姉のフレッチェルとはまた違った魅力があった。下の子供を産んだばかりでちょっとふくよかになり、フレッチェルほど胸も大きくなく、セクシーではないものの、整ったカワイイ顔はそそるものがあり、特に唇が魅力的で俺は常々AVのように顔にぶちまけてみたいと妄想していた。普段は彼女の部屋でフレッチェルともども食事をしていたが、旦那がいることであまり近づかなかった。しかし、すでに旦那は出ていき、彼女はシングルマザーとして生きていく決心をしたため、彼女の部屋にも入りやすくなったのは事実。俺もホントにスケベじじいに成り下がったなと思うが、チャンスあればフローラインもいいかななんて妄想を逞しくしていた。まさに「間男」である。実は一回だけ彼女に誘われて、フレッチェルにも内緒でデートというか二人きりでランチを共にしたことがある。そのときは、旦那に対しての不満を聞いてあげ、相談に乗ってあげただけだったが、それでも、いつも彼女の好きなピンク系の服を、俺が好きなブラック系のロックテイストに変えてくれ、おお、脈があるかななんて小躍りしたものだ。いつものようにフレッチェルに料理をお願いし、俺はフローラインの部屋で料理が終わるのを待っていた。子供たちは薄暗い中、まだ外で走り回っている。フローランはいつものごとく、旦那への愚痴を話してて、感極まったのか涙ぐんでしまった。俺はハンカチを差し出し、「もう泣くなよ。フィリピーナは強いだろ。子供たちのために頑張れ」などと在り来たりの人生論を話してた。「ありがとう。日本人のあなたはとても優しいのね。もうフィリピーノは嫌だわ。日本人がいい」とハンカチを返してくれたとき、俺の胸にしなだれかかってきた。「やべえ。外ではフレッチェルが料理してるし、見られたらホントに間男だ。殺される」と思ったが、彼女がじっと俺の目をみたので、キスだけならと彼女の髪の毛を掴み、キスをした。ほんの数秒。彼女は恥ずかしがり下を向いたので、俺はもう少しとアゴに手をかけ唇をあげると、さらに深くキスをした。彼女はされるままにしているだけだが、すごく経験豊富で上手く思えるぐらい具合がいい。旦那ともしょっちゅうやってたのか?舌を入れても自分の舌を動かすわけでもない。しかし、何とも言えない快感のキスなのである。イチモツには意識を向けていなかったのでどうなってたかはわからない。耳の近くで血が早く流れるような音が聞こえた。彼女の鼓動を身近に感じる。1分近く重ねててそっと離れた。俺はとても満足した。それ以上はなにもない。フレッチェルが料理を終えて、食事を運んできてもいつも通り。俺もいつものように話をしながら、フローラインもフレッチェルもいつものように子供をあやしながら、皆で食事をした。そして、俺はしばらくすると帰途についた。なぜあんなに冷静になれるのだろう。今フィリピンのテレビで流行ってる韓流ドラマのヒロインにあの瞬間だけなった気分なんだろうか。いや、フローラインも多分混乱してるに違いない。ただ自分が受け入れてしまったことと現実とのギャップに恥ずかしさも加わり、何もできなかったに違いない。能動的でもなくただ唇を重ねただけのキスで、不思議だが俺はすごく美味しいキスだった。フレッチェルにもマリースにも感じなかったのに。帰ってこれをネタに抜けるだろう、ホントに。
フィリピン人はファミリーの結束が強いとともに、外に対しては排他的でもある。周りから見れば、女ボスのファミリーであるジャッキーから他のファミリーであるフレッチェルに乗り換えたみたいになり、ちょっと俺の立場も厳しくなってきているのを感じていた。フィリピン人の妬みや嫉妬は半端ない。基本、彼、彼女らは自分のことしか考えていないから。ここは日本とは違うし、厄介なことになる前に俺は女ボスの家を出て自分でアパートを借りることにした。幸い、女ボスの家とはちょっと距離を置いたところにアパートを見つけたため、女ボスにもいろいろと事情を話し、さっそく移ることにした。今までは家事の心配もしなくて済んだが、これからはなんでも自分でやらなければならない。日本よりはるかに治安の悪い異国の地で日本人独り。不安が大きかったが、なんとかなるだろうと踏み切った。ダメならさっさと日本に帰ればいいんだ。未練はない。
 一旦家を離れるとなると、女ボスはもとよりファミリーは冷たいものだ。誰も引越しを手伝わないし、娘たちも部屋にこもって挨拶もしてくれない。よくそれでカソリックなんて言えるな。友愛はどこに行った?近いといっても荷物が多いので、なんとか車を借りて詰め込んでると、なんとジャッキーが二階から降りてきて、手伝い始めた。「え?いいのか?」「私手伝うよ。大丈夫」。涙が出るくらい嬉しかった。
 それからなにかタガが外れたようにジャッキーと再び急接近した。ほぼ三ヶ月間ほとんど口も聞かなかったのに。俺が女ボスの家を出てアパートに移ったことで、ファミリーに気兼ねすることがなくなったのか、彼女は俺の仕事から生活全般まで、まるで妻のように甲斐甲斐しく手伝ってくれるようになった。俺も今までになく彼女に優しく接した。しかし、ある時は厳しく教えたり諭したりもした。もう3回ほど泣かせたこともある。彼女は高卒、専門学校卒なので、完全な学歴社会のフィリピンでは、飲食店や工場などの、安い給料で長時間働かせられる職しか得ることができない。今フィリピンの貧困層は6000万人と言われ、町には仕事のない連中が溢れている。それでも皆なんとか食べていけるのは、大家族主義のおかげである。ファミリーの誰かしら仕事があり、また海外に出稼ぎに行っている(フィリピンは出稼ぎ率世界一である)。そこにたかって生きているのだ。さらに、仕事を得ようにもお金がかかり過ぎ、貧困層は就職も困難なのが現実だ。俺は彼女の就職を援助もしたが、ある日系企業の工場など、32時間も寝ないで働かせられるなど、自分の身を削ることばかりだった。加えて当然給料は足りない。彼女はそんな過酷な仕事でも少しでもお金になりファミリーを助けることになればと真面目に勤めたが、やはり身体を壊してしまった。俺は彼女に俺の仕事の手伝いをしてくれるなら生活は保証すると話した。つまりはスポンサーである。フィリピンの逼迫した状況を知りながら、金をちらつかせ彼女に俺のものになれと迫っているようだが、そんなつもりは毛頭なく、ジャッキーの天真爛漫な純粋さ、誠実さ、頭の良さなどに接するうちに、ファミリーも含めて彼女を取り巻く今の環境は彼女にとって悪い影響を及ぼしてる、ならば、できる限り俺の手で救って育ててあげたいと、まるでカワイイ娘に接するパパのような気持ちになってきたのである。50になる俺には跡取りはいないし、日本での最初の結婚には失敗した。確かに彼女を確実にゲットしたいし、抱きたい、やりたい。しかし、その前に彼女に彼女が知らないいろんな世界を教えたい。俺の考えてきたことを伝えたい。彼女を抱くのは素敵なレディーになってからでも遅くはないだろう。彼女が許せばだが。まだ21歳だし。なんとなくこれが年の差恋愛の極意じゃないだろうかと思えてきた。俺の経験を彼女に教えて育てること、そのうち飛び立ってしまうかもしれないが、それでもいい。見返りを求めない恋愛は、自らの快楽が優先する若い頃には絶対無理だろう、50という人生の終盤に入ったからこそできることで、いわば自分の人生をジャッキーという「媒体」を通して残すことなんじゃないだろうか。50はまだまだ早いが、俺にとってジャッキーとの恋愛は「終活」と同様である。
 日本語もかなり上達し、俺の性格も、考えてることも、わかってくれるようになった(と思う)ジャッキー。そして、日本で最初の結婚に失敗してるけれど、やはりパートナーが欲しい、しかもちゃんと契約(結婚)して、と日本的に考える俺。なかなかこれ以上踏み出せなかったが、周りの友人・知人から、フレッチェルもフローラインも俺たちはベストカップルだと言ってくれる。一旦距離を置いたことでますます近くなったような気がする。いつごろからだろうか。俺は彼女を自分だけのものにしたいと強く思うようになった。つまり結婚したいと。
 ある日、いつものようにジャッキーと二人で、フィリピン滞在ビザの延長のために首都マニラにあるイミグレーションに出かけた。今持っているビザは、二ヶ月ごとの延長であっという間に期限が来るし、フィリピンのお役所は予告もなく手続きを変えたり、休んだりするので、遅くとも1週間は早く行かないと不安である。これが長期滞在のビザを取得できれば少なくとも1年は延長不要。しかし、長期滞在のビザは、大金でも積まない限り、俺の今の状況では取得は困難である。簡単な方法がひとつある。ジャッキーと正式に結婚することである。
しかし、ネットや本等でフィリピーナとの結婚について検索すると、調べれば調べるほど暗澹たる気持ちにさせられる。結婚詐欺にあった話から結婚にかかる費用、彼女の家族に支払うお金(結納金のようなもの)、現地での生活、習慣、風習等。。。普通に結ばれて幸せになってる日本人ってホントにいるのか?と思うほどだ。そもそも異なった環境とルールの下で生きてきた二人がそれを乗り越えて結ばれるのだから困難は付きものなんだが。フィリピーナに限らず。ということで結婚してみるか!
俺は、何気なくジャッキーに「いちいちイミグレ来るの面倒だな。長期滞在ビザ欲しいから結婚しようよ」と聞いた。彼女は「えっ?ホントか?フフフ」と驚いた様子だが、ニコニコしている。「ああ。昔流行った偽装でもいいよ。はは」。なんともふざけたプロポーズである。フィリピンでは日本のように簡単に離婚は認められない。神から承認と祝福を得るわけだから、結婚式を挙げた教会や役所に相当のお金を支払って結婚を無いものにしてもらわなければならない。相当の覚悟をしたつもりはないが、なんとなく「ノリ」で言ってしまった。彼女は、それ以上何も言わなかったが、俺が「どうすればいいのか調べてくれる?」と仕事のように極めて事務的に話すと、あちらも事務的に「わかった」と答えた。彼女もまだ若いし、結婚に対する夢もあるだろう。しかも30歳近く離れた俺とこんなに簡単に。。。ホントにいいのか?言ってしまったあとでスゲー後悔した。ああ、申し訳ない。彼女の親やファミリーは許してくれるだろうか。周りはおかしな目で見ないだろうか。ジャッキーはお金目当てだと思われないだろうか。裏切ったら、ここはフィリピン、マジでファミリーに殺されるかもしれない。でも、もし結婚できたら、何が何でもジャッキーは幸せにするぞ!と誓って。

#創作大賞2023
#恋愛小説部門

脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。